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117草

前回のあらすじ「海でキャッキャウフフした」

―翌日「リゾート地ガルシア・街から少し離れた場所にある砂浜」―


「へえー……こんな場所もあったんだね」


「当然だよ。あまり町が多すぎると維持管理が大変だからね……こんな風に雰囲気のいいビーチであったとしても、そのままって事があるんだよね」


 海で遊んだ翌日、俺はアマレッティと2人で街の外にある砂浜へやって来る。目の前には透明度の高い青い海、近くには人の手が加わっていない森と川があり、薬草などの採取も一緒に出来る。


「で、どうする? さっそくモンスターを探すのかい?」


「チョット待って……」


 俺は自分の装備を確認する。今の装備はアマレッティに近い格好であり、上は布の胸当てに下はハーフパンツ、手は肘まで覆う薄いグローブ、足はブーツとニーハイソックスを着用している。


「もう少し下げてと……」


 俺は違和感があった物が入れられるバックが付いたベルトを整えた所で、俺の準備が完了する。


「武器は?」


「収納してる。あんまり体力を消耗しないようにしないと……」


 肉体を得てから4日……若さゆえの体力はあるが、全く鍛えていない体である。なるべく重い物はしまって、身軽にしておいた方がいいだろう。


「持った方が鍛えられるんじゃないのかい?」


「それならもっと安全な場所でやるかな。今日は今の体でどれだけやれるか試すのと……後はドルチェとガレットの2人に何かお土産を持っていきたいところなんだよね……」


「お土産?」


「そうそう……何か疲れに効果のある素材とかが手に入ればいいんだけど……」


「何か当てはあるんかい?」


「あるんだけど……どうなんだろう?」


「何だいそれ? 当てがあって来たんじゃ……?」


「当てはあるんだけど……前世の記憶だよりなんだよね」


 ここに来る前、冒険者ギルドで近場の狩場を教えてもらっている。この見た目のため……まあ、一悶着があったが、それはいいとして……とにかく、教えてもらった中でここら辺に出てくるあるモンスターが俺の予想通りの奴なら、滋養強壮のある食材のはずだ。


「狙うは……()()()()()()()! 前世でもあまり味わえなかったあの味をもう一度!」


「ポイズンって……食えねえよ!? あんな蛇みたいなにょろにょろして、毒持ちのモンスターじゃないかい! 2人に何を食わそうとしてるんだよ!? 」


「え……鰻重? 前世の通りなら一食銀貨5枚とかの高級品なんだけど?」


「高級品? いやいや……毒系の薬に使う素材じゃないのか?」


 首を傾けるアマレッティ。確かに名前の通りなら毒ウナギで食べれないとは思うが……そもそも前世のウナギにも毒があって、ちゃんと下拵えしないと食中毒を引き起こす食材である。


「前世のウナギも毒持ちだよ。アレって血に毒があるんだけど、しっかりと加熱すれば大丈夫……のはず」


「ダメだった場合は?」


「デレク・オクトパスを狙う! たこ焼きが食べたい!」


「どっちもヌルヌルしてるじゃないかい!? やだよ!? タコってあのビジュアル最悪なあのタコだよな!?」


 はて、イポメニの古代神殿で戦ったミョンダコもタコなのだが……あれはカウントされていないのか? まあ、戦ってる姿を見ていたがヌルヌルとした感じは無さそうではあったが……。


「前世だと、『悪魔の使いだから食べてはダメ』って地域もあったけど……安心して。私が美味しく調理するから!」


「……うち食べれないかも」


「ゴカイを入れるんじゃないから安心してよ……」


 どこかの作り話で、タコの替わりにゴカイと言われる生き物で作られたたこ焼きを客に食べさせるという話を思い出し……あの見た目と比べたらカワイイだろうと思って、ついうっかり口にしてしまう。


「それ……どんな見た目のやつ?」


「ミミズに剛毛が付いたようなやつ……魚の釣り餌だけど、食用にも出来て……確か貝のような味らしいよ」


「止めて……絶対にヤメテ……何か今日のお昼とかも喉を通らなくなりそう……」


「そんな事を言ったら……」


「止めてくれウィードの旦那!? これ以上は……本当に食欲がなくなるから!」


 そう言って、アマレッティは自分の猫耳を押さえて、こちらの声が聞こえないようにしてしまう。まあ、普通の耳もあるので、そちらから丸聞こえだろうが。


「イカは大丈夫なのに……何でタコはダメなんだろう?」


 一昨日の祝勝会では、クラーケンのゲソを使用した料理が出されており、アマレッティも美味しそうに食べていた。それを考えれば、タコも変わらないような気がするのだが……。


