122草
前回のあらすじ「怪しい人物発見!」
―「リゾート地ガルシア・地元に人気のパスタ屋さん」―
「魚介類とトマトの酸味……うん。美味しい」
「それは良かった……でも、ヘルバって苦手な味とか無いのかしら? この位の子供なら好き嫌いとかあってもいい気がするんだけど……」
「どうだろう? 前は甘い物が苦手だったけど……今はそうじゃないしね」
お菓子は甘さ控えめだったり、ビター系の物を好んでいたのだが、今のこの体はハチミツたっぷりのホットケーキや、砂糖がたっぷり付いたディアマンクッキーといわれるクッキーとかも好んで食べれるようになっている。
「植物に転生させたお詫びとして、好みの味覚を広げてくれた……そんなところですかね?」
「あまい。あますぎるよモカレート……単に神様の趣向だよ。『美少女が美味しそうにお菓子を頬張るなんて可愛いじゃない』って、もっと単純な理由だよ」
「そうですか?」
「美女を獣化させたり、鳥にさせたり、太らせたり……あの神様の趣向は広いからな……それでいて、元の体に戻ってもそれらの副作用が無いっていうご都合主義だし」
俺はそう言って、パスタを頬張る。あの神様は可愛いとか、綺麗とか、エロとかを優遇する傾向がある。神様になった以上、自分の趣向をふんだんに凝らした世界にしたいのだろう。
「はは……ヘルバはアフロディーテ様に厳しいね」
「この位は問題ないはずだよ。それより……」
俺は隅にいる怪しい男達に視線を向ける。男達も食事中であり、まだこの店を出る様子は無い。
「モカレートって神殿に行きたいって言ってるけど……何か目的があるの?」
「はい。神殿内に出てくるモンスターの触手が欲しいのです」
触手と聞いて、俺は少しドキッとする。あの神殿に出てくるモンスターで触手と言ったら、タコやイカに似たヌルヌルとした触手……思わず、頭の中でそれらに絡めとられるモカレートを想像してしまった。
「それってどんなモンスターなの?」
「パラスラッグです! あの触手には……」
「ストォップ!!? 言わないで……それ以上は絶対に言っちゃダメ!!」
「ど、どうしたのよヘルバ? そんな大きな声を出して」
「うんうん」
2人は何事かと首を傾げている。しかし……もし、あのナメクジの触手……いや、あの蛍光色で目立つ目の部分がそれだったら……そんなの食事中に話す内容では無い。
「モカレート……食事中」
「あ。それもそうでしたね……後でお話ししますね」
こんな言い方で回避できるかどうか賭けだったが……上手くいったようだ。後でこっそり聞いて、本当に大丈夫な内容なのかを確認しなければ……。
「それで、ヘルバはどうなの。何か他に必要な物とか無いの?」
「今のところは要らないかな。あ、でも……商業ギルドに行きたいかな。そろそろラメルさんに納品しとかないと。そろそろ在庫とか無くなるだろうし」
「王都はいいの?」
「王都は、私が担当ですね。こちらに来る前に済ませてますからご安心を……あ、必要なら言って下さいね。ご用意しますので」
「ごふっ!?」
モカレートの言葉に過敏に反応するココリス。口に入れていた物が喉につっかえたようで咳き込んでしまった。
「あわわ……! ココリス、これ!」
それを見て、ドルチェがすぐさま水の入ったコップを渡す。ココリスはそれを受け取り、中に入った水を一気に飲み干してしまった。
「すいません……ジョークだったのですが……」
「いや、これはココリスが悪い」
「いやいや……あんな事を言われたら……」
「つまり……さっきの一瞬で、自分が淫らな姿でイッちゃったところまで想像したんでしょ?」
「イッてないわよ」
「そうなんだ……へえ~……」
「何か文句でも?」
「ううん? 何でも無いよ。ね、2人とも?」
俺はそう言って、ドルチェとモカレートに話を振る。2人は何が言いたいのか分かっているようだ。
「な、何よ……皆してどうかしたの? 何か変な事を言ってた?」
「えーと……つまり想像はしたんですよね?」
「へ?」
「やっぱり、そう思うよね? ココリスって意外にムッツリだったんだね」
「うんうん」
俺はドルチェの言葉に相槌を打つ。さっきの俺の言葉……本当なら『想像なんてしてないわよ』とか『な訳ないでしょ』とか言えば良かったのに、ココリスの返答は『イッてない』である。つまり、想像はしたということになる。
