113草
前回のあらすじ「お子様扱いのウィード」
―「リゾート地ガルシア・高級リゾート地 プライベートビーチ」―
「……よし!」
クエストの報告も終わり、遅れた祝勝会も終わった翌日。朝食を終えた俺はコテージからすぐ目の前にある砂浜にやって来ている。
「色々、試さないと……」
昨日から、気になっていた事があったのでそれを試しにコテージに隣接する砂浜にやって来ている。ここなら誰かに迷惑を掛けることは無いだろう。
「この体……状態異常効くのかな……」
昨日から状態異常を引き起こすパフュームを使っていたが、別に自分は大丈夫だったので問題無いと思っていたのだが……もしかしたら、自分以外の物だったら状態異常に罹るのではないかという可能性もあるので、念のために薬を使ってそれらを試そうと思ったのだ。
「呼吸を止めたら苦しいし……喉の渇きも空腹もある……となると、状態異常も罹る恐れがあるよね……ぶっつけ本番で罹ったら危ないから試しておかないと……その前に、少し運動もしてみようかな……」
俺はその場で準備体操をする。あっちこっち伸ばしたり捻ったりして、自分の稼働領域を確かめる。
「普通の人と同じ……違いはやっぱり髪が手足のように動かせるところか」
俺は髪を動かして下ろしていた状態から、ポニーテールに髪形を変える。留め具が無いので、自分の髪で縛って固定している。
「よいしょっと……」
砂浜をゆっくりと走る。走りにくい場所なので、転ばぬように気を配りつつ、呼吸を整えながら走る。夏の暑さで汗をかいてしまうが気にせずに、ダッシュとゆっくり走るのを繰り返す。胸が大きく揺れるかと思ったが、昨日、ドルチェに勧められた下着のお陰で揺れずに済んでいる。
「ふう……いいね♪」
オッサンの頃より速く走れているし、そこそこ持久力もある。女子の体だがそこは素直に嬉しい。ある程度、確かめたところで、今度は植えられているヤシの木のような木の下で、収納から各状態異常の薬を取り出す。
「最初は……まあ、セオリー的にはこれかな」
俺は最初に毒薬を飲む。しばらく待つが特に苦しいとか吐き気とかを感じる事は無い。俺はステータス画面を開いて、今の状態を確認すると、変なメッセージが出ていた。
「毒状態無効を解除しますか……か」
俺は『はい』を選択する。すると、急に苦しさと吐き気を催し始める。俺は慌てて毒状態無効に設定し直し、四つん這いになりながら息を整えていく。
「ふえ……これ、やばい……」
今、飲んだ毒薬は一番軽い物であって、この毒自体で死ぬことは無い。あるとしたら、これによって引き起こされる脱水状態や、意識が朦朧とした中で転倒して頭を強く打つなどである。そのため、動かずに水分を適宜補給すれば問題無い……が、苦しいのには変わらないので、再度、毒状態になる気にはなれない。
「ううん……なるほど。自分の意思で状態異常になったりできるのか……となると、他の状態異常も同じかな……」
体調が元通りになった所で、俺は用意した麻痺薬、魅了薬、睡眠薬、食欲増進薬、混乱薬、狂乱薬の6つを順に飲んみると、先ほどと同じような画面が表示された。また、ステータス画面を開かなくても、自分の意思でオンオフを切り替える事が出来る事も分かった。
「状態異常に罹るかどうかを、自分で決められるのか……これって便利なのかな? それと獣化薬、鳥獣薬に肥満薬、痩身薬の4つ……これってどうなるんだろう?」
これら4つは人の見た目を変える薬である。姿が変わった状態を簡単に切り替える事が出来るとしたら……とてつもなく便利な薬になるかもしれない。
「精が出るわね」
すると、タンクトップとハーフパンツ姿のココリスが2つの木刀を持って砂浜にやって来る。
「自分の体を知っておかないとね……で、何で木刀を2本持ってるの?」
「1本はあなたのよ。ほら」
そう言って、木刀を渡すココリス。
「剣なんて振るったことないけど?」
「分かってるわ……少し、あなたに訊きたいことがあるのだけど……」
「なに?」
「あなたはこれからどうするの?」
「どうするって……もしかして、冒険者を続けるのかどうかってこと?」
「そうよ。あなたは自由にどこにでも行ける体を手に入れた。生活だって、自分で作った薬を売ったりすればどうにかなるでしょ?」
「それは……そうだね。今だってラメルさんのお店やダーフリー商会で、薬を売ったりしてそこそこの金額になってるし……普通に暮らすなら、問題なく暮らせるかも」
「そう。今のあなたならどうとでも暮らしていける。だから……」
「だけど、冒険者を続けるけどね」
ココリスの目を見て、俺はしっかりと返事をする。何か言おうとしたココリスは、きょとんとした表情を浮かべてしまっている。
「私はまだこの世界の事を何も知らない。全部を知るとかは無理だけど……もう少し、自分の足で見分を広めたいの。それにアフロディーテ様がそれを許さなそうだし……」
隣国のボルトロス神聖国を調べろと言われてるのだ。腰を下ろして商売をするなんて
「そう……なら、自衛できないといけないわね」
そう言って、ココリスが木刀を構える。ココリスのメイン武器である槍じゃないところからして、かなり手加減してくれているようだ。
「お願いします」
俺も木刀を構える。前世でも剣術など習った事が無いので、完全に見よう見まねである。すると、ココリスが掛かって来るよう手招きするので、ココリスに近づき木刀を振る。
カン! カン! カカン!
