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12/208

11草

前回のあらすじ「草が草の採取をする」


*8/22 誤字修正しました。

*12/25 ご指摘を受けて、矛盾する箇所を修正しました。

―次の日の夕方「城壁都市バリスリー・花の宿プリムラ プライベートガーデン」―


(へえ~……この宿、こんな場所もあるんだな)


「冒険者って体を動かしたりしたい時があるので~~。こんな風に誰にも見られずに動かせる場所を設けたの~~」


ここは花の宿プリムラにあるプライベートガーデンで、ここも色とりどりの花が咲いている。しかし、建物を見るとここを覗ける窓とかは無く、入り口も入って来た扉が一つだけである。また、周囲から覗けないように高い植物の外壁が覆っている。


(でも、覗けるんじゃ?)


「そんな事をしたら……」


 ココリスが適当な小石を外壁の上に向けて軽く投げる。すると、小石がパンッ!と音を立てて消失する。


(殺傷能力高過ぎ!!死ぬぞ!!)


「大丈夫。人が当たっても頭がアフロになるだけだから♪」


(それ……本当に大丈夫なのか?)


「大丈夫だって。そもそもその前のトラップに麻痺や眠り、催涙……他にも色々なトラップが仕掛けられてるから。あの攻撃は最終防衛よ」


 異世界のセキュリティは相手を殺しにかかってるな……。と、何で俺達がこんな所にいるかというと、その前に今日は何をしていたかというと、昨日と同じ仕事をしていた。それだから薬草採取をして、ラメルさんの所に薬の搬入をして……それからここに来た。そしてここでこれからやることは二人の鍛錬だ。二人の格好はトレーニングしやすいようなウェアを着ている。ちなみに今の俺はここの庭に埋めてもらっている。二人が特訓中、俺も薬を作ったり、魔法の練習をしようかと思っている。


「それじゃあ……いいかしら?」


(分かった……ほい)


 俺は肥満薬と混乱薬を用意してあったコップに入れる。


(混乱薬は飲んだら、軽い恐慌状態になる。それでこっちの肥満薬は……一回り程太るんだが……いいのか?もう少し軽度のぽっちゃり程度があるけど?)


 今回、用意したのはラメルさんが飲んだのと同じでぽっちゃりと肥満の間ぐらいの薬になる。


「今日はお試しだから問題無いわ」


「それでも、ウィードの言うように一番軽いものからでいいと思うんだけど?」


 ドルチェは毒を慣らすために一番薄い物を選んでいる。それが普通だと思うのだが。


「ウィードが来る前は、私達は荷物を背負いながら戦ったりしてたのよ?今さら軽く負荷を掛ける程度じゃ訓練にならないわ」


 ココリスはそう言って、コップに入った肥満薬を一気に飲み干す。ドルチェもそれを見て同じように自分のを飲む。


「う!……う~~ん……」


 ドルチェがその場に座り込んでしまう。そのまま、怖くない怖くない……あんな箱モンスター……。とブツブツ独り言を言い始める。昨日、話していたミミックの事だろうか?


「うっ!?」


 ココリスの声が聞こえたので、そちらを見るとお腹が妊婦を思わせるように膨らんでいた。そして、そのまま全体的に膨らんでいく。着ていたウェアは伸縮に優れているのだろう。破れることなくその体を包み込んでいく。変化が終わった体型はぽっちゃりというには肉が付き過ぎな気がする。今の体に興味深々なのかそのふっくらとした手で体のあっちこっちを触っている。


「凄いわね……こんな体になったのは久しぶりかしら……」


(久しぶり?)


「気にしないで頂戴……はっ!」


 その場で軽く準備運動をしてたココリスが、呼吸を整えて、まずは手始めに蹴りを繰り出す。ムチムチとした体なのにその蹴りは鋭い。


「いい重りね」


(重り……脱げなくなるかもしれない重りなんて俺は勘弁だな)


 ココリスをこんな姿にした薬を作った製作者が、こんなことを言うのも何なのだが……。


「逆に痩身薬があるから、それを飲めば……」


(ラメルさんと同じことを言うなよ!?)


 対になる薬があるからといって、安心せずに不安がって欲しい。


「とりあえずは基本動作をこなしてみようかな……」


 そして、そのまま体を動かし始めるココリス。全身の肉がフルフルと震えてるが、その動きは軽やかでとてもついさっき太った人とは思えない。


「逃げちゃダメだ……逃げちゃダメだ……」


何かドルチェが、どこかの少年のセリフを言っているが……たまたまだよな?そのままドルチェは足を抱えたまま横になってしまった。


(……さて、俺も自分の特訓をするか)


 二人の様子を粗方、確認したところで俺も水属性と調合の練習をする。


(ウォーターホイール!)


 水で出来た回転刃を置いてある標的に当てる。標的は土を厚く盛った物なので、間違っても板垣の外へと出る事は無いだろう。ちなみに魔法は創意工夫次第で色々な形で放てる。刃状に飛ばせばカッターとして、今の俺みたいに回転刃で飛ばせばホイール……。


(ウォータードラゴン!!)


