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156草

前回のあらすじ ヘルバ:「ドルチェが音魔法を覚えていたの忘れていただろう作者?」

         作者:「……はい(目線を逸らしつつ)」

―「王都ボーデン・出店街」―


「あっつ……!」


「お嬢様! 大丈夫ですか……」


「う、うん……それより、これ美味しい」


「これは確かにあのモンスターが食材にしか見えなくなるな……」


 広間に置かれているテーブルに買った物を広げて、さっそく食べ始める俺達。最初に買ったタコ焼き以外にも、さまざまな物がテーブルの上に置かれており、中には前世でも見た事のある物が置かれている。


「りんご飴にじゃがバター……何か落ち着くかも……」


 手に持ったりんご飴をゆっくり眺めてから口を付ける。飴の甘さとリンゴの酸味が口の中に広がり、また飴の甘い香りとリンゴの仄かな香りもあって、味覚と嗅覚の両方を楽しめるいいお菓子である。


「旦那? 先にこっちを食べないのかい?」


「食べるよ。ただ……チョットだけ昔を懐かしんでいただけ……」


 少しだけ欠けたりんご飴を見ながら「りんご飴……小さい頃はお祭りに行くと母さんに買ってもらったな……」と物思いにふける。あれはいつの頃だったかな……。


「ヘルバ。これ食べてみない?」


 ふと、昔の事を振り返ろうとした俺にドルチェが何かのお肉の串焼きを勧めてくる。俺はそれを手に取り肉をしっかりと観察する。肉をよく見ると、魚の切り身の時によく見るあの特有の模様が見えた。


「これ魚?」


「そうだよ。バードモドキフィッシュっていうモンスターのお肉で、見た目は魚、味は鳥肉っていう面白い食材なんだよ」


 ドルチェの説明に感心しつつ、俺は早速その串焼きを一口食べる。ドルチェの説明通りで魚のように身がほぐれ、味はしっとりしたささみ肉という感じである。塩と胡椒というシンプルな味付けで、思わずお酒が欲しくなる一品である。


「せっかくの祭りなんだから楽しまなくちゃね」


「え? そんな怖い顔してた?」


「怖いというより……何か憂いた様子でしたね」


「だな。ヘルバの旦那の過去……一体どれだけ壮絶だったのか気になるな」


「そんな大それた物じゃないよ……それより、周囲に不審な奴いた?」


 俺は話題を変えるために、ドルチェ達に不審者がいなかったか訊いてみる。特にドルチェの新しいアビリティである『アンドレアルフス』なら、何かしら察しているかもしれない。


「『ロード・マップ』で確認しているけど、こちらに敵意を向けている人達は今の所いないみたい」


「それなら一先ずは安心だね。それで『ロード・マップ』の最大の特徴ってそれなの?」


「うん。マップ内に周囲の生物の感情を色で教えてくれるんだ。白だと無関心。赤だと興奮状態って感じで……敵意があると黒で表示されるの」


「いいな……私もそんな便利なアビリティを覚えたいわ」


「だな……」


 クロッカとアマレッテイの2人が俺達を見て呟く。この世界でアビリティは生きていくうえで欠かせない物になっている。特に危険と隣り合わせである冒険者である俺達は、有能なアビリティがあればそれを欲するのは当然である。俺の『オーディン』、ドルチェの『アンドレアルフス』のようなレア物……他にはどんな物があるのか、個人的にも気になっているので2人には頑張って習得して欲しいところである。


「ヘルバはどう? 何か怪しい物とかあった?」


「ううん。気になる物とかはあったりするけど、よく調べたら関係なかったりして怪しいといえる物は見つからなかったよ」


「そうか……」


「皆さんは食べないのですか?」


 俺達4人で話をしていると、それを気にしたリコット王子が声を掛けて来る。近くにいるお姫様達も少し不思議そうな顔をしていた。俺達は一度この話を切り上げて、王子様達と一緒に買ってきた食べ物を味わうのであった。


 その後、再び出店街を巡る。飲食は十分なので、今度はお祭りとかにあるゲーム性のある物を巡っていく。輪投げ、ヨーヨー釣り、くじ引き……祭りでよく見かけるそれらを片っ端からやっていく。景品が取れるまでやり続けるとかはせず、遊ぶ事自体を楽しんでいく。時折、王子様達だけではなく、カンナさんや護衛の俺達も代わりばんこで遊んでいく。


「……このまま何事もなく終わればいいね」


「そうだね」


 アマレッテイとクロッカが王子様達と投げ輪で遊んでいるのを見守りながらドルチェと話をする。ダーフリー商会の一件からいつ襲って来るのかと思って警戒をし続けているが、一向に襲って来る気配が無い。この人混みほど襲うタイミングとしては絶好の機会は無いはずなのだが……。


「俺達や後ろで見張っている3人の護衛……7人もいるから慎重なのかな?」


「どうだろう? 私達はともかく、アレスターちゃんの呼んだ護衛の顔なんて分からないだろうから、気付かないんじゃないかな……?」


「……そろそろ夕方なるけど、時間になったら城に戻っていいよね? 流石にこのまま夜の街を歩くのは勘弁なんだけど……」


「そこはいいと思うよ。まあ、その前に面倒事が解決した連絡が来ればいいんだけど……」


「おーーい旦那! 旦那も一緒にやろうぜ!」


 すると、アマレッテイから輪投げをやらないか誘われたので、ドルチェにしばらくの間周囲の警戒を頼んで、王子様達と輪投げを楽しむ。


 それから次にくじ引きをして「何だコレ?」と思わず口にしたくなるような品々で話が盛り上がったりして、気付けば日が暮れて空模様が茜色になる。


「楽しかったね!」


「うん! カンナもお姉さんも楽しかった?」


「はい。護衛の皆さんのおかげでしっかり楽しめましたよ」


「こちらもカンナさんのおかげで楽しめましたよ。王子様達の相手をしてくれたので、負担も減りましたから」


「それ。俺達が面倒と言ってるのか?」


「ではなくて。私のアビリティで周囲の警戒をしているのですが、入って来る情報を整理するのに集中しないといけないんです。だから、その間はどうしても他の人の話を聞き逃したりすることがあるんですよ」


