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147草

前回のあらすじ「ちなみに王様のケモ度は高めです(後はご想像にお任せ)」

―建国祭前日「王都ボーデン・城下町」―


「おおーー!! 賑やかだね!!」


 薬を商業ギルドに卸した帰りに見かけた光景に心を躍らせる俺。インフルエンザの件の後、建国祭の準備に慌ただしく過ごしていたため、王都内の様子が祭り一色になる姿をこうゆっくり見るのは始めてかもしれない。


「本番はもっと賑やかですよ。これでも、まだ静かな方です」


 隣にいるモカレートが、祭りの準備で賑わっている広場の状況を見てそう答える。その冷静な様子に少しだけ違和感を感じてしまう。


「もしかして……祭り嫌い?」


「いえ? 単純に建国祭を何度も経験してますからね。この光景に見慣れているだけですよ……むしろ、この時期が来たんだな……って」


 そう言って、笑顔を見せるモカレート。王都に住む住人の中にはモカレートのように季節の風物詩的に見慣れている人達もいるのだろう。その証拠にベンチに座っている高齢の夫婦も今のモカレートと同じような事を言っている……。


「ヘルバさん? 年寄りっぽいとか……思ってませんよね?」


「え? 風物詩なんだな……って思ってただけなんだけど……」


「そうでしたか……失礼しました」


 そう言って、謝るモカレート。対して俺も心の中で土下座してモカレートに嘘を吐いたことを謝罪をしておく。そんな話をしながらも、俺達は賑やかな通りを進み王城の門へと辿り着く。


「お疲れ様です。町の様子はどうだった?」


「ワクワクしました!」


「そうかそうか! 建国祭は4日間行われるからしっかり楽しんでね!」


 そう言ってくれた門の兵士に手を振りながら、城の中へと入る。この城に寝泊まりしているせいで、すっかり顔なじみになってしまった。


「ヘルバさん……モテモテですね」


「子供扱いしているだけだよ。まあ……私的にはそれがいいのかな?」


 見た目は子供でも、中身は熟し過ぎてしまったおじさん。そのせいで、自分がどう扱われて欲しいのかがイマイチ分からなかったりする。


「でも……ヘルバさんって結構演技というか、人が変わりますよね」


「まあ……確かに。対人戦とかになるとメスガキ口調にもなるし、暴力的にもなってるかな……」


「メスガキ……どんな様子なのか見てみたいですね」


「誰かに……って、私この姿で仲間の前でそうなった事が無いか……」


 もしかしたら、ガレットがあの時見ていたかもしれないが……詳しく説明するかどうかは怪しい所である。


「ああ! ヘルバ丁度いい所に!!」


 すると、ココリスがこちらへと走って来て、そのまま俺を抱え込んでどこかへと連れて行く。どこにそんな力があるのかと思ったが……身体強化のアビリティを持っているのを思い出した。


「何? 何があったの?」


 ドレスの準備も終わってるし、マナーもダンスもオッケーを貰ている。それと建国祭時に不足しがちな薬も今卸したし……。


「魔法研究所からあなたを連れて来てって頼まれたの! さっさと行くわよ!」


「それはいいけど……私、何で脇に抱えられてるの?」


「そこは気にしないの!」


「ふーん……」


 俺は抱きかかえられた時に気になったココリスのお腹を突っつく。すると、柔らかい感触が……。そういえば、この頃お城に籠って何かしらの作業していたみたいだし、それでいておやつとかも出てくるから……。


「ヘルバ……?」


「すいません……」


 鬼の形相でこちらを見るココリス。そこまでお肉が付いた気はしないが……本人からしたら気になるレベルだったようだ。そのまま俺はココリスに連れられて、魔法研究所内のバーサーク・デッド・ファルコンの死骸が置かれた部屋へとモカレート達と一緒に案内された。そこには既にアレスター王にランデル侯爵、それとドルチェとフォービスケッツの4人も集まっていた。


「私達もご一緒でよろしかったのですか?」


「いいわよ。無関係じゃないんだから」


「さてと……関係者は全員来たな。さっそくだが、調査報告を聞かせて欲しい」


「はい」


 アレスター王の命を受け、1人の職員がカルテを見ながら説明を始める。既にアレスター王とランデル侯爵は話を聞いているらしく、その表情は芳しくない。


「早速ですが……このバーサーク・デッド・ファルコンがどこから来たのかが判明しました。場所はレッシュ帝国の帝都南部にあるガンドラ山から来たと思われます。バーサーク・デッド・ファルコンが沈んでいた湖から離れた場所にある村から巨大な怪鳥を見たという報告。それと……レッシュ帝国で起きている事件を照らし合わせた結果、このような判断に至りました」


 その報告を聞いて頭を抱える俺。ああ……これはまたしても面倒ごとに巻き込まれる前兆だ。その証拠に、今回の建国祭にレッシュ帝国の帝王夫妻が子供を連れてやって来ているし、俺に話をしたいとも……。


「ヘルバ……気をしっかり」


「出来ないから!? これってアレでしょ!? 滅茶苦茶な面倒事がこの後起こりますっていうフラグでしょ!! どうせその事件がバーサーク・デッド・ファルコンのようにゾンビ化したモンスターが現れて問題を起こしているとかそんな所でしょ!」


