表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
139/230

138草

前回のあらすじ「湖周辺視察」

―ヘルバ達が湖の調査をした次の日「王都ボーデン・王城 とある一室」ドルチェ視点―


「ヘルバ……上手くいってるかな?」


「まあ、大丈夫でしょ? 護衛も付いているし、何より本人が戦えるしね」


 ココリスはそう言って、ヘルバにちょっかいを出していた人物達が載ったリストをテーブルの上に置き、目頭を押さえながら休憩を始めた。朝から作業を始めて、すでに今はお昼時……そろそろ疲れも出るし、お腹も空いた頃である。


「それにしても……結構な人数になったね」


「有能な人材だもの。王政反対派じゃなくても、喉から手が出るほど欲しいでしょうね」


 インフルエンザという病の元で大勢の患者が出ている王都。それを一早く察知して、具体的な対策案を提示したヘルバに対して、派閥関係なく欲しがる者が現れた。


「未知の病気に関する知識を持つヘルバを独り占めして、自身の安全を確実にする……全く呆れたわ」


「それ以外にも、この混乱に乗じてヘルバを罠に嵌めようとしていたり、金儲けに利用しようとしたり……大人気だね」


「本人は嬉しくないでしょうけどね……でも、巨乳の幼い女の子なら言う事を聞いたのかしら?」


「無理じゃないかな……ヘルバってそこはしっかりしてるし。ハニートラップを仕掛けるなら、これとは別の……周りに迷惑の掛からないような事案じゃないと」


「そうね……」


 状態異常が効かず戦闘も出来るヘルバに手を出すとしたら、それが一番効果のある方法なのだが、ヘルバだったら『人命』とか『大勢に多大なる迷惑を掛ける』となれば、それも効かないだろうし。そうなると、如何にヘルバを騙すか、もしくは魅力的な報酬で抱き込むとかしないといけないだろう。


「本当に……ヘルバが信用できる人物で良かったわ」


「うん!」


 ココリスのその意見に、私は強く同意する。これが他の人だったらこうはいかなかっただろう。


「とりあえず……一度、アレスターちゃんと相談しに行こうか」


「それと……昼食もね」


 建国祭の対応で追われているアレスターちゃんと話し合うため、私はココリスと一緒に部屋を後にするのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―同時刻「湖に隣接する町レクト・商業ギルド 作業室(仮)」―


「くしゅん!」


「風邪? それとも……インフル?」


「ただのくしゃみだよ……誰か私の噂でもしているんじゃないかな」


「ふーーん」


 ガレットはそう言って、この部屋に1つしかないベットで寝転がったまま、読書の続きをする。現在、俺は商業ギルドの1室を借りて、足りない薬の調合と大量の消毒液の作製を行っている。今回は大量にそれらが必要なので、道具ではなく、『収納』と『調合』のアビリティを併用した方法で作製をしている。


 『草www』の時には念じるだけでそれらの作業をしていたが、『ドリアード』となった今、自分の手を何もない宙で動かして、ゲームのようなお手軽調合で作業をしている。念じるだけでも問題無く出来るのだが……この方が何か上手く出来そうな感じがするので、この方法を取っている。


「よし……」


 足りない薬の作製が終わったので、今度は大量の消毒液の作製を始めようとする……が、チョット疲れたので、ガレットが寝転がっているベットに寝転んで休憩を取る。俺は天井を見上げながら、隣で本を読みながら寝転んでいるガレットに声を掛ける。


「……ガレット」


「何……?」


「私ここで調合しているから、かまってあげられないけど?」


「大丈夫……それにこれも仕事だから」


「そ、そうなの……?」


 俺はガレットのその姿を再度確認するのだが、どうも寝転がってくつろいでいるようにしか見えない。


「ヘルバとミラ様の護衛……だから、必ず1人はいないとダメ」


「それはそうだけど……」


「それと……ヘルバが思っている以上に必要。すでに1人捕まえてる」


「え!? いつの間に!?」


「ヘルバが寝てる時。アマレッティが取り押さえて、すでに引き渡した」


「引き渡した……ってどこに? ここって冒険者ギルドも閉鎖中じゃ……」


「王都から巡回に来ている兵士に引き渡したって。犯行理由は後で知らせてくれる予定」


「……伝えてもらっても良かったんだけど?」


 俺が寝てる時……つまり、夜に襲撃があった事になる。そういえば、今日の朝食の時間にアマレッティが遅れてやって来ていた。あの時に、引き渡していたのかもしれない。


「ヘルバがそれを聞いて、薬品の生産が遅れるのは困る。それに犯行に及んだ奴がどんな目的を持っているのかは、詳しくは分からない。だから、私達に任せて」


「頼るけど……襲ってきた奴の目的は報告してよね」


 俺はそう言って、ベッドから起き上がり消毒液の大量生産を始めるのであった。


 その後、特にこれといった出来事は起こらず、サルエンさんが夕食の準備が出来たと知らせに来たのて、俺は本で顔を隠し、すやすやと熟睡していたガレットを起こして1階へと下りる。そこには、外で仕事をしていた他の皆も帰って来ていた。


