110草
前回のあらすじ「海を翔けるグリフォン」
―「イポメニの古代神殿・ボス部屋」―
「くっそ……どうするか」
「何かいい方法無いの?」
「あったら悩んでないんだが?」
ドルチェの質問に乱雑に答え、再び考え始める。こっちから攻撃を加えられず、耐えるだけの状況……このままではやられてしまうだろう。
「うーーん……奴が呼吸のためにボス部屋に出てくるところを狙うか? しかし、緩急をつけてボス部屋に入って来る以上、攻撃がしにくいし……下手な攻撃だと風の防護壁で防がれるし、味方にも当たるし……」
その防御力と素早さをどうにか無力化できないかを考える俺。ダメならここから脱出も考えなければならない。いつものボス部屋なら扉にロックが掛かるのだが、ヴェントゥス・グリフォンが居座っているせいでその機能が働いておらず、すぐに逃げられるのはありがたい。
「誰かグリフォンの動きを止めるのに役立ちそうなアビリティを持っている奴いないか?」
「当たれば麻痺で動けなくなるわ」
「私、無い」
「私も……」
その後、ドルチェが前衛組に大声で同じ質問するが、似たような解答しか返ってこなかった。その間にも、ヴェントゥス・グリフォンが深海からボス部屋内にいる俺達に攻撃を仕掛けてくる。
「アクア・シールド」
「サンダー・ウォール! それで、どうします!? 一旦、撤退しますか!?」
ヴェントゥス・グリフォンの攻撃を魔法で防ぎつつ話しかけてくるクロッカ。それが今のところ一番の策かもしれない。
ドォーーン!!
すると、大きな爆発音がボス部屋内に響く。ヴェントゥス・グリフォンの攻撃を前衛組にいるベルウルフが斬撃を飛ばして相殺したようだった。
「……あ!」
それで気付いてしまった。ヴェントゥス・グリフォンの攻撃方法に1つ欠点があることを。
「何かいい案が思い浮かんだの!?」
「ああ……ただ、俺がポイズン・パフュームを解除して、攻撃に回らないといけないが……後、ガレットとクロッカにも攻撃に参加して欲しい」
「どんな案なんですか?」
「それはだな……」
俺は後衛組の全員に俺の計画について話す。この方法……下手すると素材の回収は不可能になるかもしれないのだが……。
「前衛組! グリフォンの素材がダメになるけど、強力な魔法攻撃を仕掛けてもいい!!?」
話を聞いたクロッカが素早く前衛組に声を掛ける。前衛組からはオッケーの回答が返ってくる。ただし、もしそれがダメなら素早くこの場から撤退することになった。これ以上の手段が思いつかない以上、俺達もその意見を否定する気は無かった。
「よし……そうしたらいくぞ」
俺はポイズン・パフュームを解除。ヴェントゥス・グリフォンが過水のアビリティの使用を止めているので、ここにいる全員が過水の状態異常になることはならなかった。
「白炎」
さっそく、俺は自分の火魔法の中で、一番の高温である白炎を大きな人魂状にして作り出す。そしてフリーズスキャールヴの指示を聞きながら、次の行動を取る。
「クロッカ! あっちにそれを撃ってくれ!」
「ライトニング・スピア!!」
クロッカに指示を出して、そちらの方向に貫通能力が高い魔法を撃ち込んでもらう。その方向……そこには水の壁があるだけで、その向こう側に深海をヴェントゥス・グリフォンが移動しているという訳ではない。しかし……これから、すぐにそこを通る可能性がある。
「ガレット! ドルチェ!」
「「ウィンド・バースト!!」」
同じ位置にガレットとドルチェが風魔法を撃ち込む。これらの攻撃で水の壁に大きな窪みが出来る。
「……狙い撃つぜ!」
深海に出来た窪み……周囲は水なのですぐさま周囲の水が流れ込んでその窪みを戻そうとする。その僅かな瞬間……その瞬間を狙い白炎を撃ち込む。撃ち込んだ白炎は海水に一切触れずにその窪みの中へと入っていった。そして……ヴェントゥス・グリフォンは多少、奥の方を飛ぶように移動したが、それでも予定通りに魔法を撃ち込んだ方向を移動している。
「タイミングばっちりだな」
この攻撃で白炎が直接ヴェントゥス・グリフォンにダメージを与えることは無い。あくまで白炎は起爆剤であり、ヴェントゥス・グリフォンを仕留めるのは……大量にある海水である。
ドドォーーン!!!!