「おお……察しがいいな」


「ここまで来れば想像が付くって!! で……ここに皆を呼んだのはそれ関係で依頼をしたいからでしょ?」


「ああ。しかも、これは冒険者ギルドと商業ギルドの両方、さらにリアンセル教も含めた合同の依頼だ。先日の疫病流行の件を受けて放っておくことは出来ないと判断したらしい」


「リアンセル教……まさか神託?」


「いや。これは聖女ミラ様の報告を受けたリアンセル教会が独自に判断したらしい。それだから神託とは関係ない」


「そうか……」


 単純に自分が神託を出すよりも早く出してくれたから、その必要が無かったという可能性もあるのだが……。どちらにしても『行って欲しい』とお願いされる結果になるのは変わらなそうだ。


「で、依頼はここにいる全員に?」


「そうだ。建国祭後、君達にはレッシュ帝国に向かってもらい。あちらの冒険者ギルドと協力して調べて欲しい」


「欲しいじゃなくて……やれでしょ? はあ~……」


 王様からの指示……つまり王命なので、これを断るというのは不敬になり、最悪罪人として捕まる恐れもある。


「……このままレッシュ帝国の庇護下に入っちゃうかもよ?」


「それは勘弁して欲しいな……何なら今度は邸宅でも用意するが?」


「冗談だって。だから、そんな真面目な顔でこっちを見ないでって……」


 絶対に他の国に渡さないという強い意志……アレスター王の目がマジである。


「ちなみに……それは人為的に引き起こされた可能性は……」


「分かりません。レッシュ帝国の情報は似たようなモンスターが現れたというだけなので」


「となると……後は現地調査が必要ですね」


「だな……ヘルバの旦那といると退屈知らずだね……」


「ただの疫病神だと思うけど……?」


 ここまで休みなく何かしらの事件に巻き込まれる以上、もはや呪われているのでないかと思われてもしょうがないレベルである。しかし……。


「Aクラスとなるとその位は当たり前ですから、気にしない方がいいですよ?」


「ビスコッティの言う通り。それに……今回は複数の人物が関わってるから余計に(たち)が悪い。分かっているだけでも」


「これが通常って嫌なんだけど……」


「まあ……それでも今回は少し特別な部類だがな。それで引き受けてくれるだろうか?」


「分かりました。やればいいんでしょ。それに……」


「それに?」


「……いや何でもない」


 俺はその後に言おうとした言葉を飲み込む。アフロディーテ様が教えてくれた以前に始まったこの一連の騒動は俺という異物が介入した事で大きく進展している気がする。時にこれを人は宿命と呼ぶのだろう……。


「アレスターちゃん。とりあえず話はこれで終わり?」


「もう1つ……ヘルバの予定についてだ」


「私の予定?」


「お主この建国祭は4日間行われるのを聞いているだろう? 初日はレッシュ帝国皇帝との会談、2日目は発表会、4日目に行われる城内のパーティ……それ以外は自由時間という訳だ。まさか……城の中で籠っているつもりじゃないだろう?」


「もちろん。賑やかなのは嫌いじゃないし」


「って事で……ヘルバの予定に合わせて、全員の予定を決めるぞ! なお……3日目は私の息子と娘も付くからよろしくな」


「さらっと爆弾発言しないで!? 私と一緒に王子様とお姫様が城下散策するって事だよね? そもそも……私1人の時間は?」


「今回は諦めなさい。って事で……」


 そこから俺抜きで、勝手に誰が護衛に就くかの話になる。一応、どこか行きたい場所があるか訊かれるのだが、催しなど全く分からないので、そこら辺の予定も勝手に決められそうである。


「まあ……いいか」


 こういう時の女子達の情報網は半端ない。デートに誘う男ならどうかとは思うが……今回は甘えさせてもらうとしよう。


「あ、アレスター王……少しだけお話いい?」


「うむ? 構わないが……例のアレか?」


「うん。恐らくだけど……」


 俺はアレスター王にだけある相談をする。いつ襲ってくるか分からない状況……しかし、1つだけ予想は出来ている。2日目なのか4日目なのかは分からないが……大した問題にはならないだろう。


「失礼します陛下……」


 すると、そこに質の良さそうな鎧を着た1人の兵士が入って来る。


「来たのか?」


「はい。事前の話通りにご家族連れです」


「分かった。ランデル……」


「畏まりました。お前さん達……決まったら後で知らせてくれ」


 そう言って、2人は兵士と一緒に部屋を後にした。恐らく、明日に会う予定のレッシュ帝国の方々が来たのだろう。


「明日、私と付き合う人は外れかも……」


「よーし! じゃあ、後はジャンケンな!」


「負けないわ!!」


 俺が部屋を出て行った王様達を見送っていると、何か俺の護衛を巡っての話し合いがヒートアップしていた。しかも、護衛される側のはずのモカレートも加わってるし……。


「何事もなく……は無理か」


 この建国祭。今のうちに無事に終わる事を祈っておくのであった。

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