こっちが一方的に攻める中、ココリスは防御に徹し、俺の攻撃を木刀で全て受けている。すると、ココリスが受けるのを止めて、俺の攻撃を避ける。
カン!!
それが何を意味するのか察した俺は、ココリスの振り下ろしの攻撃を自分の木刀で防ぐ。すると、木刀を握っている手から痛みや痺れを感じる。しかし、ココリスは次に横切りを繰り出してくるので、俺は慌ててその攻撃を木刀で受ける。
「うっ……いたっ……!」
さらなる衝撃に耐えられずに、俺は持っていた木刀を地面に落としてしまう。本来ならここで木刀を納めて、講評するところなのだろうが……ココリスは構わずに攻撃を仕掛けてきた。
「えいっ!」
咄嗟に自分の髪を束ねて防御する。髪とは言っているが、実際には蔦なので束ねればそこそこの強度になるので、木刀の攻撃ならその衝撃を和らげることは出来るはず……が。
「はあーー!!」
ココリスから何かオーラが出始める……いや、お前!? アビリティを使わないでの訓練じゃないのか!?
そんな心の訴えも虚しく、身体強化の乗った状態での横切りによって、俺は弾き飛ばされて、海の中へと落ちてしまった。確かトラックで体が吹き飛ばされた覚えはあるが……まさか、女性の攻撃で宙を舞う事になるとは……。
「ココリス! やり過ぎ!!」
「……あ」
海から顔を出すと、ドルチェがココリスに注意しながら、俺の方へ駆け寄って来る。
「大丈夫?」
「……前世がこんな死に方だったのを思い出した」
「え、大怪我してるの!?」
「ううん。直撃じゃなかったし、髪で防御してたから大丈夫」
俺はそう言いながら、海から上がる。ふと下を見ると、服が濡れて下着が透けており、自分の大きな胸の隙間に水が溜まっていた。
「ウィード? 自分の胸をジッと見てどうしたの?」
「自分の胸の谷間に水溜まりが出来てるのが珍しいと思っていただけ……それより、ねえココリス! アビリティ使用しないでの訓練じゃなかったの?」
「はは……素人丸出しだったけど、いい反射神経をしてたから少し本気を……」
「木刀とはいえ、直撃してたら死んでたよね?」
「……大丈夫。大怪我で済むわ!」
グッドのハンドサインをしつつ、笑顔で答えるココリス。それに対して俺はジト目でココリスを睨み付ける。
「何か言う事は……?」
「……ごめんなさい」
俺に睨み続けられて、ばつが悪くなったココリスが素直に謝る。流石に、この事でグチグチ言うつもりは無いので、俺はここで許しておく。
「で、私ってどうだった? 剣じゃなくて別の武器がいいかな? 攻撃を上手く受け流せなかったから、あっという間に限界がきちゃったし……」
「さっきの私の攻撃をちゃんと防いだ時点で合格よ。最後の攻撃なんて身体強化を乗せての一撃だったからスピードも前の2撃とは比べ物にならないのだから……まあ、武器は他の物も見てからかしら」
「前衛……イケる?」
「もしかしたら……ね。とりあえず、グリフォン討伐の依頼は終わったし、ここにしばらく滞在して、自分に合った武器を選びましょうか」
「分かった……でも、ココリスじゃなくてビスコッティたちにお願いするね」
「うっ!?」
「ココリスって、私の護衛をしていた時からスパルタだったからな……それがいいかも」
「ルチェ……」
不貞腐れるココリスを見て、俺とドルチェは思わず苦笑する。
「さて……濡れちゃったし、着替えてこようかな」
「それなら必要ないよ。さっきフォービスケッツの4人とも話してて、その話を伝えに来たんだけど……海で遊ばない?」
ドルチェに海で遊ばないかと訊かれて、少しだけ考える。特に断る理由も無いし、リゾート地に来たのに、グリフォン討伐のせいで全くそれらしいことをしていなかった。だから、ここいらでそれらしいことをしたいと思っていたので、俺はそれに賛成するのであった。




