10草
前回のあらすじ「初めてのクエスト中」
―「城壁都市バリスリー・東の森」―
(行ったぞ!)
「分かってる!はっ!!」
ココリスが槍でウルフの頭を貫いて、息の根を止める。
「ウィンド・ジャベリン!!」
すると、今度はドルチェが風の槍でウルフを串刺しにする。しかし、それを盾にしてこちらに接近するウルフがいた。
(ウォーター・シールド!)
それを水の防壁で防ぐ。ウルフは水壁の勢いに負けて、腹を上にしてひっくり返される。そこをココリスがトドメを差した。
「お疲れさま」
「ええ……ウィードの防御魔法もなかなかね」
(でも、あれなら防御魔法じゃなくて攻撃が良かったかな?)
「でも、距離が近かったから一度距離を取るという意味では正解だと思うよ。私達は近接戦は得意じゃないんだから」
(そもそも俺に近接戦するための手足が無いけどな……草だから)
「そうだね。っと、それじゃあ回収お願い」
(オッケー。えい!)
倒したウルフを収納する。
「本当に便利よね。それ」
「今までその場で解体してたもんね……この方法なら安全な場所で移動してから解体できるし」
(倒したモンスターってどう扱ってるんだ?)
まさか、いくらゲームのような世界だとしても、倒しただけでアイテムを落としたり、お金を落とすことはないだろう。
「その場で解体が基本だよ。ぐずぐずしていたら他のモンスターに食べられちゃうし痛んじゃうから。ただ、大物とかになるとその場に置いてすぐに人を呼ぶかな。でも、ウィードのお陰でその心配がなくなったんだよね」
(ああ。小型の物は安全な所まで運んで、大型はギルドまで運べばいいのか)
「ええ。二人で持ち運べなかった物とかも運べるから、前より稼げるわね」
(それと俺の怪しい薬産業で……)
「からかうのもいい加減にしなさい」
デコピンで葉っぱ部分をピン!と叩かれる。
「でも、使えそうな薬もあったよね……あっ!薬草発見」
ドルチェが屈んで薬草を摘んでいく。ある程度、摘んだ所で俺が収納していく。
「使えそうな薬?」
「麻痺毒、混乱薬、睡眠薬、狂乱薬があるの。罠とかに使えるかも」
「へえー。まともな薬があったのね。てっきり前世は変態かと……」
(変態ちゃう……あれ?否定できない?)
変態じゃないかと言われると……そこそこエロ本も持っていたし、スマホにもそんな画像が入ってたし……あ!死ぬんだったらそれらだけは処分したかった!!
「変態だったのね……」
(男って少なからず……性癖がありますから……)
「それは……必ずしもじゃ無いんじゃないかな……?」
(そうかな……と、こんな話を女性と真面目にするもんじゃないな)
「それもそうよね。それで薬って他には?」
「えーと。体型変化薬?と食欲増進薬かな」
「体型変化薬?」
(体重の増減のみだけどな。ラメルさんからは各パーツ部分で増減出来る物を作って欲しいって頼まれたからな……昨日の晩で試しに作ったけど、いつもの痩身薬と肥満薬しか出来なかったんだよな……)
「……そういえば。鑑定アビリティ無いわよね?どうして作った薬が分かるのかしら?自分で試せる訳では無いでしょ?」
(調合の効果で、自分の作った物の効果が分かるんだ。俺の調合って地中の成分や草からの光合成なんかで作ってるんだけど、それを感覚で作ってるんだ。だから薬師みたいに量ったりして作って無いんだ)
「そんなアバウトだったんだ……」
(ああ。かなりアバウトだ。もっと調合していけば、多分もっと正確に作れると思うんだけどな。ってココリスは何考えてるんだ?)
「え……?ああ。ゴメンなさい。その体型を変える薬が使えないかと思ってね」
(ハッキリ言って使えない。時間経過で戻るし、ちゃんと飲まないといけないしな)
「へえー……。それなら肥満薬もらえないかしら?」
「え?」
(え?そ、そんなご趣味が?)
「何を考えてるか知らないけど、槍の訓練で体に負荷をかけたいのよ。それなら全身を重くできるでしょ?」
(バランスがおかしくならないか?)
「荷物を背負った時とか、バランスの悪い状態を想定した訓練だからいいのよ」
(そう……なのか?)
「それにいざという時はトドメに使えそうだしね」
それは思いっきり太って、その重みで相手を上から下に串刺しにするということだろうか?うーん……使う場面なんてあるのかな?そもそも、この世界の住人って体型が変化してしまうことを恐れていなさ過ぎる気が……。
(それなら。俺が作れる中で一番軽い物を後で渡す。それでいいか?)
「ええ。宿に戻ったら試してみるわ」
「うーん……それなら私は混乱薬かな」
(え?ドルチェも?)
