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107草

前回のあらすじ「中和薬が出来ました~!」

―中和薬出来てからさらに2日後「リゾート地ガルシア・高級リゾート地 道場」―


「よっしゃー! 毒魔法のレベルが上がったーー!!」


 中和薬作成から2日。俺は毒魔法のレベルを上げるために、コテージに隣接する道場でポイズン・パフュームを使ってレベル上げをひたすら行っていた。そして、ついに中和薬を散布する事が出来るようになった。これで少なくともボス部屋で戦う事は出来るだろう。


「完成したんですか!」


「おう! 完成したぞ! 2人も協力してくれてありがとうな!」


「それは良かった……で、さっそく戻してくれませんか?」


 毒魔法のレベルアップに付き合ってくれたビスコッティとクロッカ。レベルアップの条件が相手を状態異常にさせる事か、それに準ずる魔法を使い続けるかなので、ポイズン・パフュームで常に2人に対して過水の状態異常を引き起こし続けていたのだが……。


「すっかり胸が平らに……」


「こんな体型なのに、胸は膨らまないなんて……変な話だよ」


 2人はそう言って、両手で自分の胸を触って感触を確認する。それなりに大きいはずの2人の胸はすっかりなくなっており、胸の辺りが綺麗な曲面になっている。それでいて体を動かすと、膨らんだ所がポヨポヨと振るえている。


 ちなみに、2人は何もせずにただ過水の状態異常になっていた訳ではなく。その膨らんだ体で走ったり、武器を振ったりして万が一の時の戦い方を練習していた。


「そうしたら……これ」


 俺は収納から減水薬を2つ取り出す。ビスコッティとクロッカはすぐさまそれを手に取って、そのまま一気に減水薬を飲み干して、びしょ濡れになりながら元の姿に戻る。今回、濡れてもいいように濡れても透けない服を着ており、中は水着を着用してる……とのことだ。ちなみにどんな水着とかは知らん。


「ふう……そうしたら、いよいよ決戦ですね」


「だな。けれど……1つ心残りが出来たな」


「何か問題が?」


 ビスコッティが濡れた髪を搾りながら訊いていくる。しかも、俺のすぐ目の前でそれをしているので、その無防備さにドキッとさせられる。


「ウィードさん?」


「あ、ああ……1つ問題があってな。俺は今回の戦闘に参加できない。常に室内に中和薬を巻き散らさないといけないからな」


「そうなると……ドレットノートボイスや白炎による強力な攻撃は期待できないってことになるのね」


「クロッカの言う通りでな……実際の戦闘では、もしかしたら途中で攻撃できるタイミングが訪れるかもしれないが……今回の戦闘では、俺が皆の生命線だからな。無理に攻めに転じるのは危険だろうな」


「確かに……」


 今回、俺が状態異常を常に無効化させつつ、皆で攻めるとういうのが俺の考えた作戦である。この中和薬を散布しつつ俺が攻めるという事が、出来ないかと実験中に試してみたのだが……蔦を動かすくらいなら出来るが、新たなアビリティを使うのは無理だった。


「中和薬は状態異常を元に戻す薬じゃないからな……一度でも過水の状態異常を許すと、減水薬を飲むまで慣れない体で戦う羽目になる。それは絶対に避けたい」


「その通りね」


 すると、俺達が会話している中、道場にココリスが入って来る。


「あっちの様子はどうだ?」


「ダメね。諦めるパーティーが増えて攻略がままならなくってきたわ」


「正攻法で戦えないからな……俺達みたいに戦うっていう考えはなかなかいないだろうな」


「そもそも、あなたのように戦えて、しかも優れた薬師なんて滅多にいないわよ」


「おだてても何も出ないぞ?」


「あら? 中和薬を散布出来るんでしょ? それだけで十分よ……っと話を戻すけど、この後、皆リビングに集合して頂戴。さっきの問題を解決する案があるの」


「分かりました。そうしたら、着替えてきますね」


 ビスコッティとクロッカが道場を出て、話合いのために身支度を整えに行ってしまった。


「それじゃあ……すまないが俺をリビングに連れて行ってくれ」


「はいはい」


 俺はココリスに運ばれ、ココリスと一緒に一足先にリビングへとやって来る。


「あれ? 何でこいつらがここに?」


 そこにいたのはフェイン……と、前にダンジョン内ですれ違った歴戦の強者感漂う高ランクパーティーの4人だった。うちのパーティーはまだ誰も来ていない。


「やあ。対策はどうだい?」


「つい先ほど完成したが……」


 フェインの質問に答える俺は、そこで言い淀む。ギルドマスターに伝えるのはいいのだが、隣にいるパーティーとは、どちらが先にヴェントゥス・グリフォンを討伐するかで競っているライバルである。ここで有益な情報を漏らすのはマズいと思ったのだ。


