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109草

前回のあらすじ「ヴェントゥス・グリフォン戦開始!」

―「イポメニの古代神殿・ボス部屋」―


「グォ……」


「……」


 ヴェントゥス・グリフォンと前衛組の睨み合いが続く。かなり長く睨み合っている気になるが……。


(大体1分ほどです)


(1分か……長いな)


 両者戦わずに、静かに睨み合って1分。どちらも動こうとしない。


「グリフォンの奴……俺達を警戒しているな」


「そうみたい。距離を取ったら撃たれると分かってる」


 このまま膠着状態が続くとなると、中和薬が足りなくなってしまう……グリフォンはそれを狙っているのだろうか? しかし、グリフォンはそのような策を取れるだろうか? 俺が中和薬で状態異常を防いでいるのだが、それがどれほど維持できるのか分かるのだろうか……?


「グリフォン……俺がどれだけこの状態を維持できるか把握していると思うか?」


「それは無いと思うよ? そもそもウィードが初めて作った物だよね?」


「ああ……だよな。となると、次にグリフォンがどんな行動を取るのかと思ってな。俺達が過水の状態異常にならない以上、他の手段を取るはずだ」


「となると?」


(ヴェントゥス・グリフォンが過水の状態異常を解きました)


 フリーズスキャールヴからそのような報告が来る。これがどんな意味なのかすぐに理解する。


「前衛組! ヴェントゥス・グリフォンが本気で攻撃してくるぞ! 注意しろ!!」


 俺は慌てて音魔法を使って、前衛組に注意を促す。状態異常が効かない相手……ならば、本来のヴェントゥス・グリフォンのやり方で仕留めるだけ……全力を出すため、不要なアビリティを解除したのだろう。


「グァアアーー!!」


 ヴェントゥス・グリフォンが叫ぶと同時に、自身を包んでいた無色の風の防護壁が濃い緑色になっていく。そして、ヴェントゥス・グリフォンは水の壁に突撃、そのままボス部屋の外へと出て行ってしまった。


「逃げた?」


「いや! フリーズスキャールヴからの情報で海の中を潜って、ボス部屋の周りを移動している……逃げる気はさらさら無さそうだぞ!」


 このボス部屋はこの部屋に入る扉のある壁以外は、外の海と繋がる水の壁……通常は深海による水圧で潰れてしまうが、ヴェントゥス・グリフォンはそれを風の防護壁で何とか出来てしまう……ヴェントゥス・グリフォンにとって深海は地上と変わらないのだ。


「……前衛組! 後ろから来るぞ!」


 俺の指示を聞いて、前衛組が一斉に後ろを振り返る。それと同時にヴェントゥス・グリフォンが水の壁の外側からボス部屋へと入って来て、前衛組に風の防護壁を纏った状態で突撃する。前衛組はそれを見てすぐさま回避をする。一方、ヴェントゥス・グリフォンはそのまま反対側の水の壁から、再び外の海へと潜ってしまった。


「……ウィードさんがいなかったら、さっきので終わってたかも」


「後ろからの不意打ち……少なくとも1人ぐらいはやれたと思う」


「俺のありがたみ……改めて感じたか?」


「ええ……というより、そんな冗談を言ってる場合ですか?」


「アレのせいで頭が痛いんだ……少しくらいは言わせてくれ」


 クロッカにそう返事をして、再度ヴェントゥス・グリフォンの動向に集中する。さっきと同じようにボス部屋の周りの深海を自由自在に飛んでいる。次はどこから……。


「ガレット! 溜めている魔法を左に撃ってくれ!」


「りょーかい」


 ガレットは俺の短すぎる指示に何かを訊くこともなく、すぐさま左に杖を構えてくれた。


「メガ・フレア!」


 ガレットが魔法名を言うと同時に、杖の先端から野球ボールサイズの火球が真っすぐ飛んでいく。それは水の壁の向こうから出て来た何かとぶつかり激しい爆発を起こす。


「うわ!!?」


 爆発による強い衝撃に思わず声を上げるドルチェ。ガレットとクロッカもその爆発から顔を逸らしたり、腕を前に出して防御したりする。


「グリフォンに……当たったの?」


「すまないが、それは違う。グリフォンの奴、壁の向こうから風魔法を撃ち込んできやがった」


「嘘!? そんなの出来るの?」


「出来てただろう? まさか深海の圧力に負けない風魔法を撃ち込めるとは……驚きだな」


(空間生成によるアビリティで風のトンネルを作成。そこから魔法を撃ち込んでます)


