121草
前回のあらすじ「主人公の名前が変わる暴挙発生」
―翌日「リゾート地ガルシア・高級リゾート地 コテージ」―
「それでは私達は街から近い、南の海岸を調査しに行きますね」
「ええ。私達はヘルバとモカレートの護衛兼、街中に不審な物が無いか調査するわ」
朝御飯を終え、皆がそれぞれの仕事に入る。フォービスケッツの4人はガルシア近辺の調査を牙狼団のメンバーと一緒に行い、俺達は足りない調合器具の購入と、街中の調査を行う事になった。
「じゃあ、さっそく出掛けますか」
俺達はコテージを後にし、ガルシアの街へと繰り出す。海の見える道を歩き、そのままお店のある通りへと向かう。
「うん……海風が気持ちいいですね」
「この子達はそうじゃないけどね」
モカレートが海風で揺れる髪を押さえながら、王都では珍しい景色である海を眺めている中、その後ろを歩いているマンドレイク達は元気が無い。心なしか頭の草が萎れている気がする。
「塩害に弱いのね」
「コテージに向かう時も、同じように元気がありませんでしたね……もう少し海から離れるか、室内に入れば元気になるんですが……」
「あれ? ヘルバも植物の要素があるけど……平気なの?」
「大丈夫だよ。海の中に入っても、力が抜けるとか無かったし」
「塩害に強い品種なんですかね?」
「品種って表現は少し気になるけど……まあ、そうかもしれないね」
少しペースの遅いマンドレイク達に合わせて移動すること10分。お店が立ち並ぶ通りへとやって来る。その頃にはマンドレイク達もすっかり元気になっていた。
「それで、ヘルバはどこで道具を集めたんですか?」
「ダーフリー商会の支店があって、そこで揃えたんだ。せっかく、こんな便利なカードもあるしね」
俺は収納から1枚のカードを取り出す。そこに書かれているのは『ダーフリーお買物券』。限られたお得意様に与えられるカードであり、これを従業員に見せれば色々とサービスをしてくれるという便利カードである。
これはインスーラ侯爵が起こした様々な妨害行為を解決してくれたお礼として、俺達が王都のダーフリー商会に訪れたタイミングでダーフリーから直接受け取っていた。本来なら、ある一定の規定を満たす常連客に渡される物だとのことだ。
「一般に販売されていない品も、これを見せれば見せてくれるからね……本当にありがたいカードだよ」
そういう理由もあり、俺達はダーフリー商会・ガルシア支店へとやって来て、モカレートのアドバイス通りに足りない品々を買い足していく。他にも、このガルシアで採れる珍しい薬草、海の中で採れた海藻……ちょっと変わった色をした石なども見せてもらう。
「これ……石だけど、薬に使えるの?」
「うん。粉状にした後、2種類の薬草と一緒に混ぜて薬になるんだけど、日光や海風でダメージを受けた肌を回復させる効果があるの。もしかしたら、組み合わせ次第ではシミや皺の治療薬としても使える可能性が……」
「ヘルバ。出来たらぜひ売ってちょうだい。そのためなら素材も狩ってきてもいいわ」
シミや皺と聞いた途端に、えらく食いつくココリス。見た目からして、まだまだ不要な物だと思うのだが……。
「あくまで可能性だからね? それにダーフリー商会でも一般に流通していない品だから、入手は困難かもしれないよ?」
「それでも……今から研究するに越したことは無いでしょ? 今からやれば、私がもっと歳を取った時には完成品が……!」
「ココリスの言う通り! まだ若いから大丈夫は遅いの! 今から対策していくことが大切なんだよ……ヘルバも女の子なんだから気を付けた方がいいよ!」
「は、はい……」
ココリスだけではなく、ドルチェも話に混ざり、シミ・皺の治療薬の大切さを説かれる。俺の横にいるモカレートも頷きながら、2人の話を聴いているので、薬の開発には賛成のようだ。
「分かったから……材料が見つかったら作ってあげるから」
「頼んだわよ!」
「期待しているね」
2人が目をキラキラ輝かせながら、シミ・皺の治療薬作成を応援してくる。出来るかは分からないのだが……しょうがない。肌の調子を整え、肌組織を修復する薬というのを作ってみるとしよう。
「すぐには無理だから、気長に待ってね……あ、店員さん! 他に探している物があるんですけど……」
そんな、一幕もありつつ、ダーフリー商会での買い物を終える俺達。店を後にして、今度は掘り出し物が無いか、露店が出ている区画までやって来て確認をしていく。
「スキャン」
そして、忘れずに街中に不審な物が無いかをスキャンを使用して確認していく。
「あれ? ヘルバ……その目の魔法陣どうしたの?」
「うん? ああ……これ? 昨日、薬の作成をしている最中にレベルアップしたんだよね。多分その恩恵だと思うよ」
