表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
163/230

162草

前回のあらすじ「建国祭編も次で終わり!」

―「王都ボーデン・王城 パーティ会場」―


「魔王って……本当かしら?」


「うーーむ……噂では聞いているが……」


 男の発言を聞いて、参加者達から困惑の声が上がる。この展開は起きる事は想定済みだったが、どう話を切り出すのか悩んでいると、アレスター王が一歩前に出て、その男を睨み付けるような視線を向け始める。


「なるほどな……」


 その表情はかなり怒りの籠ったものであり、その怒りが男に向けられているのが分かる。が、男は自分じゃなくて俺に向けられているものだと思い。アレスター王が何かを言う前に話を続ける。


「そうです陛下! 歴代の魔王は世界に混乱をもたらし、多くの人々の命を弄んだ輩共であります! だからこそ……」


「ふむ……しかし、ヘルバは先ほども述べたように、多大な利益をこの国にもたらしている。さらにはリアンセル教会、冒険者ギルドに商業ギルドから絶大な信頼も得ている。そんな肩書よりもよっぽど信用できると思わないのか?」


「しかし……!」


「それがヘルバの思惑とかいうならその口を閉ざすべきだ。その言葉は聖女、ギルドマスター……そして我の目が節穴だと同義だぞ?」


 そこで男が口を噤む。こいつは反王政派なのでアレスター王を乏しめる事には気にしないかもしれないが、他組織の代表に対してそのような暴言を吐く訳にはいかないはずである。これで話は終わりになるかと思われたが……男は食い下がってきた。


「そ、それでも……その女が密かに危険な毒薬を作ってるのは間違いないのです! しかも、その女は人体実験と称して……!」


「それって……レクトでの……?」


 俺はそう呟いて、慌てて自分の口を手で覆う仕草をする。それを見た男は『しめた!』と言いたげな表情でさらに追い打ちを掛けていく。


「認めるんだな! 陛下! これがその女の正体です! このままでは毒で暗殺されたかも分からないような毒薬で陛下の命が……」


「なるほど……」


 アレスター王がそう言って、不機嫌な表情のまま俺の方へと視線を向ける。それを見て俺は静かに頷き反応する。そして、再びアレスター王が男の方へと振り向く。


「にして……お主はその話をどこから聞いた?」


「どこって……そんなのは関係無い……」


「答えよ」


 有無を言わさずどうやってその話を聞いたのかを聞き出そうとするアレスター王。さて、相手はどう答えるだろうか……。


「それは……私の従者が……」


「……あなたの従者って、流行り病で騒がれていた時のレクトにいたのかしら?」


「何を……」


「私がそれを口にしたの……聖女と私を誘拐しようとした男達の前だけよ」


「……へ?」


 俺の言葉を聞いて静かになってしまう男。良かった……その話を冒険者ギルドの誰かから聞いたとかじゃくて。


「あの時、襲ってきた男達の仲間か見張りがいるんじゃないかと思ってわざとそう言ったの。その事はアレスター王にも報告済みよ。そもそも、あの時のレクトの町には規制が掛かっていたはずなんだけど……」


「そ、それは……そうだ。その男達の尋問内容をたまたま……」


「それは無いはずですが?」


 すると、そこに冒険者ギルドのグランドマスターが話に割り込んでくる。俺も初めて見るのだが、かなりお年を召した高齢男性で若干腰も曲がっており杖も付くような人だった。


「何せ聖女を誘拐しようとした連中でしたので、かなり厳しい緘口令を出していましたし、あの男達の身柄は今もこちらで留置中……あなたは誰から聞いたのですか?」


 そう言って、俺は少しだけ目を細めて男を睨み付けるグランドマスターに恐怖を覚える。見た感じ、戦闘はもう出来ないはずなのだが、迫力だけでどうにか出来そうな凄味はある。


「そ、それは……」


「墓穴を掘ったな……ヘルバの主導で動いてもらっていた流行り病の感染源の特定作業の妨害、さらには同伴していた聖女の誘拐……捕らえる理由としては十分だろうな。さらには王家主催の催しでこのような事を犯した事……それも当然だが含まれるぞ?」


