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144草

前回のあらすじ:ウィード「どうして、こんな話を書いたんだ作者?」

          作者「2月29日の前後だったから」

―深夜「湖に隣接する町レクト・商業ギルド 作業室(仮)」―


(……さてと)


 俺は1人ベットから起き上がり、部屋の状況を確認する。そこには予想通りの状況となっており、見張り役のビスコッティが椅子に座ったままうたた寝をしていた。俺は髪を使って、ビスコッティを俺が使っていたベットに運び、布団を掛ける。まだ太った体であり、首が折れるかもしれないと思ったが……髪の一部を土台にして、その上を滑るように運ぶ事で何とか上手くいった。


「……スキャン」


 スキャンを発動させて、俺はこっそり窓から外を覗く。モノクル型の魔法陣を操作して、必要なある情報を選択……すると、それが表示されていた。


「ふーーん……」


 俺はその結果に満足しつつ、上に服を羽織ってギルドの外へと向かう。先ほど表示された情報を頼りにある路地へと近付くと、誰かの話声が聞こえる。俺はその路地の前で息を潜めて、そいつらの話を聴く。


「そろそろ効いて来ただろうな」


「へっへへ……まさか、お礼の品々に俺達が遅延性のある睡眠薬を仕込んだなんて気付いていないだろうな」


「睡眠薬じゃない……あくまで睡眠効果を高める薬だ。睡眠耐性のある奴にも効くし、調べられても害の無いもの扱い……全く便利な物だな」


 『あはは……!』と周囲にバレない様に小さく笑う男3人。その間にも、俺達のお茶会で飲み食いした物にイケないお薬を仕込んだ奴のポケットからその薬が入っているという情報がモノクル型魔法陣に表示される。


(睡眠薬……じゃなくて睡眠効果を高める薬……いわゆるグレーゾーンのお薬か)


 ガルシアでもあった『ステータス画面には状態異常と表示されることが無い状態異常』。今回の場合なら少し深い眠りに入っている程度なので、激しく体を揺らせば起こせたのだろう……が、そこまで深く眠っている皆を起こすのは申し訳ない。しかも、今回のこれは俺のワガママも含まれているのだ。ここはしっかりと自分でケジメを付けなければ……。


「さてと……」


 3人の男達はそれぞれ自分の武器を取り出し、口元にはバンダナのような物を巻き付ける。そして……いよいよ皆が寝ている部屋へと侵入しようとするそのタイミングで。そこで俺は路地を塞ぐようにして男達の前に現れる。


「なっ!? お前は……」


「どうもオジサン達……こんな夜に何をしてるの?」


「おい!? どうして眠って……」


「馬鹿野郎! お嬢ちゃん……俺達はただここで……」


「私達が眠ってる間に何をしようとしたのかな……?」


 見た目が年端もいかない俺に対して、言い訳で何とかやり過ごそうとする男達。それで油断を誘うつもりだろうが……そんなやり取りをしているつもりは無い。


「……ターゲットはこいつだな」


「それと聖女もだ。後は殺してずらかる……」


「物騒だねオジサン達……そんなんじゃモテないよ? ふふっ……!」


 男達に悪態を吐きつつ、俺もアイテムボックスから武器である杖を取り出して構える。まあ、そんな事をする必要も無いのだが……。


「いくぞ……」


 1人の男の掛け声と共に、男3人が俺に襲い掛かろうとするのだが、その足がカクンと力が抜けてその場で地面に膝を付き、その後、手で頭を押さえ始めその痛みを堪えようとする。先ほどからばら撒いていた物が効いたようだ。


「毒? 馬鹿な……そんな訳が……」


「どうせ私用に状態異常の対策をしてるんでしょ? だ・か・ら……オジサン達が使ったイケないお薬みたいに、それに引っ掛からない薬を使っただけだよ? って……薬では無いか」


 自分で言った事を自分で否定する。倒れた男達からしたら、その行為は酷く舐められた態度であり、しかも少女がそれをやっているのだ。そのせいで男達の顔は非情に憤怒しているが……頭痛が起きている今の状態でその顔は、頭痛を余計に悪化させる原因となってしまうだろう。


「言っておくけど……オジサン達はもう逃げられないよ? ふふふ……」


 俺は甘ったるい美声で、動けないでいる男達に語り掛け続ける。その間に、こいつら以外にも潜んでいる仲間がいないか確認するが……それらしいのは見当たらない。とりあえず、俺はこのまま演技を続ける。


