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163草

前回のあらすじ「……という事で建国祭編完です」

―深夜「王都ボーデン・お城の近くにある建物の一室」―


「終わったーー!!!!」


 パーティーが終わり、ドレスからラフな格好になった俺は自分のベットに飛び込んで疲れを癒す。相手は純粋な子供ばっかりだったが、周りの視線はそうはいかなかったので精神的に大分疲れてしまった。


「はしたないわよ……って、言いたいところだけど当然かしら」


「私達も疲れたしね」


 すると、ドルチェとココリスがお茶とお菓子が載ったトレイを持って部屋へと戻って来た。こんな時間に飲食するのかと普通なら思うのだが、パーティーの間はほとんど何も口にしてなかったので、若干お腹が空いていたりする。


 そんなことを思っていると、支度を終えた2人からお茶会に誘われたのでベットから起き上がり、お茶とお菓子をいただきつつ今日のパーティーについてたわいのないお喋りをする。あの人は紳士的でカッコ良かったとか、互いに踊っていたエロおやじについてとか……若干、今日踊った男性の品評会になっている。


「ヘルバはそんな男どう思う?」


「振らないでよ。私の中身は中年のオッサンなんだからさ……」


「でも……あなた最後に踊った男の子の事を気にして無かったかしら?」


「ああ……あれは王子様達より自分が一番に踊ろうとしていたから『自分勝手なのかな……』と思っていたら、意外にもダンスが上手くて、女性の扱いも上手かったから驚いただけだよ」


「中身が男のあなたがそう言うなら、彼は将来女たらしになりそうね」


「そうはいかないかもよ? 子供の頃はそうであっても大人になれば変わる子は変わるから……」


 お茶とお菓子を頂きながら、そんな女子トークに華を咲かせる。元男がこうやって女性目線で男性の評価をするようになるとは……。そして、それに対して何の違和感も感じない事に内心焦ってたりする。


「そういえば……ビスコッティ達は?」


「あの4人なら今日は城下町に泊まるそうよ。例の酒場で他に情報を得られないか探ってる最中じゃないかしら」


「殺された男達が利用してた酒場だよね? 何か見つかるのかな……?」


「無いでしょうね。本人達もそこまで期待して無さそうだし……今の時間になっても連絡が来ないという事は新情報は得られなかったという意味でしょうから」


「うーーん……そっか……」


 結局のところ、昨日の暗殺者も、今日パーティーで捕らえた貴族からも有力な情報を得られなかった。もちろん俺がアビリティを頑張って使用すれば有力な情報を得られる可能性もあるだろうが……。


「特定作業はあちらに任せましょう。どれだけの人数、どれだけの品々を調べるのか分かったものじゃないわ。あなたのアビリティを活用させるのは最後よ」


「悠長なことを言ってていいの?」


「気にしなくて大丈夫だよ。緊急を要するなら手を借りるかもしれないけど……そもそも、この国のこの問題はもっと前から起きていたことだしね。それに、アレスターちゃんには優秀な配下が大勢いるし、全てをヘルバ1人に負わせるつもりも無いはずだよ」


「そもそもどこの国も王族なんて、常に暗殺や陰謀などに危機に晒されているし、それに対しての対処法も複数用意している。まあ、どこかの国の馬鹿王子みたいに、よっぽどの馬鹿じゃなければ殺されたり誘拐されるなんてことは無いわ」


「つまり……後はアレスター王に任せておけってこと?」


「そういうこと」


「そうそう」


 そう言って、この話を早々に締めようとする2人。全く関係の無い相手のはずなのだが、そこまで心配していないようなので、恐らくだがアレスター王の手腕を信じているからこそなのかもしれない。


「そういえば……明日はどうする? 建国祭も終わったからそろそろ冒険者としての仕事に戻るんだよね?」


「ええ。だけど最初の仕事は既に決まってるわよ?」


「レッシュ帝国での石化の状態異常を使って来るモンスターの調査と討伐……それと薬の作製でいいんだよね?」


「いつ出発がいいかな? 他の皆にも聞いてみて……」


「それだけど……フォービスケッツの4人は引き続き調査を進めるそうよ。これには王家や冒険者ギルドが了承しているわ。それと、モカレートが4日後なら問題無いから同伴したいそうよ」


「そうなると……今回は4人で行動を取るんだね」


「いえ。そこにもう1人……ミラ様が来るわ」


「「え!?」」


 ココリスのその言葉に、俺とドルチェは思わず声を上げる。しかし、ココリスは何事も無かったかのように、そのまま会話を続ける。


「リアンセル教会から、皇帝のご子息ご息女の誘拐を企んだ奴らの調査のために抜けるフォービスケッツの4人に替わってミラ様を同行させるように話が来たの。レッシュ帝国からも派遣されるけど、こちらからも派遣して対処法を後世に残せるようにしておきたいそうよ」


「なるほどね……私はいいよ。ヘルバもいいよね?」


「いいけど……実際の理由って、私とミラ様を隣国の調査に向かわせて、こちらの陰謀なんかから遠ざけようとしてるんでしょ?」


「そんなことは言ってなかったわよ? まあ……アスラ様達の思惑は分からないけどね」


 そう言って、ココリスはクッキーを口にする。その表情はどこか明るい。


「(ねえ。ココリスが何か嬉しそうなんだけど……?)」


「(こういう政治的な問題とか相手にするのが苦手だからね……それから解放されるからだと思うよ)」


「そこの2人……小声で話してても聞こえてるわよ。それだから、私もさっさと次の仕事に移りたいのよね」


「それなら……4日間で準備しとかないと……結構、大急ぎかも」


 長期の仕事になる以上、卸している薬を多めに作らないといけないし、どれだけの期間を留守にするのかも伝えなければならない。後は自身の武器や防具の調整、必要な道具の購入……4日は長そうにみえるが、車がなく、運送業もそこまで発展していないこの世界においてはとてつもなく短いのである。


