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154草

前回のあらすじ「カンナさんのメイド服はクラシックタイプです」

―メイドさん救出してから数分後「王都ボーデン・城下町」―


「すいません……助かりました」


「気にしないで……」


 人形劇をやっていた場所の近くにある小さな公園にやって来た俺達。カンナさんをベンチに座らせて、先程の男達に絞められた首の具合を確認している最中である。


「だいじょうぶカンナ?」


「大丈夫ですよ姫様。こちらのお嬢様に助けてもらいましたから」


 笑顔を見せるカンナさん。それとは裏腹に手は震えていた。ついさっき殺されそうになったのだから無理もない。


「首に痕が残っちゃてるね……ねえ? 何か首元を隠せる物を持ってない?」


 俺がアマレッテイとクロッカの2人に訊くと、アマレッテイが仕事に使うバンダナを貸してくれたので、それで絞めつけ過ぎないように気を配りながら首元の痣を隠す。


「何か飲める? そこの出店で買って来るけど……」


「はい……すいません。あ、お代……」


「いいから……」


「うちが買って来るよ。2人はここにいて……」


「アマレッテイ……はい。これ」


 俺は収納から籠を取り出し、ここにいる皆の飲み物が買える程度のお金と一緒にアマレッテイに渡す。


「人数分買って来てもらっていい?」


「あいよ」


 アマレッテイがジュースを買いに行ったところで、カンナさんに何があったのか話を聞く。ちなみに襲った男共は既に護衛の人達が連れて行った。護衛がいない今、王子様達を狙う連中の格好の状況なので、俺とクロッカは最大限の警戒をしながらである。


「分かりません……皇子様の後ろでお二人の様子を伺っていたら、急に腕を引っ張られてしまいまして……抵抗していたら、首に手が……」


 そう言って、顔を青くし体を震わせるカンナさん。実際に危うい状況であり、後少し遅かったら手遅れになっていた。見た目はただのごろつきっぽかったが……お金を持っていたカンナさんを殺そうとした時点で、お金目当では無く、別の目的があったのかもしれない。


「おーーい。買って来たぞ」


 アマレッテイが飲み物を買って帰って来た。念のために『スキャン』で毒物が入っていないか確認してみるが問題は無さそうだ。俺達は飲み物を飲みながら、この後の予定を決める。個人的には城に戻りたいところだが……それをすると、別の意味でカンナさんが落ち込みかねない。それに、先程の男共の目的がはっきりしない今、城に戻って大丈夫なのか不安である。


「レッシュ帝国側の護衛は?」


「いたのですが……」


 カンナさんはそう言って周囲を確認し、首を横に振る。皇子達の護衛である……実力がそれなりにあり、複数人いたと考えるのが当然だろう。それが、今は全くいないというのは何か異常が起きている証拠である。


「お兄様……どうかしたの?」


「ん? どうやら俺達を遠くから見ている護衛が先程の連中を連れて行ったようだ。その護衛が帰って来るまで、今度はどこに行こうか相談している所だ」


「そう……なの?」


 シャオル姫の質問に俺は戸惑わずに頷く。変に戸惑ってしまうと不安がらせてしまう。それは避けなければ……。


「なら……確かこの近くに大きい商店があるのですが、建国祭用に商品も変えているそうですよ。行ってみませんか?」


「ここの近く……あ、ダーフリー商会?」


「はい。どうですか?」


 リコット王子の提案を聞いた俺達はすぐにその案を採用する。店にダーフリーがいれば協力もしてくれるだろう。いざとなれば、ダーフリーに持て成す振りをしてもらい、皇子様達を匿ってもらえる……。


「そうですね……私達、そこの商会長と知り合いなので、商会長がいればもっと珍しい品を見せてもらえますよ?」


「珍しい物……?」


「クロッカ……珍しい物もいいけど、あそこは可愛い物もあるよ。カワイイ猫のヌイグルミとか」


「「ネコさん!」」


 猫に2人のお姫様が反応する。これを見たお姫様以外の皆が、無言でダーフリー商会へと行く事を決める。


「じゃあ行こうぜ! カワイイ猫のヌイグルミがどれほどか見てみたいしな!」


「ええ! そうね!」


 お姫様達をヌイグルミで釣る事に成功。これで、この2人に自身に危険が及んでいる事を悟られずに済む。俺達は足早に、王子様達を連れてにダーフリー商会へと移動を始めるのであった。


