111草
前回のあらすじ「ヴェントゥス・グリフォン討伐完了!」
―翌日「リゾート地ガルシア・高級リゾート地 コテージ」―
「……うん?」
俺の意識がふと覚醒する。目を開くとそこには俺達が寝泊まりしているコテージの天井が日の光に照らされている。
「あれ?」
慣れないでいて、それでいて久しぶりの感覚……今、俺は目を開ける動作と口を開く動作をした感触があった。
「あ~……」
前と変わらないロリボイス。けれども、それが喉と言われる場所から発せられている感触がある。それ以外にも体全体を覆う何か柔らかい物と、胸の辺りに何か乗っているのだろうかチョットした重さを肌で感じる。
「やった……?」
俺は慌てて久しぶりの感覚……手を自分の顔の前に動かすというのをやる。そこに見えるのは人の手。無駄な毛が生えいない細い腕。先ほどの声からして今の自分の体は小さい女性の体なのだろう。慣れた男性の体ではないが……それでも、念願の肉体を得られたのは分かった。
「やった……やったー!!」
俺は大喜びしながら、体を起こす。すると胸の辺りの重さが、俺の体と連動していく感触を感じる。
「へ?」
俺は体を起こしたところで、自分の胸の辺りを見る。そこにあるのは大きな2つの膨らみ。着せられていた寝巻からも谷間が見えるほどの大きさである。しかし、それ以外の体のパーツを見ると明らかにこのような立派な物があるような年頃の体ではない。
「ウィード! 起きたの!」
「う、うん……」
俺の声を聞いて気付いたのだろう。ドルチェが慌てて部屋に入って来た。
「……えーと。ウィードでいいんだよね?」
「そうだよ……うん? アレ?」
上手くいつもの男っぽい言葉が発せられない。
「どうしたのウィード?」
「チョット待って……私はウィード……あれ!?」
「ど、どうしたのウィード!?」
「えーと……あ!」
口では発音出来ない。そこで、俺は慌てて念話でドルチェに話しかける。
(いつものように俺で話そうとうしたら、何か私とか……女性のような発言になるんだが?)
「え……そうなの?」
(ああ。それでドルチェ……鏡……出来れば姿見とかあるか?)
「ウィードの寝ているベットの横。頭の方にあるよ」
ドルチェに言われて後ろを振り返ると、そこに姿見があった。俺は慣れない胸の重たさでバランスを崩しながらもベットから立ち上がり、その姿見の前に立ってみる。
「な……なななな…………」
肩まで伸びる淡い緑色の髪と蒼い瞳、そしてその体躯に似合わない大きな胸。そして……どこかで見た事のある他のパーツ……。
「これって……これって……神様の色違いバージョンじゃないのーー!!」
そこに映っていたのは神様と同じ姿のロリ巨乳の美少女。俺の願望を詰め込んだ理想の女性の姿……。
「違うの! こうじゃないの!! 私がなりたいんじゃなくて、こんな娘と付き合いたいって願望なの!! だから……!」
俺は姿見の前で倒れ、自分の細い両手で床を何度も叩いて、どこかで嗤いながら見ているだろう神様へとツッコミを入れる。
「え? ウィードの理想の女性……ウィード。それって……」
「ふぇ!? いや、違うからね? 今の言葉の……そう言葉の綾なの! だから違うの!」
自分の理想の女性が現れた事。しかし……それが自分の今の姿だという事に取り乱して、隠していたい事実を口走ってしまう。幸いにも、聞いたのはドルチェだけ……ここで何とかすれば、被害は最小限に……。
「さっき、思いっきり言ってたわよ。私達も聞いていたもの……」
部屋の入り口、ドルチェの後ろからそう話しかけるココリス。そして、さらにその後ろにはフォービスケッツの4人も……。
「……いつからいたの?」
「神様の色違いバージョンから」
「……き、きゃああーーーー!!!!」
『ぎゃーー!』とか『ぐはぁ!?』と言えずに『きゃあー!』と泣いてしまう俺。恥ずかしさで両手で顔を隠しながら必死に弁明しようとするのだが、結局、先ほどの発言を撤回させることは出来ず、俺の好みはロリ巨乳だとここにいる全員の共通認識となってしまったのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―30分後―
「う、うう……ぐすっ」
途中で泣き出してしまった俺……どこか思考が子供っぽくなってしまった気がする。とりあえず色々な事が起きているので、先ほどの寝室からリビングへ集まっている。
「ごめんねウィード……責めるつもりはなかったの」
「いいの……もう、一生そんな奴だって陰で言われ続けるんだって……その業を背負っていくんだって分かったから……」
「大げさですね……というか。発言や所作が女性っぽい気が……」
「……そう?」
「涙の拭き方、ソファーに座っている今の姿勢……どことなく気品があるんですよね……」
「さっき、自分の事を俺じゃなくて私だった。恐らく言ったセリフや行動が全て変換されていると判断」
「ガレットの言う通りかも。念話だといつも通りだったんだけど、口にするとこんな口調になっちゃうの」
「それってもしかして……神様の趣味?」
「……多分」
ビスケッツの質問に不貞腐れながら答える。きっと、今頃、俺の姿を見て大爆笑しているに違いない。
「ウィード……とりあえず、ステータス画面を確認したら? 何か分かるかも」
「そうだね。チョット待ってて」
俺は自分のステータス画面を開く。すると、もはや別人のステータス画面じゃないかと思うような物になっていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ステータス画面
名前:ウィード(仮)
種族:ドリアード
Lv:-
HP:500
MP:2500
ATK:20
DEF:20
INT:1200
MID:1500
AGI:200
DEX:2500
LUK:EX
特殊アビリティ
木魔法Lv1 四元素魔法Lv3 状態異常魔法Lv3 ラボトリーLv3
言語理解MAX、インビジブルMAX、オーディンLv2 淑女の嗜みwwwMAX
称号
始まりの森の精霊人、イグニス、ラーナ、アクア、ヴェントゥス、ロリコンwww
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「絶対ふざけてる! 何よ淑女の嗜みってwww!! 馬鹿にしてるよね!?」
しかも、ロリコンwwwっていう変な称号もついているし! 間違いない! あの神様、今絶対に大笑いしてやがる!!
