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131草

前回のあらすじ「今年最後の海を満喫中」

―しばらくして「リゾート地・ガルシア イポメニの古代神殿前のビーチ」―


「こ、怖かった……」


「絶叫系ダメだったんだね……」


「並みいるモンスターの群れとか戦ってるし、こんな子供だまし……と思ってた」


「あるある。見た目は怖く無さそうなのに、実際にやってみると全然違ったってあるのよね」


「うんうん……私もさ……」


 『ボイルアップ』体験後、倒れてしまったガレットのため、売店で飲食物を購入して、パラソルの下で今はお喋りに花を咲かせている。その中に、当然俺もいるのだが……。


「人生って本当に分からないものだよね……」


「どうかしたの?」


「こうやって、女性の中に混じって会話する日が来るなんて思ってなかったな……って」


「淋しい人生だったのね。1人ぼっちで、友達もいなくて……」


「わーわー! 聞こえません! それよりも……ほら、たこ焼き食べない? 私の物とお店の物のどっちが美味いか評価してよ」


 俺は売店で買ったたこ焼きを手に持ってココリスに勧める。これ以上、俺の傷口を広げて欲しくない。それより、この売店で買ったたこ焼き……まさか、冒険者ギルドにレシピを売ってから、2週間程度でここまで広がるとは思っていなかった。しかも、これはオーソドックスなソースではなく、魚の卵を使った明太マヨに近いソースが掛かっている。


「どれどれ……あ、美味しい。ヘルバの使ったソースとは違ってこれはこれで……」


「まさか、ここまでアレンジが進んでるなんて思ってなかったな……うん、美味しい」


 今世でまさか明太マヨに出会えるとは……惜しむらくは、これが簡単に手に入らない状況だという所か。


「王都でこのソースって……売ってないよね?」


「見た事ないわね」


「そうか……これパスタに合いそうだし、おにぎりの具材としても最適なんだけど……やっぱりここでも物流が私の行く手を阻むのか……」


 手っ取り早く、瞬間移動とかファストトラベルとかあれば、いつでも新鮮な魚介類を使った料理が出来るのに……。


「ねえ二人とも? この後、どうする?」


 俺がココリスと二人っきりで話していると、先ほどまでガレットと話をしていたドルチェがこちらに話しかけてくる。


「うん? この後って……ビーチでゆっくりするとか、海に行って泳ぎにいくとかぐらいしか思いつかないけど。ココリスは?」


「そうね……クルージングとか、高台から飛び込む海に飛び込むっていうアトラクションもあったはずよ」


「それなら……私は高台から飛び込むをやってみたいかな。面白そうだし」


「ビスコッティとアマレッティもそれをやりたいって言ってたよ。他の皆の意見は……ばらばらかな」


「それなら、分かれて行動しようか……私はビスコッティとアマレッティと一緒にそのアトラクションに行くね」


「じゃあ、私はモカレート達と一緒にクルージングに行ってこようかな。ココリスは?」


「私は休んでるわ」


 軽食を食べながら、この後の予定を決める俺達。そして、その予定通りに俺達は別行動を取る。俺は

ビスコッティとアマレッティと一緒に海へと飛び降りるアトラクションを楽しめるスポットへとやって来た……のだが。


「うーーん……これをスポットと呼べるのかな。皆、バラバラの場所で飛んでるけど?」


 飛び込みスポットは、長い年月を掛けて、波風が岩肌を削って出来上がった円形状の入り江となっており、この入り江からだったらどこからでも海を下に臨むことができる。すなわち、高さの違いはあるがこの入り江からなら、どこからでも海へと飛び込む事が可能だという事だ。


「度胸試しみたいなところがあるそうですよ。自分が一番遠くへ飛べる場所を選ぶそうです」


「人気なのは……あそこだね。大勢の人が列を成してるよ」


 アマレッティが指差す方向には、助走を付けて海へと飛び込む男性とその横で列を作って待っている人達……横入りが出来ないように、監視する監視員もいる。


「へえー……」


「ヘルバさんは興味ないですか?」


「勢いよく飛び込むのはいいけど……それにも限度があるからさ。何か……こう、もっと目立つような、誰もやらないような事を……」


「あ~それはアリだね、ちなみにヘルバの旦那は何か案があるのかい?」


「え? 3人で連続してポージングしながら飛ぶとか、手をつないでそのまま……」


 俺がそう言うと、2人は一度互いに顔を合わせ、同じタイミングで悪い顔になる。


「手をつなぐですか……いいですね。何か仲良しって感じで」


「よし! それで行こうぜ旦那!」


「え!? 待って……そんなノリでって?」


 2人は俺の手を掴みそのまま海へと向かって走る。俺は転ばないよう付いていくので一杯で……気付けば、2人と一緒に宙を浮いていた。


「わああーー!?」


 覚悟を決める前にダイビングすることになった俺は、思わず口から悲鳴が零れてしまう。そして、そのまま海へとダイブする。海に直水と同時に2人が手を離してくれたので、俺は自由になった両手を使って海面へと上昇する。


