116草
前回のあらすじ「ドルチェとガレットにセクハラされた」
―「リゾート地ガルシア・高級リゾート地 プライベートビーチ」―
「うーーん……一体何が起きたんだろう?」
乱れていた水着を直した所で、ガレットとドルチェがこうなってしまった原因を調べる俺。原因があるとしたら……。
「これだよね」
2人が飲んだこの飲み物。これは店で売っていた物をそのまま入れているだけで、俺が作った薬が混じっているとか、そもそもこれがお酒だったとかいう訳でもない。
「2人とも……何か様子が変ね?」
後ろから声がして振り返ると、ココリスが麻痺で倒れているドルチェとガレットの具合を見ていた。
「……大丈夫だよね?」
俺はココリスから少しだけ距離を取り、警戒しつつ尋ねる……いざとなったら、再度麻痺状態に……。
「大丈夫……さっきのルチェみたいな事をする気は無いわよ」
「……見てたの?」
「じゃれ合いにしては……少々、やり過ぎだったから驚いたわよ。ルチェってスキンシップが多いけど、こんな風に力尽くとかはしないはずだから……」
「私のドリアードとしての体が原因じゃなければ、これが原因かなと思うんだけど……でも、特に異常ないんだよね」
俺はドルチェとガレットが飲んだ飲み物をココリスに見せる。ココリスはそれを飲まずに匂いだけを嗅ぐ。
「お酒や媚薬……って訳じゃなさそうね。フリーズスキャールヴでドルチェ達を確認したの?」
「まだしてないよ。ちょっとやってみるね」
俺はフリーズスキャールヴを発動させて、2人の状態を確認する。
「魅了とか、酩酊状態って訳じゃなさそう……」
(ステータスとしては表示されていませんが、お二人とも微睡状態ともいえる状態異常になっています)
「うん? それって……寝てるって事?」
(そうです……夢遊病ともいえるでしょうか)
フリーズスキャールヴからの返答を聞いて納得する。つまり、2人は起きているように見えるが、判断力が欠如した状態ってことなのだろう。
(このようになった原因は?)
(朝食に出ていたガプリという果物と、そちらのジュースの食べ合わせによる中毒です。本来なら食べ合わせても、すぐに体の機能で無毒化されて問題無いのですが、お二人の疲労が少々溜まっていたようです)
「ああ……そうだったのね」
「分かった?」
「うん。疲労と食べ合わせによる中毒だって……ココリス。このビーチチェアにドルチェを横にしてあげて、私はガレットをやるから」
ココリスにお願いして、2人をビーチチェアに横にしてから、スリープ・パヒュームを使って眠らせる。後は収納からタオルを用意して、水魔法で冷たく濡らしてから目元を覆うように被せる。ビーチパラソルで日光が遮られているが、これでより快適に眠れるだろう。
「これでよし……それじゃあ、私達は遊びますか」
「あら、休んでるんじゃなかったの?」
「ビーチチェア2つしか収納に入れてなかったから、自分が寝る用は無いの。それに……獣化中だから、思いっきりはしゃぐのもいいかなって」
俺は獣化状態になり、猫の獣人状態になる。猫のため跳躍と瞬発力が上がっており、これなら多少の無茶も出来るだろう。寝ている2人をそのままにして、俺とココリスは海で待っているビスコッティ達と遊ぶために海へと歩いていく。
「でも……2人がそんなに疲れているなんて思ってなかったな……」
「そうね……2日前にグリフォンを退治して、昨日は依頼の報告に打ち上げ……少し忙しかったかもしれないわね」
「2人とも! 大丈夫ですか!?」
すると、海の中で待っていたビスコッティがこちらに声を掛けてくるので、俺は手を振り無事だということを伝える。
「旦那……その体で動けるんかい?」
「今、アマレッティと同じ獣人状態だよ? 普通より機敏に動けるよ」
「ウィードちゃんと遊べるわね」
「クロッカ……ちゃん付けは止めて……背筋がゾクゾクするから……」
「はは……それじゃあ、いきますよ!」
ビスコッティが持っていたビーチボールを上向きに投げる。そのボールが俺の方に来るので、それを近くにいたアマレッティへとパスする。その後、しばらくは何ら特別な所が無いビーチボールを楽しんでいく。
「それで、何があったんだい? 遠めだったけど、何か凄いことになってたよ?」
すると、アマレッティがボールを打ち上げながら、先ほどのハプニングについて訊いてくる。ビスコッティとクロッカも聞きたそうなので、ボール遊びしながら、先ほどの顛末を話していく。
「うーーん……そうですか。本人が何も言わなかったので、もしかしたら気付いていなかったのかもしれませんね」
「ルチェも同じね。疲れていたら、普通に話してくれているはずだもの……ウィード!」
「よっと!」
ココリスがビーチボールをトスして高く打ち上げる。俺は勢いよくジャンプして、自分の身長より高い位置からアタックをする。
