129草
前回のあらすじ「万能薬wwwwwはサ〇ミア〇キより数倍酷い味の設定」
―それから数日後「リゾート地ガルシア・高級リゾート地 小屋」―
「……うーーん! 結構捗ったかな」
俺はペンを置いて、ドルチェが用意してくれたクッキーを口にする。ナッツ類が練り込まれているようで、食べると口の中でナッツ類特有の香ばしい香りが広がる。先ほどから頭を使っていたので、クッキーの甘さがとても心地よく感じる。
俺がこうやって研究に勤しむようになってから、周りの皆がお菓子をくれるようになった。知能と胸は大人でも体は子供だから、しっかり食べて成長して欲しいということだろうか……ただ、あまり食べ過ぎるのも健康に悪そうだが。
「……これなら建国祭での展示には問題ないかと思いますよ」
俺が一休みしていると、近くで調合作業していたモカレートが、俺が既に書き終えたレポートを手に取り、中身の評定をしていく。今、最後の1枚も見終わって笑顔のままだったので本当に問題は無さそうだ。
「モカレートのお墨付きなら問題なさそうだね。出来れば『万能薬wwww』と『万能薬wwwww』が出来れば良かったんだけど」
「飲みやすさは大切ですからね……」
万能薬シリーズの飲み比べして、生死の狭間を彷徨った俺とモカレート。その結果、万能薬シリーズは『w』の数で効果が変わらない以上、『w』の数は飲みやすさだと判断した俺達は、どうにかこうにか出来ないかと試行錯誤したが……全部、失敗に終わってしまった。
また、建国祭が行われるより前に、各自レポートやら報告書の提出をしないといけないので、今はそちらに重点を置いている。
「不味いけど……良いのかな? 効果は保証するけどさ」
「効果は保証出来るなら問題無いですよ。展示会には現状の品を見てもらい、貴族や商会に資金などを支援してもらう意味もありますから……それに、万能薬シリーズが飲みやすい薬になってしまうと、他の薬が売れなくなったり、その素材を集めてくれる冒険者達が多大なる迷惑が掛かるので、むしろコレで良かったかと」
「確かに」
前世でも、そんな話があった事を思い出す俺。産業革命時の機械導入によって、手工業者達が自身の失業を恐れて機械を破壊するという運動が起こり、最終的には軍も動いてこれを制圧したという事件があった。
そして今、この万能薬シリーズがこれに近い事態を引き起こしかねない。そして、その矛先は、作成した俺達に向けられるのは確実である。
「ああ……展示会って、それらを防止する役目もあるんだね。完成前の品を見せておけば、商会を中心に対策を取ろうとするもん」
最初は、経済の循環が目的だと思っていたが、そのような側面もあるのかと感心させられる。
「この段階で発表しておけば、変な言い掛かりを付けてきた相手に『知らないのが悪い!』って、強く出れますし、そもそも喧嘩を吹っ掛ける事も少なくなりますよ」
「……もしかして体験済み?」
「ええ……丁重にお引き取り願いましたが……」
モカレートが笑顔で話をしているが、口は笑っていない。あまりにも迷惑で思い出したくないのか、それとも、その相手に対して口に出すのも恐ろしい事をしたのか……『ふふっ!』と不気味な笑い方をしているので、これ以上、訊くことは止めといた方がいいだろう。
「あ、話が変わるけど……モカレートはどうなの? 薬の調合は捗っているの?」
「はい。ここは静かですからね……捗りますよ。ほら、ヘルバさんの分の薬も用意出来ましたから」
「え? そんな事しなくてもいいのに……ありがたいけど、モカレート自身の研究とかあるよね?」
「ありますけど、ヘルバさんの研究が進むと、私の方も助かる所が多いですし……それに、ヘルバさん自身が研究の対象なので問題ありません」
「私!? どういう事?」
「ヘルバさんは『草www』というモンスターでした。それが一定の条件を満たすことで『ドリアード』という種族に変化……いえ、進化を果たしました。これはマンドレイク達を使役する私にとって、とても興味ある内容ですから……きっと、モンスターの生態を研究している学者達がこれを知ったらヘルバさんの所に通い詰めるでしょうね」
「進化か……他にいないのかな?」
「いるかもしれないですけど……実際に確認された個体はヘルバさんが初めてですよ」
「ふーーん……」
色々、特別な存在だと思っていたが……そこまでか。あの神様……俺を協力者として言ったり、遊び道具みたいに見ている節があったりするが……一体、どっちを目的として特別扱いにしてるのか気になるな。
「ヘルバ。モカレート。今いいかな?」
すると、小屋の扉を叩きながら、ドルチェが中にいる俺達に声を掛けて来る。ちょうど2人とも休憩中だったので、ドルチェに小屋の中に入って来てもらう。
「ごめんね……邪魔だった?」
「問題ありませんよ。ちょうど休憩中でしたから……それでご用件は? あ、もしかしてマンドレイク達が何か失礼な事を?」
