15草
前回のあらすじ「ラテさん参戦!」
*9/6:誤字修正しました
「そうね……強くもなてる気がしないわね」→「そうね……強くなっているという訳でもなさそうね」
―2時間後「アルヒの洞窟 入り口前」―
一度、ギルド内で集まった俺達はそのままアルヒの洞窟の入り口までやってきた。一昨日と違って、店も休業していたりして、物静かさが漂っている。
「……では!これよりアルヒの洞窟の調査を開始します!各調査場所はすでに話した通りです!何か分かり次第、ギルド職員に報告して下さい!」
ギルムが小学校とかにある朝礼台に乗って軽く全員に挨拶を済ませ、調査の開始を宣言する。それを合図に各グループがアルヒの洞窟内へと入っていく。
「私達もいくわよ」
「うん」
「よろしくお願いしますね」
(おお!)
俺も返事をする。ちなみにここにいる人達全員が俺の事について知らされている。かといって異世界人とかそこらへんは伏せてあって、あくまで俺が意思を持ち、多彩な魔法とアビリティを持つ草系の魔物として紹介されている。最初はどよめきもあったが、まあ、そんな魔物がいてもおかしくないか。と妙に納得されたのだった。また、ここにいる人達にも他言無用と念には念を入れて釘を刺している。
(それで、目的の階まで行くのに、この前と同じ道を進むのか?)
「そうよ。ただ、ひたすら目的の階まで下るだけよ。何か問題でも?」
(いや。一度ここをクリアしたんだから、あの転移魔法陣みたいなものが無いかな……なんて)
「ここにはないですよ」
今回、一緒に同行しているギルド職員のラテさんが俺の疑問に答えてくれた。
「それがあるのは別のダンジョンになります。すぐに思いつくのは……ここより少し離れたエポメノの崩壊した塔、さらにアルメシア海のイポメニ古代神殿。この2つには10階層毎にセーフエリアと地上と往復できる転移魔法陣がありますよ」
「ああ……なつかしい……私達がイポメニの古代神殿にいったのって大分前よね……」
「うん……20年前だっけ……私達も若かったよね……痛い目を見て大急ぎで引き返したのはいい思い出だよ」
「私からしたら20年は長すぎですよ。その頃にはおばあさんです……」
エルフは長寿の種族である。彼女達にとって20年とは俺達の2年ぐらいの感覚なのかもしれない。
(20年か……俺ってどうなってるんだろう?)
「「「え!?」」」
話していた3人が一度立ち止まって俺を見る。
(いや。そこまで驚くことか?)
「いえ……でも、そうよね……草の寿命ってどのくらいなの?」
「半年くらいは生きてるんだよね……?」
「それって冬を越してますよね……本当に草なのかしら……」
(ラテさん。そう言って、自分の相棒であるモーニングスターを構えないで下さい。それに俺を運んでくれているドルチェに当たりますから……)
「おーーい!何かあったか!?」
前を歩いていたビクトールがこちらに手を振りつつ心配して声を掛けて来た。
「だいじょうぶでーーす!」
俺達は再び歩き始める。
「しかし、草系……トレントやマッドプラントは長生きとは聞いたことがあるんですけど……草はどうなんでしょうね……やっぱり、数年でしょうか?」
「多年草とかならそれであってるけど……果たしてこれを多年草と呼んでいいのか……」
この後、俺達は5階層に来るまでそんな雑談をしながら下へと降りていくのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―それから数時間後「アルヒの洞窟 11階層」―
「それではここから調査に入ります。皆さんいいですか?」
10階層でビクトールのパーティである鉄馬の轍と別れた後、前回と同じ場所で一度休息。そしてこれから調査を始めるのだが……。
(まずは少しまとめていいか?)
「というと?」
(まず、異変が起きたのは一昨日。それより前は特に異常は見られなかった……そこはいいんだよな?)
「ええ。特に変わった報告は無かったわ」
(そして、ここまで下りて来た際に遭遇したモンスターの強さに変わった所は無い)
「うん。鉄馬の轍の人達も同じことを言ってたよ」
(それだから、ここより先のモンスターの強さが変わっていないか?ダンジョンに異常が無いかを調べる。で、いいんだよな)
「それとボスもですね。出て来るボスがギガント・オーガかの再度確認が必要ですね」
「予定としてはその3つの捜査だね」
(よし!捜査する所はこれで分かった。それじゃあ次なんだけど……)
「まだあるの?」
(そうそう……そこはラテさんに訊きたいんだけど)
「私ですか?」
(以前にあった他のダンジョンの異常で、今回と似たような事例は無いですか?ギリムは聞いたことがあるって言ってたんだけど)
「ギルドマスターが言っていた件ですね……幾つかあるんですが……」
ラテさんが考える仕草をしながら、前例を話していく。
「1つは今は無きティポタ森林ですね。ここのボスはコフテロ・ウルフといわれる。鋭い爪を持ち、素早い動きで相手を翻弄するボスがいたのですが……それが変異して、さらにその身に炎を纏うようことが出来るフロガ・ウルフに進化。それが森を燃やし尽くして、今はただの草原地帯になっていしまいましたが」
「それが現れる前の異変として何があったんですか?」
「森林内の気温が上がったそうです。さらにモンスターの種類も変わって、炎属性に耐性があるモンスターが増えたそうです」
「それはボスの性質が反映された感じですかね……となると、今回だとモンスターの巨大化ですかね?」
「それか硬質化かもしれませんね。ギガント・オーガの皮膚は硬い事で有名ですし」
(洞窟内の変化と考えると……巨大化したモンスターが戦えるように通路内が大きくなってたりするのか?)