「あ、ははは……」
「その前に通常アビリティが1つも無いって……そんな事あるんですか?」
「普通は無いわ……うん。普通は……」
「うう……」
肉体を得られた喜びより、精神的なダメージが上回った俺は、ソファーの上で両膝を抱いて顔を伏せる。すると、顔面に当たるのは自分の大きな胸……そのほどよい弾力に気持ちいいと感じつつも、それとは別に今の状況に落ち込む。
「ウィード……」
「……とりあえず、私が気を失った後の話をして。聞いてるから」
「そうね……そうしたら話すわ」
俺はその姿勢のまま、皆の話を聞く。俺が意識を失った後、俺の元体が急成長して花が咲いて、その花が枯れたと思ったら、この体サイズの大きな種を生成……それもすぐに割れて、今の俺が素っ裸の姿で現れたそうだ。フェインが慌てて、女性職員に俺の体を隠せるほどの布を用意させて、その後は慌てて、ここに運ばれて寝かせられたらしい。
「どのくらい経ったの?」
「1日よ。それとこの後、冒険者ギルドに行ってもいいかしら? 色々報告しないと」
「いいよ。とりあえず落ち着いて来たから……それと祝勝会の気分だったのに、台無しにしてごめんなさい」
「……」
すると、クロッカが俺の近くに来て、俺を抱き寄せる。
「いいんですよ……わざとじゃないですし、女の子にそんないちゃもんをつけるなんてしませんから」
「私……女の子じゃ……」
「女の子……ですよね? 少年の体って訳じゃないでしょうし……」
「それは違うけど……でも、中身と体が……」
一番困っている点。それは俺がどっちの立場としていればいいのか分からない。俺は男として数十年生きてきた。それに対して、今の体は生後1日である。どう振舞えばいいのか分からない。
「それに私……」
クロッカはそう言うと、さらに俺を強く抱きしめる。抱きしめた箇所からは久しく感じる痛覚、それと息苦しさ……いくらなんでも強すぎる。
ふと、知り合いの薄い本にこんな展開があったのを思い出した。その確認のために恐る恐る顔を上げて、クロッカの顔を確認する。
「ふふ……」
艶のある怪しい雰囲気を醸し出す笑みで俺を見るクロッカ。俺はそれを見て、自分が恐れている状況だと確信に変わる。
「パラライズ・パヒューム」
「あっ!」
麻痺を引き起こす匂いを出す魔法でとっさにクロッカの動きを封じる。軽度の麻痺なので、口は動くだろう。
「あっ……チョット!?」
「『私、こんなかわいい妹が欲しかったの!』って、私のことを弄くり回すつもりだったでしょ」
「おお……流石、ウィードの旦那だ。反応が早いぜ」
「アマレッティ! 失礼じゃないかしら! 私はなでなでしたいだけよ!」
クロッカがそう弁明するが、きっとそれ以上のこと……百合好きなら、たまらないような行為をされただろう。その証拠に、ガレットがクロッカを止めるための魔法を撃つ構えをしている。
「あんな強い力でウィードさんを抱き締めていたら、説得力無いですよ……ウィードさん。仲間が失礼しました。クロッカはウィードさんのような小さい女の子を見ると可愛がる性分らしくて……」
「まあ、未然に防げたからいいよ……それに、色々とやらないといけない事があるし……」
とりあえず、これからの事を考えなければ……とりあえず、今一番、俺が欲しい物を手に入れなければ……。
「そうね。それじゃあ、冒険者ギルドに……」
「ノーブラ、ノーパンで野郎の巣窟に放り込む気なの? しかも……寝巻だし」
「「「「あっ……」」」」
色々、考えた結果……とりあえず、身なりは整えようと思うのであった。