スキャンを使用すると、どちらか一方の目に現れるモノクル型の魔法陣。今までは周辺の情報が手あたり次第に表示されていたが、今度はリスト型になっており、自分の意識、または魔法陣に直に触れて上下に操作して、調べたい物を選択するということが可能になり、また視界に映る物を絞って調べたりするということも可能になった。
「アビリティを使用してるのがバレちゃうけど、何かこっちの方がしっくりと来るんだよね……ウィードの時は気にしなかったけどね」
そんな話をしながら、俺は魔法陣に触れてスキャンの能力を調整をしていく。ありふれた食材やモンスターの素材などの情報は表示されないように調整していく。一番いいのは『邪悪な気配を察知』とか『呪われた道具』とか、何かそれっぽい物を検知するという設定が出来ればいいが……そこまでの機能は無いようだ。
「何かありましたか?」
「特に変わった物は無さそうだね」
リストを確認するが、その中に気になるような物は1つも無かった。まあ、こんな街中でそんな物が堂々とあっては困るのだが……。
「そういえば、今日のお昼はどこで取ろうか? モカレートは何か食べたい物がある?」
「やっぱり海産物ですね。せっかく海に来たのですし」
「あ、それならこの先にあるパスタ屋さんに行ってみたい。皆が食べてたペスカトーレを食べてみたいと思ってたんだよね。あの時は草wwwだけど、今なら食べれる!」
「いいわね。そうしたら、そこでお昼にしましょうか」
俺達は露店の物を物色しながら、目的のパスタ屋さん向かう。ヴェントゥス・グリフォンが討伐されたおかげなのか、ダンジョン目的の冒険者やバカンスに来た旅行客が増えた気がする。中には店主とお客が口論している姿もあったりするが、他の露店の店主達が心配していないところを見るとそれが通常らしい。口論内容もよく聞いてみると、値切りの交渉という事が分かる。
そんなガルシアの本来の様子を感じながら、目的のパスタ屋さんに到着する。中に入ると、前に来た時より人が多い気がする。店員に案内され席に着いた所で、店内のお客をよく確認すると、冒険者達も多くいる気がする。
「冒険者が多いね」
「ヴェントゥス・グリフォンのせいで、海底神殿の素材が品薄で買取が高くなってるのよ。ここにいる冒険者達はそれ狙いね」
「ふーーん……」
ココリスの説明に相槌を打ちながら、周囲を見渡す俺。すると……1組の男達が目に入る。彼らも冒険者なのだろう。身なりもそれっぽいし、武器も……うん?
「ヘルバ、どうかしたの?」
「ううん……いや、その……」
スキャンを発動させたまま見ていたので、男達の武器についての解析されてしまったのだが……その内容が少し気になる。フリーズスキャールヴを使用すれば男達の素性も分かるのだろうが……もし、アビリティを使用しているとバレたら何をするか分かったものじゃないので、迂闊には掛けられない。
「えーと……そうだ」
俺はステータス画面を開き、久しぶりのログ画面を開く。そこに男達につてい気になることを書いていく。
(隅の席の冒険者2人組の剣、ボルトロス神聖国製で上級兵に与えられる物)
それを見た3人は、すぐさまそちらへと目線を向けることはせずに、3人はすぐさまメニューを開き、談笑しながら男達の様子を伺う。
(念話で会話した方がいいかな?)
俺がログ機能を使い、皆に質問すると全員が『子供なんだから止めときなさい』と言って、念話を使わないようにと示唆する。
「それなら……この料理は止めよかな……」
皆が話しているのに、何も話さないというのはあまりにも不自然なので、無難な内容で、俺も会話に混じる。
「それなら……やっぱりこのペスカトーレかな。皆が食べていたから気になっていたし」
(フリーズスキャールヴはまだ使わない方がいいよね?)
ログ画面には本当に伝えたい内容を書くと、今度はココリスが『そうしておきなさい』と言うので、指示通りにフリーズスキャールヴを使用するのを止めとく。
「マーちゃん、ドーちゃん。これを冒険者ギルドの職員さんに渡して来てもらっていいかしら?」
モカレートが2匹のマンドレイクに、手紙を手渡してそれを届けるように伝える。2匹のマンドレイク達は、手紙を持って素早く店内を後にする。
「あの子達が戻る前に、食事を済ませておかないと……この後、神殿に下見に行きたいですしね」
そう言って、メニューを確認するモカレート。つまり、あの子達が増援を連れてくると言いたいのだろう。
「そうね……なら、私はこれにしようかしら」
「じゃあ、私はこっち……店員さん! 注文お願いしまーす!」
ドルチェが店員を呼んで、皆の注文内容を伝えていく。その間、俺達3人は男達が何か変な事をしないか注意する。
(んーちゃん……どうする? 床で寝てるけど……?)
モカレートが一度んーちゃんに目線を向けるが、そのまま柔らかい笑顔を浮かべて、何もしなくていいと伝えるのであった。