「それもありますね」
「じゃあ、そこを注意して調べればいいんだね」
(その前に……他にもあるんだよな?)
さっき、ラテさんは、一つは。と言っていた。つまり、他にもあると思うのだが……。
「私の知るのでは……もう一つ。何者かによる人工的に変質させられた場合です」
「え!?そんな事があったの?」
「はい。一部の職員しか知らされていない極秘事項ですね」
「……あの。そんな事を教えていいんですか?」
「問題ありませんよ。これも今回の調査には必要な知識ですから。ただ、今回はそれは無いと思います。これにはある物が必要なんですが……それは流石に教えられません」
「まあ、今回の件が人為的じゃないことが分かってるなら、それ以上は聞く必要は無いわ」
(だな。今回の件と無関係なら必要ないし……仮にその、ある物。があったらラテさんは分かるんだよな?)
「はい。大丈夫です」
「それなら安心だね!じゃあ、さっそく始めよーーう!!」
ドルチェの言葉に、おおーー!!と返す俺達。そして先ほどの注意点に注視しながら洞窟内の探索を始める。11階、12階……少しずつ下に下りながら調査を進めていく。
「このゴブリン……大きいかな?」
そう言って、ウィンド・カッターでゴブリンの胴体を切断するドルチェ。
「そう?それならこのウルフの方が……」
そう言って、槍を振り下ろしてその頭を潰すココリス。
「ラージバットは……普通ですかね」
そう言って、ラージバットをモーニングスターで粉砕するラテさん。
(いや……血生臭いね!全く!)
こんな話をしながら平然とモンスターを倒していき辺りの岩を血まみれにしていく美女3人。ここはそういう世界だから、しょうがないとはいえ……。
「中々、変わった所が見つからないね……」
ほほに血を付けたまま会話を続けるドルチェ。ちょっぴりホラーです。
(ほら。ほほに血が付いているぞ?)
「え?……あ、ありがとう」
ドルチェは戦闘が終わった所で頬に付いた血を、俺が収納から出したティッシュみたいな紙で拭き取る。俺はその汚れた紙を回収して、さらに俺は倒したモンスターも回収していく……うん?
「しかし……モンスターに異常はなさそうだね」
「そうね……強くなっているという訳でもなさそうね」
「ここまで岩壁を念入りに私が見ていましたが……変化は見られませんね……」
「もっと下に行かないと分からないのかな……それともダンジョンボス部屋に原因があるのかな?」
「そうですね……もしくは上で原因が分かってるかもしれないですね……」
「そうね……それにまだ下の階に原因があるかもしれないし、じっくり調査しつつ進めていきましょう」
「いえ。今日はこの階までにしましょう。ここを調べたら一度、11階に戻ってキャンプして翌日、調べましょう」
「そういえば、ここまで来るのに大分時間が経ったわよね……あ、ウィード?あなた時間が分かるわよね?」
(え?……あ、うん。分かるぞ。えーと、時間的には夕方だな)
「え?この草。時間が分かるんですか?」
「そうよ。これも、かなり便利な能力よね……」
「それより……何かあったの?返事に戸惑っていたけど」
(あ~……気のせいかもしれないんだが……数多くね?)
「え?」
(収納してたから気付いたんだけどさ……最初はラテさんもいるから狩る数が増えたとか、調査の為にゆっくりすすんでるからとか、と思ったんだけど、それでもこの前よりも大分多い気がするんだよな……)
「そういえば……そんな気が」
「ということはモンスターの数が増加してると?」
「その可能性があります」
「なるほど……」
ラテさんが鞄からクリップボードを取り出して、何かを書いていく。報告書を書いているのかな?
「それではそこに注視して進みましょう。それと体力の問題とかあるので、早めの撤退、休息を取るようにしましょう」
「分かりました」
ラテさんの意見に注意しながら、俺達はさらにこの層の奥へと進むのだった。