表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
147/230

146草

前回のあらすじ「ヘルバには内緒の話し合い」

―お昼過ぎ「王都ボーデン・魔法研究所」―


 午前中のダンスレッスンと何故か追加されたマナー講座を終えた俺は、ドルチェと一緒に魔法研究所へとやって来た。お城から少し離れた西洋風の建物の中に入ると、研究員の人に連れられて、ある部屋へと案内される。


「そっちをすぐに生物学の連中に……そっちは魔法学で……」


「マスクを持ってない奴すぐに受け取りに来い! 下手すると1週間は動けなくなるぞ!」


 慌てふためく職員の喧騒を聞きつつ、ここに連れて来てくれた研究員の指示された場所に回収したバーサーク・デッド・ファルコンの亡骸を『収納』から部屋へと出現させる。腐敗した酷い臭いとか想定していたが、部屋に備え付けられている換気用魔道具のおかげでよほど近い場所に行かなければ臭いを嗅ぐことにならずに済むようになっているのはありがたい。


 そして今、見ていた魔法研究所の職員達が目を輝かせながら、すぐさまそれに群がって調査を始める。全員、感染防止のためマスクに手袋、それとアルコールによる消毒噴霧などもして、感染対策をしっかりと整えていた。


「これより王都で流行った感染症の原因を作ったモンスターの調査を開始する! 各分野、それぞれ踏み込まれたくない部分もあるだろう。しかし今回ばかりはそうはいかない! この王都の人々の安全を奪ったこのモンスターがどのような経緯でこのような被害を生んだのかを徹底的に調べ上げ原因を追究する! それがこの魔法研究所の職員の使命の1つだという事を忘れるな!」


 いかつい顔の職員がそう言うと『おおっー!!』と大きな掛け声を上げて鼓舞する職員達。そこから一斉に職員達による調査が開始される。すると、数人の職員がモンスターの死骸ではなく、俺の方へと近寄って来る。


「ヘルバさん。発見時の状況をお聞きしたいのですが……それと他にサンプルとかお持ちですか?」


「ええ。一番欲しいと思う物を持って来てるよ」


 俺はバーサーク・デッド・ファルコン回収時に、ついでに空の容器に採取したその周辺の水と土を『収納』から取り出す。


「これ。あのモンスターのいた周囲の水と土だよ」


「ありがとうございます。それと発見時の状態をお聞きしたいのですが……」


「もちろん。それで、最初は何を話せばいいかな?」


「それでは……」


 2人の職員が俺に質問を始める。他の職員達は土と水の入った容器を持って、この部屋をすでに後にしている。きっと、ここには無い特別な装置を使って何か異常が無いのか調べるのだろう。


「そういえば……ヘルバって鑑定系のアビリティである『スキャン』と、それを人物鑑定の幅まで広げられる『フリーズスキャールヴ』の2つ持ってけど、再鑑定って必要なのかな?」


「分からない……かな。両方とも色々教えてくれるけど、その振り幅がどこまで影響するのかはフリーズスキャールヴさんの匙加減が影響するから……」


「フリーズスキャールヴさんって……担当者さんの名前だったの!?」


「ううん。単に名前が無いと訊いたりするのに不便で、それで呼んでもいいって許可を貰ったの」


「そうなんだ……それで、ヘルバとしては何か分かると思う?」


「分かると思う。それ自体は持っていないけど、他の視点から覗いてみると……何か分かるかもね。目に見える物だけが真実とは限らないって、そんな話を聞いたことがあるからさ」


 ここにいる人達は俺よりこの世界に詳しく、また専門的な知識を保有する人達である。そんな人達が調べれば、何か分からない情報を突き止める事も可能だろう。


「お! やっておるな!」


 すると、ここには似つかわしくないイメージがあるランデル侯爵が室内に入って来る。すると、近くにいた職員が慌ててマスクを手渡し、ランデル侯爵はそこでマスクを付けてからこちらへとやって来た。


「うーーむ……息苦しくて溜まらないな。というか……何で2人はマスクしていないんだ?」


「ヘルバが『ヴァ―ラス・キャールヴ』でマスクを付けている以上の感染予防のある空間を作ってくれているから問題無いの」


「じゃあ……儂も」


「そのままの方がいいよ。あくまで私の周囲だし侯爵様はここの様子を見に来たって言うなら、私達と離れる可能性もあるだろうし……」


「いいや? こんなのはここにいる優秀な職員に任せるべきだ! 儂は考えるのは苦手だからな!!」


 『ガハハー!!』と大きく笑うランデル侯爵。口にはしないが、この人の性格上考えるよりも行動するタイプだろうとは、俺も思っている。


「それよりも……侯爵様は何か変な気分だな。ランデルでいいからな?」


「じゃあ……ランデル様でいい?」


「うむ。それでいい。儂をそのように呼べる間柄となれば、他の貴族共からちのょっかいも少しは減るだろう。お前さんには王家とこの儂が付き……それにカルティア子爵とアラルド子爵も名前を貸してくれるそうだ。あの2人の領地内なら、そっちの名前を出した方が便利な時もあるだろうな」


「子爵? 確か……」


「あの2人は陛下の意向もあってな……陞爵してもらったのだ。あの1件で色々面倒を掛けたからな……それの詫びという意味もある」


「なるほど」


 派閥問題で何かしらの被害を受けた2つの男爵家。それに対して王家として何かしらの恩情を示さないといけないという事情もあったりするのだろう。それと聞いた話ではいくつかの貴族が取り潰しを受けたという話もあったはず……そのバランスを調整するという意味もあったりするのかもしれないな。


