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153草

前回のあらすじ「あんな事を言ってはいるが、皆の体をしっかりと見た模様」

―建国祭3日目「王都ボーデン・城下町」―


 翌日、アレスター王に『2人をよろしくな』と笑顔で見送られながら、王子様達と一緒にお祭りに出掛けた俺達。普段は王族らしい振る舞いをしているが、今は年頃の子供らしく王都内を元気に駆け回っている。


「うわーー!! にぎわってますね!!」


「お兄様……あれ」


「うん? あれは……」


 ホルツ王国の王子であるリコット王子とお姫様であるロマミ姫が手を繋いで、どこかへと走って行ってしまう。


「お二人とも!? 待って下さーい!!」


 その後をクロッカが走って追いかける。が、途中で人混みに巻き込まれて、その人混みに流されてしまう。


「流されたな」


「うん」


 アマレッテイの言葉に俺は2文字で返す。俺は『ヴァーラス・キャールヴ』と『音魔法』の2つを組み合わせによる『周囲の人が自分に寄り難い空間』というのを作り出す。アマレッテイも対象なのだが、その獣耳を抑えつつ、どうにか俺と一緒に人混みの中をスラスラと移動することが出来た。


「不快な音がするんだけど……耳を塞いでいるのに効果無いし……」


「モスキート音を流してるの。歳を取るほど聞き取りづらい不快音なだけど、この空間では音じゃなくて振動で伝えているから、耳を塞いだだけじゃ意味が無いよ?」


「旦那って何でもアリだな……」


 アマレッテイがそう呟きながら、俺の横を一緒に歩く。そのまま王子様達に追い付き、王子様の後ろから2人が熱心に見ている人形劇を観覧する。


「かわいい……」


「そうだね」


 2人が目を輝かせながら人形劇を見ている。1人の仮面を被った男性が巧みに2体の人形を動かし、王子様が誘拐されたお姫様を助けるという子供受けする演目を演じていた。大人向けにもっと濃い演目でもいい気がするのだが、その在り来たりで分かりやすい演目のおかげで子供達は人形劇に釘付けになっており、その間に子供の両親は休憩を取り、祭りに参加している商人達はこぞって休んでいる両親に冷たい飲み物や軽食を勧めるというWin-Win-Winの状態が出来上がっている。


「傀儡師と商人ってグルかな?」


「じゃないかね……ほら、このお菓子だって出来立てだよ」


 アマレッテイがそう言って、商人から買ったカップに入ったポップコーンのようなお菓子を見せてくる。『旦那もどうぞ』という事なので、それを手に取ると確かにまだ温かい状態だった。口にしてみると前世のポップコーンとほぼ同じだった。


「味付けはシンプルに塩か……」


「違うのが良かったかい?」


「ううん。前世も似たような物があったな……って思い出していただけだよ」


「そうかい」


「あ!? ずるい! 何を食べてるの?」


「ポッピンっていうお菓子ですよ。お二人用に買っておきましたのでどうぞ」


 すると、アマレッテイがどこからかもう1つポッピンが入ったカップを取り出し、それを王子様達に渡す。王子様達は仲良くそれを食べつつ人形劇を再び見始める。


「子守り上手いね?」


「冒険者だからねえ~……こんな仕事も経験済みだよ」


「ふーーん」


 俺達は王子様達の様子を見つつ人形劇を一緒に観覧する。王子様達とお祭りを回り始めて小一時間ほど……俺達もゆっくり休みたかったのでちょうどいい。


「それで……護衛の奴等は?」


「いるよ」


 俺は目線でどこにいるのかをアマレッテイに知らせる。護衛の方々に気付かれないように視線を向けたのだが……両手に飲食物を持って、しっかりと楽しんでいる姿を見て2人して苦笑いをしてしまった。


「気付かれるかな?」


「大丈夫だって……あちらさんも楽しんでるみたいだしな」


 俺達は再び人形劇に目をやる。物語は終盤、王子と魔王が戦うシーンである。あの魔王……もしかして、転生者の誰かがモチーフなのだろうか?


