13草
前回のあらすじ「雑魚戦は省略が基本」
―休憩後からさらに数時間後「アルヒの洞窟・ボス部屋前」―
「後、少しだね」
特に特出することが無いまま。ボス部屋前まで着いてしまった。後はここの角を曲がるだけ……うん?
(誰かいるぞ?)
数人が扉の前にいる。何だろう?特に争っているとか問題が起きたとかの雰囲気は無く、ただ和やかに談笑している。
「うん?……おう!お前達か!!」
そこから一人。気軽に話しかける軽鎧を着て、大剣をしょった中年男性。見知った人らしく二人も警戒せずに話始める。
「お前らも腕試しか?」
「そうよ。武器を新しくしたからその調整のためよ」
「そうかそうか!俺達も長期のクエストをこなして、ちょっとした長期の休みを取った後でな。ここで体を慣らしていたんだ!」
ガハハハッ!と話す中年男性。すると、扉の近くにいた男性が中年男性へと声を掛けて、それを聞いた中年男性は大きな鉄扉の中へと仲間達と一緒に入っていった。
(知り合いか?)
「うん。よくギルドで会うパーティーだよ。Cランクのパーティーで堅実な仕事で有名なんだ」
「親切丁寧で個人的に依頼を頼む人も多くて雰囲気のいい人達だから仲良くしていて損は無いわね」
二人から誉め言葉しか出てこない。それだけにいいパーティーなのだろう。
「あのパーティーならあっという間に終わるでしょうね」
何かそれってフラグな気が……。そうは思ったのだがツッコまずに、今度は俺達がボス部屋の扉前で待つ。
(ボス部屋って順番なんだな)
「ええ。そうよ。終わるとあの扉中央に付いている灯りが赤から青になってロックも解除されるから、それを確認したら中に入るわよ」
(分かった)
……ゲームだな。いや、この世界の住人からしたら普通なのかもしれないが。こんな倒してもすぐに復活するボスのオーガ……過労死する!!と文句を言ってもいいような気がする。まあ、どこに言えば良いのかとか、そもそもそんな考えがオーガ自身にあるのかは不明だが。そんな事を考えていると扉の中央の灯りが青に変わった。ココリスが先頭になって扉を開ける。大きな鉄扉なのだが片手で簡単に開くのに少しばかり違和感を感じる。
ボス部屋に入るとそこにはここまで歩いてきた……じゃなくて見ていた景色と変わらない岩のごつごつとした壁、ただ、戦うには都合がいい広い空間が広がっていた。そしてそこに鎮座し金棒を持つ黒い鬼。
(へえ~……あれがオーガか……)
倍の大きさと聞いていたけど、もっと大きく感じるな……。
「違うわよ!!」
(えっ?)
ココリスの慌てた声に俺は戸惑ってしまった。そしてココリスを見ると、その表情は緊張したものだった。ドルチェも同じようにしっかり杖を構えて相手を見据えている。
(……二人共?あれオーガなんだよな?)
「そうだけど違うわ!……あれは」
金棒を右手に持ちながら立ち上がるオーガじゃないモンスター。その背丈はこの広間の天井に後少しで届くじゃないかという位の大きさだった。
「あれはギガント・オーガ!こんな初心者ダンジョンには現れない危険な奴よ!」
オォオオオオオオオオーーーーーー!!!!!!
雄たけびを上げるギガント・オーガ。その声は広間を強く振動させ、天井から小石が降ってくる。
(ココリス先生!!簡単な解説と対処法をお願いします!!)
「ギガント・オーガは上級ダンジョンのレトゥム神殿に出て来る中層のボスよ。オーガよりさらに大きく、より力強く素早さもあるわ。それと魔法攻撃にも抵抗があって、唯一の弱点は知能がそこまで高くないくらいよ。対処法は、まずアイツの攻撃は防御よりも回避優先。手数より強力な攻撃で一気に仕留めるのが一番よ!」
(分かった!ってことで……ウォーター・ホイール!!)
俺は先制攻撃で大きな水の回転刃を飛ばす。オーガはその手に持つ金棒で回転刃を壊す。
「その調子で頼むわよ!!」
ココリスが俺の攻撃で気を取られているギガント・オーガに猛スピードで急接近する。かなり速く、陸上選手顔負け……いや、それ以上だろう。もしかしたら何かしらのアビリティの恩恵なのかもしれない。そしてそのままの勢いで槍で突き刺す……はずだった。
「やっぱり無理か……」
ココリスは一言だけ感想を述べて、その場からすぐに離れる。その離れた直後にそこへギガント・オーガの拳が落ちてくる。
「ウィンド・カッター!!」
今度はドルチェが大きな風の刃を放つ。その攻撃は振り落とされた腕にぶつかり傷をつける。出血もしてるが……大したダメージにはなっていない。ダメージを喰らったギガント・オーガが先ほどより大きな声を上げる。
「いいわよ!どんどん攻撃を仕掛けていきましょう!」
すると、ギガント・オーガが金棒で横払いの攻撃を仕掛けてこようとする。ここは狭く金棒を振り上げる攻撃は不可能。なら攻撃として金棒を使うにはこれしか無いのだろう。それは経験豊富な二人は分かっていたようで、ドルチェはその攻撃の様子を見てすぐにココリスの所へと近づく、そしてココリスは土魔法を使って即席で穴を掘り、皆でそこに隠れる。
(うぉお!?すげぇ……)
俺達の上を金棒が通り過ぎていく。その圧倒的な質量が凄いスピードで通り抜けるのは肝が冷える……。
「草だから肝って無いわよね?」
ココリスにそう言われてしまったが、俺、口に出てたか?とりあえず、そこは気にしないで欲しい。
グオオ……
声が近くに聞こえたので上を向くと、ギガント・オーガの大きな顔が……チャンス!!