「(で、本当に猫のヌイグルミって売ってるんですか?)」


「……」


 前で楽しそうにしているお姫様達に聞こえないように聞いてくるリコット王子。ニトリルが猫好きである事を祈りつつ、俺は最大限に周囲の警戒を行うのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―「ダーフリー商会・2階 日用品・おもちゃ売り場」―


「ねーこ!」


「にゃー!」


 お姫様達がデフォルメした猫のヌイグルミを持って笑顔を浮かべている。今はその可愛らしさを一緒にいるカンナさんに話しており、カンナさんも先ほどより柔らかい笑みで2人と話をしている。


「ヌイグルミ……女の子の物と思っていましたが……」


「これはカッコイイな」


 王子様達は虎のようなヌイグルミを見て、そのカッコ良さに見惚れていた。先ほどまでの子供とは思ない大人っぽさはすっかりどこかへ行ってしまった。ちなみに、その2人の後ろにクロッカ達がいるので、何かあっても対処は出来るだろう。


「上客のご紹介ありがとうございますヘルバさん」


「こちらこそ。少々、面倒事に巻き込まれている最中なのに、それに付き合ってくれて助かった」


「危険もありますが、メリットもありますからね……商人としてはここは稼ぎ時ですよ」


 俺の隣にいるニトリルが笑顔で話をしてくる。俺達がダーフリー商会に着くと、すぐさま商会長であるニトリルが来てくれて店内の案内を買って出てくれた。


「ふふ……レッシュ帝国の皇子が来たとなれば、商会に箔が付きますからね……」


「ふふ……お主も悪よのう」


「いえいえ……」


 何か悪代官みたいなやり取りをする俺とニトリル。非常事態だというのに馬鹿な事をやっているなとは思っている。が、ここからもうしばらくの間は、俺達3人で王子様達の護衛をしなければならないのだ。今だけは少しくらい気を抜いてもいいだろう。


「私これ!」


「私はこっち!」


 すると、お姫様達が自分が気に入った猫のヌイグルミを見つけたようだ。見た目は違うが、どちらもデフォルメしたカワイイ猫のヌイグルミだった。


「お姫様方……そちらのヌイグルミでよろしいでしょうか?」


 ニトリルの問いかけに、2人は頷いて買いたい物を決める。そこで、俺はニトリルに値段を訊いて、さっそく支払いを済ませようとする。


「あ、ここは私が……」


「気にしないで。それよりも……カンナさんもおひとつどうですか?」


「え? でもヌイグルミは……」


「それならば、こちらはどうですか? 大人の方も喜ばれるような少々リアルなデザインでして、インテリアとして飾ってみては?」


「あ、はあ……確かに絵画で見るような猫ですね……」


 そう言って、ニトリルに渡された猫のヌイグルミを眺めるカンナさん。さっきまでの猫のヌイグルミと違って、スラリとした体型の美人猫だった。それを見たカンナさんの表情を見ると、頬が緩んでいたのでそれも追加で購入する。


「あの~……」


 袖を引っ張られたので、そちらを振り返ると王子様達もそれぞれ気に入ったヌイグルミを持っていた……。


「いや……2人は自分で買いなよ?」


「うちらより稼いでるんだから、少しはプレゼントしてくれてもいいんじゃないかい旦那?」


「2人ぐらい許容範囲でしょ?」


 王子様達の後ろにいるクロッカ達もヌイグルミを持って、俺に買ってとおねだりしてくる。『自分より年下の子供にたかるの?』と言いたいところだが、それだとカンナさんにも被害が及ぶので止めとくとしよう。それに中身はこっちの方が年上だし……。


「お買い上げありがとうございます」


「話が早くて助かるよ……」


 俺は早速支払いを済ませようとする。その時、ふと1人の目つきの鋭い女性が視界に入る。ここには俺達以外にも買い物客がおり、その中の1人といえばそれで終わりなのだが……どこか似つかわしくない。


