127草
前回のあらすじ「証拠隠滅をされてしまった」
―夜「リゾート地ガルシア・リビング」―
「そうなると……既に証拠は持ち去られた後って事か……」
「ああ。しかも、このような手段を取るという事は、こちらの動きを読んでいる……もしくは、こちらの動きが事前に漏れていた可能性もあるが……そうなると、いったいどこから漏れたのか……」
この街に残って、何かをしていた男2人組。恐らくは、ここで行った何かの証拠を消すためだと思われるが……彼らが実際に口にした訳じゃないので、あってるのかも分からない。
「……とりあえず、他に如何わしい物が無いか調査は続けてくれ。もしかしたら、何かしらの悪い置き土産もあるかもしれないからな」
「無駄足の可能性があるけど……仕方ありませんね」
「ええ……ボルトロス神聖国が使用していたアジトがあそこだけとは限らないですもんね」
「街中で何かしていた事だし……街中で怪しい噂が無かったか訊いて回るか」
ヴェントゥス・グリフォンがこの街に来た理由……そこにはボルトロス神聖国の影があった。奴らによって証拠は消されてしまったが、消し忘れた何かしらの証拠が残ってるかもしれない。そう判断したフェインを中心に、今後の探索方法が決まっていく。
「あれ? ドルチェとココリスは話に混ざらなくていいの?」
この話に2人が混ざっていなかったので、何かあったのかと尋ねてみる。2人にとっても無視できない話のはずだが。
「ドルチェから相談を受けてたの」
「相談……何の?」
「今、気付いたんだけど……もしヴェントゥス・グリフォンがボルトロス神聖国に呼び出されたとして、その呼び出した何かが持ち出されたと仮定した話なんだけど……つまり、その危ないのが国内にあるって事だよね?」
「……そうか。それはマズいね」
もし、そのような物が存在するとしたら……それがもし、他の称号持ちのモンスターさえも呼べるとしたら……今、それを所有するボルトロス神聖国の奴らはそれをどうするつもりなのだろう。
「王都に持ち込まれたら……大変な事になるよね。しかも、再来月には建国際もある。今回の事件は、もっと大きな事を起こす前の事前確認だった……」
「タイミング的にも怪しいわ。それに……もしかしたら、ヘルバが出会ったイグニス・ドラゴンも呼ばれたんじゃないかしら?」
「それは……」
あり得る。イグニス・ドラゴンは既に何かと戦った後があった。それがボルトロス神聖国の奴らで、イグニス・ドラゴンを使って何かをしようと企んでいたら……。それだけじゃない。
「もしかして、ラーナ・ボンゴも? それにあの男……アクアと同一化したレザハックも……」
「この短い間に、希少な称号持ちのモンスターがこの国に集まり過ぎている。それだけじゃない。活発的に人里に影響を及ぼしている……」
「レザハックの件は反王政派が主導していた……と思っていたけど、本当にそうだったのか怪しいかも」
「そこはあってるんじゃないかな。反王政派が主体となって動いて、ボルトロス神聖国は協力や援助だけした……恐らく、ボルトロス神聖国が表立たないように裏工作込みで」
そうなると、俺達が今まで旅してきた中で遭遇した事件は全てボルトロス神聖国絡みと言っても過言ではない。
「……明日、冒険者ギルドの通信魔道具を借りてアレスターちゃんに連絡しておくよ。下手すると、王都で何かする気かもしれないから」
「そうだね……」
再来月に行われる建国……反王政派の奴らから何かしらの嫌がらせは覚悟していたが、ここでボルトロス神聖国による何かしらの妨害行為が起きる可能性も出てきた……出来ればどちらか一方だけにして欲しいと思いつつ、そして当日に何事も起こらないことをなければいいと願うばかりなのであった。
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―翌日「リゾート地ガルシア・高級リゾート地 小屋」―
翌日、朝と言うには少し遅い時間……俺は横にいるモカレートと一緒に配合の準備を進めていく。今は椅子に座って、ステータス画面に映る配合表を眺めている。
「ふわ~あ~……ん」
「眠そうですけど……少し休みますか?」
「大丈夫。昨日は足りない品を買って終わりになっちゃったから、今日はしっかり薬の製作をやっていかないと……それに納品分の薬も用意しておかないと」
昨日の夕食後、俺は特に何かをする気にはなれず、お風呂から出た後すぐに眠りに就いてしまった。目を覚ますと、既に太陽は高い位置にあり、モカレート以外の皆はそれぞれの仕事に行ってしまった後だった。