 俺は笑顔でそう答える。これは本当の事で、モノクル型で周囲の情報が入ってくる『スキャン』や『フリーズス・キャルブ』はそれらを精査するために、どうしても他の事が疎かになってしまう。分かりやすく言うなら、歩きスマホが当てはまるのかもしれない。


「便利な能力にも欠点があるのだな」


「もちろんです。けど、それを補っても……」


「マールン様! シャオル様!」


 お城へと帰ろうとしていた俺達の前から、レッシュ帝国の軍人が着ている軍服を着た屈強な男性が近づいていくる。皇子様達がモールドと名前を呼ぶので、それなりに地位のある軍人なのだろう。きっと皇子様達を迎えに来てくれたのだろう……。


「お迎えの方ですか?」


 俺はさりげなく、皇子様達の前に出てモールドの接近を防ぐ。


「ああ。そうだが……貴殿は?」


「後ろに御座しますリコット王子とロマミ姫の護衛を務めてますヘルバと申します。お城の方で何かしらのトラブルがあったのは聞き及んでますが……それが解決したから迎えに来たってところでしょうか?」


「そうだ。シュマーレン陛下のご命令を受けてやって来た次第だ。後は私の方で……」


「それでしたら一緒に向かいましょう。私どももちょうどお城に帰る予定でしたので……」


 俺はモールドの案を遠回しに却下する。ここで皇子様達を渡す訳にはいかない……。


「いえ? しかし……」

 

「それとも……何かご不都合な事がおありでしょうか?」


 俺はそこでモールドを睨み付ける。他に理由ががあれば言ってもらってもいいが……俺の意見が変わる事は無い。


「リコット王子! ロマミ姫! お下がり下さい!」


 そこに先ほどまで俺達から離れた場所で見守っていた護衛の3人が慌てて、レッシュ帝国の皇子様達も含めた4人とメイドのカンナさんを守るような態勢を取る。ドルチェ達はそれよりも先に武器を構えて、いつでも戦える準備をしてくれていた。


「……いつ気付いた」


「お兄さん……私、鑑定持ちなんだ。ダメだよ? さっきの悪いお姉さんと同じ煙幕ならともかく、爆弾なんて危ない物を持ってるなんてさ? しかも、睡眠薬も胸ポケットにご用意しているみたいだし……」


「はっ! ガキだと思っていたが……なかなか凶悪なアビリティをお持ちのようだな……」


 モールドはそう言って、脇に差していた剣を抜く。俺も『収納』から自分の杖を取り出し構える。


「ヘルバもそうだけど……私も気付いていたよ? あなたから敵意を感じていたから」


 そこにドルチェがゆっくりと前に出て俺の横に来た所で話に混ざる。これは俺の安全を確保するという理由と、わざと話を長引かせ、騒ぎに気付いた一般人が勝手に離れてくれるのを待つためである。


「なるほど……道理で、お前達だけ私の顔を見た途端に警戒を始めた訳だ。まさか、希少な戦闘にも使える鑑定系アビリティを持っている奴が2人とは……」


「残念でした! で、どうする? 私としたらここで諦めてくれると嬉しいんだけど?」


「それは……」


キン!


「旦那達は前を警戒してくれ! こっちはうちらがやる!」


 背後から聞こえた金属がぶつかり合う音。どうやら背後から仲間が来ていたようだが、それをアマレッテイが防いでくれたらしい。


「ヘルバ! 右!」


 ドルチェの言葉にすぐさま右を振り向きつつ、少しだけ後ろへと下がる。まだ、少しだけ残っていた一般人の中から飛び出したその女は右手に大きなナイフを持っており、それを先ほどまで俺のいた場所で振るっていた。


「ちっ!」


「あぶなっ!?」


 俺はその女とモールドに警戒しつつ、気になる事をドルチェに尋ねる。


「ドルチェ! お相手さんの人数は?」


「4人! ここにいるので全員だよ!」


「りょーかい!」


 4人……状況的には守る対象がいる俺達の方が不利だが、戦える人数はこちらの方が有利……後方の2人はアマレッテイ達に任せるとして……。


「やっぱり……生け捕りじゃないとダメ?」


「もちろんだよ!」


「うーーん……こんな雑魚に手加減するってかなり大変なんだけど……」


「なっ!? ふざけたことを!!」


 俺の煽りを受けてすぐさま襲い掛かろうとするナイフ女。しかし、近くまで駆け寄って来たところで、その女は急に転倒し、その場で動かなくなる。


「ハルート!? 貴様一体……?」


「さあ……単に石に躓いて、当たり所が悪かったんじゃないかな……」


 『ヴァ―ラス・キャールヴ』で俺を覆うように形成した一酸化炭素で満たされた空間内で、大きく呼吸をしたのだ。まあ、当然こうなるだろう。


「さて……じゃあ死なないように頑張ってねオジサン」


 俺は『収納』から液体の入った瓶を取り出す。見た目が紫なので毒液っぽいが、中身はただのグレープジュースである。俺はそれを『ヴァ―ラス・キャールヴ』と『水魔法』の組み合わせで、いくつもの球体となったグレープジュースが浮かぶ空間を作り出す。


「うっかりしていると……死んじゃうよ?」


 俺は自分が作り出したはったり空間をモールドに見せつけつつ、『クスクス……』と笑いながら脅すのであった。

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