「ううん。しっかりコテージの掃除をしてくれているし、とても助かってるよ。そうじゃなくて、冒険者ギルドに寄ったら王都から連絡があったんだよね。その内容なんだけど……」
「何かあったの?」
「ヘルバに帰って来て欲しいって」
「……」
俺はそれにどんな意味があるのかが分からなかった。あのボルトロス神聖国の連中との一件後、今の皆の仕事は、俺とモカレートの護衛とガルシア周辺の素材集めになっていた。そして、それはこのコテージの滞在できる期間である1ヶ月……後、1週間はある。それを早める意図となると思いつかない。
「どうして? まだ期間あるよね?」
「ヘルバに帰って来て欲しい……ヘルバさんに用事があるってことですか?」
「そう……私もうっかりしてたんだけど、ヘルバって『草www』から『ドリアード』に進化……というか女の子になったでしょ? で、ヘルバを今まで通りに従魔と扱うのは……」
「あ!? そういう事ですね……」
「……どういうこと?」
「今のヘルバってこの国だと従魔扱いのままなの。まだアレスターちゃんもお触れを出していないから……」
「……従魔のままじゃ不味いの?」
「あなた……薬の売り上げから、この国に税金として払っていたでしょ?」
すると、そこにココリスも入って来る。しかも、丸まった紙を手に持った状態で。
「人伝だけど……払ってたよ? 国といざこざが起きないようにラメルさんにお願いしてたの」
「その額が結構な額になってたのよ。しかも、その後ダーフリー商会にも卸して、そこからも税金を払っていた」
「まあ……手足が無かったからね」
売買契約をしている以上、その辺りはしっかりと薬を卸しているラメルさんとダーフリーにお願いしている。払っておかないと、この国の財務を管理する人達から何かしらの苦情が来ると思って、事前に対策を打っていたのだが……。
「今回の展示会で王家の推薦枠であるヘルバを紹介するにあたって、身分の潔白である証明を、王家で用意してたの……そこに、ヘルバがウィードの頃から多額の税金を国に治めていた事が判明して法律上不味いことになってるんだよね……」
「もしかして……従魔って税金を納める必要が無かった?」
「その通りよ。納めるのは一緒に入る私達や、薬を卸しているラメルさんやダーフリー商会だけで良かったの。でも、ラメルさんとダーフリー商会はウィードの名前でしっかり払っていた……で、両名ともそれを知らなかったのよね。何せ……王家も忘れてたくらいだし」
現在、俺以外の従魔は人語を話すことは無い。そのため、従魔に税金を支払ってもらうという制度が無かったのだろう。一方、俺は冒険者ギルドや商業ギルドのライセンスを持っていたので、ラメルさんとダーフリーは一般の人と同じようにこれらを処理すればいいと判断して特に調べる事はしなかったという所だろう。
「宰相がそれを聞いて、慌てて王様に報告して……で、今すぐ帰還せよという話になったのよね」
「だったら、払った税金を返還してもらえば?」
「それもアリだけど……恐らく、それとは別の案があってその打ち合わせかもしれないわね。予想は付くけど……ね」
「間違いなくアレだよね」
「ああ……そういう訳ですか……」
俺以外の3人が、王家の別の案に心当たりがあるらしく、俺を残して納得している。
「何? 何なのそれって一体?」
「ヘルバ……残念だけど、展示会に出ないといけないね。フリフリのドレスを着て……ね」
「……」
ドルチェの話を聞いて、一度話の内容をまとめようとする俺。俺が払った税金は返還可能だが、それをせずにそのお金で何かを企んでいる。その何かの1つにフリフリのドレス……そして、最初の方に出ていた今の俺の立場……。
「ドリアードという種族を正式に国民として迎える準備に使いたいと……?」
「大当たりよ。国益に関わる大業をいくつもこなし、薬師としての実力も申し分もなく、従魔扱いなのに、すでに多額の税金を国に治めている……そんな逸材である彼女の立ち位置を曖昧のままにするのは王家の威信に関わってしまう」
「なるほど……で、その際の衣装であるドレスを大急ぎで仕立てるのに、今の俺の体を計測したいと……」
「それだけじゃなくて、あなたの肌や髪色も見たいのよ。王家主催である以上、下手な既製品は着せられないんでしょうね。後は当日、あなたがどう動いてもらうか、皆の前でどう発表してもらうか……などなど、今の内から話を詰めたいんでしょうね」
「……もしかして、ダンスの手ほどきとかもある?」
「……踊れる?」
「盆踊りという前世の踊りなら!」
そう言って、目の前で盆踊りをしてどんなものか皆に見せる。すると『ダンスレッスン決まりね……』と呟くココリス。前世も含めて三十数年……俺は初めて社交ダンスを踊らないといけないという難題を課されるのであった。




