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166草

前回のあらすじ「幸せパンチ!!(無料)」

―「ガンドラ山・エピオン大地」―


 ダンジョンに入ると大勢の冒険者達で賑わっており、情報交換や即席のパーティーを組むための交渉などをしていた。さらに、その奥を見ると草原が広がり、山が壁のようにそびえ立っている。ふと、見上げれば青空が広がっている。


(ダンジョン内とは思えない光景だな……しかも、境目がこの杭だし……)


 ダンジョンとそうではない土地の境目として木の杭とロープが設置されているのだが、風雨にさらされていたせいなのか、それともモンスターによって傷付けられたのか……結構、ボロボロである。


(こちらですがそっちの杭は風雨で腐食が進んでまして……あちらはこの土地に住むモンスターですね)


「あ、はい……ありがとう」


 まだ、アビリティを起動させていないのに、フリーズスキャールヴさんがご親切にも教えてくれた。なるほど……ここ本当に大丈夫だろうか?


「どうかされましたかヘルバさん?」


「ここダンジョンの仕切りが脆弱過ぎて不安になんだけど……どう思う?」


「そうですね……スタンピードも考えるとこれは無いですね……素材がモンスター避けの効果を持つとかは無いですか?」


「『スキャン』で見てるけど……何の変哲もない木材とロープだね」


「ヘルバ! ミラ! 危ないわよ!」


 ドルチェに道草を食っていたのを注意され、俺達はすぐさまココリス達と合流する。そして移動を開始すると同時に、移動中の話題としてあの杭について訊いてみる。


「ヘルバ。その話、本当なの?」


 俺の話を聞いた瞬間にココリス達が浮かない表情をしている。『スキャン』を使っての鑑定結果だということも追加で話すと、さらに暗い表情になってしまった。どうやら完全にアウトな状況のようだ。


「思った以上にやばいわよ……だって、あれらは『特殊な加工を施した魔道具』って話よ。それをヘルバが否定したってことは、アレはただの脆弱な柵ってことでしょ? 完全に職務放棄じゃないのよ……」


「レッシュ帝国の法がどうなっているのか分からないけど……ギルドの定める規則に抵触している可能性はあるかな……」


「昨日のギルドの様子といい、何かしらの問題があるのは間違いないようですね……」


 3人がそう言って溜息を吐く。どうやらさらに別の厄介事に巻き込まれたのはほぼ確定のようであり、俺ののんびり温泉を楽しむというプランは叶わない可能性が出て来た。


「それは後で考えるとして……今はゾンビの件を調べましょう。ココリスさん。これから私達はどこへ向かいますか?」


「ここよ。ここにサンパロー・シープというモンスターがゾンビ化したという報告があったらしいわ。私達もここに向かいましょ」


 俺も地図を見せてもらったが、ここは草原と岩場を混ぜたような場所であり、高低差は多少あったりするがそこまでの差は無い。これなら今いるこの場所からすぐに到着できるだろう。そこから周囲を警戒しつつ周囲を眺めていると、少し離れた場所でヤギのような群れと冒険者達が戦闘しているのが見えた。


「あれがグランド・ゴートですね。群れで行動するので戦う場合は集団で挑むか、逸れた個体を素早く仕留めるのがセオリーらしいですよ」


 そこにモカレートが冒険者達が戦っているモンスターの説明をしてくれた。昨日、冒険者ギルドで情報を集めておいてくれたのだろう。俺みたいにアビリティではなく、事前の情報収集とか必要なアイテムの確認とかしている所にAランクとしての冒険者の手腕を感じる。それを日常生活にも生かしてくれるといいのだが……。


「何か失礼なことを考えてませんか?」


「その有能なところが少しでも通常の生活に発揮してくれればな……って」


「ストレート過ぎませんか!? いつもは濁したり惚けてますよね?」


「気のせいだよ。ねえ。君達もそう思うよね?」


 俺はミラ様を守るように歩いているマンドレイク達に話を振ると全員が頷いて……。


「んちゃん……?」


 俺はんちゃんに威圧しつつ名前を呼ぶ。すると、んちゃんは素直に慌てて頷いてくれた。


「脅してるじゃないですか!?」


「気のせい気のせい……で、あのモンスターって強さ的にはどれくらいなの?」


「中級です……というか何でそんな話に……」


 ブツブツと愚痴を零すモカレート。それはここ最近のモカレートの生活習慣が原因であり、この旅の間の食事や掃除に洗濯などを俺やミラ様がやっている。前に一緒に行動していた時よりも酷い感じがする。


「幼女に日常生活を支えられている時点でどうかと思って……」


「「「ぐふぅ!?」」」


 すると、それを聞いたモカレートと何故かドルチェとココリスにも精神ダメージを与えてしまった。そういえば……この2人の分もやっているような。


「ダメな大人になりたくないなら仕事以外もしっかりしようね……それより、ダンジョン内に入ってすぐに中級クラスのモンスターがいるんだね」


「ほっ!」


 話の最中にココリスが槍で何かを攻撃して仕留める。持ち上げた槍の先端には小さなネズミのようなモンスターが刺さっていた。


「ムスラットですね。これは初級クラスのモンスターで、このダンジョンにあっちこっち走り回ってるそうです。危険性は確かゼロのはずです。」


「あら? それは可哀そうなことをしたわね……先手必勝だと思って仕留めちゃったんだけど……」


「ココリス! 槍をゆっくり下ろして地面に置いて……」


 俺の少しだけ慌てた様子を見て、ココリスはすぐさま槍を置く。俺はすぐさまその槍の先端に刺さっているムスラットを『収納』を使って回収し、ムスラットを突き刺した槍の刃には『スキャン』を使って一度確認し、念のためにアルコールと炎魔法による消毒を施しておく。