「本当に便利だなそのアビリティ!?」


 とことん応用の利くアビリティ、そしてそれを使いこなすヴェントゥス・グリフォン。


「あのグリフォンの恐ろしいところは、その知能だな。レザハック並みにきれる上に、アレのように油断が無い……」


 ヴェントゥス・グリフォンと前回あった時に、あいつはこちらが過水の状態異常で狩れるような状況だったのに俺達を見逃した。そして、この戦闘直前に俺が入った時さえも動かなかった。それ以外にも、冒険者達を殺せるような状況だったのにも関わらずに、それを無視することが多々あったとフェインから聞いている。


 そこから察するに、ヴェントゥス・グリフォンは無駄な争いを極力避けている。捕まえても喰い切れないとか、無駄な殺生を好まないとか……色々考えたが、今回の戦い方を見ると臆病なだけだと思っている。臆病ゆえに、無駄な戦闘をして自分がケガするリスクを避けるし、戦いの時もなるべく相手との距離を取るような戦い方をしている。それゆえに隙が少ない。


「そもそも、あいつは常に防御を展開することを優先している。さっきの不意打ちが決まらなかったのがいい証拠だしな」


「倒せるかな?」


「あいつにМP切れっていうのがあればな」


(残量計算中……残り99%です)


 フリーズスキャールヴからの報告に、無い頭を抱えたくなる俺。替わりとして蔦で草の1本に触れておく。


「……訂正する。あいつこれだけの魔法を使って1%しか消費して無かったわ」


「つまり……?」


「このままだとジリ貧だな……おーい! 前衛組! こっち側に向かってダッシュしろ!」


 次の攻撃が前衛組に向けられていたので、指示をして前衛組を避難させる。そしてフリーズスキャールヴの予想通り、前衛組が避難する前にいた場所に、床が抉れるような強力な風の魔法が撃ち込まれる。


「おお! 助かったー!」


 俺達と少し離れた場所から、ベルウルフが大声で感謝してくる。こちらに合流してこないところを見ると、今は別部隊として動いた方がいいということだろう。


「グリフォンの魔力切れの可能性はかなり低い! 何かそっちでいい策はあるか!?」


「すまないが無い! 奴が出て来たところを狙って大技を仕掛けるぐらいしか無いぞ!」


「グリフォンは呼吸のため、必ずボス部屋に現れるはずだ! 俺が合図を送る! その時に攻撃を頼んだ!」


「了解だ!」


 ヴェントゥス・グリフォンはあくまで風の防護壁で空間を作っているだけで、呼吸に必要な酸素とかを供給できる訳じゃないだろう。つまり……奴には深海内にいられる時間には制限があると予測される。


(で、あってるよな? まさか、魚のように海水から酸素だけを取り込むとかしてないよな?)


(はい。ヴェントゥス・グリフォンの知能はかなり高いですが、そのような知識は無いため、そのような空間を生成することは不可能です)


(……なあ、それって俺なら出来るのか?)


(アビリティ次第になります)


 フリーズスキャールヴからの曖昧な解答。アビリティ次第……今の俺は不可能ってことか。まあ、とりあえず俺の予想通りで良かった。


(後、どのくらいでこのボス部屋に戻って来る?)


(2分以内には出てくるかと)


 2分……それまで攻撃耐えないといけないのか。


(右斜め前より、こちら側に攻撃がきます)


「クロッカ! 右斜め前に魔法を頼む!」


 俺は蔦で攻撃が来る方向を指し示す。クロッカはそちらに杖を構えてすぐさま溜めていた魔法を放つ。


「シエル・スパーク」


 眩い閃光を放ちながら雷の球体が蔦で差した方向へと飛んでいく。そして、先ほどのメガ・フレアと同じように、ヴェントゥス・グリフォンの風魔法を相殺する。すると、そのタイミングで、ヴェントゥス・グリフォンがボス部屋へと進路を向けた。


「前衛組! また、後ろから来るぞ!」


 俺の指示を聞いて後ろを振り返る前衛組。後衛組の俺達もそちらに注視する。クロッカは先ほど魔法を使ったため、攻撃に参加できない。しかし、ガレットの方は次の魔法の準備が出来ているようで、杖をそちら側へと向けている。


 後、少しでボス部屋に戻って来るヴェントゥス・グリフォン。しかし、ここで予想外の行動を取られてしまう。


「え!? 早い!?」


 ボス部屋に入る少し前、さらに速度を上げたヴェントゥス・グリフォン。俺達に攻撃を仕掛けることなく猛スピードでボス部屋の高い場所を通り抜けてしまった。


「……あいつ。俺達が攻撃してくると判断して、直前で速度を上げやがった」


「じゃあ……また、待たないといけないの?」


「そうなるな……しかし、本当に困ったな」


 便利なアビリティと、高スペックなステータスであるヴェントゥス・グリフォン。そんな相手にどう戦うべきか悩む俺なのであった。

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