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133草

前回のあらすじ「さらに女を磨くヘルバさん。」

―その日の夜「王都ボーデン・談話室」ドルチェ視点―


「ふむ……ウィードの時より幼く感じたな」


「やっぱりアレスターちゃんもそう思うよね」


「お二人の感じた事ですが……儂も同じ意見です。良くも悪くも感情がより豊かになった気がします」


 皆が寝静まった夜。私はアレスターちゃんとその奥さん、そしてランデル侯爵と一緒に、お酒を嗜みながら今のヘルバの事で話し合っている。


「話を聞いたけど……そこまでなの?」


「少し……ね。どこか行動に子供っぽさがあるかな」


 ウィードの時は声はアレだったが、大人の男性という認識であった。しかし、今のヘルバはどう見ても頭のいい女の子にしか見えない。


「単に今まで我慢していた分、その鬱憤を晴らそうとしているのがそう見えるだけかもしれないけどね」


「そうかもしれないわね……あの『カロンの森』で半年ほどいて、そこからドルチェさんとココリスさんの2人と一緒に行動できるようになったとはいえ、自分の意思で動けなかったはずだったもの。色々、ストレスが溜まっていたのでしょうね……」


「ええ」


 アレスターちゃんの奥さんであるマルガリータがヘルバの生立ちから、そのような行動をしているのだろうと判断する。私もそう考えていたので、その意見に対して素直に頷いてしまった。それはアレスターちゃんも同じようで、無言だが頷いており、さらに、その隣のランデル侯爵も……?


「ランデル侯爵……どうかしましたか?」


「あ、いや……」


 私がそう訊くと、ランデル侯爵は腕を組んで考える仕草をやめ、私達の方を向いて何でもないように振舞う。


「何か意見があるのなら行っても構わないぞ。多少の無礼も、私達なら多少は目をつむるぞ」


「……なら、話しますが。ヘルバは何故、最初あそこに転生させられたのでしょうか。ヘルバからアフロディーテ様にあった時にその理由を訊いたら、身動き取れない植物の姿でカロンの森をどう発展させていくのか……と聞いてたのですが、どこか矛盾を感じてしまっているのです」


「矛盾?」


「アフロディーテ様の当面の目的は、人類をもっと増加させることだと聞いてます。しかし、そうなるとヘルバの最初にいた場所は少々、不便過ぎないかと」


「確かにそうね。初の転生者として、ヘルバさんにその役目を課しているというなら、もっと人里に近い場所を選ぶはずですもの」


「王女様の仰る通りです。また、ヘルバの転生前は他の人より秀でた才能が無いと言ってましたが……どうして、彼女を選んだのか」


「確かに……おかしい話ですよね」


 ランデル侯爵の意見はもっともであり、そもそもヘルバ自身もおかしいと思っている位である。


「ヘルバもそれについて言っていたけど、アフロディーテ様が何かを企んでると疑っているみたい」


 私がそう言って話すのを止めると、少しの間だけ沈黙が場を支配する。ヘルバは『自分より凄い人が前世には大勢いたし、私には特出した技能も無い。それこそ……アフロディーテ様が望んでいる人口増加に詳しい知識を持つ人がいたのに、何で私なのかね……」と言っていた。この世界の発展を望むなら確かにそのような人物が好ましいのだろう。しかし……選ばれたのは彼女だった。


「何にせよ、彼女は今や国内外から注目されている薬師には違いない。面倒を掛けてしまうが、2人には彼女が活動しやすいよう引き続きフォローを頼む」


 アレスターちゃんからそう言われて、私とランデル侯爵は静かに頷く。もっと何か大きな事が起こるんじゃないかという一抹の不安を抱えながら。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―翌日「王都ボーデン・モカレートの家」―


「おはよう」


「あ、おはようございます!」


 ドレスのデザインが決まった翌日。今日はダンスレッスンも無いので、数日ぶりにモカレートに会いに来た。


「……1人で?」


「うん」


 俺が1人で来たことに何故か驚いた表情を見せるモカレートとマンドレイク達。そこまで不自然な事だろうか?


