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172草

前回のあらすじ「安眠を妨げるものは許さない……」

―夜「レッシュ帝国・帝都に続く街道」―


 挟み撃ちにあった俺達は、用意していた危ない種や魔法で敵の集団を突破することに成功した。そして、宿場町を通り過ぎそのまま走り続け、今は街道から少し離れた場所で休息を取るため、そして、いつも通りに料理を任されたので、あらかじめ下拵えしていた材料を取り出して調理を行っている最中である。


「どうかな…… 」


しっかりと煮込まれているか確認するために、鍋から分厚い肉を取り出し、箸で肉を切るとホロホロと崩れていく。それを皿に盛り付け、茹でておいたジャガイモに人参を載せる。それと買っておいた硬めのパンとサラダを用意する。


「牛肉の赤ワイン煮込み……ってところかな」


「……野外で食べる料理じゃないと思うんですが」


「そう? 前世だとこれくらいの料理は結構見たよ?」


 キャンプ飯として動画に紹介されていたりしてるのでキャンプが趣味の俺には既知の知識である。まあ、短縮しつつもしっかりと煮込むためにアビリティを使って料理をすることはしていないが。


「ほら。手伝ってくれたお礼に……あーーん」


 俺は柔らかく煮込まれた牛肉を箸で掴んでミラ様の目の前に出す。ミラ様は戸惑うこともなく口を開け牛肉を食す。たった1回噛んだだけでミラ様の表情は笑顔になり、2回目で両手でほっぺを抑え始める。その後はうっかり飲み込まないようにしっかりとその牛肉を味わっていく。そして……牛肉を飲み込んだ途端に「美味しい!!」と笑顔で叫んでしまった。追手から逃げた後なので、この叫びは不味いはずなのだが周囲を『ロード・マップ』で監視してるドルチェが何も言わないので問題は無いのだろう。


「じゃあ、後はお皿に盛り付けて……と」


 俺とミラ様は出来た料理をこれからの順路について話している4人の元へと運ぶ。


「いい匂い……話し合いをしている最中にも匂うから集中できなかったわ」


「うんうん……というより、何かヘルバの料理スキル上がってない?」


「色々、思い出しながら作ってるからね。このくらいは……」


 ふと、ここで違和感を覚える。独身だった俺は自炊を確かにしていたし、肉じゃがやハンバーグみたいな名前のある料理も作れる。けど……こんなオシャレな料理は作ったことは無い気がする。だけど、今の俺はまるでこれを作った事があるかのように話してしまった。レシピも手順も頭の中に入ってはいるが……何故かそれを作っている俺の姿が……その時の状況の記憶がどこにも無い。


「ヘルバ……大丈夫? 急に黙り込んじゃったけど……」


「う、うん……ちょっと疲れただけだと思うから気にしないで」


「ご飯を食べ終えたら、そのまま寝ちゃいなさいよ。見張りは私たちがやるから」


「うん」


 その後、皆と一緒に夕食を取った後すぐに寝床に就くのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―ヘルバが眠りに就いてからしばらくして「レッシュ帝国・帝都に続く街道」ココリス視点―


「ヘルバさん。様子がおかしかったんですが……大丈夫ですか?」


 一緒に見張りをしているミラ様から声が掛かる。焚火を前にして、互いに周囲の警戒をしつつ、ミラ様は本を読み、私は槍の手入れをしているそんな時だった。私は槍の手入れを中断して、ミラ様の方に視線を向けると、既にミラ様は読んでいた本を閉じてこちらを向いていた。


「大丈夫だと思うわ。あの後、変わった様子はなさそうだったし……」


「そうですか……」


「ただ……あまり放置するのも良くないわね」


 私がそう言うと、ミラ様がどういうことだろうと不思議そうな顔をしている。私達はヘルバとほぼ毎日顔を合わせているのに対し、多忙なミラ様はこの前の疫病の件だったり今回の件だったりと仕事じゃなければ会うことが出来ないのだから、さっきの様子が多々あることを知らないのは仕方のないことである。


「実は……」


 私はミラ様にヘルバが前世の記憶を話す時に、度々このような状況に陥ることを話す。そこまで長く話したつもりは無かったのだが、気付けば焚火の火が弱くなっており、話を一通り終えたところで私は薪を急いで足していく。弱くなった火力が再び戻った所で、私の話を聞いて考え込んでいたミラ様が口を開く。


「なるほど……確かにそれは心配ですね。やっぱりこの世界には存在しない故郷に思いを馳せているのかもしれませんね……」


「それもそうなんだけど……さっきのアレは少し違うかも」


「違うとは……?」


「少しだけ……いつもと様子が違うのよね。昔を懐かしんだり、嫌な事を思い出したりっていうのがいつものことなんだけど……あの表情は何かを怖がっていたようにも見えるわ」


 あの一瞬、ヘルバの顔がいつもと違うのを感じた。声を掛けるとすぐにいつもの表情に戻ってしまったので、嫌な過去を思い出したとだけだと特に気にすることはしなかったのだが……。


「今回、ヘルバが何を思い出したのかは分からないけど……過去は過去よ。一度死んでいるのだから、前世のことなんてもう関係ない話よ」


 私はそう言って話を纏める。過去は過去であり、今は今である。いくら悔もうが、恥じようが、怖がろうがどうすることも出来ない。嫌な過去は忘れて今を生きて欲しい所である。


「そうですね。もしヘルバさんが落ち込んでいるようでしたら聖女としてしっかり話を聴いて差し上げましょう。聖女として人の話を聴くのは得意なんですよ?」


「それは頼もしいわね。その時はお願いするわ」


 私がそう言うと、ミラ様は「寒くなってきましたから、温かい飲み物を用意しますね」と言って準備を始める。私達は話題を変え、ミラ様は聖女としてのお仕事について、私は冒険者として受けたクエストについて、次のモカレートの番になるまで楽しいお喋りに華を咲かせるのであった。その考察が間違っているとも知らずに……。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 