 と、ここまでの段階を踏んでみて、一度、水を龍の形にして放てないか試す……が、一瞬だけ形を保ったがすぐに崩れて地面を濡らすだけになってしまった。複雑な形に動きとなると、練習だったりドルチェみたいに杖などの武器などが必要と聞いていたので、ここまでは予想通りだろう。


(うーん……どこまで難しい形がいけるかな……?)


 俺はその後、様々な形を試す。ライオンに犬、猫に魚などなど色々と試す。


(鳥はいけたけど……イマイチだな)


 鳥はカラスみたいな形にして飛ばすことが出来た。しかし、威力ならカッターやホイールなどの方が優秀だ。


(精密なコントロールが必要だから練習にはいいかもしれないけど……単純な形の方がいいのか……?)


 その考えが正しいなら、大量の水を津波のごとく放出するダイダルウェーブとか、地面を滑らせるように刃を飛ばすアクアウェーブとか……そんなのがいいのかな。


「な……何をしてる……の?」


 少し慣れてきたのかドルチェが、俺の練習風景を見て訊いてきた。


(あっちの世界だと、動物状にした水を飛ばして攻撃とかが漫画やゲームにあったから真似できないかなって思ったんだけど……効率が悪い)


「複雑な形は……止めといた方が……いい……よ」


(おーい。無理しなくていいぞ。ミミックは怖いだろう?)


「それは頑張って……克服した……と思う……今は……体重……が」


 ドルチェの目線がココリスへと向けられる。そこには大分汗をかいている太ったココリスの姿が……。


(あ~なるほど)


「うん?何か言った?」


 ココリスに聞こえたようで、こちらを振り向きながら回し蹴りを繰り出している。


(いや。何でもない。それより膝は大丈夫か?大分、負担が大きいと思うんだが?)


「大丈夫よ。そんな軟な鍛え方はしてないわっと!!」


 その場でジャンプして左、右と蹴りを繰り出し……尻もちを付く。


「イタタ……やっぱり、お腹のこれは邪魔ね」


 そのまま、自分の大きくなった胸とお腹の肉を触るココリス。蹴りは鋭く、早かった。けど、お腹の贅肉のせいで上に上がりきっていなかった。


「練習にはこのくらいが限度かしら」


(あまり太っても、それはそれで足が上がらなくなるぞ)


「それもそうね」


 ココリスはお腹を触るのを止めて、素早く立ち上がって再び練習を開始する。


「うーーん……贅肉が……お腹が……」


 今度は太ることに恐怖を覚えているドルチェ。混乱に陥るとこんな風に目まぐるしく恐怖が襲い掛かってくるのか……。


(……さてと、他の魔法も試すか)


 俺はそのまま次に考えていた魔法を放つのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―2時間後「城壁都市バリスリー・花の宿プリムラ 食堂」―


「やっぱりウィードの薬は便利かも……混乱の耐性が手に入ったよ」


「私もいい練習になったわ」


 食堂で食事をしつつ、先ほどの特訓を思い返す俺達。実際の特訓は二人の変化が終わって元に戻ったタイミングで終わりにした。時間としては30分程度だった。その後、二人は汗を流すためにお風呂に、俺はリリーさんの手によって食堂に運ばれて、二人が来るまでリリーさんの話し相手をしていた。リリーさんの話をしていて分かったことがあって、すでに彼女は既婚者で旦那さんは仕事で1週間ほど留守にしているとのこと。明後日には帰ってくるそうだ。


(そんな方法で取れるなら状態異常を与える薬って便利かもな……というか普通に売っている薬を飲めばいいんじゃないか?)


「……無理かな。薬を薬師に頼むとお値段が」


「今なら問題無いかもしれないけど……」


(高いのか?)


「大量に作る方法もあるのだけど、それだと微妙な調整が出来ないみたいなの」


「慣れるための薬とかを作るぐらいなら回復薬を作った方が早いし売れるわ。ってラメルさんも言ってた」


(そうなのか?何か耐性を付けた方が便利な気もするんだけどな)


「確実に手に入るかも怪しいし、耐性があったとしても実戦レベルまでに上げるには時間も労力も必要だからね。それだけに集中すると他が疎かになるし」


(なるほどな)


 食後のお茶を飲みながら談笑する俺達。他のお客は既に自分達の部屋に戻っていて、ここには俺達しかいない。


「っと、そろそろ休みましょうか」


「うん。いよいよ明日はアルヒの洞窟だね」


(ダンジョン……楽しみだぜ!)


草である俺は心の中で握りこぶしを作る。


「頑張って稼ぐとしましょう!」


「うん!」


(おーー!!)


明日はいよいよダンジョン探索……楽しみだぜ!これで草じゃ無ければ、ワクワクで眠れずにいたのかもしれないと俺は思うのだった。

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