119草
前回のあらすじ「スタミナ回復完了!」
―「リゾート地ガルシア・高級リゾート地 コテージ」―
「ギルドマスター……ご飯粒取ってから話してください」
「おっと……すまない」
ココリスに指摘され、『これは、すまない!』と笑顔で答えながら口周りを綺麗にするフェイン。錚々たるメンバーからの依頼だというのに、緊張や動揺という素振りが無い。そこから察するに、そこまで大した依頼では無いのだろうか?
そんな事を考えながらフェインの様子を見ていると、身支度が整ったようで持って来た封筒から一枚の書類をテーブルの上に置き、皆の視線がそちらに向いたところで話を始めた。
「では、依頼内容だが……複数の依頼を同時にこなす多重依頼だ」
「多重依頼……?」
俺以外の皆は知ってると思い、ドルチェに尋ねようとしたら、そのドルチェも分からないらしく頭を拈っていた。まさかと思い、他の皆も見ると同じように頭を拈ったり、互いに顔を合わせて聞いたことがあるかどうか確認し合ったりしていた。その反応にフェインはすぐさま説明に入る。
「皆が知らなくて当然だ。俺もこのような依頼を扱ったのは初めてでな。下手すると、一生このような依頼を扱わずに定年になるギルマスもいるくらいだしな」
「かなり珍しい依頼ってこと?」
「ウィードの言う通りだ。だが、これ自体は難しい話じゃ無くてな……この多重依頼は複数の指名依頼を1つの依頼として扱い、それぞれの依頼をこなしてもらうという物になる。そのため、報酬もそれぞれの依頼者から払われる仕組みになっている。この依頼……全部こなした場合には総額で金貨300枚ほどになるはずだ。もし成果が良ければ、さらに報酬を弾む約束もしている」
「常時依頼なら複数こなす事があるが……受注系の依頼は基本的に1つじゃないのか?」
「基本的にはな……しかし、今回の複数の指名依頼はこのガルシアでこなせると俺を含めたギルマスが判断してな。依頼者達の了承の元、多重依頼として発注させてもらったって訳さ。そして……依頼内容だが、全部で3つだ」
そう言って、テーブルに置いた書類に手を当てて、フェインが説明を始める
「まず1つ目は、ヴェントゥス・グリフォンがこのガルシアに来た原因の調査だ」
「原因……ですか? ヴェントゥス・グリフォンがたまたまここに来たとかじゃなくて?」
「この依頼は王家と教会が、フォービスケッツとウィード達のパーティーに向けて出した指名依頼だ。ウィードに『この件で不穏な力が働いた可能性がある。念のために調べてちょうだい』と伝えればいいと、言われているんだが……」
フェインのその説明で理解した。これはアフロディーテ様からの依頼だ。となると……あのヴェントゥス・グリフォンはアフロディーテ様が用意した訳では無く、単にタイミングが良かっただけなのか。
「このガルシアに怪しい何か、もしくは出来事が無かったかを探し出して欲しい……それが有力だと思われる情報、または物体だったら1つに付き報酬を払うそうだ」
「大分、ざっくりしてるな……」
「どんどん行くぞ。次は建国祭に向けて、貴重な素材を集めて欲しい……これは有力貴族達と商業ギルドからだな」
「あれ? 建国祭って……再来月ですよね? 今から素材集めですか?」
「今回の素材回収は、来年に向けての素材回収だ。建国祭に向けての準備の多くは1年前から初めるからな……だから、素材回収はそれよりももっと早くに行われるって訳さ」
「建国祭って?」
「このホルツ王国の建国日を祝って行われる祭りだよ。パレードや催し物が数日間行われて、とても賑やかになるんだ……で、その中に国内の技術力発展のための展示や発表会があるんだけど……ギルマスの依頼はこれだね」
「なるほど……見世物としての意味だけじゃなくて、技術者を支援している商会や貴族は自身の名前を売る事が出来るし、国内の優秀な技術者達の発掘、さらに競争させる場を設けることで、技術力の向上を図る……なかなか美味しい催しものだね」
この建国祭を盛り上げる以外にも、最先端の技術として発表して売り出すことで、国民の持つお金を使わせて国内のお金の流れを円滑にしたり、国の威信を国内外に知らしめるという、内政の面でも美味しい意味があるのだろうな……と思ったりするが、確証は無いので黙っておく。
「そして……3つ目だが、ドルチェ譲が話してくれたその発表会に出席するある人物の護衛だ。この人物は王家からの推薦……特別枠扱いだ」
「特別枠……その技術力が他と一線を画すため、公平な審査を維持するために王家の判断で用意される枠の事ね……で、そこのお嬢さんを守ればいいのかしら?」
ココリスはそう言って、俺に向かって指を差す。