「ぷはぁ! 2人とも酷いよ……」


「あはは! 悪い悪いって! ヘルバの旦那の案を聞いてたらつい……な?」


「ええ。チョットだけ悪戯心が出ちゃいましたね」


 ドッキリに成功した2人が笑い声を上げる。してやられてしまった俺は溜息を吐いて……その時、視界の端にオレンジ色の何かが浮いているのが見える……。それが何なのか気付いた俺は素早く、髪でそれを回収し、そのまま持ち主であるアマレッティの前まで持ってくる。


「何だい? これ……え!?」


「早く履いて……下、脱げてる」


 浮いていた物……それはアマレッティの水着だった。アマレッティの水着はオレンジのビキニであり脇は紐だった……それが落下の衝撃で解けたのだろう。


「ひゃい!?」


 一瞬にしてアマレッティの顔が真っ赤になり、慌てて脱げた水着を受け取って付け直していく。その顔を真っ赤にして慌てる表情を見たのは初めてかもしれない。


「ドッキリ大成功だったのに……こんなオチがくるとは思っていなかったですね」


「うんうん」


「なあ、誰も見てないよな? こっちを見てなかったよな!?」


「安心してアマレッティ……アビリティでしっかり覗いていた私以外は見ていないよ♪」


「……え?」


 クスクスと笑いながら答える俺。もちろん、そんな事はしてはおらず、そもそも水中を覗くようなアビリティなど覚えていない。


「見た……の?」


「うん……ご馳走様でした」


 『うわー!』と取り乱すアマレッティ。見た目は女児でも中身は男性……そんな人に見られたとなればこうなるのも当然だろう。対してビスコッティは、俺が嘘を吐いていると気付いたようで苦笑している。


「ヘルバさん。そろそろ冗談はそこまでにしておきましょうよ」


「そうだね」


「へ!? 嘘……?」


「うんうん。ほら、私って困った存在だからさ……どんな反応するかなと思ってさ。やっぱり着替えは別々を心掛けた方がいいかもね」


 呆然としながら話を聞いているアマレッティ。すると、泳いで俺の近くまでやって来て……俺の頬を引っ張り出す。


「いひゃいいひゃい……ほうりょくはんひゃい……」


「私だって乙女なんだからな!? 吐いてもいい嘘とかあるんだからな!?」


 頬を引っ張りながら俺の嘘に怒るアマレッティ。最初は微笑ましく見ていたビスコッティも少々やり過ぎだと判断してアマレッティを窘め始める。俺はそんな2人のやり取りを見ながら、今日も平和だな……と思うのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―翌日「リゾート地・ガルシア 城門前」―


「お世話になりました」


「それはこっちのセリフだ。特にヘルバには色々助けられたな」


「気にしなくていいよ。冒険者としての仕事だったし……それに晩御飯もおごってもらえたし」


 フェインにそう言って、これ以上の礼は不要だと告げる。ちゃんとお金も貰ってるし、昨日の晩御飯もお別れ会と称しておごってもらえたのだ。これ以上、貰うのも気が引ける。


「また、来てくれると嬉しい。ダンジョン攻略でもいいし、余暇を楽しむためでもいい。将来、有望なパーティーには何度も来てもらいたいからな!」


「それが本音ね……」


「この街のギルマスだからな……当然だろう?」


 そう言って、笑顔を見せるフェイン。そして、その横にいた牙狼団の面々も別れの挨拶をしてくれた。


「牙狼団の皆はまだここに残るんですね」


「ああ。素材集めの依頼はまだ生きてるしな……たっぷり稼がせてもらうさ。まあ、ヴェントゥス・グリフォンの素材だけで、しばらくは遊んで暮らせる位の稼ぎになりそうだがな……」


「そうだね……」


 ヴェントゥス・グリフォンの素材は結局王都にある冒険者主催のオークションに掛けられることになった。そこにはあのイグニス・ドラゴンも含まれているとフェインがこっそりと教えてくれた。ちなみに、ヴェントゥス・グリフォンの素材だが……俺の収納に収まっていたりする。


「(安心して……しっかり()()()()()()()()()()())」


「(頼んだぞ)」


 小声でそう伝えつつ、俺の頭をポンポンと叩くベルウルフ。中身は同年代のオッサンなのに、これは止めて欲しい所である。とりあえず、ここにいる皆のためにも持っている素材を無事に王都へと送り届けなければ……。


「そろそろ行きますよ!」


 既に準備が出来た『フォービスケッツ』の4人とモカレートから催促される。俺達もすぐさまストラティオに乗って出発の準備を整える。


「それじゃあ!」


 俺達はフェインと牙狼団に見送られながらガルシアを後にする。行きは馬車でゆっくりだったが、帰りはストラティオで王都には3、4日で帰る予定である。


「楽しかったね……」


「また来たいですね」


 皆がガルシアでの思い出話に花を咲かせつつ、高速で街道を走っていく。まだまだ暑い夏の日差し……が、もう少し経てば今度は秋の季節になる。様々な収穫の実りがある秋に俺はどんな薬を作ろうかと静かに思案を……。


「ねえ? これ何とかならない?」


「ストラティオに1人で乗れないでしょ? それだから我慢してね」


 ドルチェにそう言われて諦める俺。問題はそこじゃなく、俺を前に座らせているせいで、ドルチェの豊かなアレが頭に乗っかっていて集中できない事に関してなのだが……。


「まあ……いいか」


 俺は男性としての欲に身を任せ、この状況を甘んじて受けるのであった。

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