―翌朝「レッシュ帝国・帝都に続く街道」―


 翌日、夜襲されることはなく無事に朝を迎えた俺達はすぐさま準備を整えて帝都へと再び出発する。順調に進めば後3、4日で着く予定である。もちろん、そんなことはならないと思っているのでその倍の日数を想定している。


「食料は足りそうですか?」


「大丈夫。3食おやつ付きにしても数ヶ月は持つから」


「ヘルバさんの『収納』の容量は半端ないですね」


「ドルチェ! どう!?」


「このまま街道沿いを進んで大丈夫だよ!」


 そんな会話をしながら、今現在進行中で帝都へと向かっている。ふと、ドルチェと相乗りしているシスティナに目を向けると、ニット帽がズレているように見える。


「システィナ! 帽子、脱げかけてるよ!」


「え! あ、すいません!」


 俺の注意を受けてシスティナはすぐにニット帽を深く被り直す。すると、ニット帽が内部から押されてその形を様々な形に変えていく。


「あ……ちょ、だめ……」


 どうやら、システィナの頭の蛇達が暴れているようなので、俺は『ヴァーラス・キャールヴ』を使って状態異常防止薬を範囲内にばら撒く。それによってストラティオも含んだ皆を範囲に収めたところで、ニット帽が脱げて、中の4匹の蛇達が顔を出す。「シャー!」と威嚇しているが、これは警戒というよりもどこか不満げなご様子である。


「わ、わ!! 噛んだりしちゃダメだからね!?」


「シャー!!」


 システィナの頼みに対し、先程より怒っている様子の蛇達。そして、そのままシスティナの頭にその短い体を乗せて眠ろうとしている。


「え、どうして……?」


「もしかしてニット帽が煩わしかったのかも……」


「ああ……なるほど。って!? 皆さん大丈夫……みたいですね……」


「あなたの帽子が脱げるのを見て、ヘルバが予防薬を散布したのよ。そうでしょ?」


「うん。だから、私から離れないように注意してね?」


 俺の言葉に皆が頷く。このまま走り続けるのもいいのだが、どこか安全な場所で状態異常防止薬を飲んでもらった方が安全だろう。


「あ! 前から来てるよ!!」


 そこに前を警戒するように注意するドルチェ。そのまま街道を進んでいくと、向こうから何者かが来るのが確認できた。そいつらが敵かどうかは定かでは無いが……。


「ヒャッホーーウ!! アレだろう!? アイツらでいいんだろう!?」


「おうよ! アイツらを捕まえていい酒を飲むぞ!!」


「「「「おおーー!!!!」」」」


 俺は眉間を抑え、静かに目を瞑る。あまりにも馬鹿過ぎて罠じゃないかと思い始める。気を取り直して『スキャン』で周囲を確認するが怪しいものは見当たらない。


「ドルチェ! どこか隠れている連中がいたりするかな?」


「私の方はいないよ! ヘルバはどう?」


「同じく!」


 俺達のアビリティによる索敵で引っ掛からない以上、恐らく向かって来る連中は前の奴らだけなのだろう。俺はゴリ押し戦法でいくだろうと思ってアイテムボックスから杖を取り出す。ストラティオの手綱を握りながらなので、上手く戦えるか不安に思いつつもどうにか杖を構える。そして、前の連中との距離がどんどん詰まっていく。


 だが……突如として、ストラティオごと連中が派手に地面に転がり始める。その重々しい転がり方に危機感を感じた俺達は慌てて街道横へと避難する。そして、静かになったところで近付いてみると、そいつらの体は石になっていた。


「あ……私……」


「気にしない。そもそも襲う気満々だったし……むしろ戦わずに済んで助かったかな」


 俺はストラティオから降りて石化した連中をさっそく観察する。猛スピードの車が急ブレーキをかけたような勢いだったのにも関わらず、石化した連中とストラティオは砕けておらず、そのままの形で残っているようだ。


(石化の状態異常になった対象はかなりの剛性を持った石像になります。一応、砕くことも出来ますが……どうしますか?)


(やらないから。こいつらにそんな恨みつらみは無いし……けど、少しだけサンプルって取ってもいいかな?)


(髪の毛とかなら特に問題無いですよ。それで本当にポキッと部位を折ってそれをサンプルにしなくていいんですか?)


「くどいからね!?」


「ヘルバさん……誰と話してるんですか?」


「気にしないの。ヘルバ。こいつらどうするべきかしら?」


「念のためこいつらからサンプルを頂いて……後は街道脇の草むらとかに隠した方がいいかな。結構、硬いみたいだからほっといても大丈夫みたいだよ」


 その後、石化した髪の毛や羽をサンプルとして拝借し、連中を街道横に寄せておく。草むらに隠したいところなのだが、石化して重くなった体は女性しかいない俺達にはかなりの重労働のために諦めた。


「石化がどんなものか見れて良かったかな」


「ですね。まだ距離があったのに一瞬にして石化するなんて……なかなか興味深いです」


「あ、あの……」


「しばらくはそのままでいいからね? ニット帽が被れるようになったら被ってね」


「わ、分かりました」


 丁度良かったので、このタイミングで状態異常防止薬を乗っているストラティオも含めた全員に飲んでもらている。これでシスティナの負担も減るのだから色んな意味で丁度良かったのだろう。


「じゃあ、行きましょう」


 ココリスのその掛け声を受け、俺達は再出発するのであった。

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