143草
前回のあらすじ「深夜のお菓子は禁断です」
ーそれから2時間「湖に隣接する町レクト・商業ギルド 作業室(仮)」―
「ご馳走さまでした」
静かに手を合わせるミラ様。お茶会が始まって2時間……すでにお菓子は無くなっており、紅茶を飲みながらお喋りに華を咲かせていたが、そろそろ夜も更けてきたのでお開きとなった。後はこれらの食器を片付けて寝るだけである。
「よっと……」
俺は『水魔法』と『ヴァ―ラスキャールヴ』の併用技で使用した食器の洗浄を行う。『水魔法』だけでも可能なのだが、この後の『風魔法』による乾燥作業をスムーズに出来るので、この方法の方が便利だったりする。
「何かすいません……片付けを任せてしまって……」
「気にしないで……何となく気にしちゃうだけだから……」
「いいお嫁になる」
「元男としてはありがたくないな。誰かのお嫁さんになる気が無いし……私としたら働いて稼げるだけ稼いでから、そこそこ贅沢な隠居生活かな……」
ガレットにいい嫁と言われ、それを否定する俺。男性と付き合う気などさらさら無い。今の俺の夢は贅沢な隠居生活。今の俺の稼ぎ具合なら全くの不可能という訳では無い。そして、そんな話をしていると食器の乾燥まで終わったので、それを『収納』に仕舞っておく。ここの商業ギルドから借りた物なので、明日の朝に返すつもりである。
「贅沢三昧……そして太ればいい……」
「そんな呪言を言わないでよ……それより何か酔ってない?」
先ほどの不適切な発言に、クロッカが俺にいちゃもんを付けてくる。何か目が『とろ~ん』とした感じであり、どこか酔っぱらている雰囲気である。
「お菓子に酒の含んだ物なんてあったっけ?」
「いや……無かったと思いますよ? それにクロッカは酒に弱く無いはずです」
クロッカの様子に、どうしてこうなったのか分からずにその原因を皆で考える。
「ヘルバの旦那の『フリーズスキャールヴ』で調べれば……」
「今日、3回使ったから明日まで使えないよ……あ、でも……」
俺は『スキャン』で辺りを調べる。『フリーズスキャールヴ』を使わないと生きている人物の精密鑑定は行えないが、物質ならこれで充分であり、お酒による酔いなら、これで簡単に調べられるはずである。
「あ~……なるほど。でも、どうなんだろう?」
「何か分かった?」
「皆、ここに集まる前に寝る準備を整えてたと思うんだけど……クロッカは個室のお風呂である入浴剤を使ってたみたい」
「それが……お酒を含んでいたと?」
「うん。けど、普通の酒風呂ってバスタブに2杯ぐらいのお酒を入れるぐらいだけどな……」
クロッカの衣服を調べると、若干のアルコールらしき物が検出された。それを調べると『入浴剤の一部が付着した』となっている。前世でも、健康のために日本酒を入れて酒風呂を楽しむ人がいるのは聞いたことがあり、血行の促進にもなって実際に効果のある健康法らしいが……そんな酔うほどのお酒を入れるとは聞いたことが無い。
「そうだ……」
ニマニマとした笑顔で俺を見るクロッカ。何を思いついたのだろうか……。
「ヘルバも太ればいいんだ……♪」
「ああ……なるほど」
夜のにゃんにゃんに大変好評な肥満薬を作っており『収納』にも売るための在庫がある。それを飲んで、少しは同じ気持ちを味わえと言いたのだろう……が、この世界に慣れてきている以上、ただ太った位じゃ動じる事の無い精神力は手に入れている。だから、ここは丸く収めるために、飲んでも構わないのだが……。
「あ、じゃあ私も欲しい」
「うちも」
すると、そこにガレットとアマレッティが肥満薬が欲しいとお願いしてくる。さらにビスコッティも静かに手を挙げて、アピールをしている。
「明日、移動するとしたら、しっかりと眠りたいからね」
アマレッテイの意見に頷くガレットとビスコッティ。そんな中で、ミラ様が話題から取り残されてしまって、何の話をしているのか理解しておらずおずおずとしている。
「あの~……どうして肥満薬が寝るのに必要なんですか?」
「全身に適度な脂肪が付くことで体がポカポカ。全身にクッションが付いたみたいでぐっすり眠れる」
「それでも……睡眠薬でいいのでは?」
そのミラ様の発言に、ガレットは衝撃を受けその場に両膝を付いてしまった。
「え、え? そこまで……?」
「睡眠薬は脳に作用するのであまり使い過ぎると、薬を飲み続けないと睡眠すら出来くなる悪影響があるの。肥満薬は……何か知らないけどアフロディーテ様のご好意で全く悪影響を残さない特別仕様となってるんだよね……」
本当は『子作りに励んでね♪』とちゃんとした理由があるのだが……信心深いミラ様のイメージが幻滅しないように黙って……。
「それは……夜の営みのためですね。となると、どうして眠れるのかな……」
「知ってたのかー……」
「はい。幼い頃から神託でアフロディーテ様から、そのような話というか神託が……」
「……幼い頃っていくつ?」
「えーと……9歳ですね」
『アウトー!!』と心の中で思いっきり叫ぶ。何、純粋無垢な少女にイケない事を教えてるんだあの駄目神は!! もう少し……せめて女性の初めてが来るまでは待てよ!!