「え? 特別枠って私?」
「そうだ。これを預かっている」
フェインが蝋で封がされた手紙を俺に渡す。その蝋にはボーデン王家の紋章が入っており、これが王家……つまりアレスター王からの招待状だと示している。俺はその手紙を受け取り、手紙の中身を拝見する。
「万能薬wwwの展示。それとそのレシピの公開……場所を設けるって話だったけど、これのことだったんだ」
このガルシアに来る前に、アレスター王からこっそり打診があったのを思い出す。姿を見せなくてもいいという条件で了承していたが……。
「1つでどんな状態異常も回復する薬の事か……お前さんがその作成者だったとはな。そんな物のレシピを公に発表していいのか?」
「うん。他の薬を作って納品しないといけないし……冒険者からしたら、激マズだけどこんなに便利な薬が安値で買えた方がいいでしょ? それに……依頼の成功率が上がれば、それだけ薬の素材も流通するしね」
「なるほど……」
俺の理由に納得するフェイン。今、言った理由の他に、俺は自身のアビリティのおかげで、薬の作成に素材は必要ない……が、薬の作成には手間暇が掛かるのだ。この体になって睡眠も必要になったために、前のように毎晩、夜なべすることも出来ない以上、他の薬師にも作ってもらい、俺の負担を軽減させておかないといけない……1日中、薬を作るだけの仕事をするつもりは無いのだ。
「これら全ての依頼はフォービスケッツとウィード達に向けての物なのだが、護衛に調査となると、かなり忙しくなってしまうからな……そこで牙狼団とモカレートという冒険者にその手伝いをしてもらいたい」
「モカレートは王都にいるはずだけど?」
「今、こちらに向かっている。馬車じゃなくストラティオに乗って移動しているから、明後日には着くはず……到着次第、モカレートにはウィードの手伝いをメインに付いてもらう予定だ」
「何か……過保護な気がする」
総勢11名の冒険者が、他の事もやりながら、俺を護衛してくれるという事になる。しかも、モカレートはマンドラゴラを6匹も使役しており、さらに俺も戦えるのだ。過剰戦力と感じてもおかしくない……。
「……フェイン。この依頼だけど、何か特筆すべき注意点があるよね? じゃなかったら、ここまでの戦力を用意しないよね?」
「流石だな。お前さんの言う通りで、少々、厄介事がある。反王政派の連中が、万能薬wwwの作成者を探していてな……それを作れるモカレートも何者かに狙われた」
「襲われたの!?」
「ああ……とはいってもだ。モカレートは単独でAランクの冒険者になった実力者だからな、難なく返り討ちにしたそうだ。しかし、そんな状況では落ち着いて薬師の仕事が出来ないからな……こちらに来て、ウィードと一緒に薬師の仕事をしてもらう事にしてもらった訳さ」
俺はそれを聞いて、モカレートに申し訳なく思ってしまう。彼女は俺と違い、薬師が本業である。俺の問題で、本業に支障をきたしてしまうとは……。
「誰が指示を出しているかは分かったのかしら?」
「まだだ。何せウィードがインスーラ侯爵家の取潰しに関わった人物だという事もあって、それを逆恨みしている連中もいるそうでな。今回の発表会への招待……双方からしたら、面白く無い話だろうな」
「勝手だね……」
飛んだとばっちりである。確かに、インスーラ侯爵家が取潰しになる要因の1つとなる証拠を提出している。しかし、それ以外にもそうなるような要因はあったし、他にも悪事の証拠が見つかっている。俺達だけが原因とは言い掛かりである。
「大丈夫ですよ……ウィードさん。だから、そんな顔をしないで下さい」
そう言って、クロッカがソファーを挟んだ状態で、背中から俺に抱き着く。いつものような抱き着き方ではなく、優しく抱き着いてくれており、本当に俺の事を心配してくれているようだ。
「大船に乗ったつもりで任せてくれ! 牙狼団の名に掛けて、ウィードとモカレートの両名を守ってやる。こんな美味しいメシを作れる奴がいなくなるのは、冒険者にとっては大きな損失だしな!」
『ガハハ!』と笑いながら、俺を元気付けるベルウルフ。他の皆も同じような言葉を掛けてくれるお陰で、少しだけ気が楽になる。
「皆で守りますから……そして……二度とそんな事が出来ないように(バキューン!)や(放送禁止用語です)をして、人生を破滅させてあげますから……」
「兵士さーーん! 危険人物がここにいまーーす!」
俺がそう叫ぶと、危険なセリフを言ったクロッカも含めた皆から笑いが起きる。どうやら俺を元気づけるためのにあんな事を言ったようだ……そんな皆の気づかいに感謝しながら、俺は明日からの仕事を頑張ろうと思うのであった。