「ウィード。話していいわよ」


「いいのか? ヴェントゥス・グリフォンの素材は高値で売れそうだぞ?」


「そうね。でも……短期で一気に倒すには火力が足りないでしょ? そこで別のパーティーに助けてもらおうと思ってたのよ。そもそも、話したところで出来ないわよ」


「それ……勝手に決めただろう? 他の奴らにも訊いておけよ……まあ、誰も反対しないだろうが」


「すまない。ココリスにその案を提案したのは俺だ。君達のパーティーと狼牙団で協力できないかと思ってな」


「ギルマス……あの喋っている草が、ヴェントゥス・グリフォンの状態異常をどうにかできる秘策なのか?」


「ああ……そうだ。彼は優秀な薬師でな。王都にいる魔女モカレートと肩を並べられるほどの実力者だ」


「ほう……見た目からでは想像できないな」


「自分の体の事だが、俺も同意見だ……俺の名はウィードだ」


「俺は狼牙団のリーダーのバルウルフだ。よろしくな」


 自己紹介をするバルウルフ。その後に続いて、他のメンバーも挨拶をしてくれた。強者故に、威圧的な態度を取るかと思っていたが……温和で非常にダンディーな対応をしてくれた。まあ、冒険者ギルドのランク制度から考えて、粗暴な奴らが高ランクパーティーになるってことは無いのか。


「それで、早速なんだが……お前さんはアレに対抗できるのか?」


 ベルウルフが自分が一番訊きたいことを、俺に尋ねてくる。一度、ココリスに再度確認してから、俺は話を始める。


「ああ。あの過水の状態異常を引き起こす空間を中和するための薬。それを散布し続けるアビリティを習得した。後は実際に上手くいくか試すところ……要は本番だな」


「中和薬……初めて聞く薬だな」


「当然だ。2日前に作ったしな」


 狼牙団の1人の質問にそう答える。それを聞いた牙狼団全員が驚きの表情をする。


「ほ、本当にか……?」


「本当です。私達が身をもって体験しましたから」


 リビングへと続く廊下から聞こえるクロッカの声。すると、こちらのパーティー全員がリビングへやって来た。


「もう……事前に連絡してよココリス?」


「ごめん。ギルドに顔を出したら、ギルドマスターに泣きつかれて……」


 それを聞いたドルチェが、あんまり怖くない睨みでフェインを見る。しかし、その睨みつけでもフェインには効果があったようで、すぐさま視線を外して違う方向を見る。


「まあ……ウィードが戦闘に参加できない時点で、必要な火力を補う必要があったけど……」


「ですね。そもそも通常のグリフォンでも強いのに、それより強い個体となると、やっぱり戦力は多いに越したことは無いですね」


 ドルチェとビスコッティの意見に他のメンバーも頷く。


「どうやら反対意見は無さそうだな……そうしたら早速作戦会議といくか」


 そこから、ヴェントゥス・グリフォン討伐の為の話し合いが始まる。まずは全員の能力を把握するため、各々の武器、アビリティを教えてもいい範囲で話す。そこで驚いたのが、牙狼団の4人はなんと全員前衛で魔法職がいないという異色のパーティーだった。しかし、彼らは高ランクパーティー……何かしらの方法を持っているという事だろう。


 そうなると、牙狼団の全員が前衛となり、さらにココリスとビスコッティとアマレッティの3人……計7人が前衛となり、後衛は変わらず俺を含めた4人となる。そして、俺の役目は中和薬をひたすら散布して、過水の状態異常を起こさせないという役になる。


「中和薬は2日間で大量生産したが……相手の過水の状態異常のレベルで効果時間が変わってしまう。だから、俺もどれだけの効果時間があるか分からない」


「となると……やっぱり短期決戦だな。高火力の攻撃で一気に叩くのが一番だな」


「相手は空を飛んでますから、後衛組で落として……落ちた所を前衛で叩きましょう。後はボス部屋まで体力を温存したいですね」


「そこは俺の出番だな。まだダンジョンに残っている奴らに頼もうとしよう」


 フェインも話し合いに混じり、自分の出来る範囲で手伝う事を約束してくる。およそ2時間ほど話し合いをしたところで、今日はお開きとなった。


「じゃあ、明日の朝、ダンジョン前で合流しよう」


「ああ。期待するぜ」


「それは俺達のセリフだ」


 そう言って、ベルウルフが笑う。すると、何か思い出したような表情を浮かべ、再度俺に視線を向ける。


「ちなみに……お前ってそんな声なのに男なのか?」


「ああ、オスだ。女児ボイスだが……そう。男……のはずだ」


 最後の最後で、そんな質問が来るとは……まあ、仕方ないと、俺は思うのであった。

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