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157草

前回のあらすじ「クーデターを企む連中との戦闘開始!」

―モールド達の襲撃から数分後「王都ボーデン・出店街近くの大通り」―


「ドルチェ……やり過ぎじゃない?」


「え? それヘルバが言うの?」


 俺達は顔面が腫れ上がって、全身ボロボロ、グレープジュースまみれの状態で横たわっているモールドを見ながらそんな会話をする。


「まあ……多少はやり過ぎたかなとは思ってるけど……あ、そうだ」


 俺はモールドとナイフ女が倒れたまま、拘束されていないのに気付いたので『種子複製』と『植物操作』で丈夫な蔦を生み出して、2人を拘束する。


「旦那! こっちも頼む!」


「分かった……」


 俺は振り返り後ろを見るとシャオル姫がとても驚いた表情をしていた。それを見て、俺はここで一芝居を打つ事を決めた。


「全く……護衛の人のフリをするなら、もうちょっとしっかり変装して欲しいよねドルチェ?」


「……そうだね。全くこっちもヒヤヒヤしたよ」


「え? お兄様……どういうこと?」


「……あいつらはモールド達の姿を偽った別人ってことだ。全く……我が妹を惑わせるとは……」


「そ、そうなの……?」


「そうですよ姫様。何せマールン様が断言されているのですよ?」


「そ、そうだったんだ……良かった」


 そこで胸をなでおろすシャオル姫。残酷な真実はもう少し大人になってからでいい……。俺はそう思いながら、王子様達の横を通り過ぎて、アマレッテイ達が取り押さえている連中の前に来て、同じように拘束していく。


「まさか、モールドをあそこまで簡単に蹴散らすとは……」


 すると、横からマールン皇子が俺に声を掛けて来る。シャオル姫はどこにいるかと探すと、カンナさんがお世話をしていた。


「感謝する。妹のために気の利いた嘘を吐いてくれて……信用する奴に命を狙われたと知ったら、トラウマになってしまっていただろうな……」


「いえ……それよりマールン様は大丈夫ですか?」


「心配いらん。次期、皇帝としてこのような状態に陥った時の対処を知らなければならないからな……そうだろう?」


「ええ」


 すると、いつの間にか横にいたリコット王子が返事をする。次期後継者としてこんな幼い頃から危険と隣り合わせの生活をしていることに、どこか気の毒に思ってしまう。そのような目で見る事自体大変失礼な事なのだが……。


「気にするな。それに……そのような目で見られるのは同じだろう?」


「……そうですね」


 俺がそう言う目で見ていたことに気付いたマールン皇子から『似た者同士』と指摘されてしまった。確かに現在進行形で俺も同じような立場である。


「ドルチェ! ヘルバ!」


 すると、そこにココリスがホルツ王国の兵士とレッシュ帝国の兵士の双方連れてやって来た。


「慌てて来たけど……杞憂だったわね。全員無事のようだし」


「うん! それでお城の方は……」


「もう大丈夫よ……まあ、そこから逃げた輩がいたみたいだけど……」


 ココリスはそう言って、捕まえたモールドを見る。なるほど……モールドはこのままだと捕まると判断し、仲間達と一緒に皇子様達を攫って逃げる気だったのか。


「相手が悪かったわね……この4人相手に戦いを挑むなんて……」


「最初は自然に皇子様達を護衛と見せかけて、攫うつもりだったみたいなんだけど……私とドルチェって鑑定アビリティがあるからさ。丸見えなんだよね」


「私は見るより前に気付いたけどね」


「あなた達がいないタイミングで攫えば良かったのに……」


「直前に事件があったからね……おうちに着くまでは一緒にいたから、どちらにしても無理だったと思うよ……」


「そう……。それで私達と一緒に……」


「(ココリス。こいつらを先に連れて行って。シャオル姫にはこいつらが偽物って伝えてるの……)」


「(分かったわ。気を付けて帰りなさいよ)」


 ココリスはそう言って、連れて来た両兵士に捕まえた奴らを連行するように指示する。兵士達が連行する準備が整ったところで、ココリスは両兵士を連れてお城へと帰って行った。


「さて……安全を確保出来ましたので、私達も帰りましょうか。王様達も心配されているでしょうから」


「そうだな。そろそろ父上達も俺達の帰りを待っているだろうな……シャオル。祭りは楽しめたか?」


「はい! お姉さま達のおかげで楽しめました!」


「ロマミはどうだい?」


「私もです!」


 今日の祭りを楽しめたかを訊かれた姫様達は、笑顔でそう答える。危険な目にあっているというのに、この歳でそう言えるなんて、何と逞しいことだろうか。


「それじゃあ……ヘルバお姉ちゃんと手をつないで帰りましょうね」


 ドルチェの言葉に「はーい!」と答えて、2人が先ほどと同じように俺の手を掴む。俺が2人に引っ張られて動き始めると、他の皆もその後に続くように歩き始める。今まで隠れて護衛をしていた3人も一緒に来てくれている以上、おいそれと襲う輩はいないだろう。


「でね……」


「うんうん」


 俺を挟んで楽しそうに話をするお姫様達。そんな姿を眺め、時折話を振られたら返事を返しながら、お城へと戻るのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―夜「王都ボーデン・王城 貴賓室」―


