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159草

前回のあらすじ「『姿を消す(インビジブル)』と『自分の幻影作成(ファントム)』を同時に使用できるってヤバい気がする」

―夜「王都ボーデン・王城 貴賓室」―


「シャオル!」


 シャオル姫を家族の元まで送り届けると、シュマーレン皇帝とロンネ王女が抱き着き無事を喜ぶ。


「い、痛いです……」


「ごめんなさいね……でも、無事でよかったわ」


「ああ……ヘルバよ。此度の件、実に見事だった。感謝する」


「ありがとうございます……と言っても、もう少し早く気付くべきだった。モールドが主犯なら、ここに来る前にやれば良かったのに、それをしてこなかった時点で警戒を続けるべきでした」


「それはここにいる全員に言えるだろう。そもそも、モールドを操れるほどの暗殺者がいるとはな……」


「ヘルバ。あの暗殺者のアビリティを見たんだよね? どんな能力だったの?」


「『マインドコントロール』っていうアビリティ。条件を満たすことで相手を洗脳することが出来るアビリティだったよ」


「そんなアビリティがあるとはな……で、何でお前は影響を受けなかったのだ?」


「私のアビリティで事前に情報を知ってたから、逆にアイツに『音魔法』を使って幻影を見せて、そっちに『マインドコントロール』を掛けさせたの。条件の1つにあの男の目を見るっていうのがあったからね」


「なるほど……手の内が読めているなら、避けるのも容易という訳か。お前という人材……実に欲しいな。相手の情報を知り得るなど、普通では無いからな」


「まあ……それでも色々分からなかったりするけど。モールドが洗脳状態だって分からなかったし」


 モールドには『フリーズスキャールヴ』を一度掛けている。そこから個人の情報を得られるのだが、状態異常の情報欄には特に何の情報も載っていなかった。それゆえ、モールドが主犯だと疑う余地も無かった。


(フリーズスキャールヴ? ちなみにモールドが洗脳状態っていう情報が無かったように思えるんだけど……実際にはどうなの?)


(それなんですが……申し訳ありません。高レベルの隠蔽系のアビリティが複数使用されていました。最初の隠蔽系のアビリティは突破したのですが、そこに別のアビリティで上手く隠されていました)


(フリーズスキャールヴでも分からなかった感じか……ボルトロス神聖国との関係は……)


(それは無さそうです。あくまで、こちらが気付かなかっただけです。そのせいでご迷惑をお掛けしました)


(ううん。大丈夫。結果的には無事に終わったしね……また次もよろしく)


(はい。それではいい夜を……)


 俺はそこでフリーズスキャールヴとの会話を終わらせる。意思のある鑑定系アビリティとしてかなり優秀なのだが、それを調べるのがフリーズスキャールヴ1人と考えてしまうと、確かに今回のような事があってもしょうがないと思っている。むしろ、このように欠点があった事に少しばかり安堵していたりする。何でも間でも分かってしまうなんて、それほど恐ろしい物は無いのだから。


「ヘルバ? どうかしたの?」


「ん? フリーズスキャールヴにモールドの事を少し訊いてたの。状態異常で洗脳状態とか表示されていなくて……どうしてなのかって訊いたら隠蔽系のアビリティを複数使われて気付けなかったって」


「……意思のあるアビリティか。我は聞いてなかったことにしておくとしよう。お前もあまり口にするなよ?」


「あ、はい……気を付けます」


 シュマーレン皇帝に言われ、改めてこの『フリーズスキャールヴ』が特異なアビリティだと再認識する。皇帝という立場からして様々な情報が集まる立場でありながら、そのような情報を一度も聞いた事が無かったのだろう。そこで、俺の身を案じて、むやみやたらに口外するなと注意してくれたようだ。


「さて……色々話したいことはあるのだが、今日はここまでにするとしよう。明日のパーティーの主役が寝不足では不味いからな」


「ですね。それに……」


 ドルチェがそう言って、この部屋の扉の方を静かに見る。俺もそちらを見ると、そこにはマールン皇子とここまで付き添ってくれたのだろうランデル侯爵が扉の隙間からこちらを覗いていた。


