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148草

前回のあらすじ「建国祭前日のお話」

―翌日・建国祭初日「王都ボーデン・王城 パウダルーム」―


「(……異世界あるあるだよね)」


 鏡に映る自分の姿を見て、こんなドレスを着てお偉いさんと対談する日が来たことに心の中で溜息を吐く俺。口に出したいところだがこれを着せてくれたメイド達を悲しませる事になりそうなので口には出せない。


「……」


 鏡を使って後ろの様子も確認する。スッキリとしたデザインのドレスではなく、プリンセスラインと言われるお姫様感満載のドレスに豪華さを表すフリルが施されている。見た目も相まって、余計に子供っぽく見える。ちなみに補正下着や鳥かごみたな物が無いのは内心ホッとしていたりする。


「ヘルバ。足元大丈夫?」


「うん。ヒールにもすっかり慣れたから問題無いよ。この格好もダンスレッスンの時に練習用のドレスを着た事があるから違和感が無いかな」


 すでに数回来たことのあるこのタイプのドレス。これ以外にもAラインやマーメイドなども着ているため、もはやドレスを着ることへの抵抗が薄かったりする……。こうやって、男としての俺がいなくなっていくのが無性に寂しい。


「確かに……後ろから見てても、違和感が全くないですね」


 今日の護衛役であるガレットとビスコッティが俺のドレス姿をうっとりした様子で眺める。また、着付けしてくれたメイドの人達も満面の笑顔である。


「それでは……エスコートさせて頂きます。お姫様?」


「お姫……って柄じゃないけどね」


 俺はビスコッティに支えられながら、レッシュ帝国との会談を行う部屋へと向かう。後ろにはガレットがいて、後ろに不審者がいないか目を光らせている。


 建国祭は既に始まっており、俺が着せ替えされている間に開式の式典も終わっていた。王様達はこれから周辺の招待した国々のお偉いさんと会談をするのだが、その一番に隣国でもっとも力のあるレッシュ帝国との会談であり、俺はそこに同席する形となる。


「失礼します」


 目的の部屋に来た所で、護衛役の2人には扉を見張っている両国の兵士達と待っててもらい。1人で室内へと入っていく。てっきりピリピリとした空間が漂っているのかと思っていたが……以外にも和やかな雰囲気が漂っていた。その理由だが……。


「へえー……もうそこまでの勉強してるんだ」


「うん! それと魔法も……」


 ソファーに座る小さい王子様とお姫様達の会話が盛り上がっており、それを両王家、そして宰相や騎士達ともども微笑ましく見ていた。


「あ、ヘルバ様。ごきげんよう!」


 すると、こちらに気付いたボーデンの王子様達が俺に挨拶をしてくれた。俺はその場でカーテシーをしつつ返事を返す。


「ほう……この娘が噂の薬師殿か」


「はい。ヘルバと申します」


「我はシュマーレン・リア・ランゼフ。どうやら我が国の貴族の憚りに巻き込まれたようだな……ここで詫びを申したい」


「皇帝の配慮、お受けいたします」


「ヘルバ。そこに立って話すのもなんだ、こちらに来るといい」


 アレスター王の許しが出た所で、俺は空いていた椅子に座り、レッシュ帝国夫妻と対面する。


「ふむ……その腕は帝国にも伝わっている。ぜひとも、我が帝国の薬師にしたいところだ」


「はは……御冗談を。ヘルバは我が王家と親身な関係でしてね……」


 アレスター王がそう言うと、シュマーレン皇帝がアレスター王を睨む。2人視線のその中間ではバチバチと火花が出ている幻覚が見えており、対して王妃様達はそれを静観していた。


「冒険者として仕事もしているので、お仕事となれば今後行くこともありますが……」


「今はどこにも属す気は無いようだな……それとも自分が頂点に立つか?」


 その一言に室内の空気がピリッとなる。その言葉には『俺が転生者だということ知っているぞ?』という含みもあるのだろう。もしかしたら、既にこの国が俺に支配されているのかもと疑っているかもしれない。