「で、ここに来た理由は?」


「ああ! そうだったな……用件だが2つあってな。1つは王女様からの連絡でな……お茶会の誘いだ。『あの子達に呼ばれたら一緒に来て欲しい』だそうだ」


「お茶会……ここ最近よく誘われているような……」


「まあ、お前さんは人気者だからな。退屈しのぎには丁度いいのだろう」


「……魔王かもしれない危険人物なのに、そんな対応でいいの?」


「これまでのお前さんの功績を思い出してみろ……信用するに値する人物という位には分かるぞ。それと、もう1つの用件だが……建国祭にくる貴賓の方がお前さんに会いたいという話でな……」


 そう言って、言い淀むランデル侯爵。先ほどの貴賓という言葉からして、他国のお偉いさんが俺に会いたいという事なのだろう。


「その相手って誰?」


「レッシュ帝国……皇帝シュマーレン・リア・ランゼフ……」


「……マジで?」


「ああマジだ。いつもは本人ではなく使者や宰相などが来るのだが……今回は夫妻とその子供達を連れてやって来るそうだ。その際にお前さんと接見したいそうだ」


「マジなんだ……もしかしてインスーラ侯爵家の件かな?」


「それもあるだろうが……引き抜きの可能性もあるな。お前さんは他国の要人からも注目されているからな……お前さんを帝国に連れて行きたいのかもしれない」


「ああ……なるほど」


 国内の貴族が俺を狙っている話は聞いている。しかし、それが既に国外にまで及んでいるとは……人の噂が広まる早さに、思わず感心してしまう。


「誰か同席はしてくれるの?」


「もちろん、アレスター王も同席する。いざとなれば、国家間の交渉になってくるからな……まあ、お前さんが国に仕えていないから、無理に引き止める事は出来ないのだが……」


「安心していいよ。この国でしっかりと生活基盤を整えようとしている最中なのに、ここで見ず知らず人に付いていくつもりは無いもの。まあ……一時避難はあるかもしれないけど」


 俺を狙う連中がこれ以上増えるようなら、他国に出て仕事しつつ避難するのもありだろう。


「そうはならないように努めよう。という事で、よろしく頼んだぞ! さてと……」


 それだけを伝えて、ランデル侯爵は近くにいた職員の1人に声を掛けて、何やら話し合いを始める。職員が手に持っているバインダーを見せながら真剣に説明をしており、対するランデル侯爵も先ほどとは違って真面目な顔をしており、『苦手』とか『任せる』と言っていたが、それで誰かに全て丸投げするような事はしないようだ。


「やっぱり……」


「ふふ……」


 俺達の傍から離れて、部屋内を移動するランデル侯爵。やっぱりマスクを付けっぱなしで良かったじゃないかと思ってしまう。


「ヘルバさん……今、よろしいですか?」


 先ほどとは別の職員が俺に話を訊きたいという事で、俺はその対処をする。ドルチェはどうするのかなと思っていたら『私も聞いてていい?』と言われたので、それならという事で一緒に話を聞いてもらう。


 そんなやり取りをしつつ、『スキャン』を使って調べつつ……って事をやっていると、いつものように王子様達からお呼ばれしたので、この場を職員達に任せて今回のお茶会の場であるお城の中の1室へと王子様達の後に付いて向かう。部屋の中に入ると、そこには王女であるマルガリータ様とお世話するメイド達がいた。


「2人とも良く出来ました。さあ、さっそくお茶会を始めましょう」


 という事で、今度はお茶会が始まる。ランデル侯爵は暇つぶし……と言っていたが、どうも違う気がする。ドルチェが王子様達と楽しく会話している所で、俺はマルガリータ様にこのお茶会の目的に付いて話を訊く。


「皇帝のご家族と話されるのにマナーがなっていないのは失礼でしょ?」


「知ってたんですね。しかも……結構前からですよねこれ?」


「ええ。レッシュ帝国もあの件で色々あったらしくてね……その件であなたに話があるみたい……かしら」


「そこは不明なんですね……」


「そうなのよね……それに、ご家族全員で向かわれるとういうのも少し違和感があるのよね。あちらの子供も私達の子供ぐらいの歳でね……婚姻関係とかを結ぶにも少し早いのよ」


「もしかしたら、今回の接見は薬師としての私に依頼かも……ってことですね」


「その通りよ。本当に人気者ね」


 そう話して、お茶を飲むマルガリータ様。飲み干したのか、お替りを淹れようとするメイドがカップをマルガリータ様から受け取ろうとするのだが、マルガリータ様はそれを拒否。さらにお菓子もチョコレートを含んだお菓子を避けていた。


「……もしかして、ご家族増えます?」


「ええ! よく分かったわね?」


「『紅茶の飲みすぎ』や『チョコレートの食べ過ぎ』は妊娠中は控えないといけませんから」


「詳しいのね……まあ、あんな薬を作るくらいだから詳しくて当然なのかしら?」


「それとこれは別ですよ……で、王様はどんな性癖をお持ちで?」


「ふふ……あの人、動物が好きなのよ」


 それだけ言って黙ってしまうマルガリータ様。なるほど……ケモナーですか。どれだけの獣化具合で激しくやり合ったのかは……夫婦の秘密といく事で聞かないでおこう。


 その後、別の話題で俺がマルガリータ様と話ばっかりしていたら、王子様達が自分達も構って欲しいと拗ねてきたので、ドルチェと交代して今度は俺が一緒に遊んであげるのであった。


「ヘルバはいい子だね……」


「そうね……ドルチェ、うちの息子のお嫁さんにしてもいいかしら?」


「人が王子様達の対応している時に何話してるんですか!?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