「おかえり。それで、どうだった?」


「少しずつですが進んでますよ。冒険者だけじゃなく、工房の方々も協力してくれる事が決まりました」


 椅子に座りながら、湖周辺の消毒活動の準備状況を確認する。多くの人達に協力を仰ぐため、ミラ様に出てもらったが……笑顔の4人を見ると、首尾は上々のようだ。


「そう……なら、後は私の方も頑張らないと」


「ヘルバ。あまり休まずに、ずっと仕事していた」


「なら、今日はここまでにして下さいね」


 ガレットの報告を聞いて、ビスコッティから今日の作業にストップが掛かる。作業とはいうが、ひたすらステータス画面とにらめっこしながら、アビリティによる調合をひたすら行っているだけなので、そこまでの疲労感は無い。


「『無理するだろうから、気絶させてもいいから休ませるように』と……」


「ドルチェかココリスから言われたってところでしょ?」


「いいえ。そのような神託がありました」


 ビスコッティの話にミラ様からの補足が入る。まさか、アフロディーテ様から心配されるとは……というより、他の場所の確認で忙しいのでは無いだろうか? そのような事を言うとは、結構な頻度で俺の事を観ていないといけない気がするのだが……まさか、ずっと観ていたのだろうか?


「……分かった。そこまで言われたら止めとく」


「『見えないからこっそり調合する』っていうのはダメですからね」


 すかさず、ビスコッティが、俺の考えを読んで追加の注意をする。少しだけやろうと思ったが……そうもいかないか。


「って……何か心配され過ぎな気がするんだけど、しかも神様まで……ねえ? 他に何か言ってなかった?」


「いえ。何もありませんでしたけど……」


 不思議そうな顔をするセラ様。アフロディーテ様が純粋に俺の事を心配していると思ってるのだろう。しかし……実際に会話をしている俺からするとそんな玉じゃない。だから、何か意味があると思うのだが……もしかして、俺が気付かないだけで体には結構な負担が掛かってるのか?


「はい。しっかり食べて、体を休めて下さいね」


 すると、そこにサルエンさんが料理を持って来たので、冷めないうちに皆で頂く。食べる間に、これ以外の様々な話をしたのだが、この件に関しては一度も頭から離れる事は無かった。


 その後、充てられた自分の部屋に戻る。ちなみに1人部屋ではなく、ミラ様と一緒の部屋である。『フォービスケッツ』の4人は隣の部屋を利用しているのだが、毎晩、警護のため誰かが俺達の部屋に来る事になっている。昨日はビスコッティだった。そして、俺達が寝た後に1人で不審者をこっそり撃退したアマレッティは来ないだろう。そうなると……。


「入るわよ」


「あ、どうぞ」


 俺が誰が来るかと予想していると、そこにクロッカが部屋に入って来た。


「今日はクロッカが護衛?」


「そうよ……って、怪訝そうな顔をしないでもらえないかしら?」


「……夜這いを仕掛けてこないよね?」


「しないわ。流石に今の状況を把握してるもの……どこもかしこも大変よ」


 そう言って、ベットの上に座るクロッカ。その顔から疲労感を感じ取れる。そのおかげで大分深刻な状況だというのが伝わる。


「ガレットと違って、大分お疲れだね」


「あら? そうでもないわよ……ガレットって寝てるようで聞いてるから。それだから、いつものように肥満薬を飲んでなかったでしょ?」


「ああ……そういえばそうだね。でも、そこまで睡眠が浅いの?」


「ええ。体質みたいで、しっかりと眠れないらしいのよ。ヘルバから薬を貰うまでは、寝れる時は浅くても寝ていたりとか、魔法を魔力ギリギリまで使って気絶するように眠るとか、危険だったのは睡眠を誘発する薬を多量に摂取した時かしら……」


「それ……精神的に大分キツイんじゃないの?」


「そうね……時折、辛そうな表情をしたり、上の空だったりして、見ているこちらもヒヤヒヤしてた時もあったけど……今はぐっすり眠れてるから問題無いわ」


 『困ったような』とか『元気の無いような』という表現が似合う笑顔をするクロッカ。俺が初めて会った時、そんな風に見えなかったのだが……知っているつもりでも、まだまだ皆の事を知らないのだと実感する。


「それなら……快眠できる睡眠薬とか作った方がいかな?」


「頼まれたら作ってあげて……それまでは、今のままでいいわ」


 俺はその言葉に静かに頷く。その後、ミラ様も部屋に戻って来て、後は寝るだけの所でお喋りに華が咲く。『女が3人寄れば姦しい』と諺があるが……まさしくその通りであった。気がづけば、深夜と呼ばれる時間帯までお喋りをしていたので、切りのいい所で眠りに就くのであった。


(私は男……私は男……)


 中身がオジサンなので『女が3人寄れば姦しい』は間違いだった……俺はそう心の中で訂正するのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