(パラライズ・ショット!!)
俺は麻痺毒をそのギガント・オーガの両目に目掛けて……小さな水弾にして2つ放つ。大きな水弾にしなかったのは理由があり、一つは上に向けて放ったので弾けて毒液が降り注ぐのを防ぐため、もう一つは小さい事で見づらくして、回避されないようにするためである。
グッオオオオーーーー!!!!????
見事直撃したようで、ギガント・オーガはその顔を急いで引っ込めた。その間にドルチェの風魔法を使ってすぐさま穴から脱出。そしてココリスは着地後、槍を持つ手を体の後ろに下げて、その体をほんわりと発光させる。あれって力を溜めているのか?
「大技いくよ!!サイクロン・カッター!!」
目を押さえているギガント・オーガが突如、どこからか現れた竜巻に襲われる。名前からにしてあの内部で風の刃によって切り刻まれているのだろう。風が止むと表面傷だらけのギガント・オーガの姿が。
グオオオオ!!!!
風が止んだのに気付いて、攻撃を仕掛けようとするギガント・オーガ。
(これでも喰らえ!)
俺は特大の水球を作って、それでギガント・オーガの頭を包む。漫画かゲームかは忘れたがどこかで見たこの攻撃……実際にやってみると極悪だなこれ。必死に自分の頭を包む水を必死に剝がそうとして手をバタつかせているよ……あれ。ぜってえ喰らいたくないな……あ、草だから問題なかったりして?
そんな変な事を考えていると、バタつかせた手によって水が弾き飛ばされていき、後少しで剥がされてしまいそうになる。
「いくわよ!!スパイラル・ランス!!」
今まで力を溜めていたココリスが先ほどよりも速いスピードでギガント・オーガに突撃。そして回転を加えた槍で相手の左胸辺りを突貫して、そのまま自身の体が通り抜けてしまうほどの大穴を開ける。
グオ……
ギガント・オーガはそのまま、ゆっくりと前倒しに倒れた……。ギガント・オーガが倒れたことで先ほどの攻撃でギガント・オーガの反対側に行ってしまったココリスの姿が見えるようになる。ココリスは倒れたギガント・オーガの姿を見て、その場で槍を軽く回転させて石突きを地面につける。ドルチェも杖を上に持ち上げて背伸びしている。何かRPGゲームの戦闘後のアレみたいだな……。
(倒したのか?)
「うん。オーガって人に近くて左胸に心臓があるんだ。そこを吹き飛ばされちゃったらね」
「あーー……驚いた!!いきなりギガント・オーガと戦闘になるなんて!」
ココリスが肩をグルグルと回しつつこちらへと戻って来た。
(お疲れ……じゃあ、回収するな)
俺はギガント・オーガの死骸をそのまま収納する。
「本当にあなたがいて良かったわ……これを戦闘後に解体すると考えたら気が滅入りそう……」
「うん。オーガの解体って大変だからね……」
二人がほんわりとした雰囲気でお喋りを始める。これでダンジョン攻略という事なのだろう。俺も先ほどから張りつめていた緊張の糸がほぐれて……ある疑問が浮かんでしまった。
(あれ?前のパーティも誰かが収納みたいなものを持っていたのか?随分、早かったよな?)
「うん……?そうね……もしかしたら、高価なアイテムボックスの魔道具を所有してる可能性もあるわね。まあ、そうゆう所は冒険者としては秘密だけどね」
(ああ。自分の手を晒さないようにしてるのか)
「そうゆうこと……」
ココリスが軽いストレッチをしながら答えてくれる。
(大分、疲れているようなら疲労に効く薬を作るぞ?まあ、強すぎると薬に依存しかねないから、かなり軽い物を作るけど)
「ええ。お願い」
後で塗り薬みたいな物を用意してやるか。
「それじゃあ……帰ろうか。きっとギルドへの報告で遅くなっちゃうだろうし」
ドルチェの意見に反対する理由も無いので、いつの間にか現れた帰りの魔法陣に乗ろうとする。
(……なあ。次の奴は大丈夫なのか?)
恐らく俺達が終わるのを待っている奴らがあの扉の向こう側にいるよな?また、あんなのが現れたらヤバイ気が……。
「大丈夫よ。冒険者なら必ずダンジョン脱出用の魔道具を用意してるから」
(あ、そうですか……)
突発的なバトルは逃げれないのがお決まりなのだが、ここでは逃げれるらしい。なんて新設設計なのだろう。
そんなこんなで少しイレギュラーはあったが、俺は無事に初ダンジョン制覇をするのだった。




