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14草

前回のあらすじ「鬼狩り」

―アルヒの洞窟探索後の夕方「城壁都市バリスリー・冒険者ギルド 所長室」―


「まさかギガント・オーガが出て来るなんて……」


 ギルムが顎に手を当てながら、テーブルの上に置かれたギガント・オーガから取り出された魔石を見つめる。


「変異種ですか?」


「うーーん……オーガの特殊個体が出る事はよくあります。ただ、ギガント・オーガは初めてです」


 

 目を細めて真剣な表情になるギリム。顎に当てていた手を離して、腕を組んで椅子に深く腰掛ける。


「何が原因か……ウィードの称号でしょうか?」


(ああイグニスか?)


「ええ……予想外となるとそれしか……」


コンコン……。


 扉をノックする音。すると、ラテさんが一言断ってから部屋の中に入って来た。


「報告です。ギガント・オーガがアルヒの洞窟内で発見されたそうです」


「そうですか……」


 ギガント・オーガ退治後、俺達は魔法陣に乗って洞窟前の入り口付近に出て来た。その後、すぐさま受付にボス部屋の異常を報告している。


「皆さんの報告後にギルドでも再度確認のために、すぐに人を派遣したのですが……」


(再度、ギガント・オーガが現れたって訳だな)


「ダンジョンで何かあったのでしょうか?」


「分かりません。ただ、ダンジョンのボスがいきなり変わったという報告は聞いたことがあります。それが起きたのか……」


「どちらにしても危険ですよね?」


「ええ。ギガント・オーガはこんな初級ダンジョンに出るような存在じゃないですから……しかし困りましたね……」


 ボス部屋までは初心者設計のダンジョン。そしてボス部屋にいるのは初心者殺しのボス。これではダンジョンで利益を得ている冒険者ギルド、そしてあの洞窟周辺で商売している人達の生活にも関わるのだろう。


「ギルドマスター……どうされますか?」


 ラテさんがギルドマスターの指示を伺う。


「……お三人にお願いがあります」


「洞窟内の調査ですね」


「ドルチェさんの仰る通りです。また、今回は他のパーティにも緊急依頼ということで依頼申請します」


「ということは幾つかのパーティと合同で調査するのか……」


「いいえ。全15階層あるので各5層ごとに調べてもらいます。それだから後、2パーティですね。皆さんには11層から15層の調査をお願いします」


「一番下ですか?」


(ゴメンなドルチェ。その理由って俺がいるからだろう?)


「その通りです。荷物を大量に持っていける収納のお陰で長期の滞在するために必要な荷物を簡単に持っていけますから。それと今回はラテも同行するので、彼女の荷物も頼めればと思うので」


(ギルドの職員も調査するのか?)


「依頼のランク判定は私達で決めますので、時には調査とか通常業務でありますよ」


 デスクワークが中心だと思っていたギルド職員の仕事。まあ、冷静に考えたらそのような仕事もあるのも当然か……。


「分かりました。それでいつ?」


「今回は急を要しますので……申し訳ないのですが明日……」


「分かりました!それじゃあ準備しないと!」


 ドルチェが勢いよく立ち上がる。


「待ちなさい!……ったく、この子ったら……」


 それをココリスが腕を引っ張り座り直させる。そう。まだ交渉は終わっていない。


(で、いくらだ?)


「……やっぱり、そうなりますよね」


「この子と違って、私達はしっかりしてるので」


「……あれ?何かバカにされた気がする」


(もう少し落ち着け。ってことだよ。それでココリス?このような事態の時、いくらが相場なんだ?)


「そうね……緊急依頼って通常依頼の1.2~1.5倍くらいの割り増し。さらにそこに必要経費とかを考慮すると……」


「50万ギルってところですかね?」


「その通りね……」


「それでは私はそれで依頼書を作成しておきますね」


 ラテさんが部屋を後にする。


「じゃあ、私達も必要な物を買い物してから帰りましょうか」


「うん」


(おお)


「それでは、よろしくお願いします」


 そして俺達も部屋を後にするのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―夜「城壁都市バリスリー・花の宿プリムラ 食堂」―


「ハハハ!それは災難だったな嬢ちゃん達!!」


 大きな声で笑う口元の髭が特徴的な熊のような大柄の男性。この人がこの花の宿プリムラの亭主であるリリーさんの夫でフランキーさん。熊のようと言ったが……実際に熊の獣人である。


 本来なら明日帰る予定だったらしいのだが、予定よりも早く仕事が終わって帰ってきたところだそうだ。


(気のいい主人だな……)


「ハハハ!照れるぜ!!」


 照れながらも大笑いするフランキーさん。どこかおっとりとした雰囲気のリリーさんとはお似合いかもしれない。


「はい~おまたせ~~。今日は主人が仕入れて来た魚介類をたっぷり使ったブイヤベースよ~~」


 二人の前に出された料理。そこにはイカにエビと実に美味しそうなスープが食欲をそそる……はずだ。草のため美味そうとは思っても食欲はそそられない。まあ、ドルチェが少しばかり涎を垂らしてる表情を見ればそそられているのは間違い無いだろう。


「いただきまーーす!……うん!美味しい!!」


「ここって内陸だから魚介類なんて珍しい料理、中々食べれないのよね」


 二人が料理を食べ進めていく。ここでフランキーさんの仕事についてなのだが、この宿屋を奥さんと一緒に経営している以外に、海がある町まで行って、新鮮な魚介類を仕入れてくる仕事もしているそうだ。


(しっかし……大変じゃないか?というより、もっと早く行き来き出来ないのか?)


