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105草

前回のあらすじ「対話拒否な戦闘をするグリフォン」

―3日後「リゾート地ガルシア・高級リゾート地 街中」―


「……ってね。何か大変らしいわよ~。お陰で商売上がったりってボヤいていくからね~……確かあなたも冒険者だったかしら」


「そうですよ。3日前に行ってみたんですが……乙女の天敵ですね」


「ああ~……分かるよ。あんな姿になるのは嫌だね。って、乙女っていう年頃じゃないけどね」


 笑いながら、自虐ネタを放り込む女店主。自分がそのように呼ばれる歳では無いと自覚しているのだろう。


「何を仰ってるんですか! まだ、お若いですって!」


「あははは! そりゃ、エルフから見たら若いかもしれないけど、十分おばさんだよ!」


「世辞じゃないですよ! あ、これも1ついいですか?」


「あいよ! そんなお世辞の上手いお嬢ちゃんには、もう1つサービスしておくよ!」


「だから世辞じゃないですから……オマケありがとうございます」


「いいって! また、うちに来なよ!」


 買った食材のお代を払って、露店を後にするドルチェ。店の店主であるおばさん……いや、お姉さんが手を振って見送ってくれた。


「お世辞がお上手ですねお姫様」


「変のこと言わないでよウィード。本当のことだし……」


 ぶーぶーと文句を言うドルチェ。エルフであるドルチェからしたら、そう思わ無いのかもしれないが、40過ぎだろう店主からしたら、乙女という扱いはお世辞にしか聞こえないとは思うのだが。


 初めてヴェントゥス・グリフォンと出会った日から3日が経過しており、その間に色々と情報収集をしてきた。


 冒険者ギルドでも情報が集まるのだが、このような露店だと、本人達が冒険者ギルドに報告するような情報では無いと思って、言わなかった情報が聞けたりして、中には意外な掘り出し物があったりするのだ。


「というより……何でウィードも話に混ざらなかったの? 色々、話を聞きたいんじゃないの?」 


「ヤロウがレディーへ歳を訊くのは禁句だ。俺にもそのくらいの配慮はある」


「声だけだったら、バレないと思うけど?」


「欺くのは悪いだろうって……しかし、どこのパーティーも問題点は同じだな。ボス部屋で戦えないって言うのはな」


「そうだね。しかも、膨らむ速度も早くなってるみたいだし」


 この3日間で集まった情報……ヴェントゥス・グリフォンは1日1回、時間は不定期だが29層へと狩りに出掛けるらしい。今の所は、そこを狙うのが今の最善策となっている。ただし、その方法で既に3回失敗しているので、この方法で討伐するのは難しいだろう。


「何組かは諦めたらしいな」


「そうみたい。ギルドマスターも頭を抱えてたね」


 一向に倒されないヴェントゥス・グリフォンに、一番頭を悩ませているだろうフェイン。便宜を計るためにも、ぐっすり快眠出来る睡眠薬とか、きっとストレスで痛めているだろう胃に効く薬を渡してみるか……。


「うん? お前達は……」

 

 噂をすれば何とやらで、俺達の前に私服姿のフェインが現れる。


「お疲れ様ですギルドマスター」


「お疲れさん」


「ああ、どうも。最近見かけないから、どうしたかと思っていたんだが」


「諦めて、帰ったと思っていたか?」


「半分な……他のメンバーとグリフォン討伐の件で喧嘩でもしてとか思っていたが……どうやら、そうじゃないみたいだな」


「情報収集していたんです。通路で戦ってどうだったのかとか、何か有効打があったかとか」


「なるほどな」


 理由に納得するフェイン。もしかしたら、討伐を諦めたパーティーの中にそんな奴らがいたのかもしれない。


「それより……ギルドマスターは私服姿で何してるんだ?」


「俺か? 俺は休暇だ……他の職員から無理矢理取らされてな。『一度しっかり休め』ってな」


「ホワイトな職場で良かったな」


「……意味はよく分らんが、まあ、そうだな……?」


 この世界では分からない例えだったか……これは申し訳ない事をしたな。しかし、俺が働いていた職場なんて、無責任な奴らが多くて、そのため俺に仕事が回って来て……あれ。何か泣きたくなってきたぞ?