「まあ、いいや……」


 俺は気を取り直して、周囲にそれらのモンスターがいないかを確かめる。両方ともモンスターなのだが、見た目は前世の時と変わらないビジュアルをしており、サイズもほとんど同じだそうだ。


「アマレッティの言う通りで、薬としての価値があるくらいだから、他の冒険者も率先して取るような事はしないらしいけど……」


 俺は海辺の方を念入りに確認する。今回、探しているこの2体のモンスターは、この近くの海辺で見つかっているというだけの情報なので、後は根気よく探していくしかない。とりあえず、近くの岩陰に身を潜めていないかを確認していく。


「……ウィードの旦那、1つ訊いていいかい?」


「ん? なに?」


「どうして今回単独行動を取ろうとしたんだい? 自分の出来る事を知りたいだけっていうには、早急じゃないんかい?」


「……うん。私もそう思う」


「思う……? 変なことを言ってないか?」


「そうだよ」


 色々理由を付けているが……自分の正直な気持ちは多分これだ。


「特に理由なく、こうやって外を歩きたかった……ただ、それだけかな」


 俺の答えを聞いて、静かに頷いて納得するアマレッティ。俺はおよそ1年間、自分の意思でこうやって駆け回る事が出来なかった。だから……今はどんな理由でもいい。自由に外を歩きたかった。ただ、それだけの理由である。


「あれ? それなら街中でも良かったんじゃ……」


「モンスターより恐ろしく、罪を犯すまでは法で守られている野郎という魔獣が蔓延る町の中を歩けと?」


 俺はそう言って、自分の胸を寄せるように腕組をする。ムギュっとされた胸は服の上からでも分かるくらいに深い谷間を作り出す。


「ははは! ウィードの旦那も変態どもには警戒するか!! まあ……確かにこんな立派な物を持っていたらね……」


 アマレッティは俺に近付いて、躊躇なく俺の胸に触れてくる。しかし……この前の狂乱状態だったドルチェやガレットのような嫌らしさは無く、物珍しそうに触っていて、今度は後ろに回り込んでから持ち上げるように触ったりしている。そのアマレッティの行動に、何となくエロゲ―とかでよくある『うわ~……○○ちゃん。胸大きい!』というシーンを彷彿させる。


「これで、獣化して猫耳と尻尾があれば、確実に襲われるんじゃないのかい?」


「否定しない。そもそも私が襲ってたかも……」


 何せ自分が望んだ女性像なのだ。それを目の当りにしたら……。


「紳士的に対応してもアウトじゃないのかい?」


「もちろん。一発で牢屋行きだね」


 俺はそう言って、クスクスと笑う。すると、アマレッティも俺の胸から手を離して一緒に笑い出す。


「まあ……今だと合法で触れられるんじゃないかい? 私みたいにさ」


「そうしたいところけど……私の性格上、無理かな。でも……魅了の状態異常下なら……」


「でも……ウィードの旦那はそれを好きに出来るんだろう? それのせいに出来ないんじゃないかい?」


「……やっぱり、私にアマレッティのような行動は取れないかも……よっ!」


 俺はとっさに髪を使って、目に入ったある物を捕える。8本の足を使って逃れようとしているが……こっちは無数の触手化した髪である。負けるはずが無い。


「旦那……本当に食うんかいこれ?」


「うん。タコは優秀な食材だからね。疲労回復にもいいし、健康面でも効果のあるいい食材だよ。生でも食べれるけど……上手く調理出来ないから下茹でして食べる用だね」


「生!?」


「前世だと魚を生で食べる習慣があったよ。食中毒予防として、ワサビやショウガにシソなどの薬味を付けて食べてたし」


「……え? それ大丈夫?」


「普通だったからね……まあ、種類によってはダメな物もあるけどね。ってもう1匹いた!」


 俺はもう一度同じように捕まえる。これで俺の髪には2匹のタコが髪に絡んでいる状態になる。


「よし……後は」


 俺は絡みついたタコを急いで地面に落とし、そのままアイテムボックスからナイフを取り出して、目と目の間にある急所を切断する。全体が白くなったところで今度は胴体を裏返しにして、内臓を取り出す。


「……今回は処理と」


 内臓は新鮮なら食べられるのだが……調理方法を知らないので、今回は燃やして処理する。残り1匹も同じように処理していく。


「ウィードの旦那……手際がいいな」


「釣ったタコを締める事があったからね……同じタコで良かったよ」


 前世の趣味の1つである釣り。その際に釣った物を締めていたのだが、これが現世でも役立つとは……何が役立つのか分からないものである。


 その後、処理が終わったタコを収納に仕舞った後、残るポイズンイールを求めて、再び探索を進めるのであった。

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