 夕食後、子守りの役目を終えた俺は自室のベッドでゆったりしていると、ランデル侯爵が用事で呼びに来たので、ランデル侯爵と一緒に貴賓室までやって来た。そして……。


「ご苦労だったな。こちらとしても大助かりだった」


「我からも礼を言う。まさか、他国で謀反を働くとは……お前がいなかったら、かなり面倒な事になっていただろう。息子達もそうだが……メイドのカンナも助けてくれた事に感謝する。様々な思惑のある王宮の中であれだけ純真な者はそういないからな」


「ああ……確かに。あの人ならこの国でも同じような理由で重宝されそうですね」


「影から報告を受けていたが……ヘルバの言う通り、お世話役に大抜擢してただろうね。まあ……私としてはヘルバがいるので問題無いがね」


「私、冒険者!? しれっとお世話係に任命しないでよね!?」


 俺のツッコミに王様達が「ははっ!」と笑う。その後、シュマーレン皇帝が「2人態勢も悪くは無いな……」と言っているが、そこにわざわざ足を踏む入れるような真似はしない。


 という事で、アレスター王とシュマーレン皇帝と談笑しているところである。ちなみにここまで案内してくれたランデル侯爵は別の用事があるという事で席を外している。


「さて……ヘルバ。ここに君を呼んだのは、君に礼を言いたかったというのもあるが、今日の一連の事件について話をしたかったからだ」


 すると、アレスター王が先ほどまでとは打って変わって、真剣な表情で用件を伝える。それはシュマーレン皇帝も同じで、その様子からして、やはり、今日の一連の事件は只事では無かったようだ。


「まず……レッシュ帝国の皇子達のお世話係をしているカンナを襲撃した連中だが……殺された」


「……」


「驚かないのだな」


「いや、驚いてますよ……ただ、あまりの事に言葉が出なかっただけです」


 あのごろつき共は捨て駒だと思っていた。だから捕まったとしても、そのままこの国の法に基づいて処分されると思っていた。


「でも、どうしてわざわざ手のかかる事をしたのでしょうか」


「それだが……どうも嵌められたようだ。そいつらを始末したのはこちらの者。謀反を起こした連中の1人だった。動機だが……あのごろつき共は謀反を起こした連中の事を知っており、それがバレると思って口封じ目的で始末したようだ」


「本当にあのごろつき共は知っていたの?」


「その可能性はかなり低い。現在も調査中だが、あのごろつき共にそんな事が出来るような繋がりは、今も見つかっていないようだ。ヘルバ……君の見解はどうだ?」


「あのごろつき共は、ただお金で雇われただけだと思ってます。何らかの組織に所属、またはやんごとなき血筋とかなれば多少は疑いますけど……そもそも、あのごろつき共は何の目的で襲ったのか……」


「こちらもそれを聞く前に始末されてしまってな……ヘルバなら何か知ってるかと思ったのだが」


「私のアビリティはここぞという時の切り札ですから。既に捕らえた相手にわざわざ使いませんよ……」


 俺はそこでシュマーレン皇帝の方をチラ見する。俺のアビリティである『フリーズスキャールヴ』の情報は城内に広まっている。が、あくまで大まかな情報であり詳細を知っているのはごく僅かである。


「何か条件のあるアビリティという事だな……なら、その件に関して深く追求する気は無い。自分の持つアビリティの情報を大っぴらに話すのは馬鹿のする事だからな」


「ご配慮ありがとうございます。それで……どうします? 私のアビリティで調べますか?」


「……いいのか?」


「あまり気乗りしないですけど。ただ、調べないと不味そうな気がして……」


「そうか……だが、人の死体など慣れていないだろう?」


「……」


 アレスター王の言葉に俺は黙ってしまう。口では人の命を奪う事にためらいなどない素振りをしているが、実際の所はそうでは無い。モンスターや化け物になった人とかは平気だったが……人と戦う時はどうしても手加減をする。「私って優しいから……」とは言ってたりするが、実際には殺す覚悟など無いだけである。それに……。


「無理しなくていい。お前が……倒したボルトロス神聖国の者や盗賊の事を思い出すと、時折顔が青くなる事があるとドルチェから聞いている。アビリティで精神耐性があったとしても、どうにもならない時もあるらしいな」


「……はい」


「なるほど……我が娘よりだいぶ大人だと思っていたが、そうでは無かったようだな」


「精神は大丈夫……でも心はそうはいかなかったでしょうか」


 たまに皆との会話の中で、自分の手で殺した連中の事を話すことがあるのだが……その時の奴らの死体を思い返すと、ウィードの時は何ともなかったはずの心がチクッと傷むときある。アビリティで最高レベルの精神耐性が付いているのにも関わらずである。恐らく精神耐性が無ければ、もしかしたら俺の心はもっと酷いことになっていたのかもしれない。


「無理しなくていい。君ほどの高レベルでは無いが……それでも鑑定が出来るものはいるからね」


「すみません」


「気にしないでくれ……話を戻すとしよう」


 そう言って、本来の話題に戻そうとするアレスター王。その事にシュマーレン皇帝も特に意見は無いらしく、本来の話題である一連の襲撃事件へと話が戻るのであった。

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