「魔王……か。うちの隣にいるけどな」


「僕、悪い魔王じゃないよ!」


「……前世のネタかい?」


「うん。魔王じゃなくてスライムだけどね」


 アマレッテイとの平和な会話。ここ最近では一番ほんわかとした空気である。


「ねえ……私のこと忘れてない?」


 ふと声がした後ろを振り向くと、そこに人混みに流され、ぐったりとしたクロッカの姿が……。


「「……」」


 俺達は何事も無かったように、再び前を向いて人形劇に目を向ける。魔王に負けそうになっている王子様……ここからどうやって勝つのだろうか。


「無視しないでくれないかしら!?」


「しーっ。人形劇をやってる最中だから大声はダメだよ。ほら、お菓子食べる?」


 俺がそう言うと、それを聞いたアマレッテイがポッピンが入ったカップをクロッカに向ける。クロッカは怒りながらも『いただくわ……』とポッピンを手に取って口にする。そして、そのまま俺の後ろに回り込んで抱き着き、さらには俺の胸を揉み始める。


「はあ~……癒される」


「……公然わいせつ罪ってある? あるなら兵士に引き渡さないといけないんだけど?」


「コウゼンワイセツの意味が分からないんだけど……そこは勘弁してくれないかい? 一応、仲間だからささ……」


「一応って酷くないかしら?」


「そう思うなら、その手の動きを止めてやれ。男共の視線がこちらに釘付け……ヘルバの旦那も嫌だろう?」


「うん。まあ……揉まれる事には昨日の件で慣れちゃったところもあるけど……」


 そこで昨日のお風呂場での出来事を思い出す。初めての女同士の裸の付き合い。当然ながらギャルゲーのような展開は無く、楽しくお喋りしつつ、髪を洗ってもらったりと、俺の男としての心が混迷している以外は健全な入浴だった。


 が、ここにいる2人はそこから一歩踏み込んでおり、アマレッテイが一番最初に俺の胸と腰に触れており『うーーん……この胸と腰の細さってすげぇな……』と感想を述べており……まあ、まだ許容範囲である。対してクロッカは……。


「まあ……アレは危険だったな」


「でしょ?」


 アニメなら絶対に謎の光とかが入る行為をされそうになった……。触れる行為もエロ要素満載の揉むという行為であり、ドルチェのマッサージに続いて本日2回目の気絶になりかけそうになった。


「ガレットが『ファイヤー・ボール』で止めてくれたから良かったけど……あのままやってたら嬌声を上げてただろうな……」


「それと比べたら平気かな。けど……クロッカ?」


 俺が手を『パンパン』と鳴らすと、クロッカが揉むのを止めた。クロッカの表情を見ようと後ろを振り返ると、顔を青ざめさせながら体を小刻みに震わせていた。そして、クロッカの後ろには1人の男性が立っており、状況的に『背中にナイフか何かを突き立てているのだろう』と判断する。


「今日はお目付け役がいるから……次、何かしたら分かるよね?」


「は、はい……」


 俺が睨みを利かせながら丁寧に訊くと、クロッカは素直に返事をしてくれた。それを聞いた男性は後ろへと下がり、仲間の元へと戻って何事も無かったように仲間とのお喋りを再開させる。こっそりと王様から教えてくれたこの合図のおかげで大体の面倒事はどうにかなるだろう。


「今日は……平和だね」


「ああ……クロッカ。この世とお別れする覚悟が無いなら、過剰な触れ合いは厳禁だからな?」


「う、うん……」


 子守りが大変で休めないかと思った今日だったが……以外にも楽ちんかもしれない。


「面白かった!」


「良かったね」


 人形劇が終わって、リコット王子がロマミ姫と手を繋いでこちらへと戻って来た。子供みたいに無邪気に……と思っていたが、リコット王子は兄としてしっかりと俺達が近くにいるのを確認しながら行動していたようだ。