「盗み聞きはよくないですよ?」


「すまんすまん! 扉をノックして入ろうとしたら何やら話をしていたからな……頃合いを計っていたのだが……無礼な態度になってしまったな!」


 そう言って、ランデル侯爵はマールン皇子を先に部屋に入らせてから自身も入って来た。


「さて……この度は来賓である皇帝一家にこのような危険に晒してしまった事をお詫びします。我が王も明日の朝にでも正式に謝罪の場を設けたいと仰っておりました」


「その申し出……快く受けるとしよう。それがヘルバへの何よりの礼となるだろうからな」


 そう言って、シュマーレン皇帝がこちらを見るので、俺は首をコクコクと動かしてその意見に同意する。


「ありがとうございます」


「さて……もう夜も更けてるからな。後は明日にするとしよう……マールン。今日は家族で寝るとしよう」


「俺はそこまで子供じゃありません……」


「そうか……なら、シャオルのためにも一緒にいてくれ」


「分かりました」


 マールン皇子が即座に返事をする。年頃の男の子の気持ちとしては、両親と一緒に寝る事には恥ずかしがる一方、兄としてそのような羞恥心よりも、妹のために行動するという姿にどこか微笑ましく思ってしまう。


「では、また明日会おう……それと、マールンに興味があるなら考えるぞ?」


「何でそうなるんですか……とにかくお休みなさい。それとモールドさんがお詫びしたいつもりがあれば、気軽に来てくださいって言っておいて下さい。その方がスッキリするでしょうから」


 『ああ』と言って、シュマーレン皇帝は家族を連れて部屋を後にする。その際にシャオル姫がこちらに手を振ってバイバイしてきたので、笑顔で手を振ってお別れする。あのような出来事の後だが……いい夢を見れることを祈るばかりである。


「ヘルバ。リコット様もなかなかの美青年なんだが……」


「兄として頑張ってるなって眺めていただけだからね!?」


 俺はランデル侯爵にそう言って、リコット王子との縁談を断るのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―翌日の午前中「王都ボーデン・お城の近くにある建物の一室」―


「昨日は申し訳なかった!」


 朝食後、夜のパーティーまでココリスと一緒に自室でゆっくりしていると、部屋にモールドがやって来た。昨日、俺とドルチェでボコボコにして大分傷だらけだと思ったのだが……ポーションによってすっかり治っていた。そして、俺と会った瞬間、開口一番に謝罪の言葉。俺のお陰で皇子様達の護衛に戻れたこと、何か望みがあれば出来る範囲で叶えたいと言ってきた。


「私自身、今回の件で図々しくお願いすることは無いです。それより、今度はしっかりと皇子様達を守ってくださいね?」


「もちろん! この命に懸けても!」


「それで……失礼は承知で訊きたいんですが、いつあの暗殺者に操られていたのか……」


「それですが……あまり覚えていないのです。休憩のため一度陛下から離れた時から戻って来るまでの間の記憶が一部飛んでまして……あの時、皆さんを襲った他の2名も覚えていないようです」


「あの時の2人も洗脳を受けてたんですか?」


「はい。実際に陛下への恨みを持っていたのは3名。しかも3名とも私がリーダーだと思っていたそうで、あの暗殺者は私の部下となってました」


「あの暗殺者の『マインドコントロール』は、かなりヤバい代物でしたから……」


 暗殺者が使った『マインドコントロール』だが、実はかなり使い勝手のいいアビリティであり、5つの条件を1つでもクリアすれば相手を操作することが出来る。ただし、1つでは簡単な操作しか出来ず、5つの条件全てをクリアすることで相手を完全に操作できるという代物だった。ちなみに5つの条件の内1つだけ必須条件があり『最後に相手の目を見て指示を出す』というのがあり、昨日の暗殺者との戦闘では、それを一早く知った俺がすぐさま『ファントム』を使って俺の幻影を作り出し、あたかも相手の思惑通りに精神操作されたと思わせたのであった。


「昨日のヘルバからの説明を聞いたけど……ヤバいアビリティだったわね」


「あのままいけば、あの男の思惑通りに皇子様達を攫っていたところでした……本当に感謝いたします」


 その後もモールドは丁重にお礼を告げてから部屋を後にした。それと昨日の皇子様達の襲撃をしたのは偽物として扱う事にもなった。これはシュマーレン皇帝の指示でもあり、シャオル姫のためと思われる。少しだけ話をした程度だが……そこそこの堅物だと思われる。カンナさんと同じで、主人に忠実であるそんな人物をみすみす手放すつもりは無いという理由もありそうである。


