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161草

前回のあらすじ「口調がコロコロ変わるヘルバさん」

―「王都ボーデン・王城 パーティ会場」―


「どうぞお楽しみください……」


 パーティー会場の出入り口を守る兵士が、そう言って扉を開ける。会場内に入ると、隣国の皇帝一家と今年のは発表会の王様からの推薦者が来場した事もあって、会場内の視線が一気にこちらへと向けられる。


「(堂々としていろ。わざわざ皇帝である俺がいるのに、嫌味を言ってくるような馬鹿はいないだろうからな)」


「(うん)」


 俺は背筋を伸ばし、しっかりとした足取りで中へと進む。まず最初にやらなければならない事をこなさいといけない。


「よくぞ参ってくれた。一緒に来るのは予想外だったがな」


「廊下でばったりあってな。昨日の事もあったから一緒に来てもらったのだ」


「そうか……ヘルバ。何か変な事言われていなよね? 例えば……皇子と付き合ってみるとか……」


「訊くなら皇帝がいないタイミングで聞いて下さい……それよりも、今宵のパーティーにお招きいただきあろがとうございます。王国の更なる繁栄を祈願しております」


「うむ。そなたの言葉しかと聞いた。ぜひ楽しんでいってくれ。シュマーレン皇帝夫妻と、ご子息ご息女にも、今宵のパーティーをぜひ楽しんでいってもらいたい」


「うむ……それならヘルバをお借りしたいのだが? こいつの話はなかなか興味深いからな……帝国の景気を良くするためにもぜひとも話し合いをしたいところだ」


「……あっちに行くなよ?」


「冒険者ですから……そこはお約束できないですね」


 俺はそう言って、ニッコリと笑顔を浮かべる。それを見たドルチェとココリスからは小さな笑いが起きていた。


「ふう……ドルチェ、ココリス。頼んだからな」


 俺が帝国に持っていかれないようにドルチェ達に見張るように頼んだところで、アレスター王は別の来賓客への対応があるので、王女様達と一緒にそちらへと行ってしまった。


「……いいのかな? かなり短い挨拶だったけど」


「そんな長く話してたら王様達が大変でしょ? 大体はこんなものよ。とりあえず、何か飲み物を取りましょうか。この後、王様が挨拶をしたら乾杯するのに必要よ」


 ココリスがそう言って、飲み物が置かれているテーブルへと向かう。ウェイターが運んでいる飲み物もあるのでそちらから貰うのも手ではあるが、近くにいないのでココリスの後に付いて、そのテーブルへと向かう。


 大人達がワインなどの酒を手に取る中、俺と皇子達はジュースを手に取る。念のために『スキャン』を使って解析をするが、毒などは含まれていないようだ。


「お前がいると安全が確保出来て便利だな」


「安心して飲食出来ますからね」


 シュマーレン皇帝の言葉にドルチェがそう返したのだが、こんな大勢の人が参加するパーティーに毒物を仕込むなど、かなりヤバいと思うのだが……まるで、それが結構な頻度であるような会話である。気になった俺は『スキャン』の機能を毒物限定にして周囲を見回す。


「……」


 すると、1人のメイドが『毒薬(媚薬)』という、毒なのか媚薬なのか分からない物を持ってることが判明してしまう。さらに、その詳細を見てみると『体調を少し崩しつつ性欲を高める薬。気になるあの人が動けない時に襲いましょう!』と表示されて……。


「(テトラ・ポイズン・ショット……)」


 俺は指鉄砲を作り、気が付かれるとかなり面倒なので少量でかつ微弱な毒液をメイドさんに向けて撃ち出す。パーティーというこの状況……「そいつ毒物を持ってるぞ!!」と叫ぶ訳にもいかないので、とりあえず、今すぐにでも体調不良になってもらう事にする。毒液が当たったメイドさんはかなり気分が悪くなって、同僚に一言断ってからパーティ会場を後にした。


「あの女を捕まえた方がいいかしら?」


 すると、ココリスが今の光景を見ていたようで、俺にメイドを捕らえた方がいいか訊いてくる。


「媚薬を含んだ毒物を持っていたんだけど……」


「なるほど……それで毒の効果はどれくらいもつのかしら?」


「一応、パーティーが終わるまで……かな。気分が悪くなるだけだから、頑張れば戻って来ちゃうかも……」


「そう……って言う事で捕まえておいてちょうだいね?」


 ココリスがそう言うと、近くにいた立派な服を纏った男性がメイドの後を追いかけて行った。よくよく思い返すと……昨日の3人組の護衛の1人だと思い出す。


「ああいう不届き者がいるのよ……既成事実を作って、貴族の男性と結婚しようとする輩がね……」


「まあ……そんなところだと思ったよ。何だろう……パーティーを戦場だと言った意味が分かった気がする……」


「私達が言ったのはそういう意味じゃ無いわよ……ほら」


 すると、そこに立派な髭をお持ちの初老の男性が俺達に声を掛けて来た。すると、シュマーレン皇帝が親し気な雰囲気を出しながら話を始める。2人の話を聞いてみると、この男性はレッシュ帝国と隣接する領土を持つ領主であり、帝国と自領で出来た農作物を取引をしているらしい。


 国境に面する土地という事から帝国との領土問題がありそうだが、この領主は上手くやっているようであり、隣接する帝国側の領主とも仲が良いようだ。


「我と親しくしておくと、こちらの王に嫉妬されるのではないか?」


「まあそうですな……けど、それは国境を領土に持つ領主共通の悩みですからしょうがありません。それに、我が王もその事を重々承知してますし、度を越えていたら釘を刺してきますので……」