「とりあえず、ニトリルに会って打ち合わせしておかないと……明日すぐに会えるかな……」


「だったら使いを出せばいいよ。それまでは薬の製作をして、ダーフリー商会にいる時に会いに行けばいいじゃないんかな」


「そうだね……どうやればいい?」


「私がやっておくわ。元騎士だったから色々融通が利くのよね」


「うん。お願い」


 これからの行動が決まった俺達は早々にお茶会を切り上げ、明日のために早めの眠りに就くのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―お茶会から4日後「ダーフリー商会・ニトリルの執務室」―


「ひーふーみー……はい! 確認しました! ヘルバさんお疲れ様でした」


「ありがとう……無理言ってごめんね」


「いえいえ、建国祭で王家の推薦を頂いたヘルバさんの特製のお薬……それだけで商品価値が爆上がりですから! そして現状、直接卸してもらっているのはうちだけ……ふふふ!」


 そう言って、気持ち悪い笑みを浮かべるニトリル。お世話になってはいるのだが……はっきり言って気持ち悪い。だが、それを口にすることはしない。


 建国祭からすでに今日で4日経っており、俺は明日の出発前の用事を着々とこなしている。その1つである薬を卸す作業はこれで完了である。


「それと頼んでいた物なんだけど……」


「ご用意させてもらってますよ! おーーい!」


 ニトリルの呼び声を聞いた秘書の方が、様々な品を載せた手押し台車を押して部屋の中に入って来た。さらに、そこには載せきれなかったのか、俺のアイテムボックスと同じような機能を持った収納鞄からも頼んでいた品々が現れる。目の前に机と台車に載せたままの品々を早速確認していく。


「石化に効果のある品という要望でしたので、私の伝手を使って集められるだけ集めましたよ。ヘルバさんのアビリティならさらに絞れると思うので必要な物だけお選び下さい」


「いいの? 私、全部購入するつもりで頼んでいたんだけど……」


「気にしなくて大丈夫です。残った物は別の方にお売りするだけですので……」


「じゃあ……お言葉に甘えるね」


 俺は『スキャン』を使って集めてもらった品々に目を通す。沼地に生息する植物の根、ダンジョンのボスアイテム、異国に生息するモンスターの角……様々な品を次々と見ていく。ただ、それとは別に『とあるゲーム』に出てくる『金で出来た針』が無いかを確認してしまうのだが……そんなのは無さそうである。


「道具まで用意してくれたんだね」


「私自身、聞いた事の無い特殊な状態異常ですからね。素材だけではなく調合する道具も特別な物がいるかと思いまして……」


「助かる。今回の依頼だと私の調合方法で作れても意味が無いからさ。薬師だったら作れるようなレシピを作らないと……」


「しかし……石化となると予防薬も作らないとダメですからね……」


「それは大丈夫かな……中和薬っていうのがあるから。ベントゥス・グリフォン戦からさらに改良して飲んでも効果のある物に……」


「売って下さい!」


 俺が話し終わる前にニトリルが俺の両肩を掴む。大の大人が女児の両肩を掴むという行為に、部屋の隅で待機していた秘書さんが軽く咳ばらいをして注意を促す。それに気付いたニトリルはすぐさま両肩から手を離して、「つい興奮してしまった……申し訳ない」と謝罪をしてくれたのと、俺自身が特に気にしていなかったので許す旨を伝え、今回の仕事に使うからという事で3本だけ卸すことにした。


「ありがとうございます……それのお礼と言ってはなんですが……」


 ニトリルが一度席を立って、エグゼクティブデスクの上に置いてある長い木箱を持ってくる。俺の背丈ほどの長さのある木箱なのだが、ニトリルが両手で担いでこちらに運んでくるので重さはそこまで重くないのだろう。


「こちらをどうぞ。一度手に取ってもらって要望を言って下さい。すぐに職人を呼んで調整しますよ」


 俺は目の前の机の上に置かれた木箱の蓋を開ける。そこに入っていたのは白い杖だった。先端には無色透明な魔石が嵌め込まれており、実際に持ってみると非常に軽かった。


「これって……杖?」


「はい。イグニス・ドラゴンの骨から作った魔法使い用の杖です。オークションで競り落とした物を大急ぎで加工して作らせたんですよ」


「……これ1本おいくら?」


「普通なら王家の宝物庫に置かれてもおかしくない一品ですかね……」


「王都の御屋敷が買える位のお値段ってことだよね!? いいの? そんなものをポイッと渡して!?」


「問題ありません。私自身、ヘルバさんが武器をお探ししていると聞いていたので準備していたところ、王家から話が来ましてね。イグニス・ドラゴンの骨を融通してもらった経緯があるんですよ……ってことでお受け取り下さい。まあ……不要になったら私共に買い取らせていただければと思いますので、そこはお願いしますね?」


「う、うん……」


 俺は超高級品である魔法の杖を手にしたまま、ぎこちない返事をニトリルに返すのであった。

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