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168草

前回のあらすじ「女の子をお持ち帰り(意味深)」

―夜「温泉街ガンドラ・穴場の宿」―


「でしたら……一度そちらで綺麗にして頂いてもよろしいでしょうか?」


「ありがとう! あ、あと……これご迷惑をお掛けするので……」


 俺は金貨1枚を仲居さんにチップとして渡そうとする。しかし、仲居さんはそれを受け取らずに俺の手を優しく押し返す。


「先ほど追加の料金は頂きました。迷惑客ならともかくあなたのような素敵な女の子からお金を毟り取ろうとする気はありませんよ」


 仲居さんは笑顔でそう答え「そちらの方のお夕食もご用意しますね」と言って、その準備をするためにバックヤードへ行ってしまった。


「あ、あの……」


「とりあえず、身だしなみを整えて……衣服はどうしようかな……」


「ヘルバ。そろそろ説明してもらえないかしら?」


 すると、ここまで理由を訊かずにいてくれた皆が説明を求め始めた。俺は一度周囲を確認して他の誰かがいないことを確認してから皆に話す。


「私達の探し物……石化の犯人だよこの人」


 それを聞いて、皆が一気に臨戦態勢になり、対して彼女は先ほどから震わせていた体をさらに震わせ、フードをさらに深く被るようにする。俺は皆と彼女の間に入り、皆に話を聞いてもらえるように落ち着かせる。


「皆、ストップ! もし、この人が石化させようとするならとっくにしてるよ。このフードを外せばすぐに出来るみたいだし……」


「わ、私……そんな……!」


「分かってる。それ無理やり何かされたんでしょ? 私、鑑定系のアビリティがあってそういうのが分かるんだ……だから、無作法にあなたを責めないし、しっかり事情を聞いてあげるから安心して」


 俺は安心させるように、今の彼女の目線と同じくらいに屈んで、フードで隠れた彼女の顔を見る。その際の表情は笑顔であることを心掛け、なるべく優しい口調で話す。


「え、えーと……」


「まずは……ちゃんと体を綺麗にして、お腹を満たそうか? 話はそれからでも遅くないでしょ? それとも……それだと髪を洗えないとか?」


「だ、大丈夫だと……思います」


 彼女はそう返事をするが、その体はまだ震えている。


「1人だと不安なら付き合うけど……どう?」


「……お願いします」


 彼女の震えは止まらない。もしかしたら、俺に何かされるかと思っているのかもしれない。


「ヘルバさん。私もお手伝いしましょうか? 何か深いご事情があるようですし……」


「お願い。それと……これ」


 俺は『収納』から状態異常防止薬を取り出し、それをミラ様に渡す。


「この状態異常なんだけど『見たら即石化』だから、これを飲んでもらっていいかな?」


「分かりました」


「じゃあ……私とココリスでその人の衣服を買って来るね」


「私は部屋に戻って、マンドレイク達と一緒に状態異常防止薬を作ってますね。どうやらその子と話すにはあった方がいいみたいですし……」


 話がまとまった所で、一度皆と分かれ、ミラ様と一緒に彼女を連れて宿とは別棟のお風呂場へと向かう。この宿は冒険者も利用するので、宿内が汚れないように宿のすぐ横に簡易な浴場が用意されている。そこへ来たところでミラ様に防止薬を飲んでもらい、それから彼女に衣服を脱いでもらう。


「あ、あの……」


「大丈夫だよ。対策してるから石化しないよ」


 それを見せたくないのだろう。服を脱ぐのを躊躇っていた彼女だったが……渋々、服を脱いでいく。そして遂に、フードで隠れていた彼女の頭が露になる。


「シャ~!!」


 彼女の髪と同じ緑色をした4匹の蛇がこちらを威嚇してくる。その姿はまるでメデゥーサのようであり、『フリーズスキャールヴ』からの情報ではこの蛇と視線が合ってしまうと石化してしまうそうだ。俺はそのタイミングで慌ててミラ様の方を確認すると、蛇を見て驚いてはいたが石化はしていないことに安堵する。大丈夫とは分かっていても不安ではある。とりあえず、俺は彼女の方へ振り向きながら、あたかも「心配なんてしてませんでしたよ?」と思わせるような笑顔を作ってから彼女を見る。


「ほら? 石化しないでしょ?」


「は、はい……!」


 そこでやっと笑顔を浮かべる彼女。そして、そのまま着ていた衣服を全て脱ぐとその体が露になるのだが……俺はそこで目を一度背ける。女性の裸という理由では無く、彼女の体にある傷跡があまりにも痛々しく、それでいて全身が痩せこけているため骨が浮き出てしまっていたからだ。


「酷い傷ですね……傷みませんか?」


「あはは……大丈夫です。意外に痛くないんですよね」


「……ヘルバさん。この傷どうにかできますか?」


「うーーん……」


 俺は『フリーズスキャールヴ』を使用して、彼女の必要な情報を集めていく。スリーサイズは……ってこんな時にそんな情報は勘弁して欲しいと思ったが、その値が年頃の女の子にしてはかなり痩せていることを改めて実感してしまう。


「システィナのその傷はどうにかなるかな。後で薬を処方するね……それと、しっかりと栄養のある物を食べて欲しいかな。15歳でその体は痩せ過ぎだし……」


「あ、あの……私、名前を名乗ってましたっけ……?」


「あ、ごめん。さっきも言ったけど私、鑑定系のアビリティを持っててそれで名前を見ちゃったんだ……気を悪くしちゃったらごめんね?」


「え……あ、いえ。その……」


 システィナはそう言って何を言えばいいのか戸惑い始める。俺はもう一度この子の情報を見ると、その中に『奴隷』という文字があった。更に詳しく確認すると『違法性あり』というのも確認できた。