「うん。ほら混乱で冷静な判断が損なわれるのを防ぐのにいいから。混乱も慣らしていくとアビリティで混乱の抵抗が手に入るかもしれないからさ」
(そんなアビリティもあるのか……ますますゲームだな)
「ゲーム……っていうのが何か分からないけど……耐性アビリティはあるよ。ただ、それも才能次第で身に付いたり身に付かなかったりするんだ」
(そこでも才能が関係するんだな……何かそれ嫌だな。何か才能に縛られる気がしてならない)
「そうでも無いわよ?意外に抜け穴って物があるから」
(抜け穴?)
するとココリスがその場に座って、薬草を採取し始める。そして採取しつつ話を続ける。
「無い物は……道具を使えばいいのよ。今のあなたみたいにね」
(ああ。抵抗のアビリティを持つ装備品を付ければいいのか)
「そういうこと。ただ、その手の物は値段が高いから稼がないといけないかしら」
(やっぱり大変じゃねえか!?)
「高いっていっても、通常が20000ギルだから凄い高いって訳じゃないよ」
(通常って事はそれ以外のもあるのか?)
「もっと高度なダンジョンとかに潜るなら、もっと高くて品質のいい物が必要かな。私達も装備してるよ」
ドルチェが足に着けているアンクレットに指を差す。摘み終わったココリスは腕に着けているブレスレットを見せてくる。
「今、私達が着けているのは毒耐性よ。この森って毒持ちのモンスターが出たりするから持っておいて損は無いわ」
(へえーそうなんだな……あれ?俺は?)
「「…………」」
二人が俺から目線を逸らし、そのままお互いに顔を見合わせて黙ってしまう。
「さてと!依頼の薬草はここら辺は取り終わったから、さらに奥へといきますか!」
「そうだね!」
(おいーー!!忘れていただろ!?どうするんだよ!?)
「早くしないと、城門が閉まっちゃうからどんどん採るわよ!」
「おおーー!!」
(人…いや、草の話を聞けーーーー!!!!)
その後、俺達は毒を持ったモンスターと遭遇することなく。無事に薬草の採取を終わらせることに成功するのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―その日の夜「城壁都市バリスリー・花の宿プリムラ 食堂」―
「「かんぱーい!」」
そう言って、二人がお酒を飲み始めた。仕事終わりには必ずビールを飲んでいたので、つい飲みたいと思ってしまう。ここは花の宿プリムラの食堂。俺たち以外にも客が居て、和気あいあいとした雰囲気で食事を取っている。
(うーーん。お酒が飲めないのは痛いな……)
今の俺は草。飲む口など無い。いや?上からかけてもらえば飲める……いや、草とか根っこから吸収できるのか?そもそも味わえるのか……?
「やっぱり、その姿って大変だね」
俺の独り言を聞いていたらしくドルチェがこちらを向きながら話しかけてくる。
(前世の記憶が無く、もともと草として生まれてくれば苦しまなかっただろうな……かと言って、それが無ければこんな風に連れ出してもらえたかどうか怪しいけどな)
何の記憶も無く草として生まれてきていたら、果たして連れ出してくれと頼んでいただろうか。草としてその場で枯れ果てるまで、ずっとその場にいたのではないだろうか?
「私なら、まいっちゃうかもしれないわね……ただ、そこにいるだけっていうのは」
(だな……リアルで生まれ変わるなら草はオススメしない)
これなら、前世の頃に聴いていた歌のフレーズにあった「海の底で物言わぬ貝」の方がまだマシかもしれない。物言わぬとはいえ多少なりとも動けるのだから。
「それじゃあ……そんなウィードのために今後の予定を相談しましょうか」
(今後の予定?)
「ええ。とりあえずは明日も同じ依頼をこなして、明後日は別の仕事を考えているんだけど……何か要望があるかしら」
(要望……要望………ダンジョンっていう所に行ってみたいかな。そんな所、前世では無かったからさ)
「いいね!私も行きたい!!」
「ダンジョンとなると、アルヒの洞窟ね」
(そこって、難易度が高い所なのか?)
「初心者向けよ。出て来るモンスターもカロンの森と比べたら、全然楽勝よ?」
「ただ、洞窟だから外のような戦い方をすると危険な事も多いから、閉所での戦い方を覚えるには最適な場所だよ」
(おお!面白そう!!やる!やるよ俺!)
「じゃあ決まりね。明後日はダンジョンに潜って最下層のボス討伐に決定!」
「久しぶりだね!」
(ボス……討伐?)
「まあ、そこはここで話すより、実際に経験して方が早いから、明後日のお楽しみって事で」
(あーー……うん。分かった)
ボス討伐か……初心者向けのダンジョンだし。大した物は出てこないだろう。とにかく明後日が楽しみになって来た!
夕食後、俺は明後日のダンジョン探索の為に夜通しでポーションや状態異常回復薬を多めに作るのだった……あんなボスが出て来るとは思いもしないで。