普通なら朝食が出来た段階で呼ばれそうだが、昨日の件もあって起こさずに休ませてあげようというのが全員の意見だったそうだ。
「う~~ん……何か過保護過ぎないかな……」
用意されていたサンドイッチを食べながら、ステータス画面に映る万能薬wwwの配合表を確認していく。素材は既に揃えており、万能薬wwwより下の物である万能薬wwと、さらにその下の万能薬wを作っていく予定である。
「いえいえ……前にも言いましたが、中身は中年男性かもしれませんが、体は女の子なんですよ。それに……今後色々大変ですよ」
「……分かってるって、女の子特有のあれでしょ? この体……まだまだ若いから先だとは思うけど……」
「それだけじゃありません!」
そう言って、顔を近付けて俺の両手を掴むモカレート。
「若い頃からの対処が必要な事があるんです! まず一番最初に言わないといけないのはその大きな胸! しっかりとした対処しないと垂れ下がって手遅れになるんです! 後は日々の肌の手入れ! こんなに日差しが強いのに何で日焼け対策をしていないんですか! それに……」
「……しっかり下着履いてるよ。痴女じゃないし」
「そこじゃなくてサイズ! それ少し小さいですよね? 昨日の段階で気付けば良かったのですが……個人的にはすぐにでも買い替えて欲しいんですが? 後は垂れないようにちゃんとナイトブラも……」
「怖い、怖いって……モカレートってそんなキャラじゃないよね?」
ものすごい勢いで迫ってくるモカレートに、俺は落ち着かせるためにゆっくりとした口調で返事をする。アスラ様に施した若返りの施術に対して、そこまでの反応は無かったのだ。だから、こんな急に攻め立てるような言い方をしてくるとは思ってもいなかった。
「あまりにもヘルバさんの女性としての意識が低いから言ったのです。元はどうあれ今は女性……それが問題になる可能性が……」
「あ~うん……そうか、それはあるかも……」
モカレートの言いたい事……それはこんな事ではなくもっと大きな問題。俺がこの世界で人として関わっていく際に起きるズレを、今のうちに正しておきたいのだろう。
男と女の違い……大きな違いは何となくだが分かる。が、細かい違いというのは分からない。ましてや、ここは異世界である。この世界に住む女性の一般というのは全くの無知である。
「『淑女の嗜みwww』なんていうアビリティがあっても、女性らしい所作とか分からないし、この世界の女性の普通の生活っていうのも知らないもんね」
「そういう事です。女性としての初歩的な知識……この世界を生きていく上では必要なことですよ」
「確かに……何が原因で恨みを買うか分かったもんじゃないしね」
女性としての一般的な知識を知ることで、無駄な面倒事から避けられる。俺としてもそのような面倒事を避けられるなら避けておきたい。
「でも……さっきのアレって必要?」
「その胸を羨むのは男性だけじゃないんですよ。それをデカいだけで邪魔とかむやみやたらに言いふらしたら……そして肌のお手入れとかに関しては、覚えておいた方が他の女性と話す際に便利ですから」
「『あら? 奥様ったら肌が綺麗ね……どこの化粧品を使ってるのかしら?』という話題に対応できるってことだね」
「まあ、大雑把に言うとそうですね……ただ、ヘルバさんが何らかの方法で男性になるというなら話は別ですが……」
「それは……どうしようかな……」
薬1つで体型を自由自在に変える事ができ、獣にも鳥にもなれるこの世界……きっと、男になる方法もあるに違いない。いや……あの神様の事だ。同性での恋愛で子供が出来るように救済措置としてあってもおかしくない。
そして……俺には調合がある。だから自力で作れる事は可能である……が、男になる気があるかと言われたら……そこまで固執してはいない。
「男になる気がそこまで無いんだよね……けど、感覚は男のままだし困ったもんだよ」
「女性の体に欲情しちゃうんですよね……ちなみに訊きたいことがあるんですけど」
「自分の体に欲情するかでしょ……素直に言うと多少はある。けど、男の時のような感じではないかな」
「ほうほう……ちなみに既に自分で……」
「やってません」
モカレートの質問がいい終える前にキッパリと否定する俺。いずれはやるとは思うが……それを、女の子同士の秘密の話題として、素直に話すかどうかは……。
「無いかな」
男として……いや、個人的に恥ずかしいので話すことは無いだろうなと思うのであった。