「違法な奴隷……システィナはそれに該当する」


「え。違法……?」


 俺の言葉にキョトンとしてしまうシスティナ。この様子だと彼女は自分自身が合法の元で堕ちた奴隷だと思っていたのだろう。 


「なるほど……そういう事情ですか。それでしたら、体を綺麗にしながらその辺りの話をしましょうか」


「は、はい」


 お風呂に浸からずに、いつまでも素っ裸のままは話を聞くのは可哀そうなので、さっそく風呂場の方に入って彼女を体を綺麗にする。


「しゃー!」


「はいはい……いい子にしましょうね……」


 俺はシスティナの頭部にいる蛇達を宥めつつ、魔法による髪の散髪と整髪を行うことにした。まずは、そのボロボロで長過ぎる髪を適度な長さにしていく。その間、何故かそんな髪でも俺の心が悲鳴を上げてしまい。心の中で「今はふさふさ。今はふさふさ……」と呟いて落ち着かせてたりする。


「……という訳でして」


「そう……なんですね。私……」


 ミラ様はシスティナの体を綺麗にしつつ、この世界の奴隷についての知識を教えていく。奴隷という身分は確かにあるのだが、犯罪を犯した者の刑罰としてや金を返せない債務者の肉体奉仕としてであり、さらに奴隷の人権のため教会がこれらを厳しく取り締まっている。そしてこのレッシュ帝国も同様である。


「違法性があると分かった以上、聖女として……あなたの奴隷という身分は認められません。アフロディーテ様の名の元にあなたを保護させて頂きます。また……この件はレッシュ帝国の皇帝にも報告します」


「ありがとう……ございます」


 泣きながらミラ様に感謝するシスティナ。2人の話を聞きつつ髪を綺麗にする。ちなみに、俺はこの間に蛇達の警戒を解くことに成功しており、蛇達の頭を撫でると気持ちよさそうな表情を浮かべるようになった。


「そのお礼はヘルバさんに。私は無責任な慈悲を与える訳にいかないので見て見ぬふりをしてあの場から去ろうとしてましたからね。それにしてもヘルバさん……すっかり打ち解けてますね」


「ふふふ……頑張った。って言いたいところだけど、多分システィナが私達に対して打ち解けてくれただけだと思う」


 先ほどから髪を洗ってあげていたので、蛇の様子を間近に観察する事が出来ていた。その際にシスティナの感情に連動して蛇達も感情を変えている様子があった。だから、これもあくまで彼女の体の一部なのだろう。


 その後、綺麗になったシスティナに湯舟に浸かってリラックスしてもらい、綺麗になったところで用意した衣服を着てもらい、一緒に部屋で食事をとりつつ事情を説明してもらう。ちなみに頭の蛇はニット帽で隠してもらっているのだが、念のために状態異常防止薬を服用している。


「死んだお父さんが残した借金の返済として5年前に連れて行かれました。それからずっと、どこかの建物のモンスターの世話をしてました。少しのミスでもしたらモンスターの餌にされてしまうそんな……場所でした」


「他に人は?」


「いました。私のような理由で連れてこられた人達とそれを見張る兵士達……それと何か研究しているような学者のような人もいました」


 そんな話をしながら体を震わせるシスティナ。いつ自分がモンスターの餌にされるか不安な思いをしながら生きてきたのだろう。


「そして……ついに私の番が来たのですが、餌ではなく実験の被検体としてでした。見たことの無い物体が周囲にあって……そして魔法陣の中に私とこの頭の蛇達の死体……それから、魔法陣が光ったと思ったら」


「今のお姿になっていた……と」


「はい。ただ、私の……その……石化能力が研究者達も予想外の事だったみたいで、私が目を覚ました時にはそこにいた全員が石化していました。その隙に私は外へと逃げ出しました……」


「他の見張りには見つからなかったの?」


「多分……私を見て石化したのかと。その時は何が起きてるのか怖くなって、分からなくって……がむしゃらに逃げて、それで運良く見つけた村の人達や兵士さん達も……」


「石化は皇帝の指示でしっかり治療されてるから安心して。もし、何か言われそうになったら私達の国に避難するのもアリかな。あ、他に知り合いとかは……」


「いません……母も早くに亡くなってましたから」


「ゴメン! 何か変な事を訊いちゃったね。それで……」


 この後もシスティナからその5年間の間にあった話を聞いていき、彼女が疲れをみせたところでこの話は一旦お開きとなった。


「……zzz」


 システィナはベットに潜り込んだと思ったら、あっという間に寝てしまった。これまでの彼女の経緯を知ってしまったら、この姿も当然だろう。俺達はその姿を見守りつつ、彼女から得られた話を纏めていく。


「ここか近隣の領主が違法な奴隷所持と非合法な研究を行っていたのは確実のようね」


「ヘルバ。もう分かってるんだよね?」


 そこで、皆の視線が俺に集まる。『フリーズスキャールヴ』はその人の経歴も見れる。そして、システィナとの会話の間にそれらも検索済みである。


「皆の予想通り、首謀者はここの領主だよ。システィナの捕らわれていた場所はこの温泉街から北に向かったところ……彼女が見つけた村が最寄りみたいだね……それともう2つ。悪い話があるんだけど……」


 悪い話と聞いて皆の表情がさらに強張る。少しの静寂が流れた後、俺はそれらを口にする。


「システィナが見た蛇はテラム・メデューサの体の一部。そして……彼女とその蛇の融合に使われた魔法陣はレザハック製だって」


 それを聞いた皆が溜息を吐く。称号持ちのモンスターが絡み、面倒な奴だった男の残した厄介事も絡んでいる……様々な面倒事が重なったこの件に俺達は頭を悩ませるのであった。

 

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