「ああ……馬車だとどうしても往復で4日もかかってな……それで仕入れとかしてると大体、1週間になるんだ。とは言っても、他の仲間と一緒にやってるからな。俺だと1か月に1、2回ぐらいだ」


(ふーーん。輸送はどうやってるんだ?魚なんてそう長く持たないだろう?)


「氷漬けにして運ぶんだ。それと護衛として冒険者ギルドに依頼として出しているから、もし見かけたら受注してくれ」


(うーーん……海か……)


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―草の妄想タイム―


「うーーん!潮風が気持ちいいね!!」


「そうね……」


 二人が日頃の疲れを癒すために、海水浴……。当然だが水着姿……。すると、二人が海で遊び始めて、遊べない俺はゆっくりとビーチチェアでその姿を……あ!そんなに激しく動くと水着が……。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―妄想終了―


(いいな……海)


「うん?……海に行きたいの?」


(え?……ああ。まあな)


 料理に夢中になっていたドルチェが訊いてくる。邪な考えを急いで振り払って、紳士的な回答を述べる。


(俺の知っている海で合ってるのかと思ってな。前にも言ったがモンスターはいないからさ)


「ああ。そうか……」


「リリーから聞いたが、確か……あんたは違う世界の住人なんだよな」


 フランキーさんが髭を撫でながら訊いてくる。ここを拠点としているのでいつかはバレるだろうから、俺が異世界の住人だったという事は伝えてある。


「それなら、ぜひうちのリリーが作った料理を食べてもらいたかったな……」


(俺も残念に思ってます……この料理を見るたびに)


 人間の頃だったら、がっついて食べていただろうなと思う。


(お陰で、すっかり旅行が趣味になってしまいましたよ)


「楽しみがあるのはいいことだ。何も無いと精神的に潰れてしまうからな。何か要望があれば気軽に言ってくれ。お前さんは特に同じ代金を受け取ってるのに何のサービスも出来ていないから心苦しくてな……」


「そうね~~……何かウィードさんが喜ぶのがあればいいのだけど……」


(あまりお気になさらず。ただ、何か要望があれば気軽に相談に乗っていただければと思うのでお願いします)


「ああ。よろしくな」


 フランキーさんが草の先端を掴み、握手のようなことをするのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―翌朝「城壁都市バリスリー・冒険者ギルド 玄関前」―


「よう!昨日ぶりだな」


早朝、冒険者ギルドに来てみると中が騒がしい。何事かと思って、俺達が辺りを探ってると昨日洞窟ので出会った中年男性……えーと、名前は何だっけ?


「おはようございます」


「ああ。おはよう!まさか俺達の後にギガント・オーガが出始めるなんてな……」


「私達も驚いたわよ……それでこの騒ぎはどうしたの?」


「簡単だ。アルヒの洞窟が入れないから他の依頼を受けようとして集まってるんだよ。この辺りでダンジョンっていえばあそこだったしな」


 なるほど……だから、ここで別の依頼を受けようとして、ここに人が集まってるのか。


「あなた達は?」


「お前さん達と一緒にアルヒの洞窟行きだ」


 おっさんの指差す方向にはおっさんの仲間達がいて、ドルチェ達が見ているのに気付いて手を軽く手を振ってきた。


「確か……もう一組来るんだっけ?」


「ああ。と、その前に……それなんだ?」


 おっさんの指が俺を指す。喋っていいのかな?


「自己紹介して」


(あ、いいんだ。……えーと、俺はウィード。彼女の従魔だ。よろしくな)


「お、おう……俺はビクトールだ」


(俺を見破ったのはやっぱり看破のアビリティか?)


「そうだ……昨日の時点で気付いてたんだが……まあ、二人が特にお前に警戒してなかったからな……」


(へえ……。一応、このリボンの影響で情報が阻害されているはずなんだけど)


「まあ、それも確実じゃないからな……」


「ということで、私達のパーティのメンバーだからよろしくね。それと、あまり公言しないでよ?」


「分かってる。ただ、鉄馬の轍だけには伝えさせてくれ。今回の件では共闘するかもしれないからな」


「ええ。分かったわ」


(よろしくな!)


「ああ!よろしく!」


 俺はこうして鉄馬の轍のビクトールとも知り合いになるのだった。

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