「きゃっ!?」
ビーチボールはクロッカの胸部に見事命中し、その大きな胸が水着から溢れるんじゃないかと思う位に揺れる。いい仕事をしたビーチボールは、そのまま別方向に飛んでいってしまった。
「(計画通り……!)」
わざと狙い定めてアタックそ仕掛けたが……素晴らしい物が見れた。自分の大きな胸が揺れても何とも思わないが……やっぱり美女の揺れる胸にはそそられる物がある。
「隙あり!」
「あまい!」
すると、アマレッティがビーチボールを俺に目掛けてアタックをする。着地した直後で体を動かせなかった俺は纏めていた髪を使って、そのビーチボールをビスコッティへとトスする。
「ありゃ? クロッカの胸に気を取られていたから、当てられると思ったんだけどな……」
「いやいや……ビーチボールがどこに飛んでいるか、確認するのは当然でしょ?」
「どうせ、ウィード自身の大きく揺れる胸で満足してるからじゃないの?」
「ココリス……それとこれとでは別だからね? というより……自分の胸で欲情する奴っているの?」
「いるんじゃないの? 例えば……あなたとか」
「……そう思ってた。今は少し小さくならないかと思ってる」
そう言って、俺は自分の2つの胸を下から持ち上げて、その重さを確認する。自分の小さい手から零れるほどの果実……中にはこれで欲情する奴はいるのだろうが、今の俺にとっては微妙な物である。
「多くの女性に喧嘩を売る気かい旦那~?」
「そんなつもりはないからね……ただ、一部の女性の大変さをその身をもって体験しているって思ってるだけ……ね?」
俺はそう言って、クロッカに視線を向ける。すると、クロッカは無言のまま頷いて俺の意見に同意してくれた。
「ドルチェさんに聞きましたけど……男性の視線が釘付けだったようですね」
「うん。顔じゃなくて胸を見てたよ……って、ビーチボール止めるの?」
話しかけてきたビスコッティを見ると、その脇にビーチボールが抱きかかえられていた。
「はい。休憩せずに遊んで喉が渇きましたし……ウィードさんの薬の効果も切れちゃってますしね」
俺はそう言われて、両手を見ると確かに普通の小さな子供の両手に戻っていた。
「一旦、休憩しますか」
皆が休憩を取ることにしたので、俺達は海から出て、ドルチェ達が寝ているビーチチェアまで戻る。すると、ビーチチェアで寝ていたドルチェが起きていた。
「ごめん……寝ちゃった」
遊んでいる最中に寝てしまった事を謝るドルチェ。ふと、気になって俺を襲ったことを覚えているのか聞いてみる。
「え? 私……そんな事をしたの? 飲み物を飲んだ後の記憶が無くて……」
それを聞いた俺は、何があったのか、ドルチェがどんな状態になっていたのかを話しておく。それを聞いたドルチェは、無意識とはいえやってしまった事に対してすぐさま俺に謝ってくれた。俺も今回の件がわざとじゃないと分かっているので、特に愚痴を零さずにその事に関しては水に流す。
「とりあえず……さっきのとは違う飲み物を出すね。ドルチェも飲む?」
「うん……」
背筋を伸ばして、ビーチチェアから立ち上がるドルチェ。そして、俺とドルチェが話している間に用意してくれたレジャーシートの上に座り、皆と一緒に先ほどとは違う飲み物を飲んで喉を潤す。
「まさか……そんなに疲れていたなんて」
「ここしばらく、慌ただしかったからね……しばらくはクエストを受けないから、ゆっくり休んでちょうだい。ウィードもいいかしら?」
「いいよ。ただ……個人で受けてもいい? 特に数の指定が無い討伐系を受けたいんだけど」
ドルチェのために、しばらくはクエストを受けない事には賛成する。しかし、その間に今の自分が出来る事を調べたいので、危険の無いクエストを受けたいとお願いしてみる。
「ううん……それは……」
ココリスが渋い顔をする。どんなクエストでも言えるのだが……基本的には2人以上が推奨である。薬草採取や町の中でのお手伝いとクエスト内容は多岐に渡るのだが、そのどれもが2人以上が推奨なのである。これには理由があり、町の外での採取や討伐系のクエストはモンスターや野盗の襲撃があるかもしれないからという理由であり、町中のお手伝い系は、悪い依頼主が依頼内容について難癖を付けてくるのを防ぐ役目がある。
「お手伝い系じゃないから……変な男に難癖付けられる心配は無さそうね。でも、1人で討伐っていうのは……」
「なら……うちが一緒に行くよ。旦那がどれだけ多彩になったのか見てみたいし」
悩むココリスに、アマレッティが自分が同行する事を提案をする。ココリスはそれならいいと許可を出してくれたので、俺もアマレッティにお願いする。
「面白い物が見れるか……分からないよ?」
「大丈夫大丈夫! きっと何か見れるに決まってるから!」
俺の忠告に、アマレッティは満面の笑顔でそう答えるのであった。