「皆がいると危険だから……こうやって私だけの状態を作ったんだけど正解だったかな。うっかり死んじゃうかもしれないし……」


「な、何を言って……」


「あのお菓子やお茶に薬が盛られていた事は知ってたよ? でね……私、ちょうど人体実験をしたかったんだ」


 俺はそう言って、漫画とかで見かける『にちゃ~』としたあの笑顔を頑張って作る。出来ればハイライトの無い目にもなれれば良かったのだが……それは諦めるとしよう。それが出来るのはある意味才能である。 

 

「じ、実験……」


「うん。私って自分のアビリティがどこまで出来るのかな……って思っててさ。それで、試したかった事があったんだよね。それが今のこれなんだけど……良かった上手くいって。これって、今のこの世界なら痕跡を残すことなく……対象を死に至らしめる事が可能なんだよね」


 ニコニコと笑顔で淡々と話す俺。どんどん悪化する症状に苦しむ男達の表情から怯える表情が伺える。


「だから……安心して。あなた達の死はチョットした不自然死として扱われるだけ。ふふふ……だから最後にさ……これの濃度を上げたらどうなるのか調べさせてね?」


 俺がそう言った途端、男達は手を伸ばして救いを求めようとするが……俺はそれを見下ろすようにして、最後にこの場で言われたらもっとも怖い一言を告げる。


「死ね」


 そして、俺は一気にばら撒いていた物の濃度を一気に上げて男達を気絶させる。きっと、男達は素晴らしい悪夢を見る事になるだろう。


「……ふう」


 俺は他に誰かいないかを再度確認する。『スキャン』を使用したまま辺りを見渡すが、表示内容が大きく移動するとかが起きていないので、少なくともこの近くには男共の仲間はいないようである。


 ちなみに、こいつらに使った物……それは炭素を含んだ物の不完全燃焼によって起きる一酸化炭素である。これを吸ってしまうと頭痛や手足の痙攣が起こり、吐き気、息切れと続き、そして最終的には意識を失って死に至る物であり、濃度が高ければ数分で死に至らしめる事が出来る。その数分間でこれらの症状が襲い掛かるのだから、チョットした生き地獄を味わう事になるのだろう。


 俺はそれを『火魔法』と木炭を使って意図的に発生させて、ヴァ―ラスキャールヴを使って瓶の中に入れて『収納』の中に入れておいた。これは精製した気体を『収納』で保管できるのか調べるのと、ヴァ―ラスキャールヴで自分の周りに一酸化炭素中毒を引き起こす空間を作れるのか調べるという目的で用意しておいたのだが……それをモンスターではなく、人で試すとは俺も大概鬼畜野郎である。


「まあ……一酸化炭素は毒だから後遺症が残るかもしれないけど……自業自得だよね?」


 この世界では、野盗に襲われた場合、相手をその場で切り捨てても誰も文句は言わないのだ。だから……今回のこれも十分な正当防衛であり、五体満足でいられるのだから、むしろ優しい対処だと思って欲しいぐらいである。そう自分に言い聞かせつつ、俺は自分のアビリティで作った種から発芽させた蔦で男達を縛り上げておく。まだ暑い時期ではあるが……外に放置しておいても問題無いだろう。


「さてと……私も寝よう……」


 俺は眠い目を擦り、寝泊まりしている部屋へと戻ろうとする。この男達が何者なのかは明日にでも聞けばいい……今はただ、ゆっくり寝たい。そう思いつつ、俺が部屋に戻ると何とガレットが起きていた。


「終わった?」


「うん……って、眠れなかった?」


「盛られた毒……私に合ってないみたい」


 ふくよかな体のまま、椅子に座り静かに外を眺めているガレット。皆の言う不眠症……大分、酷いもののようだ。睡眠効果を高める薬のはずが眠れなくなるとは……なんとも皮肉である。


「何か飲む? 用意するけど」


「……寝ないの?」


「誰か見張っていないといけないでしょ?」


 俺はそう言って、ガレットの近くにあった椅子に座り『収納』から薬草とアビリティで作ったお湯を使ってお茶を淹れる。


「いつもと違う?」


「うん。ハーブティーであいつらが使った薬のように眠りを誘う薬草茶なんだけど……これは香りによるリラックス効果もあるからオススメ。下手な薬よりこっちの方が効くかも」


「ふーーーん……」


 俺が淹れたお茶を静かに飲むガレット。それだけではつまらないので、互いに本を用意して静かに読書を始める。夏から秋へと移り行くこの時期、夜の程良い温度と湖が近くにあることによる独特な湿度……そんな雰囲気を肌で感じつつ、アマレッテイが起きるまで2人で静かな夜を過ごすのであった。

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