「真面目そうな人だし……皇子様達のためにも長くいて欲しいね」


「あら? あなたって皇子様みたいな子が……」


「違うから。親戚の子供を見るオジサンの心境だから……っていうか中身がオジサンだから、男性と付き合うという発想が無いし」


「それでいて男性に戻る気が無い……生涯独身を貫くのかしら」


「それ……そっくりそのまま返すからね? というよりさ……うちらって男っ気が無さすぎる気がするんだけど?」


「それもそうね」


 半年近く一緒にいるのに、気になる男性の話とかが全然無い。恋バナより食べ物やモンスターからの採れる素材、武器や防具に化粧品など……。


「それだから……期待してるわよ?」


「中身も女で生まれたそっちに私は期待したいんだけど?」


「無いわね」


「ノンタイムで返事しないでよ。少しぐらいは考えてよ」


「私より強い相手じゃないとダメね」


「……牙狼団のリーダーであるベルウルフとか? あの人、そこそこオッサンだけど性格はいいと思うし……」


「妻帯者と付き合う気は無いわよ。もう少しでお子さんも生まれるみたいだし」


「マジで!? え……結婚してたの!?」


「何驚いているのよ。祝勝会の時言ってたわよ?」


「知らなかった……」


 あの時、お酒を飲まずにいたから、酔っぱらっていたって訳じゃないはずだし……俺って何をしていたのだろう……。


「ただいま~。アレスターちゃんから色々話を聞いて来たよ」


 そんな事を考えていると、暗殺者の取り調べに参加していたドルチェが帰って来た……。


「……」


「ヘルバ……目が怖い」


「いや……「操られていないよね?」って思って……」


「ドルチェの場合、うっかりでありそうなのよね……」


「2人共酷くない? そんな態度を取るなら聴取の内容話さないけど?」


 そう言って、頬を膨らませる拗ねるドルチェ。怒っているのだが、可愛らしさが勝ってしまいどうしてもさらにからかいたくなる気分になる。が、それより襲ってきた暗殺者の目的の方が気になるので、さらにからかうのは止めとくとしよう。


「冗談だって……で、目的は分かったの?」


「プロの暗殺者だからね……聞き出すのに苦労したけど、やっぱり依頼されて襲ったのは吐いたよ。ただ、依頼者はこっちの王国の貴族みたいだって言ってたよ。まあ……少し怪しい所があるけどね」


「貴族みたい……つまり本人とは直接会っておらず、仲介者を通して依頼を受けたってことかしら」


「うん。その仲介者の特徴は教えてもらったから、今はその仲介者の素性を調べているところだよ。ただ、本当に王国貴族の依頼なのかは疑問だけど」


「帝国貴族の可能性があるかもしれない……でしょ? 暗殺者からしたら貴族の使いさえ分かっていれば良くて、どっちの国かは気にしていなかった感じかな」


「うん。攫う相手がかなり厄介だったけど、最悪どちらか一方だけで良く、高額な報酬と使えそうな手駒の紹介もあったから受けたみたい……予想外だったのは、本命のモールドによる誘拐が攫う暇も無く防がれてしまった事だったみたい」


「ダーフリー商会の襲撃は完全におとりか……始末したごろつき共に関しては?」


「偶然だったらしい……と思ってたんだけど、それも怪しくなってきたよ。アマレッテイが夜通しで調べて来てくれたんだけど、あの2人がカンナさんを襲う少し前に、酒場でフードで顔を隠した誰かと話していた姿を見たらしいよ。そして……あの暗殺者は心当たりがないって言ってたんだよね」


「……祭りの期間だから、たまたま出会った誰かと意気投合して話してた可能性もありそうだけど、かなり怪しい話だね。まあ……もしかしたら複数の思惑が絡んでいるかもと思っていたから驚きは無いかな」


「そうね」


 俺の意見に同意するココリス。そして俺達の反応を見て頷くドルチェ。もはやちょっとやそっとの事で、俺達は驚かないだろう。


「さてと……私も一休みしようかな。ここまで来たら、後は今日のパーティーに向けて英気を養っておかないと……」


「まるで戦場に向かう兵士みたいだけど?」


「こんなパーティーで陰謀渦巻かない方が珍しいからね……」


 ドルチェはそう言って、着替えもせずにベットの上に横になってしまった。それを見た俺とココリスは邪魔にならないように静かに室内で過ごすのであった。

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