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145草

前回のあらすじ「一酸化炭素中毒は書いている内容以外にも、酷い後遺症があるのでご注意ください」

―襲撃から翌日の夜中「王都ボーデン・お城の近くにある建物の一室」―


「ただいま……」


「おかえり! 何か色々あったみたいだけど……大丈夫?」


「うん。何とか……ふぁあ~……」


 無事に王都まで帰って来た俺は思わず大きな欠伸をしてしまう。あの後、アマレッテイが交代で見張ってくれたので多少は眠れたが、襲撃してきた男達の引き渡し、移動中の警戒などで仮眠を取ることが出来なかったのでかなり眠い。


「とりあえず、原因となるモンスターは回収したし、あっちの町の感染者も減少した事だし……とりあえず、解決かな。後で原因となったモンスターの詳しい調査をして欲しいんだけど……どこに持っていけばいいかな?」


「それなら魔法研究所だね。私が話をしておくよ……それと、襲われたって訊いたけど」


「うん。何回かあって……昨日は私が対処したんだけど」


「あの4人に任せなかったの!? それとも盛られた?」


「両方。盛られているのを知ってたから、今日の移動のためにぐっすり眠ってもらって、代わりに乗ってるだけの私が実験も兼ねて捕えたの……ただ、取り逃がしたかもしれないんだけど……」


 昨日の男達は『睡眠効果を高める薬』を使用して、俺達が眠った所を襲う予定だった。しかし、それに対して対処できる俺がいた事で、この作戦は失敗に終わった。と、そこまでは良かったのだが、クロッカが引っ掛かった人を泥酔させる入浴剤に関しては関わっていないと判明した。


「それは危なかったわね。そもそも1人で対処するなんて褒められたものじゃないわ」


「そうだね……ただ、どうしても1回だけ私が直接捕まえたかったの。きっと……ふふふ」


「……何を仕掛けたの?」


「秘密。それに……何も起きない可能性もあるしね」


 今回の襲撃で結構な刺客が捕えられた。使い捨てとはいえ手駒をそんなにも捕らえられてしまっては、堪ったものでは無いだろう。


「とりあえず、明日はモカレートの所に行ってお手伝いを……いや、ここは休息を取りたいかも……」


「モカレートは他の人に頼むから……ヘルバは休息がてら、ダンスレッスンにいってらっしゃい。講師の方がやきもきしていたわ」


「休めてないじゃん……」


「しょうがないでしょ? あなたの活躍のおかげで無事に建国祭が日程通りに開かれる事になったの。ほんの僅かな時間さえも今は惜しいのよ」


「その後に、魔法研究所の方へと顔を出そうか……ヘルバがダンスレッスンをしている間には話が付くと思うし……」


「はあ……」


 どうやら明日も忙しく動き回る事になりそうだ。まあ……休暇を取ったとしても、薬の作製とか本を読んだりするぐらいしか無いのだが……。


「(この方が気が楽かも……)」


「ん? 何か言ったかしら?」


「ううん。何でもない」


 今日は移動だけで疲れた。さっさと、お風呂に入って寝てしまおう……。俺は2人に一度断ってから、部屋の浴室へと向かうのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―翌朝「王都ボーデン・王城 とある一室」ココリス視点―


「さて……報告を聞こうかしら?」


 ヘルバが帰って来た翌日、『フォービスケッツ』の4人からあちらでの活動報告を直に訊くことにした。今日のヘルバはダンスレッスンや今回の疫病の原因となったモンスターの受け渡しと調査で忙しいため、この件がヘルバの耳に入る事は無いだろう。


「ヘルバさんを狙った連中ですが……王都のごろつきや冒険者崩れでした。狙った理由も至極簡単な物で金だそうです」


「事前に小金を与えて、その上で依頼が達成したら追加で大金を支払う予定だったみたいだしな」


「そう」


「ただ……襲って来た奴らが指示されたヘルバさんへの対処方法や聖女であるミラ様の対応がバラバラだったのが気になります」


「まさか、ミラ様を殺害しようとしていた輩がいたのは驚いたわよね……」


 クロッカのその話は事前に報告を受けたていた。ヘルバの事を快く思わない連中が貴族連中の中に大勢いるのは分かってもいる。そして、そのヘルバの持つ力を脅威と思って始末したい者、それを使って多額の富を得ようとする者、そして、インスーラ侯爵家の企みに加担していた者達の逆恨み……大きくその3つに分かれているのも……。


 しかし、聖女ミラ様は違う。国内貴族であれば、その行為がどれだけ愚かで、自身の首を絞めるのか分かっているはずだ。それだけこの国でのリアンセル教の力は大きい。


「実行しようとした者達は、いずれもミラ様のお顔をご存知じゃなかったそうです。依頼したのはインスーラ侯爵家の関係者でしょうか? それともボルトロス神聖国?」


「『どちらとも』と言えるでしょうね……一度、ミラ様はボルトロス神聖国の連中の手で酷い目にあっている。アイツらにとって自国の教えを広げる障害となる聖女は排除したい。そして……2度と表舞台に出られない姿にしたはずの彼女達を元の姿に戻し、アスラ様を若返らせた事でさらなる求心力を持たせる原因を作ったヘルバは恨む標的でしょうし……」