「違うから!? 言葉の綾だから……ね。それに……実際に体験したりしてるでしょ?」
「ふーーん……まあ、そういう事にしてあげる……神様の言葉を借りるなら『あなたがどう堕ちていくか愉しみに待っているわ』だね」
「ヘルバ……これ以上、言ったら……分かるわよね?」
「もちろん! だから、これ以上は言わないよ!」
そう言って、満面の笑みを浮かべる俺。真面目そうなココリスの淫らな姿……涎を垂らしながら、お待ちしております。という事で、ココリスをこれ以上、怒らせる気は無いのでこの話は終わりにする。それ以外にも理由が1つ……。
「モカレート。お使いに行っていた2人が帰って来たよ」
俺が話を終わりにした理由、それはモカレートの手紙を冒険者ギルドに持って行ったマーちゃん、ドーちゃんが帰って来たのだ。しかも、違う手紙を持った状態で。
「お使いお疲れ様……」
仕事をしてきた2人にお礼を言って、2人が持って来たお手紙を受け取るモカレート。モカレートはその手紙を広げ、皆が見やすいようにテーブルの中央に置く。そこに書かれていたの内容を読んでいくと、差出人はフェインであり、牙狼団とフォービスケッツの4人をすぐに呼び戻し、こちらに向かわせるという内容と、すぐには捕まえずに奴らの拠点、もしくはヴェントゥス・グリフォンを呼んだ何かを回収などをした時に行動するようにと書かれている。
「ふーーん……この頼みなら引き受けてもいいんじゃないかしら」
「そうだね。モカレートとヘルバはどうかな?」
ドルチェの問いに、俺とモカレートは静かに賛成する。その後、素早く昼食を食べ終えた俺達は、店を後にして、その近くで男達が店の外に出るまで静かに待つ。
「作戦会議だけど……どうする?」
「尾行は悟られないようにしないといけないから、1人が追跡したら、他の人達はその追跡している人の後ろを追いかけて、少ししたら最初の追跡者は横道に逸れて、次の人が追跡を始める。そして、最初の追跡者は服装や髪形を変えてから、一番後ろで前にいる他の追跡者達の後を追いかける……ってのがセオリーかな」
「「「……」」」
「どうしたの皆? 何か変な目で私を見てるけど……」
「あなた……もしかして、前世でそんな事を……」
「してないから。さっきの話は、テレビっていう……えーと……何て伝えればいいのかな。とりあえず、それ専門の探偵っていう職業の人達が話しているのを見たことがあるんだ。前世ではそんな情報を教えてくれる物があったの」
すると、ココリスが俺の首筋に手を当て、さらに俺の顔を見つめてくる。
「……嘘じゃなさそうね」
「『Yesロリータ! Noタッチ!』っていう言葉を心情に、決して恥ずかしい事はしてないからね!?」
「何その言葉?」
「女性に対して犯罪行為はしない事っていう意味だよ!」
俺はそう強く断言する。実際の意味は『少女は愛でるもの!』という意味なのだが……あながち間違っていないから大丈夫だろう。
「というより……仲間に嘘を吐いていないかを見分ける方法を使うなんて酷くないかな?」
「知ってたのね」
「推理漫画で知ったよ……それより、今の方法でいいかな?」
「もちろん!」
「そうしたら、私が最初にやりますね。この子達を連れて歩いたら目立つでしょうから」
「次は私ね……で、最後にドルチェとヘルバのコンビで」
「え、私とドルチェで別々にしないの? それだと効率悪くないかな」
「……あなた、一応護衛対象だからね?」
ココリスのその言葉に納得する俺。脅威はボルトロス神聖国だけじゃない。もしかしたら、今もこの瞬間、王都で開かれる展示会に出席する俺を邪魔しようとする誰かが見張っているのかもしれないのだ。1人でいるのは確かに危険だ。
「あ、出てきましたよ」
モカレートの声に反応して、店の方へと視線を向けると、2人が店から出て来て、どこかへと歩き始める。
「それじゃあ……行きますね」
そう言って、モカレートはマンドレイク達を連れて、男達の後を歩き始める。しばらくして、ココリスが少し離れた距離でその後ろに付いていき、さらにその後ろを俺達が付いていく。
「どこへ行くのかな?」
「さあ? 今の状況だと色々想像できるから分からないかな」
ドルチェの疑問に、俺はそう答えるのであった。