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165草

前回のあらすじ「温泉街ガンドラに到着」

―その日の夜「温泉街ガンドラ・穴場の宿」―


「いや~……本当にいい宿だね~……」


「そうね……ヘルバのアビリティに感謝ね」


「う、うん……」


 俺は皆から背を向けた状態で返事をする。あの後、『スキャン』の案内のおかげで無事にいい宿が見つかり美味しい食事もいただく事が出来た……。そして、念願の温泉に浸かることになったのだが……ただいま皆と一緒に露天風呂に浸かっている最中である。


「ヘルバさん……そっちを向いてないでこっちに顔を向けては?」


「見た目はこれでも中身はおじさん……何か見てはいけない気がしちゃって……」


「男に戻る気は無いんでしょ? なら、本当に慣れておいた方がいいんじゃないのかしら。それに……ここって白く濁って見えないわよ」


「それはそうだけどさ……」


 ココリスの言う通り、今浸かっている温泉はかなり濃いめの白濁の湯であり、お湯から下を見る事は出来ない。だが、そうであっても俺の中の男がそちらを振り向くのを拒否する。「もう女なのだから、堂々と見たっていいじゃないか!」と思うところもあるのだが、なかなかそれを許容することが出来ない心境である。ウィードの時は見る気満々だったのに、あの時の俺はどこへ行ってしまったのだろう。


「どうしても視線が野郎のそれになっちゃうからさ……」


 この前の王宮の大浴場でもそうだったが、俺の視線はどうしても顔より下を向いてしまう。そのため、この前の入浴で『フォービスケッツ』の4人の体も見てしまっている。それは予想通りの綺麗な体で……。


「顔が赤くなってますけど……」


「この前の王宮の大浴場での出来事を思い出したんでしょうね。中身はおじさんっていうのもあながち間違いじゃないのかもしれないわね」


「でも……たまにいません? 冒険者をやっているとそんな女性にちょくちょくあったりするんですけど……」


「「「分かる(ります)!!」」」


 モカレートの意見に全員が頷く。しかも冒険者じゃなくて聖女であるセラ様まで……うん?


「え、セラ様って聖女だよね……私以外にもあったの?」


「はい。とはいってもヘルバさんとは違って、欲のまま激しい触れ合いをしてきますけど」


 激しい触れ合いと聞くとイケない事を思い浮かべてしまうが、実際はボディタッチが多いという意味だろう。その後、ドルチェが「私やココリスの胸を触ってきたりするんだよね……」という言葉に、「私は太ももですね」と言っている。


「って、ヘルバさん。どうかしたんですか? 何か呆れたような表情をしてますけど」


「よくまあ『神職に就く人』に手を出せるものだなと思っちゃって……」


「それもそうですね」


 「ふふふっ♪」と可愛らしく笑うミラ様。その笑顔を見てしまうと、その手を出した女性の気持ちが少しだけ分かる気がしてしまう。そして、昼間のあのスリットから見えた彼女の太ももに触ってみたい気持ちも……。


