149草
前回のあらすじ「性癖で王様を脅してみた」
―会談を始めて1時間後「王都ボーデン・庭園側を通る廊下」―
あの後、シュマーレン皇帝とアレスター王の両名としっかりと話をして『仲間と相談してから』という事で一旦、話を終える事ができ、その後の雑談も無事に終えて部屋に戻る所である。ちなみに、今一緒にいる護衛役のビスコッティとガレットには既にこの件は伝えてある。
「石化ですか……聞いた事の無い状態異常ですね」
「私も……で、ヘルバの変態知識には?」
「変態知識って言わないでよ……まあ、興奮する紳士の方々がいたのは覚えているけど……」
とある友人が『こう石化していく自分の体を見て……困る顔が可愛くて……』とか言っていたような気がする。創作物ならともかく、この現実では死と隣り合わせである。興奮するどころか、それが自分だったらと思うと恐怖でしかない。
「それで……一緒に来るの? かなり危険だけど……」
「依頼されてますからね……断れないというか……」
「断ったらギルドの規定違反……」
「ブラックだね……」
『はあ~……』と同時に溜息を吐く俺達。こう何度も危険過ぎる場所に行かされては、身も心も持たない……。この前の海でのバカンスもそこまでゆっくり出来なかった気が……。
「今度こそ……最低でも1週間は休もう。気になる本を読んだり、食べ歩きをしたり……それこそ、行楽地の……!」
「ヘルバは特に必要……なんだかんだで働き詰め」
「そうだね……それこそ帝都で観光というのもありですかね」
「ゆっくり出来るなら……ね」
それが叶うのか分からないが……とりあえず今日の御勤めはこれで終わりである。さっそく、祭りで賑わっている城下へと向かいたい。
「あ、いたいた」
廊下を歩ていると向こうからドルチェとココリスがやって来た。何か俺を探していたみたいだが……。
「本日の業務は終了しました……」
「何言ってるのよ……あなたに会わせたい人がいるのよ。それだから、さっそく会いに行くわよ」
「え……誰?」
俺は明らかに不機嫌な顔をして、誰が会いに来たのかを尋ねる。
「アラルド子爵。あなたを支援してくれるって話をしていたでしょ? 建国祭で今、王都内にある邸宅に戻って来てるらしいんだけど『姿が変わったらしいから発表会前に一度顔を合わせしたいのだが……』って」
「あ、そうか……今の私の姿見た事ないもんね」
アラルド子爵とは毒物事件の後、何だかんだで会ったことが無い。そもそも、俺達はエポメノのダンジョン攻略が終わったら、城壁都市バリスリーに戻る予定だった。それが何だかんだで、色々な出来事に巻き込まれてしまって、一度も戻れずに終わってしまっていた。
「それとカルティア子爵もご一緒するって。ヘルバ繋がりで知り合いになったみたい」
「まさかの私繋がり……とにかく分かった。着替えてから……」
「そのままでいいわよ。皇帝と会談するのにふさわしい衣装なのに、わざわざ着替える必要は無いでしょ?」
「ええ……もっとラフな服に……」
「はいはい……いい子だから一緒に行こうね」
「子供扱いしないでよ!? というか、何か困った時は私をとりあえず子供扱いすればいいとか思っていない?」
「気のせい。ビスコッティ?」
「りょーかい!!」
すると、ガレットとビスコッティの2人が俺の脇に腕を突っ込んで、そのまま俺を無理やり運ぼうとする。さらに、ドルチェが俺の背中に回り後ろから俺を押して、2人のサポートをする。
「本当にこのまま行くの!?」
「はいはい、それじゃあしゅぱーつ!」
そのまま俺は3人に引っ張られ、城の外に待機してあった馬車にそのまま積み込まれるのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―馬車に揺られて20分ほど「王都ボーデン・貴族街 アラルド子爵の邸宅」―
「久しぶりだな。しかし……ここまでの別嬪さんになるとは」
「どうしたら、こうなるのか……不思議ですな」
アラルド子爵の屋敷に辿り着き、執事の案内で屋敷の1室に案内される。中にはアラルド子爵とカルティア子爵の2人。さらにヴィヨレもいた。
「それは私も同じですから。それと……久しぶりヴィヨレ」
「お久しぶりですウィードさん! って、今は……ヘルバさんでしたね」
「そうそう。名前を改名したんだよね。ウィードだと男っぽいらしいから……」
「俺からしたらヘルバもなかなか珍しい名前だがな……っと、とりあえずそこに座るといい。立ってるのもあれだろうしな。皆さんもどうぞこちらに」
アラルド子爵に言われて、俺達はソファーに座る。出されたお菓子を手にしつつ、別れてから今日までの出来事を3人に話していく。
「なかなか濃い月日を過ごしたらしいな」
「あはは……あの1件がここまで尾を引くとは思っていなかったですね。ここにいる皆も同じように思っていると思いますよ」
俺のその言葉に、あの激闘を皆が頷いて賛成の意を示してくれる。およそ半年だが、気分的には2年ぐらい過ごした気分である。それほどに濃密だった時間なのは間違いない。
「しかし……レッシュ帝国か……」
アラルド子爵が手を前に組んで背もたれに体を預ける。その雰囲気からして何か知っているのだろうか?