 アレスター王がその場で兵を呼びその男を捕らえる。恐らくだが、この後すぐに男の屋敷に捜査が入るだろう。まあ、この場からすぐに立ち去ろうとする者……つまり反王政派の人物がいないところからして対策済みだとは思うが。


「(……捨て駒ですかね?)」


「(だろうな)」


 王様に小声で聞いてみるとそう返事が返ってきた。実行犯は先ほどの男だろうが、それを計画してやらせた奴らは別にいるだろう……いや、そう仕向けられたのも気付ていないのかもしれない。


「(はあ。王家の主催のパーティ会場でこんな馬鹿をするとは……思ってたけど止めて欲しいかも)」


「(全くだ……が、今回は使えるようだから問題無い)」


 アレスター王はそう言って、パーティー参加者へと顔を向ける。


「諸君にはお見苦しい所を見せて済まなかった! しかし……このヘルバがどれほどの才女かは分かっていただけたと思う。また、彼女はリアンセル教の神であるアフロディーテ様から祝福を受けてもいる。そんな者を下賤な魔王と乏しめるような発言はアフロディーテ様を侮辱する行為と同義と知って欲しい!」


 アレスター王が俺が信頼できる女性だと話をしていると、顔色が変わる者と変わらない者の2つに分かれていく。顔色が変わらない人達の中には来賓された各国のお偉いさんの人達が多く、事前に俺の事を知っていた可能性が高い。まあ、アフロディーテ様からの話を聞ける聖女が各国にいるのだから、その国の代表が知らないというのはそこそこ不味い話である。


「さて……くだらない余興はここまでにして、パーティーを始めるとしよう」


 アレスター王が話を締めるとパーティーが始まる。それと同時に音楽が流れ始め、それに合わせて参加者達がダンスを踊り始めている。俺はアレスター王に一度挨拶をしてから、ドルチェ達の元に戻る。


「お疲れ様……予定通りかしら?」


「予定通りといえばそうなんだけど……あ、参考にさせてもらったけどどうだったかな?」


「私のマネだったのね……及第点ってところかしら」


「厳しいな……」


 俺はココリスにそう言って、ダンスをしている参加者たちを眺める。煌びやかな衣装が振れて光が反射するその光景はとても綺麗であり目が引いてしまう。


「綺麗だよね……」


「うん」


 ドルチェの言葉に素直に応える。プロのように上手く踊っている者もいればそうでは無い者もいて、着ている衣服も人それぞれ違って統一感が無い……だが、その違いのおかげで逆にそれぞれの個性となって見ていても面白いものとなっている。


「夫婦や婚約者と踊っている人、気のある人と踊っている人……後は兄妹で踊っている子達もいるね」


「私より幼いのにしっかりしてるよね」


 ドルチェのいう兄妹……シュマーレン皇帝の子供であるマールン皇子とシャオル姫のダンスであり、その幼いながらも、そのしっかりとした足取りにたくさん練習したのだろうと伺える。その横ではリコット王子とロマミ姫も踊っており、こちらはロマミ姫の方が少しばかりぎこちなさがあるが……これはこれで愛嬌があって可愛らしさがある。


「……そういえば2人も踊るんだよね?」


「誘われたらね。最初は親しい人で踊ってから、今後御贔屓にしたい方と踊る……っていうのが流れかな」


「まあ、中には卑しい奴もいるんだけど……ヘルバには無関係かしらね」


 ココリスの言う無関係……それは俺が大人と踊る事が無いという意味である。今の俺は成熟していない子供であり、大の男と比べて頭2つ分ほど背が低いため釣り合わないという2つ理由で俺を誘うような連中はいないはずである。よっぽど常識を知らない奴かロリコンという称号を得たいのなら別だが。じゃあ、そうなると俺は何でダンスの練習をしたのかという話になるのだが……。


「お姉さま……私と踊ってくれませんか?」


「あ、あの……私も」


 そこに、お兄さんと踊っていたシャオル姫とロマミ姫の2人が俺をダンスの相手に誘って来る。子供の場合は参加者が少ないのと経験を積ませてあげるという理由で、このように同性同士で踊る事もある。その際は、年上が男性パートを踊る事になり、この場合だとシャオル姫とロマミ姫が年下なので俺が男性パートを踊る事になる。