「統治は私には合いません。今の暮らしがちょうどいいぐらいです」


「……なるほどな」


 シュマーレン皇帝はそう言って、深く言及せずに座っていた椅子に深く掛け直す。さらには先ほどのような柔らかい笑顔を見せる。


「今世に魔王が現れ、どんな危ない奴かと思ってみたが……そうではなさそうだな。まあ……冒険者としての経歴からしてかなり強者みたいだがな」


「一緒に戦ってくれる仲間のおかげですね。私1人ではどうにもなりませんから」


「ふっ……そうしておくとしよう。で、アレスター王。先ほどの件だが……」


「分かってる……ヘルバ、昨日の話は覚えてるな?」


「朽ちた死体が人々を襲いながら歩き回っている……だよね」


「そうだ。そして、此度のこの国で起きた疫病の原因となったモンスター……バーサーク・デッド・ファルコンは我が国にあるガンドラ山から離れた個体で間違いないだろう。こちらでも似たような疫病が確認されているからな……」


「被害は……?」


「迅速に隔離を行ったからな。被害は最小限……だが、それが王都でいつ蔓延するか分からずに、不安になる国民も多い。そこで貴殿の協力を得たい」


 真剣な眼差しで俺を見るシュマーレン皇帝。その奥さんである王妃様や宰相、さらに護衛の騎士の方……俺に対して『断らないよね?』と無言の圧力を掛けて来る。ここで引き受ける旨を伝えればいいのだろうが……こんな怪しい話にすぐに『はい』と言うのは愚行である。


「……他には?」


「他……とは?」


「今回の疫病の対策……既に、この王都で実践済みです。レッシュ帝国の方々なら周知の事かと思われます。そして、原因となった村の浄化方法も帝国に置かれているリアンセル教からもたらされているはず……。帝国内にいる優秀な人材に依頼すればいいところを、自国の恥を晒してまでわざわざ私を連れていきたい理由は無いと思われます。はっきりと言います……ここにいる皆さんは何を隠していますか?」


 それを聞いたここにいる全員が驚愕の表情になる。まさか、ここで俺がこのような発言をするとは思っていなかったのだろう。


 確かに、ここまでの話を聞いていると、未知の疫病に我が国もやられてしまい、その疫病の第一発見者であり有効な対策を取った俺を連れて行くというのは何ら間違った事ではない。そして、たまたま建国祭という行事があり、そこに招待されたついでにでもというのも実に自然な話である。


 しかし、この世界の国の情勢を按ずると少しだけ違和感が生まれる。他国にいる俺を呼ぶという事は、たった1人の小娘に対して、自国にはそれと同等の人材がいないと他国に恥を知らせるものだったりする。前世のような国際機関が無い以上、自国を守るのはそこに住む王族と国民の努力次第……それ故に、このような場合でも、弱みを見せないように慎重にならなければならない。この皇帝が馬鹿でなければ、そんな後ろ指を指されるような事はしないはずである。


「そもそも……この依頼に関して、冒険者ギルドや商業ギルド、そしてリアンセル教……この3つからも、話が来ています。けれど……情報に精通しているその3つがすでに対策方法が分かっているこの疫病に対して、私とその仲間に他国まで行って調べさせるなんて不自然なんですよね。しかし……そうせざるに負えない状況……まだ、私達に伝えていない懸念事項がありますよね?」


 さらに俺は自分が思ってた疑問を一息に捲し立てる。そう……昨日のアレスター王からの話からおかしかったのだ。あの時はそういう理由だと思っていたのだが……この場に立って、シュマーレン皇帝の姿を見て、さらに直接話を聞いた事でこの疑問が生まれた……はず。急にいきなり感が冴えた気がした感覚もあり、手に扇子を持っていたら、それを開いて口元を隠して……。


「(淑女の嗜みwwwの効果!?)」


 大声で叫びたいところを、何とか囁き声までに落とした俺。確かに、貴族間のこんなやり取りしているシーンってよくあるけどさ……悪役令嬢系のお話からだろうこれ!?