「何か知ってるの?」
「私の領内には、あの曲者であるギリムがいるんだぞ?」
「ああ……納得」
ギリムは城壁都市バリスリーの冒険者ギルドマスターを務めている蛇型の魔族である。そして冒険者ギルドの頂点であるグランドマスターになるために、精力的に仕事をこなしている人である。
「ギリムとは宿場町ココットで会って以来かな……元気にしてる?」
「ああ。忙しく……いや、かなり面倒な案件を調べてるな。しかも……」
そう言って口を噤み、黙って俺の方を見るアラルド子爵。一瞬の沈黙の後、その口を開く。
「今の君達にも関わる件だ」
「『今の』って事は、レッシュ帝国に行く予定である私達に関わる事……って事でいいんだよね?」
「ああ。あの件以降、レザハックの調査をしていたらしくてな。災害級モンスターであるアクアと同一化した人物……一体どうすればそうなるのか。あまりにも謎な事件だったからな。リアンセル教からの依頼という事もあってギルマスが主体となって調べているんだが……」
リアンセル教からの依頼……俺がアフロディーテ様に頼んだ件を、アフロディーテ様は神託で調べるように聖女達に依頼したんだろうな。
「その調査の中で……瀕死の重傷直後にアクアとなった可能性が高いと判断した。しかし……そこで1つの問題点があがったんだ。それが……アクアが最後に発見された場所。それがレッシュ帝国だ。しかも……ガンドラ山近くという……な」
「「「「またインスーラ絡みかい(なの)!!?」」」」
アラルド子爵の話を聞いて、俺達は一斉に叫ぶ。またしてもというか、ここにきてまたしても……というか……。
「この話はアレスター王には?」
「ギリムが今、リアンセル教に直接報告しているからな……まだだろうな。ヘルバ達の話を聞いた限りだと、リアンセル教からアレスター王へと話が伝わるだろうな」
「そうですか……」
アクアとなったレザハックはインスーラ侯爵家が暗殺時に使った『キング・ミスト』という名の魔道具を奪って、宿場町ココットで住人達を一人残らず状態異常の皮化にするという大事件を起こした。この件にインスーラ侯爵は関わっておらず、それどころかこの件が原因で調査のメスが入り、一家共々死刑されたという、処刑された本人達からしたら忌々しい事件である。それだから、インスーラ侯爵絡みかと言われれば、少し違う気がするのを今更思ったのだが……まあ、気にする内容では無いだろう。
「まさか、アクアがレッシュ帝国から移動してきた可能性があると?」
「アクアがもう1体いたという可能性も無くは無いが……それと同時にレッシュ帝国のアクアの目撃情報が途絶えているしな……同一の可能性はゼロじゃない」
「何か……ここまで来ると気味悪いですね」
「そうね」
ビスコッティとココリスがこの気味悪い繋がりに身震いをする。あの事件がこうやって繋がり、そして俺達はまた関連のある場所へと向かう。ここまで繋がっていくと気味悪さを感じるのは当然だろう。しかし、こうなってくるともしかしたら……。
「『キング・ミスト』をうっかり暗殺時に落とした事でインスーラ侯爵は処刑されたけど……それよりも前に慎重に証拠を残さなかった奴らが、そんなうっかりミスなんてするのかな……?」
「ヘルバ……?」
「ごめん。あの時は人だから当然ミスもすると思ってたんだけど……こうなってくると、アレはわざとだったのかな……って疑ちゃうかな」
「それならどちらでも良かったという考えもありますね。あの頃、インスーラ侯爵の息子は度々面倒事を起こしてました。そんなインスーラ侯爵家と繋がりを持っていた連中からしたら、どこかで始末したいでしょうから……」
俺の意見にカルティア子爵がさらに自身の考えを話す。あそこでレザハック討伐されなければ、あの近辺は多大な被害を生みホルツ王国は大変な事態になっていただろう。しかもインスーラ侯爵の伝手も使える。逆に、レザハックが討伐されればこの企みがバレて、面倒事を起こし続けているインスーラ侯爵をホルツ王国に処理してもらえる。後者の方が得はあまりなさそうだが、レザハックの騒ぎで他にも何か得られる物があったとしたら……その限りでは無いだろう。
「レザハックがアクアと同一化した件……それをどうやって行ったのか今も不明だけど。もしかしたら誰か……いやボルトロス神聖国の企みがあったかもしれないね」
ボルトロス神聖国……思った以上に活動の場を広げており、俺達が知らないところで今も暗躍しているのではないかと、俺達は改めて危惧するのであった。