「でも……そうなると気になりますね。試してみてもいいですか?」
「……」
これでクロッカ以外の皆が『肥満薬』を欲しいという流れになる。せめて、ミラ様はと思ったが……その眩しい眼差しで見つめられては、強く否定できない。それに……この後の事も考えるとさっさと休んで欲しい。
「はい……」
寝る時に服用するのに星2の『肥満薬』を手渡す。クロッカ以外の俺も含めた皆がそれを飲んで、ぽっちゃり……人によっては肥満体といえる体型になっていく。
「ううん……!」
喘ぎ声を口から漏らしながら太っていくミラ様。メリハリのある体型が崩れていき、お腹が徐々に膨らんでいくと、体はさらに大きくなろうとして、今度は横に広がっていく。それを支えようとする下半身も無駄な贅肉が付いていき、お尻は桃のように、太ももはもちもちとした物に変わった。
「なるほど……恥ずかしいですけど、これはこれで……」
変化が終わったミラ様が自分の前に突き出たお腹を揉み始める。ただ、その動作は非情にやりにくそうであり、衣服がぴっちりと体に張り付ているというのもあるが、自分の大きくなった巨乳ともちもちとした太い二の腕のせいでその動きが阻害されているし、顔も少しばかり膨らんだことで、下が見にくくなっている。
「この体型……包容力があって、この姿を好む男性もいそうですね」
「そうですね。ヘルバの話だと、娼館では獣化薬と同程度売れているんですよね?」
「うん。『スレンダーもいいけどチョットだけ肉付きのいい方が……』だって。それだからそこそこ脂肪の付く星1と2の物が特に売れてるって」
ちなみに星4や5のBBWと言われるような体型になってしまうような薬もそれなりに売れているらしく、噂を聞きつけた他国の人達がわざわざ通う店もあるらしい……と聞いており、獣化薬との売り上げも合わせれば、2年間ぐらいは豪遊生活が出来るほどだったりする。
「ひゃ!?」
すると、いきなりミラ様が悲鳴を上げる。その理由として、ガレットとクロッカの2人がお腹をムニュムニュとこねくり回してるからだろう。
「ふふ……なかなかいい張りでいいわね……」
「酔っぱらっているクロッカに同意するのもアレだけど……分かる」
「ちょ、ちょっと……」
ミラ様もどうにかしようとして2人を押し返そうとするので、その手が2人の様々な場所に当たり、その形を変えていく。胸は当然だがお腹もその手が沈み込んだり、太ももとかも脂肪が震えたりしている。ちなみに何度も言うが……2人ともである。
「クロッカ……肥満薬飲んだ?」
「いや……アレは少し太ったんだなきっと……」
「ですね……」
俺の質問に冷静に答えるビスコッティとアマレッテイ。そう言えば、結構食べるなとは思っていたが……そのたびに食事量を減らしたり、運動を増やしたりしてあの体型を維持してるんだろうな……いや、さっきの言動からして理想の体型より肉付きのいい体までしか絞れていないのか。
「ひゃ……や、やめ……」
口から涎を垂らし、頬を赤くするミラ様。銀髪美女のその顔……ご馳走様です! 少し肉付きがいいけど……これはこれで……。
「スリープ・パフューム」
俺の何かが雄たけびを上げるの防ぐために『スリープ・パフューム』を使って強制的に3人を眠らせる。
「これ以上は……ダメ」
「ですね……で、どうやってベットに寝かせますかね?」
「床に布団を引きゃいいんじゃないか? ここにいるうちらじゃアレは持ち上がらないよ」
肥満薬で太った2人とそもそも体重が少し重い1人……これを薬で太った俺達3人で運ぶのは重労働である。
「そうしたら……さっさと持って来て寝ましょうか」
「そうだね……っと」
俺は自身の持つアビリティ効果で肥満薬の効果を無効化して、元の体型に戻る。
「ヘルバの旦那は『収納』を使って布団を持って来てくれ、転がすのはうちらがやるよ」
「はーーい」
俺は部屋を出て、他の部屋から布団を『収納』で回収、そしてそれを自室で出して床の布団を敷いていく。その後、ビスコッティとアマレッテイの2人が3人を転がして布団に運んだあと、最初の見張りであるビスコッティにお休みの挨拶をして、俺は眠りに就くのであった。