「ふむ……なるほどな」


 そう言って、シュマーレン皇帝が立ち上がり、座っている俺の前に立つ。そして、その場で膝を付き俺の手にキスをする。元同性からのキスに寒気を覚える……と、いうことは無く。この行為が恋愛や愛情とかではなく、女性への尊敬の意味を表す行為だという事を、数日前のマナー講座で教えてもらった事を思い出す。


「先ほどまでの貴殿に対してのやり取り……深くお詫びをしたい。ここまでの才女とは……アレスター王でさえも思っていなかったようだな」


「ですね……こんな失礼な対応されたら、本当に帝国に移住しちゃうかも」


「待った待った! 確かに隠し事はあった! が……確定事項じゃなかったから話さなかっただけだ。推測で話すのは危険な場所に向かう君達に失礼だろう?」


「それでも……何か対処方法はあったのでは?」


 俺はそう言ってニッコリと笑顔を見せる。それを見たアレスター王の顔が引きつっている中、王女様達はこのやり取りを楽し気に見ている……。


「王女様方……見世物じゃないのですが?」


「あら? 失礼……でも、こうなると思ってましたから。この人が言わなかったら、私どもからお伝えするつもりでしたし……ね?」


「ええ。説明不足で放り出してはいけない方々……ぜひとも、帝国といい関係でいたいものです」


 そう言って、先程の俺と同じようなニッコリとした笑顔を浮かべる。俺みたいな作り笑いでは無いその自然な顔を見て、本当に言うつもりだっただなということが感覚で分かった。


「貴殿の言う通り……『ゾンビ化した魔物が襲って来る』、『非常に感染力が高い疫病が流行っている』の2つ……実際に、我々の帝国が誇る騎士団達と帝国にいるリアンセル教の聖女で対応は可能だった。が、その最中に1つの異常が発見された」


「その異常……私が必要となると状態異常が関わる物ですか?」


「ああ……異常が発見されたのは2週間前。ガンドラ山周辺の調査をしていた小隊が行方不明となり、その翌日……その騎士達とそっくりな石像が発見された。鑑定の結果は……」


「石化された本人達……」


「そうだ。一応、聖女によって治すことは可能であり、騎士達もすでに回復している……が、厄介なのはその直前の事を覚えていないことだった。そして……その日に今度は近くの村の村民たちが全員石化した」


「村民の方々は?」


「聖女……そして貴殿の作った『万能薬www』というので何とか対応できた。しかし……次に何かあった時、我が国では対処しきれない事態に発展しかねない状況である。そこで、貴殿に出向いてもらい『万能薬www』に変わる薬を作って貰いたい」


「なるほど……高価な薬に変わる安価な薬を所望していると」


 『万能薬www』の材料費は確かに高い。そこに人件費とかも加えるとチョットしたいい装備が一式揃うほどの値段で売られている。材料を土の養分を代用できる俺からしたらぼろ儲けもいい位である。


「量産するにも腕のいい薬師が必要であり、材料も珍しい物のため非常に高価な薬……それを帝国中の国民分用意するのは難しいからな」


「財源も無限ではないですからね……。で、アレスター様? 隣国で起きているその状況を経った今聞いたアレスター様は『我が国も静観していい案件ではない! 契約をさっさと結ばせて行かせよう!』という訳ですね?」


「言い方に悪意があるが……概ねその通りだ。まあ、もはや我々王家だけの問題では無いしな……」


「ふーーん……そんな対応でいいんですか? 私、アレスター様の性癖をご存じなんですが?」


 その言葉にアレスター王が非常にビクビクと体を震わせる。そこにトドメとして『うっかり口にしちゃうかも……?』と脅しておく。『悪かった! 頼む!』と頭を下げるアレスター王……子供達は何が起きてるのか分からずにキョトンとしており、これ以上は子供の教育上悪いので許すとしよう。


「ふっ……女は怖いな」


 余裕の表情であるシュマーレン皇帝は、そう言って堂々とした様子で席に座り直すのであった。

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