「もちろん」


 俺は断る理由も無いので、その誘いを受ける。主催者の娘であるロマミ姫を先にしてあげて、その後にシャオル姫と踊る事で2人に同意してもらう。


「変な事をしないでよ?」


「やらないから……」


 見た目は子供であっても、中身は立派な大人……いや、おっさんである。そんな非常識な事はしない。俺はロマミ姫の手を取って一緒に踊り始める。先ほどのリコット王子とのダンスの様子を見ていた事もあって、何とかロマミ姫に合わせて踊れている。その次に、シャオル姫と踊るのだがこちらの方が踊りやすかったりする。ただ、2人に共通して言える事があって、それは顔が強張っていた事。何とか間違えないように踊ろうとして必死だったりする。


「凄いです。お兄様から聞いた話だと数回の練習で覚えたんですよね?」


「え? それは凄いです! どうしたらそんな風に……」


「あ、いや……それは私のアビリティもあったりするので、そう褒められたものでは無いんですよ……」


「謙遜しなくてもいいんですよ。それはそれで、その人の才能ですから」


「むしろ、それが無いのに数回で覚えたというなら、余計に褒められたものだがな……」


 すると、そこにリコット王子とマールン皇子が近付いて来る。今度はこの2人と踊る事になるのだろう。ちなみにだが、今回のパーティー参加者の中に子供は他にもいて、俺達の様子を遠くから眺めていたりする。誘うのが恥ずかしいという子供らしい理由以外にも、身分の関係で様子を伺っている感じもある。実際にガキ大将みたいな男児がリコット王子達が来る前に俺達を誘う素振りがあったのだが……その前に親が止めていた。


「お二人とも……私より他の貴族の方と踊らなくてよろしいのですか? 先ほどから私達が踊っている所を見てましたよね?」


「まあな……まあ、そこは優先すべき相手がいるからな。当然だが他の奴と踊る訳にはいかない。それでだが……私と踊ってくれないだろうか?」


 マールン皇子がそう言って俺……じゃなくてロマミ姫を誘う。その代わりに、リコット王子が俺にダンスの相手に誘ってきた。俺はその誘いを受けリコット王子と踊り始める。こちらはロマミ姫と違ってかなりの余裕があり、笑顔を見せつつ会話もしてくれた。


「てっきりマールン皇子が先かと思ってました」


「こちらの王家が主催のパーティーですからね。それに気遣ってくれたんですよ」


「国の関係を考えるなら、シャオル姫と踊るのが筋じゃないんですか?」


「そうとも言い切れませんよ? むしろ、ヘルバさんと踊った後の方がシャオル姫にとってもいいでしょうから……お姉さまと尊敬しているあなたの場合なら」


 それを聞いて俺は少しだけ納得する。本来なら優先すべき相手はシャオル姫なのだが、彼女の事を考えるとそれもアリなのだろう。だが、下手すると国際問題に発展しかねないのでかなりきわどい線である。その後、マールン皇子へと相手が変わって先程のリコット王子との話をしてみる。


「当然だな。俺の立場でも同じことをする」


「当然……ですか?」


「ああ、大人には大人の……俺達子供には子供のマナーがあるってところだ。大人は慣習、風習に沿わないといけないが、子供相手にそれを押し付けるのは時には無礼な時もある。年端のいかない奴とかな」


「何事も例外があるという事ですね」


「ああ。時と場合……それが出来ずに押し付けていては、上に立つ事は出来ても直ぐに下ろされるからな」


「……世知辛いですね」


 俺のその言葉にマールン皇子は微笑するだけで言葉で何かを告げる事は無かったが、何となく「それが王というものだ」と言われた気がする。その後、俺は他の子供達とも踊ってこのパーティーは終わるのであった。ちなみにだが……。


「ありがとうございました……よい夜を」


「ええ」


 先ほどのガキ大将の男児だが、凄く礼儀正しくダンスも上手かった。俺は改めて人を見た目で判断してはいけないなと思ってしまうのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