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125草

前回のあらすじ「メスガキに負ける……どんな気持ち?」

―「リゾート地ガルシア・裏路地」―


「ご苦労だったな……まさかこんな早く、依頼をこなしてくれるとは……」


 うんうんと腕組しつつ、フェインが感心する。追跡していた2人組男の1人を追いかけていったモカレート達を待っていると、それよりも先に、アマレッティが呼びに行ったフェインと冒険者達がやって来て、フェインはそのまま連れて来た冒険者達に、干からびた男を連行するための準備をさせる。両脇を抱えて連れていくのだと思っていたら、ご丁寧にしっかりとした手錠のような物、さらに縄のような物で男をしっかりと拘束していく。


「まだ決まった訳じゃないけどね。それに……この場合だと、この男達の後を付けた私達の方が悪い気もするし……」


 俺はそう言って、干からびた男に目を向ける。この男は確かに背後から攻撃を仕掛けてきた。しかし……『俺達の後を付けたから、目的を訊くために捕えようとした』と言われてしまえば、こっちに非がある状態である。


「何か犯罪行為を行っていたとか、明確な証拠がまだ何も無いよ?」


「そうだな……だが、ボルトロス神聖国の連中がこうやって別の国にいるという所が既に怪しいがな」


「……そうなの?」


 フェインのその話を聞いて、それが本当なのか分からないというのと、どれほどの常識なのか分からないので横にいるココリス達に訊いてみる。


「前にも話したと思うけど……人間以外は種族としてみない連中。そんな奴らが人間以外の種族が出歩いている町に出掛けたいと思う?」


「中身が手遅れじゃなければ語学のために……と思えるけど、それは無いのか」


「私達、フォービスケッツも何度かありましたよ。その時は必ずと言っていいほど、裏があります」


「例えば……要人の暗殺に、とある魔道具の設計図の強奪だったかしら」


「他種族を的にした魔法の実験もある」


「単純に強盗目的もあったかね……」


 フォービスケッツが前に起きたボルトロス神聖国の連中が犯した犯罪を思い出しながら、言い連ねていく。実際に関わった事のある物に関しては、愚痴を零したりしている。


「ふーーん……」


 ボルトロス神聖国には、国教に心酔している信者がそれほど多くいるという事だろうか……。まあ、前世でもそんな連中がいて、同じ種族なのに大規模な事件や紛争を引き起こしているのだから、このような差別みたいな物が、この世界で起きるのは当然なのだろうか……。


「もしくは……一種の洗脳か……」


 俺はフリーズスキャールヴを男に使用して、スキャンで男のステータスを確認……!?


「うっ!?」


 俺は慌てて男のステータス画面を閉じる。その後、身に起きた倦怠感を感じつつ、口を押えて吐き気を堪える。すると、俺の様子を見たクロッカが、すぐさま背中をさすってくれる。


「どうしたんですか?」


「その男のステータス画面を見ようとしたら……穴だらけで、一部見れないようなところがあって……しかも、何か見ていたら恐怖や怒りに嫉妬……色々な負の感情が込み上がってきて……」


 そこで一旦、喋るのを止めて吐くのを我慢する。吐いたら楽だとは言うが、大勢の人がいるこの場所で、そのような事はしたくない。


「本当に大丈夫?」


「……」


 俺は無言のまま、フリーズスキャールヴを自身に発動させて自身の状態を確認する。


(質問、状態異常に掛かってる?)


(いえ。特に異常はありません。呪いや洗脳の心配もありませんのでご安心く下さい……ただ、あの男のステータス画面が何かしらの力が働いているようで、どうやらヘルバさんクラスの鑑定になると、精神攻撃による反撃機能が付いているようです)


(じゃあ……少ししたら治る?)


(はい。出来れば少し横になってもらった方がいいかと思われます)


「ありがとう……ゴメン。どこか休める場所無い? 安静にしろって言われちゃった」


「すぐにでも医者に……!」


「いや……寝てるだけで……いいって」


 クロッカと喋りながらも、浅い呼吸を何度も繰り返して気持ち悪さを軽減させる。ヤバい……本当に横になりたい。


「ゴメン……チョット休む……」


「ヘルバ!?」


 クロッカが俺の名前を叫んだのを最後に、俺の意識はそこで途切れるのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―夕方「リゾート地ガルシア・冒険者ギルド 執務室」―


「……うん?」


 目を開けると、見慣れない天井とそこそこ豪華なシャンデリアが見える。診療所とか病院……という訳では無さそうだ。


「ヘルバ起きた?」


 ドルチェの声に反応してそちらに首を傾ける。すると、クエストに参加している皆とフェインが揃っていた。さらに、そこから見える調度品を見て、ここがギルマスの執務室だと気付くのであった。


「チョット触らせてね」


 ドルチェがソファーから立ち上がって俺の近くまで来ると、そのまま俺のおでこに手を当てる。


「熱は……無いようだね」


「うん……単に精神攻撃を受けただけだから安心して」


「受けただけ……って、ダメでしょそれ?」


「一応、後遺症は残らないから大丈夫……」


(ちなみに……『淑女の嗜み』に含まれる精神耐性の効果でその程度なので、普通の人が喰らったら廃人確定です)


(全然、大丈夫じゃないよねそれ!? って……何で『淑女の嗜み』の中に精神耐性が含まれてるの?)