「さてと……次はどこへ行かれますか?」


「そうだな……」


 クロッカがリコット王子に次にどこへ行きたいのか確認する。人形劇を見て、お菓子も食べたのだから、ぶらぶらと出店を楽しむか、それともここ以外の曲芸師の元に行くか……。


「……ん?」


 次にどこに行くのかなと思案していると、袖を引っ張られる感覚があったので誰が引っ張ってるのかと思ってそちらを振り向く。俺の服の袖を引っ張るリコット王子と同じくらいの男の子と、ロマミ姫と同年齢だろう女の子がいた。その後ろには頭巾を被った男性が立っていた。


「そこの嬢ちゃん。その2人の知り合いかい? この子達が食べてる串のお代を払ってもらいたいんだが?」


「え?」


 頭巾を被った男性の言葉に一瞬戸惑う俺。再度、俺の袖を掴んでいる兄妹を一度確認すると、2人はそれぞれ1本ずつフルーツを差した串を持っていた。そして、この子達が誰なのかをハッキリ思い出したところで、頭巾を被った男性にお代を訊いて、その支払い金額より多くのお金を払い追加で8本フルーツ串を購入し、5本と3本で2つの紙袋に分けて欲しいとお願いする。男性は追加で購入をしてくれた事に喜んで、すぐに後ろの出店からフルーツ串を8本を持って来てくれた。


「まいどあり!」


 いい笑顔で帰って行った男性。そのタイミングで俺は再度手を鳴らし、護衛の1人を呼び寄せる。


「すぐにアレスター王に連絡して……。それとこれ皆さんでどうぞ」


 フルーツ串が入った紙袋1つを護衛の方々に渡す。護衛の人は頷き紙袋を手に取ると、すぐさま仲間の元へと戻り1人が報告のためにお城へと走って行った。


「ヘルバの旦那……この2人はどこの貴族の子供だい?」


「あ!」


 アマレッテイの質問に答える前に、クロッカと話をしていたリコット王子がこちらの兄妹に気付く。


「2人も来ていたんだね。どうだいこの国の建国祭は?」


「楽しんでるよ。まあ、持っていたお金をどこかに落としたみたいで……一緒に来たメイドに支払ってもらおうと思ったら、いつの間にかいなくなっていたし……」


「それは災難だったね……ありがとうお姉ちゃん。替わりに支払ってくれて」


「俺からもお礼を言いたい。ありがとう」


「いえいえ……皇帝陛下のご子息ご息女にもしもの事があれば一大事……銀貨1枚程度で済むならお安いものです」


 俺のその言葉にアマレッテイと、ロマミ姫の手を繋いでやって来たクロッカの表情が強張った。まさか、レッシュ帝国のマールン王子とシャオル姫がこんな所に、しかも護衛も付けずにいるとは思っていなかったのだろう。


「それで……メイドさんは?」


「さっきまでいたの……けど、いつの間にか……」


「ああ……カンナは黙っていなくなるような奴じゃないのだが……」


 2人が突如いなくなったメイドがどこにいるのかを心配する。俺は『スキャン』を使って、先程の出店辺りを確認する。さらにレッシュ帝国やカンナという名前を参考に情報を絞っていくと……。


「2人とも! 少しだけこの子達の護衛をお願い!」


 俺は手に持っていた紙袋をアマレッテイに乱暴に預けて、慌てて出店近くにある路地へと走る。路地に入った所で杖を取り出し、メイドさんの首を絞めていた男共の顔面に『ウォーター・ボール』で攻撃しメイドさんを助ける。すぐさまメイドさんに駆け寄って介抱を始めると、男達が立ち上がって来たので……。


「ライトニング!」


 すると、追い掛けて来たクロッカが雷魔法でトドメを差す。動けなくなった男共を見たところで、俺はメイドのカンナさんの介抱に集中するのであった。

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