「(スキャン)」


 すぐに、その女性の服や持ち物に『スキャン』を使って調べてみる。すると……。


(隠密に特化した服装……それだけなら、まだ怪しいで済むけど、煙玉はアウトだね)


 そんな事を思っていると、女がスカートを少しだけたくし上げ、さっそくスカートの中に仕込んでいた煙玉を使おうとしていた。そんな物を使われたら他のお客に迷惑である。


「(テトラ・ポイズン・ショット)」


 俺は指で銃の形を作り、指の先端から毒液を女性に向けて発射。顔に当たった女性はその場でゆっくりと倒れ込む。


「任せて」


「お願い」


 クロッカがそれに気付いて倒れた女性を捕らえに向かう。カンナさんとお姫様達はその時、違う方向を見ていたので、今の女性が倒れたところは見えていないだろう。まあ……見えたとしても体調を崩した女性が倒れてしまった程度だろうが。


「見事だな」


「お褒めの言葉をいただき恐縮です」


 皇子様の言葉を丁寧に返す。王子様達に見られていたが、2人とも騒がずに何事も無かったように振舞ってくれるので助かる。


「ありがとうございますヘルバさん。しかし……まさか、こうも大胆な行動を取るとは……」


「うん……」


 目くらましを使用して、王子様達にこっそりと危害を加えようとしていたようだが……そもそも、目くらましなんて物をここで使えば、それだけで目立つ。先ほどの裏路地に引き込んで襲おうとした男共と違って、少々手荒過ぎる。


「うーーん……もしかして複数の思惑が絡んでるのかな?」


「旦那のアビリティで分からないのかい?」


「複数の思惑かはどうかは分からないけど……目の前にいる女の素性は分かるかも」


 俺は早速、クロッカによって取り押さえれ、毒・麻痺・眠りの3つ動けなくなっている女に近付き『フリーズスキャールヴ』を使用して、再度鑑定をしてみる。


「……レッシュ帝国軍人。ただし、少し前にクビにされてるから『元』軍人……今は反政府派に所属……」


 ここでの『反政府派』というのは、ホルツ王国の物である。クビになった理由を調べると『国家転覆に関わったらしいが、証拠不十分で軽い処分になった模様』となっていた。


「我が国の元軍人か……そうなると、父上が少し前に行った粛清が原因だな」


「それって、ホルツ王国にちょっかいを出していた件ですか?」


「ああ。こちらの貴族と共謀していた……までしか俺は知らないがな。父上ならご存じだろうが……」


「そうですか……そうなると、カンナさんを襲ったのはホルツ王国貴族かもしれませんね。こちらの女性はバレてもこちらに籍が無い以上、後はどうにでも出来るから手荒でも問題無い。一方、あの男達は金だけもらって雇われたごろつき……ホルツ王国に住んでいるため、顔バレしてしまうと後々面倒になるでしょうね……まあ、あくまで予想ですが」


「かなり面倒だな。だが……どうして、こちらの護衛がいないのかも想像できた」


「元軍人なら、皇子様達の護衛の顔を知っていてもおかしくないですからね……後は、どうやって数を減らしたか……は、どうでもいいか」


 自分で言ってアレだが、どうでもは良くないというのは分かっている。しかし、この今の状況では不要である。どんな相手か分からない以上、予想など役には立たないのだから。


 俺はこの後どうするべきか考えていると、俺の視界の端から顔がドアップで現れる。そのあまりにも突拍子もない現れ方に、俺が小さな悲鳴を上げてビックリしてしまう。


「あはは! ビックリした?」


「寿命が縮まったかと思ったんだけど!? というか、どうしてここにいるのドルチェ?」


「この状況……レッシュ帝国の皇子様のお相手するのに一番適役なのは私でしょ? それと、ヘルバ達を護衛していた人達も戻って来てるよ。今は外で待機しているもらってる」


「ああ……そういえば王族(www)だったね。すっかり忘れてたよ」


「絶対、忘れてないよね!? というか……何か馬鹿にしてない?」


「気のせい気のせい……忘れていたっていう嘘以外、何も変なところは無いでしょ?」


「それはそうだけど……まあ、いいか。それで、今の状況は?」


 ドルチェから話を求められたので、俺はさっそく気持ちを切り替えて、今の状況について説明を始めるのであった。

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