 ヘルバの功績は、様々な人達の口コミで広まっている。そして、建国祭も差し迫った今ではそれなりの人々がヘルバを噂の人物として知っているはずだ。


「冒険者の間で、ヘルバは既に時の人。さらに……巨乳の少女は目立つ」


「まあ……草の姿の時も目立ってましたけどね」


 そして、その容姿が特徴的過ぎるのも襲われる原因となっている。ヘルバが前に話してくれた前世の世界と比べ情報が広まりにくいこの世界で、その特徴的過ぎる姿は個人の特定がされやすい。聖女であるミラ様が衣服を着替えるだけで他の似た人物に扮する事が出来るのに対して、ヘルバの姿は……あの年齢的には大きすぎるあの巨乳を潰さないと、すぐにバレてしまうだろう。


「連中がどうしてヘルバを襲ってきたのかを、ヘルバ自身も知ってるわよね?」


「もちろん。ヘルバも知っていた方が自衛しやすいでしょうし……余裕があれば罠を張ったり、作った新薬の実験にも使えるでしょうから」


「旦那も色々、自分なりに動いているみたいだしな……一昨日の襲撃なんて、うちらに薬入りの菓子を食わせて、自分で対処してたしな……」


「アレは危険ですから、しっかりと注意しましたけど……」


「……おかしい」


 ガレットがボソッとそんな言葉を口にする。3人の話を聴いて何かしらの違和感を感じたのだろう。私も、その話を昨日聞いて少しばかり違和感があった。


「ヘルバが罠を仕掛ける時、どんな罠かをもったいぶって教えてくれなかったりするけど、それでも何かしらやるというのは教えてくれた。だけど……今回はそれが無かった。たまたま、私とその薬が合わなかったから、私が窓から外を覗いていつでも援護できるようにしてたからいいけど……自分をこんな危険に晒すような行為はしないはず」


「そうか? ヘルバの旦那って前にもやってたはず……ほら、最近だとガルシアでボルトロス神聖国の奴らを捕まえた時とか……」


「あの時は、いざとなれば人の多い大通りに出て、すぐにでも助けを呼べる状況だった。けど、今回は寝静まった市街地……夜の闇のせいで発見も遅れるし、仮に大声で助けを呼んでもすぐに起きてくれるとは限らない……ヘルバもその危険を知っていたはず」


「確かに……」


 ヘルバは肉体を得てから、自身をおとりにする方法をこの短期間で2度も取っている。ウィードの頃は身動きが取れないから、そのような方法は取れなかったという理由もあるが……それにしても今回のおとりはかなり危険である。


 また、敵を罠に嵌める方法も緊急時とかでなければ誰かしらに伝えている。それを今回は敢えて誰にも伝えずにやっている。そして……ヘルバは意味もなくそんな事をやらない事も重々承知である。

 

「……とりあえず。4人にはこのままヘルバとモカレートの護衛を頼むわ。これは王家からの正式な依頼よ」


「了解しました。特にヘルバさんの方に重点を置いて見張りますね」


 『それでいいわ』と言って、この話は終わりにする。今回の件で、ヘルバの身がかなり危険だと分かった。そして、それに対してヘルバも自衛策を取っており、それが私達に教えられない内容だとも分かった。それなら……とりあえずは静かに見守っておくのが一番かもしれない。


「そうだ……クロッカ? 確か、あなたは入浴剤で泥酔状態になったと聞いてるんだけど……その事でお話があるから残ってくれないかしら?」


「あ、いや……それなら、お菓子の毒で寝てしまった皆も……」


「それはヘルバが担当してたからしょうがないわ。けど……その入浴剤を手に入れた時に違和感を感じ取れなかった事、ヘルバのチェックを受けなかった事……それは別の問題よ? だから……ね?」


 私はなるべく笑顔でそう諭していく。何故かクロッカが震えているのだが……まあ、これは自業自得である。


「頑張れ……」


「じゃあ、私達はこれで!」


 3人がクロッカを置いてそそくさと部屋を後にする。


「裏切者~!!」


 クロッカは皆が出て行った扉を見ながらそう叫ぶ。そして、2人だけになったところで私は彼女の肩を背後から叩く。『ひぃ!』と小さな悲鳴を上げながら、恐る恐るこちらを振り向くクロッカ。その小動物のように震える姿は男達からしたらとてもそそられる物があるだろうが……私は女なのでその手は通用しない。


「さあ……始めましょうか?」


「……はい」


 私は優しいと思う。グチグチとお説教を垂れ流すのではなく、簡潔に短時間で終わらせてあげるのだから……。

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