「まあ、急な休みだったからな……特にやることもなくて、街中をぶらぶらしているって訳さ」


「趣味の1つくらい持っていた方がいいぞ? 人生は短いようで長いからな」


「草に人生を諭されるとは……まあ、いつもは海に行って波乗りとか楽しんでるんだがな。今はそんな気分になれん」


「なら、俺達と一緒に街中を探索するか? タダとはいかないがな……」


「……何が望みだ?」


「言っただろう? 情報収集だって……な」


「ギルドマスターが大した事じゃない情報と思っている事が、こちらにしては有力情報かもしれませんから……ね?」


「やれやれ……お嬢さん2人に誘われちゃ断れないな」


「俺……男だぞ」


「そんな声で?」


「言うな。これ以外の声は上手に発生できないんだよ……とりあえず、次行くぞ」


 俺とドルチェはフェインを加えて、街中を探索しつつ冒険者達が落としていった情報を聞いていく。酒が入った事でうっかり漏らしたり、この町に長くいた事で馴染みになった店の店主とかに漏らしたりと……様々な情報が集まっていく。


「酒場の女に漏らした奴は外した方がいいぞ? どうせ見栄を張ってるだろうしな……そうだろうフェイン?」


「ああ……それには酷く同意する」


「はは……」


「あ、お疲れ様です!」 


 俺達が広場で休憩していると、ダンジョン探索に行っていた皆が……。


「何か情報集まりましたか……って、何でギルドマスターもいるんですか?」


「いや。お前ら何で過水状態になってるんだよ?」


 帰って来た全員が妊婦のようなお腹を揺らしながら、こちらへと合流する。


「運良くグリフォンの狩りの時間に当たってね……戦ったけど、こんな姿にされて、しかも逃げられただけよ」


「何も知らなければ、大食いの集団と勘違いしそうだな……ビスコッティとクロッカは減水薬を使わなかったんだ? 恥ずかしいんじゃないのか?」


「太ったような体が恥ずかしいだけで……これに関しては別にですかね」


「将来、こうなる時がくるもの……別に恥ずかしくないわ」


「……さようですか」


 そう言って、突き出たお腹をさする2人。妊婦なら恥ずかしいとは思わないだろうが……凄い大食い女性だと思われる可能性の方が高いと思うんだがな……。


「それで、どんな戦いになった?」


「戦い……ううん。あれは一方的な暴力。通路に過水の状態異常が含まれたウインド・バーストで一気に戦闘不可能にしてた」


 そう言って、ガレットが深い息をする。この中で一番体力無さそうな彼女にとって、今のお腹だけが突き出た体は色々負荷が掛かるのだろう。


「しかも、うちらは余波でこうなってさ。グリフォンに近かった奴らは素っ裸で真ん丸になってたよ」


「それは……何とも恥ずかしい話だな」


 真ん丸な姿でヌードを晒す……これは男でも女でも、恥ずかしくてたまらないだろう。まあ、過水状態になるから伸縮性のある防具にすべきところを、余計な金を使いたくないと装備代をケチったそいつらも悪いんだが。


「となると……打つ手がなくなちゃうね」


 ドルチェのその一言に、ここにいる全員が唸る。ボス部屋では常に過水の状態異常を引き起こすフィールドで戦う事になり、狭い通路では、遠距離から一方的に過水の状態異常を含む風を浴びせられる……つまり。


「とどのつまり……過水の状態異常をどうにかしないといけないか」


「ウィード……何か案があるの?」


「減水薬は過水の状態異常になった体を治す薬……だから、過水の状態異常にならない薬、もしくは過水の状態異常を引き起こす空間を中和する薬を作るしかない」


「出来るのか!?」


「そこなんだよな……こうなったら、例のアレを使うか」


 俺は自分にフリーズスキャールヴを使い、スキャンを使う。

 

「何してるんだ?」


「まあ、少し待ってあげて下さい」


 そんなフェインとドルチェの会話を聞き流しながら、フリーズスキャールヴに幾つかの案を出して、それに対して検討してもらう。


(……過水の状態異常を習得、または過水薬の作成………可能。次に中和、予防になる薬の作成…………可能ですが、それでは力不足になります)


(力不足?)


(予防薬は制限時間付きです。時間としては10分ほどになります。中和薬は作れますが、それを満遍なく巻き散らす必要があります)


(そうしたら、ポイズン・パフュームをどうにか利用できないか? 今まで毒扱いの物しか飛ばせなかったんだが……)


(検索……後は毒魔法のレベルアップをすれば可能です。しかし、空間生成のように均一とはいきませんが……)


(対抗策としては?)


(良案だと思われます)


 良案……最適解とは言わずとも、これならまともに戦える状況には持ち込めるということだろうか。それなら……。


「何とかなりそうだ。過水の状態異常を作り出す空間の中和薬を作り、それを俺がポイズン・パフュームで巻き散らして無力化……そこを一気に叩く」


「何と! そんな方法が出来るのか!?」


「ただし……俺の毒魔法のレベルアップとか薬の作成とか……何か俺の負担が大きいなこれ……」


「ウィード……頑張って!」


「期待してます!」


 皆が羨望の眼差しで俺を見る。つまり、これから不眠不休でそれらの作業をしろということか……ふっ。


「ブラック企業はここにもあったのか……」


 今日から始まる楽しい楽しい深夜の残業(おしごと)。たくさんの面倒くさい工程が待ち受けていると思うと、思わず溜息を吐いてしまうのであった。

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