「もしかして……かなりヤバい奴だった?」


「『スキャン』を使って調べたけど特に異常は無かったよ。けど……前世のネズミってとんでもない疫病を巻き散らしたりしてるから念のためにね」


「……魔法で戦った方がいいかしら?」


「普通に戦っていいよ。こんなことをしてたらキリがないし……本当に危険だったら叫ぶからよろしく」


「分かったわ……ネズミって恐ろしいのね」


「いや……危ないのはネズミに寄生しているダニなんだよね。それが人の血を吸う時に体内に病原菌が入って感染するの」


 槍の消毒を終えた俺は『収納』に入っているムスラットを『スキャン』を使って調べていくが、多少の危険性はあるのだが、ただちに焼却処分とかしなければならないような危険な物は見つからなかった。


「調べたけど、ちゃんと清潔にしてれば問題無いみたい」


「そう。それなら安心したわ」


 そう言って、ココリスが地面に置いた槍を持ち上げる。その後、ゾンビ化したサンパロー・シープがいた場所へと再び歩き出す。その間に、ここにいるモンスター達のある習性や特徴をモカレートが話してくれた。


 ここにいるモンスターは一部を除き群れとして暮らしているらしく、戦闘となれば群れと戦うのを覚悟しないといけない。また、モンスターはダンジョン内を周回しているので、いきなり上級モンスターとかち合わせすることもあるそうだ。


「安心していいのはダンジョンボスは決まった場所に入らなけば出てこないことですね」


「あ、ねえ。サンパロー・シープってあれじゃない?」


 モカレートがここの話をしていると、ドルチェがサンパロー・シープを見つけたらしく、その指差す方向を見ると、普通の羊を1周り大きくし、お尻の付近に大きなコブのような物を持ったモンスターが草を食べたり昼寝をしていた。そして俺達はそのままサンパロー・シープの傍へと近寄る。


「ふむ……」


 サンパロー・シープへと結構近づいたいのだが……先ほどと変わらずに草を食べてお昼寝をしている。捕食者もいるはずのこの場所で警戒心がゼロというのは無いはず……。


「めえ~」


「……めえ~」


 俺をまじまじと見ているサンパロー・シープに同じように鳴き返す。すると、サンパロー・シープはそのまま首を下に向けて草をむしゃむしゃと食べ始める。


「大人しくて、かわいいですね」


「そうね」


 のんびりとしているサンパロー・シープを見て、のんびりとした様子で皆が眺めている。なんとも穏やかな雰囲気で……って!


「君達!? もう少し警戒したら!?」


「「「「めえ?」」」」


 俺があまりにものんびりしているサンパロー・シープにそう突っ込むと、「何が?」というような感じで返事を返されてしまった。「いや……あんたら野生のモンスターだろう?」と言いかけたのだが、恐らくこいつらに言っても同じような返事を返されるのがオチだと思って止めておく。


「このサンパロー・シープの毛を加工するといい洋服が出来るらしいですよ」


「へえー……そうなんですね。でも……触った感じそんな気はしないのですが……」


 ミラ様がそう言ってサンパロー・シープの体毛に触れているがそれはしょうがないだろう。野生の羊は自身の皮脂と土や砂による汚れのせいでゴワゴワしている。商品にするには汚れを落とさなければいけないはずである。


 そう思いつつ、周囲を見ていると1匹のサンパロー・シープの挙動がおかしい。俺は『フリーズス・キャールヴ』を使って、この個体の情報を細かい所まで確認する。結果は……。


「痒いだけか……」


 そう思えば、どうにかして体を掻こうとしている様子にも見える。ゾンビ化の兆候でないことに安心したが、そのどうにかしようとしている様子が可哀そうに見えて来たので、その個体に近付いて『ヴァーラス・キャールヴ』を使用して、水魔法によって体を一度洗浄し、その後風魔法で乾燥させる。フカフカになった柔らかくなった体毛を掻き分け、その場所に痒み止めの薬を塗って処置をする。


「はい。終わり……どう?」


「めぇーー!!」


 サンパロー・シープが嬉しそうに鳴き声を上げ、頭を俺の体に擦り付ける。どうやら懐いてしまったらしく、俺はその頭を撫でてあげる。すると、今度はこちらに尾っぽを向けて何度か体を揺すると尾っぽ付近のコブが落ちる。落ちたそれを見ると羊毛の塊であった。


「これを貰っていいの?」


「めえーー!!」


 何となく……「貰っていいよ」と言われたような感じがしたのでそれを手に取る。先ほどの洗浄と乾燥のおかげでフカフカした状態になっており、これを使った衣服や寝具は大層いい物が出来るだろうなと思った。


「ヘルバ! 後ろ後ろ!」


 ふと、俺が羊毛の肌触りに心地よくしているとドルチェが昔のコントのような野次を飛ばすので振り返ると、サンパロー・シープの群れが俺を囲んでいた。


「……どうすればいいと思う?」


「洗うしかないかと……」


 その後、集まってきたサンパロー・シープの群れを同じように洗って乾燥させる。そして……お礼として大量の羊毛をゲットするのであった。

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