重々しい爆発音と共に、魔法を撃ち込んだ水の壁が破れ海水がこちらに流れ込む。しかし、水の壁の性質上、すぐさま壁が元に戻り、海水の入水はすぐ収まる。
「……やったの?」
「いや! まだだ!! 全員武器を構えろ!!」
フリーズスキャールヴからの情報で、ヴェントゥス・グリフォンがボス部屋に向かって移動しているのが分かったので、すぐさま武器を構えるように伝える。
「魔法攻撃を仕掛けた方向から来るぞ! トドメを頼んだ!」
「トドメって! グリフォンがこちらに向かって攻撃してくるんじゃないのかー!!」
「いや! さっきよりスピードがかなり遅い! きっと、息も絶え絶えな姿だと思うぞ!」
どうやら先ほどの作戦が上手くいったようだ。今頃、溺れたように藻掻きながら、ボス部屋に向かっているのだろう。とりあえず、一番警戒しなければならない過水の状態異常を防ぐために、ポイズン・パフュームを再度発動させておく。
「グ……ぉ……」
予想通りの姿でヴェントゥス・グリフォンが水の壁を抜けてボス部屋に入って来る。その様子はかなりボロボロであり、両翼はもはや使い物にならないほどに折れている。さらに、両眼を閉じており、もはや何も見えない状態だと判断できる。
「いくぞ!!」
ベルウルフの掛け声と共に前衛組が一気に攻撃を仕掛ける。ヴェントゥス・グリフォンも弱弱しい雄たけびを上げながら風魔法による反撃を開始する。そして……俺達後衛組は武器を構えたままその様子を静観する。
「アレって……アーミーフィッシュの時にやっていたやつ?」
「ああ。海水が超高温の物体に触れる事で起きる水蒸気爆発……水が液体から気体になると、その体積を1700倍まで膨れ上がり、それが大きな爆発となる。その爆発の中心近くにいたヴェントゥス・グリフォン……まあ、爆発は耐えきれるとは思ったが、その後の深海の圧力には耐え切れなかったようだな」
白炎を起爆剤に起こした水蒸気爆発。アーミーフィッシュ戦ではダイナマイト漁の要領で使用していたのと同じ方法である。爆発で恐ろしいのは、その爆発自体ではなく、その爆発によって高速で飛んでくる破片である。前者の例えなら、ガス爆発の中心地にいたはずなのに死なずに済んだ人がいたりするのがいい例だろう。
しかし……これが水中なら話は変わる。殺傷能力の高い高速の破片は水の抵抗力を受けるので、そんなに脅威に成ることは無い。逆に今度は爆発自体が圧力波となって襲い掛かり、生身の人間ならその衝撃で体内の空気を押しつぶされて亡くなるほどである。ヴェントゥス・グリフォンの風の防護壁はこれを防ぐことは出来たのだろうが、弱まった防護壁では周囲の水の圧力を抑えきれなかったようだ。
「はあー!!」
「ギャオ!?」
ココリスの攻撃を防げずに、ヴェントゥス・グリフォンの脇腹に槍が突き刺さる。さらに、アマレッティが斬撃で追撃し、その体からおびただしい出血が起きる。
「おらー!!」
「はあー!」
大きな掛け声と共に、ベルウルフとビスコッティがヴェントゥス・グリフォンの首の辺りを斬る。切断とはいかなかったが、更なる出血を起こしたヴェントゥス・グリフォンはそのまま地面に倒れ込んで動かなくなった。
「……終わったな」
先ほどまであったヴェントゥス・グリフォンの反応が無くなった。すなわち、討伐したということだろう。
「ウィードからの報告! 倒したよ!!」
「お前らー!! 勝鬨を上げろ!」
「「「おおーー!!」」」
ベルウルフの掛け声と共に、牙狼団のメンバーが雄たけびを上げる。俺達の方も両手でハイタッチしたり、抱き着いたりして喜んでいる。ちなみに俺だが……ドルチェが腰辺りにいる俺の事を忘れて、ガレットとクロッカに抱き着いているため、3人の太ももの感触が……うむ。余は満足である。
「おおーー!! やったかお前ら!!」
すると、ボス部屋の扉からフェインを先頭にギルド職員と数名の冒険者達が入って来た。
「スゲー……本当に討伐されてるぜ」
「高ランクパーティー……ヤバいな」
入って来た冒険者達が口を揃えて、倒れているヴェントゥス・グリフォンを見て驚きの声を上げている。その後、職員と一緒にヴェントゥス・グリフォンの死体を運び出す準備を始める。俺が収納すればいいのだが……彼らの仕事を奪ってしまうため、ここは彼らに任せるとしよう。
「お疲れ! よくやってくれた!!」
そう言って、フェインがベルウルフの肩を叩いて大喜びする。
「とりあえず、報告を訊きたいんだが……どうする?」
「とりあえず……一旦、休みたいわね」
「俺達もだ。流石に気を張って疲れたしな……一休みしてからでもいいか?」
「もちろんだ。何なら、冒険者ギルドに来てくれればもてなすぞ?」
「よし! だったらギルドマスターにゴチになろうぜ!」
「賛成!」
「あはは……お手柔らかにな」
少し困った表情だが、それでも笑顔のフェイン。ヴェントゥス・グリフォンの皆が戦いが終わって、ボス部屋内では祝勝気分が漂っている。このまま移動を始めてしまいそうなので、俺はここに来た目的をさっさと果たさなければ。
「ドルチェ。俺を地面に置いてくれ。さっさと神様からのご褒美を受け取らないとな」
「あ、ごめんごめん……」
腰のベルトから俺を外して麻袋に入ったまま地面に置かれる。俺は蔦を伸ばして地面に触れていつものレベルアップを……。
「ごふっ!?」
「ウ、ウィード!?」
ドルチェが俺の名前を呼ぶ声が聞こえたが、俺はそれに返事が出来なかった。急激に意識が遠ざかる感覚。激痛は無いが、凄く気持ち悪い……。景色がグルグルと回る中、突如として視界が暗くなる。そして……そのまま意識を失うのであった。