「子供が1人で……」


「そこまで子供じゃないからね!? モカレート……生後1年ちょっとかもしれないけど、体は王都の子供たちが大人の仕事を手伝う位のサイズだし、中身は成熟し過ぎな中年オッサンだからね!?」


「冗談です。でも、ヘルバさんが1人で行動するのを許可するなんて思っていなくて……来月の建国祭の参加者であり、王家の招待客ですから、もっと慎重に……」


「大丈夫! 遠くから私を護衛する人がいるから……ね?」


 俺の張って作ったような笑顔で、やっと気づいたのだろう。向かいの建物の屋根からこちらをこっそりの覗いている無数の人の影を……。


「あれ、逆にストーキングされているみたいで怖いんだけど……どう思う?」


「まあ……とりあえず、中へどうぞ」


 そこでやっと家の中へと入る事が出来た。案内された調合室はしっかりと清掃され、棚の道具も整頓されているようだ……が、部屋の隅っこを見ると、乱雑に置かれた道具の山が見える。後、何日したらここもあのような悲惨な事になるのか気になる所である。


「それで、今日はどうしてここに?」


「ドレスのデザインも決まって、ダンスレッスンも無いから、それならモカレートの調合の仕事のお手伝いしようかなって思って来たんだ。ほら、前に邪魔が入ったって言ってたでしょ?」


「助かります。建国祭前ということもあって、薬の発注がいつもより増えていまして。こうなることを予想して、多めに用意したつもりだったんですが……足りなくなるとは」


「何の薬が無いの?」


「風邪薬ですね。咳止めとか痰切り薬に解熱剤などが思った以上に消費が早くて……」


「じゃあ手伝うよ。私もいい勉強になるから」


「じゃあ……よろしくお願いします」


 さっそく、俺達は薬の作成を始める。今回もアビリティを併用しての調合ではなく、道具類を使っての普通の方法で作っていく。


「スキャン……もうちょっと煮だした方がいいみたい。こっちは……」


「あ、どーちゃん。そこの瓶を取って下さい。まーちゃんは……」


 順調に薬を作っていく俺達。ガルシアでの経験がしっかりと生かされていることに、自分が成長していると実感できる。


「今って風邪が流行ってるの?」


「ええ。この時期は人の出入りが激しくなる事で王都外で流行中の風邪が入って来たり、商人の方々が無茶をして体調を崩したりという事があるので、この時期は風邪薬関係の消費が激しいんですよね……きっと、教会の方も大忙しですね」


「教会でも病気を治せるんだっけ?」


「はい。『祝福』のアビリティで治療するんですが、多用すると体に悪いからという事で、『特に酷い状況だったり、すぐにでも回復しないといけない状況とかでなければ頼らないように』と教会からお触れが出てますね」


「ふーーん……」


 多用すると体に悪い……きっと『祝福』のアビリティだと、体内の抗体に対して強く働きかけるとか、病気への抗体が付かないとか、何かしらの副作用が働いてしまうのだろう。また、この前の『老化』の状態異常のように治せない物もあったりするので、何でもかんでも治せるアビリティという訳では無いというのも理由と考えられるな。


「モカレートさーーん! いらっしゃいますかーー!?」


「はーーい」


 そこに、モカレートを尋ねに誰かがやって来た。モカレートは対応するために玄関へと行ってしまった。玄関で何かしらのやり取りをしているなと思いながら風邪薬の作成をしていると、モカレートが急いで調合室に戻って来た。


「ヘルバさん。手伝ってもらっていいですか?」


「いいけど……どうかしたの?」


「風邪薬の搬入作業をお願いします。少々、問題が起きまして……」


「分かったけど……そんな深刻なの?」


「診療所の1つが病人で溢れてしまったそうなんです。とにかく、薬をすぐにでもそこに届けて欲しいと……」


「ならすぐにでも行こうか……あ、モカレート。マスクってある? それと医療用のアルコール」


 俺がそう訊くと、ただのアルコールはあるということなので、俺はそれを使って消毒用アルコールを調合し、マスクは無いという事なので、とりあえず口と鼻を覆える程度の大きさの布を収納から取り出しておく。


「これらって何に使用するんですか?」


「感染防止だけど……そんな概念無い?」


「ありませんね……」


「なら、その診療所に向かう間にでも講義するよ。それを聞いたら、次回からマスクと、この医療用アルコールを持ち歩くようになると思うよ」


 きっと、これは風邪ではなく、もっと質の悪い感染症だと疑う俺は、これ以上の感染拡大を防ぐために、モカレートとマンドレイク達と一緒に、その診療所へと向かうのであった。

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