「良い子は絶対ダメだぞ?」


「誰に向かって言ってるの?」


「気にしないで……」


 とりあえず、自身にツッコミをいれて自制心を保つのであった。


「……さてと、ヘルバがこちらを振り向いてくれたところで明日の話をしましょうか」


 そう言って、ココリスが明日の俺達の行動を決めるための話を取り仕切る。まずは目的の整理ということで、俺達はもう一度ここに来た理由を述べることにした。


「まずはガンドラ山の麓にあるダンジョン捜索しつつ、どんなゾンビが徘徊しているかを調べるですかね」


「そうね」


「後は、石化を引き起こした原因も調べないといけないからその場所にも行かないといけないよね」


「そうだね」


「ここに来た目的は突如現れたゾンビの謎を解明すること、それとこのガンドラの町の近くにある村で起きた石化現象……」


「そして石化解除薬の安価なレシピの作成ですね」


「ということでその3つが私達の主な目的よ。そして……懸念事項だけど今回の事件に称号持ちが関わっている可能性があるわ」


「ボルトロス神聖国の可能性もあるよね。例の老化薬事件もあったし」


「そう……ですね」


 ミラ様はそう言って、自身を落ち着かせるように自分の体を摩り始める。老人の姿になってしまった時の事を思い出させてしまったようだ。


「えーと……ごめん。思い出させちゃって……」


「いえ。必要なことなのでお気になさらず。それより、他の可能性もあるでしょうか?」


「もちろんあると思うよ。でも、これほどの異常事態となるとこの2つ以外の可能性って低い気がするんですよね……」


「私もそう思うわ。それだからヘルバ。あなたの『スキャン』に期待しているわよ。しっかり見つけて頂戴」


「そこは私に期待しているだと嬉しいんだけどな……。とりあえず、私はいつも通りに周囲の警戒をすればいいんだよね」


「ええ。モカレートはマンドレイク達と一緒にミラ様の護衛。ミラ様は必要があれば浄化を、私は前衛で後衛はルチェでいいかしら?」


「いいと思うよ。私の『アンドレアルフス』なら、死角なしで索敵出来るから」


 ドルチェがそう答えた後、モカレートとセラ様は頷いて同意する。


「それじゃあ、決まりね。移動はストラティオで、物資は……」


「私とヘルバさんでポーションは大量にあるので問題無いですね。飲食物もヘルバさんが何とかしてくれますから」


「いいけどさ……誰かが作ってもいいと思うんだよね。後は携帯食とかさ……」


 俺がそう文句を言うと、皆がバツの悪そうな顔をする。それもそのはずで、ここに来るまでの道中の食事だが、作らないといけない場合は俺がずっと作っていたのだ。なら、携帯食を『収納』に入れておけばいいのでは無いかと思ったのだが。


「しょうがないと思いますよ。『種子生成』と『植物操作』で無から新鮮な野菜と果物を生み出して、それを前世の知識から作られた斬新な味付けの料理……アレを味わってしまった以上、携帯食に戻れないんですよ」


「いや、単純にハーブやスパイスをふんだんに使ってるだけだよ?」


「ハーブやスパイスは薬を作るのにも使われるから、チョットした高級品なのよ? それを無から作り、他のアビリティを使って的確な下拵えをして……店を構えた料理人が嫉妬するレベルなのを自覚しなさい」


「だけど……料理を作るのは私じゃないといけない理由にならないよね?」


 反論されたココリスがたじろぐ。素材は俺が出してもいい。が、ウィードの時にドルチェとココリスの2人が料理が出来るのは知っているのだ。モカレートも自炊してたし、ミラ様も聖女の仕事として炊き出しをやっているのだから、全く出来ないは無いはずである。


 そう思いながら、ココリスの返答を待っているとココリスはいきなり立ち上がる。白濁の湯で隠れていた褐色の健康的な肉体を目と鼻の先で見ることになってしまう。


「〜〜!?」


 その見事なプロポーションに一瞬釘付けになるも、俺は慌てて視線を外す。その際に鼻に手を当ててみたのだが、鼻血は出ていなかったことに安堵する。


「じゃあ話はこれで終わり! あまり遅くならないように!」


 ココリスはそう言って露天風呂から上がり、中へとさっさと戻っていってしまった。そして、ミラ様以外の2人もそそくさと上がってしまう。残されたのは俺とミラ様の2人だけになってしまった。


「食事の準備……そんなに嫌な物なの?」


「というより……ヘルバさんの料理の虜になったのと、高級品を気軽に使う度胸とそこまでの腕が無いですかね……。量が必要な炊き出しなら味が少し落ちてもしょうがないのですが、この少人数の場合なら質も必要なことですから。かくいう私も正直に言ってやり辛いです」


「そこまでかな……」


「ココリスさんが先ほど述べたように、ヘルバさんの料理は『店を構えた料理人』クラスの料理と言っても過言じゃないです。それを悪条件であるはずの野営で毎回食べられるとしたら……」


「私、前世はコックじゃ無いんだけどな……」


 その後、ミラ様が調理を手伝ってくれることになったところで、俺達も露天風呂から上がるのであった。その際に、ミラ様のその細いながらも白く柔らかそうな太ももを見た俺は、思わず唾を飲み込むのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―翌日「ガンドラ山・エピオン大地」―


「ここが……ダンジョン?」


 ストラティオに乗って辿り着いたダンジョンを見て、本当にここであってるのか不安になってしまった。何せ今いるこの場所からダンジョン内を見通せてしまうのだから。


「『エピオン大地』という名の一階層からなるガンドラ山と他の山々に囲まれた盆地。その独特な形状のせいで他のダンジョンとは大分異なる特徴を持ったダンジョン……とのことですね」


「適正レベルも初級〜上級と訳分からないことになってるなと思ってたけど、フィールド型のダンジョンってことか」


「そうですね。ホルツ王国にもあるんですが、このように高台から丸見えなのは珍しいです」


 モカレートがそう説明してくれたように、今いる場所から地形が丸見えであり、しかも大きさもそこまで広くない。1日あれば周囲を1周するのも簡単だろう。


「山の麓までがダンジョンらしいわ。明確な境目は見えないけど、モンスターがそこから先には行くことは無いみたいよ。ダンジョンボスはガイア・ホース。倒してもしばらくしたら復活するらしいわ」


「珍妙なダンジョンだね……」


「あ! あそこに小屋があったよ!」


 ドルチェの指差す方向を見ると、確かに小屋があり、その周りに露店らしき物も見えた。


「ここの拠点ね。早速、向かいましょう」


 俺達はストラティオに乗って拠点まで向かい。そこでストラティオを預けた所でダンジョンへと入るのであった。

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