(えーと……少女漫画って、ヒロインが乏しめられて、そこから成り上がったりするじゃないですか……『脆弱な心じゃそんなの無理よね~www』って)


(あの邪神……ねえ、反旗を翻してみない?)


(はて? 私はただのアビリティです……それでは)


「あ、チョット!?」


 その後、何度か呼びかけるが返事は返って来なかった。あの邪神……いい部下を持ってるな。大切にして欲しい所であるが……あの性格である。もしかしたら、体を弄られて(ピー)や(バキューン)みたいな事をされてるんじゃ……セクハラだな。


(想像しないで下さい!)


 『ブツン!』という何かが切れる音がした。今度こそ、途切れたようだ……。しかし、『されていない』じゃなくて『想像しないで』か……ガチで反旗を翻しそうで心配である。


「ヘルバ、大丈夫?」


「あ、ゴメン……何か、色々知っちゃいけない事を、知っちゃったから……」


「あいつらそんなヤバいことを!?」


「違う違う。知っちゃいけないのはフリーズスキャールヴの能力についてで……とにかく、追加で話が聞けたんだけど、私のように精神耐性が高くない人が、あいつらを鑑定した場合廃人になる可能性があるって」


「え? 普通に出来たぞ? ボルトロス神聖国の上級兵らしく、なかなか高いステータスだったようだが……」


「そのステータス画面が儀装されてるか、見せても問題が無いような部分だったら精神攻撃が発動しないようになってるって……しかも、アビリティの出どころは普通じゃないって代物だよ」


「普通じゃないって……どういうことだ。結構、ヤバい内容なのか?」


 俺達の会話を聞いていた牙狼団のメンバーが渋い顔をする。これ以上、この話を聞いてしまえば、知らぬ存ぜぬで済まなくなるだろう。


「ええ、そうよ……あのボルトロス神聖国の裏の顔……その闇に触れる事になるわよ?」


「王家預かりの案件……か。なら、深くは訊かない事にしよう。命があってこそだしな。それで、捕らえた2人はこれからどうするんだ?」


「王都からその手のプロを呼んでるところだ。すまないがそれまでの間の見張りと、ギルドの警備をここにいる全員に頼みたい」


「私達だけってこと?」


「いや、事情を知っている者が数名いて欲しいだけだ。知っていると知らないでは、あいつらへの対応の差が出るからな」


「そうしたら……俺達の出番だな。ヘルバとモカレートを護衛するにも、女性特有の配慮とかあるしな……それなら同じ女性に任せたいところだ」


「そうしたら……ヘルバさんとモカレートさんの護衛はドルチェさんとココリスさんに任せてもいいですか?」


「その方がいいわね。どうせ今日はヘルバにはこのまま休養を取ってもらう予定だからコテージから離れる予定が無いし……周囲の警戒にはマンドレイク達とドルチェのナビゲーションによる周囲の探知も出来るから……2人もいいわよね?」


 ココリスがそう言って、ドルチェとモカレートに同意を求める。2人も特に意見が無いらしく、そのまま頷いてその案に乗る。


「じゃあ……決まりですね。そうしたら、私達はこのままここで見張りを続けます」


「じゃあ、私達はコテージに戻るわ。ヘルバの事もあるし……」


「いや? 大丈夫だけど……」


「女の子なんですから、体調には少し敏感になった方がいいわよ……って事で撤収するわ」


 ココリスがそう言ってコテージに帰ろうとする。俺もソファーから立ち上がって……。


「はーーい、ココリス……」


「よいしょ……っと」


 すると、手際よくドルチェが俺の体を起こし、そのままココリスが俺をおんぶする。


「過保護過ぎない!? 私、中身は結構いってるんだけど!?」


「はいはい……子供は大人しく守られてなさい……」


「……」


 何か……ウィードの頃と比べて皆が優しくなったような気がするのを再度実感する。そんな事を思いつつ、俺はココリスの背中に乗ったまま、コテージへと向けて運ばれていくのであった。

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