「確かにそうだな。国境を持つ領主はいかに隣国といい関係を持ちつつ、舐められない態度も取らないといけない……難しい話だな」


「ええ。まあ……どこぞの馬鹿は私欲のためにそれを無視した結果、一家共々処罰されましたけどね」


「そうだな。アレには我も頭を悩ましておる」


 そう言って、お互いの苦労を労い始める。話を聞いてると、その馬鹿は両国で迷惑を掛けたようだが……。


「それと、そちらのお嬢さん達も大変だったでしょう。あの馬鹿が起こした事件に巻き込まれて……」


「ええ。いい迷惑だったわ……いなくなる前に、その顔面を一発ぐらい殴らせてもらいたかったわ」


「気持ちは分かるな……ただ、それをするとあの馬鹿の取り巻きが五月蠅いからな。そちらに迷惑を掛けないようにとお考えをした我が王の計らいと思って、ここは大目に見て欲しい」


「分かってますよ。ねえヘルバ?」


「うん。おじ様も大変でしょうから」


 ここまでの話を聞いて、馬鹿がインスーラ侯爵だと理解した俺は、その迷惑で苦労している領主に同情し、その願いを素直に聞いておくと返事をする。初めてあった人ではあるが、何となくこの領主の負担を増やしたくないと思った。


「実に聡明なお嬢さん達だ。何かあれば私も力を貸そうとしよう……」


 そこで、初老の領主は「それではまた……」と言って、俺達から離れていく。


「今度は隣の領主に挨拶をするのでしょうね」


「ここは普段会えない貴族達への挨拶や新しい商売に向けての根回しとか……色々あるの。だから、貴族にとっては戦場なんだよね」


「大変だね……」


 ここで、初老の領主と出会う前の話に戻った。ここは交流の場。あくまで豪華な料理とお酒は口慰みという事らしい。


「お腹空きそうだけど……」


「まあね……けど、例外もあるけど」


 そう言って、指差す方向では皇子達がロンネ王女と一緒に品よく料理を食べていた。その近くでは別の親子もいて仲良くお喋りをしていた。


「なるほど……ねえ、私もあっちに行っていい?」


「そうは行かないでしょ。あなたの紹介も予定にあるのよ?」


「私、貴族じゃないんだけどね……あ、もしかして無理やり爵位を与えるつもり?」


「安心しなさい。そんな事をしたらあなたが拗ねる事は分かっているから。って……そろそろね」


 ココリスの言葉に、シュマーレン皇帝とドルチェがココリスが見ている方へと視線を向けたので、俺もそちらへと視線を向ける。そこには頭1つ分ほど高くなった壇上にアレスター王一家が立っていた。


「今宵のパーティーに参加した諸君に礼を言おう。今回も諸君等の協力のおかげで無事に建国祭を終えることが出来た。今日は諸君らの慰労を労うものである。ゆっくりとしていってくれ」


 アレスター王がそう挨拶を済ませたところで乾杯をする。俺達も持っていたグラスを掲げ一緒に乾杯をして、その後、一口だけジュースを飲む。


「それとだが……今回、皆に紹介したい者がいる。ヘルバ!」


 アレスター王に呼ばれた俺はココリスに持っていたグラスを預け、アレスター王がいる所まで綺麗に歩くことを心掛けながら会場内を進む。『淑女の嗜み』なのか、それとも『精神耐性』のおかげなのか分からないが、大勢の人々から見られているのに今も平常心である。俺はアレスター王の指示で隣に立ち、参加者達の方を向く。色々な思惑の混ざった眼差しが俺に向けられており、何となく居心地の悪さを感じた。


「すでに知っている者もいると思うが、我が国で確認された新しい種族であるドリアードのヘルバだ。貴重な薬を作る薬師であり、冒険者として我が頭を悩ませていたヴェントゥス・グリフォンの討伐などに参加している強者でもある。そのような経緯もあって、今回の建国祭の発表会の推薦枠で彼女を推した次第である。まあ、それ以外にも色々とあるのだが……話すと長くなってしまうので割愛させてもらう」


 そう言って、俺の方を向くアレスター王。俺に自己紹介しろってことだろう。俺は一度カーテシーをしてから自己紹介を始める。


「アレスター王からご紹介頂きましたヘルバと申します。ドリアードという植物などに関するアビリティを多く有する種族であり、私の髪に結われているこのホタル草も私が作り出したものとなります。世間知らずの子供で、皆様にその事で色々ご迷惑をお掛けすると思いますがよろしくお願いいたします」


 俺はそう言って、自身のアビリティの証明としてホタル草を手のひらから生み出す。それを見たパーティー参加者からは驚きの声が上がる。


「ドリアードという種族だが、現状ヘルバ1人であり、意思のある植物が進化した存在だと本人から聞いている。今後、ヘルバ以外のドリアードが生まれるかもしれない。その時は手厚く保護して欲しい。我からの紹介は以上だ」


 アレスター王はそこで話を済ませる。気になる奴はこのパーティーで本人から話を聞くといいということだろう。


「お待ち下さい陛下! 我が話をお聞き下さい!」


 すると、そこに小太りのセンスの無いドレスコードをした中年男性がアレスター王に話を聞いて欲しいと懇願する。確か、発表会の時に嫌味を言ってきた連中の1人だったはずだ。


「ふむ……何か問題があるのか?」


「この者が転生者……つまり魔王と何故公表されないのですか!? しかも、無臭で即効性のある毒を作り出したという話を聞いてます! そんな危ない者を我が国の民として迎えるのですか!?」


 男が大声で、俺を国民として迎える事に異を唱え始める。それを聞いた参加者は戸惑ったり、中には薄汚い笑みを浮かべた連中がいたりした。


 そんな中、俺は少しばかり驚きの表情をしつつも、心の中で「計画通り……!」と思いながらどす黒い笑みを浮かべるのであった。

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