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104草

前回のあらすじ「ボス戦手前の話」

―「イポメニの古代神殿・ボス部屋」―


「……」


 こちらを睨みつけるヴェントゥス・グリフォン。その足元には恐らく今日の狩りで仕留めた獲物であるモンスターの死骸が転がっていた。


「時間が無いわ! 早速行くわよ!」


 ココリスの号令に皆が返事をして、一斉にグリフォンへと挑む俺達……だが。


「うわ!?」


「え!?」


 その瞬間に、皆のお腹がボヨンと前に突き出る。まるで、妊婦のようなお腹になってしまった皆。全員がグリフォンに注意しつつ、自分の大きなお腹に触れている。俺も草の部分が膨らんでいるようで、ピンと伸びていたのが重さのせいで曲がってしまう。


「入った瞬間にこれかよ……」


 俺がそう思っている間にも、俺達の体が膨らんでいく。妊婦のような体型だった皆の体もさらに膨らんだせいで、ぽっちゃり体型へと推移していく。ミョンダコで味わった過水の状態異常よりも早く体が膨らんでいっている。


「ココリス! 撤退しようぜ!」


「え、ええ!」


 とりあえず、撤退をココリスに促す。ココリスもすぐに反応して皆に撤退の指示を出し、ボス部屋を出て素早く扉も閉める。その時には全員の体は肥満体型まで膨らんでしまっていた。


「早すぎるって!」


「まともに戦えませんよ!?」


 アマレッティとビスコッティの2人が鬼畜過ぎるボス部屋の状態に不満を漏らす。他の皆も同じような不満を漏らし、そして、どうやってグリフォンを倒すかを考え始める。

 

「この部屋で戦うのは無理。待ち伏せ推奨」


「ガレットの言う通りです。こんな体じゃ、まともに戦えません」


「そうだね……ココリスならリバウンドで強力な攻撃を仕掛けられるけど、私達だとただ機動力が落ちるだけだからね……МPタンクで変換出来ればよかったのに」


「今日はとりあえず撤退ね」


 討伐は不可能と判断して、今日は撤退することになりそうだ……。しかし……それよりも気になることがある。


 それは今の皆の体型である。肥満化の状態異常の場合は、胸が一番大きく太ってたり、全身満遍なく太ってたりと人によって違うのだが、過水の場合は全員、お腹が一番大きくなり、その次にお尻が大きくなる。逆に胸は膨らむ体に引っ張られて小さくなっている。そのため、巨乳の奴らも全員貧乳になってしまっている。


「そういえば、さっきの冒険者も転がされてたしな……どちらかというと膨体なのか……」


「どうしたのウィード?」


「いや。この状態異常が肥満化に近いかと思ったんだが……別物だなと思ってな。それより、減水薬をすぐに服用するか? やっぱりどこか移動してからか?」


 ここで元の状態に戻るのは簡単である。ただ昨日のように、全身がびしょ濡れになり、濡れた衣服が体に纏わりつく状態になる……つまり、ここにいる男性諸君にとってご褒美ともいえるエロい姿を見せる事になる。かと言って、膨らんだ体を晒すのも恥ずかしいものがある。


 草である俺にとっては悩むような問題では無いが……うら若き女性であるこいつらにとっては無視できない悩みだろう。


「うーーん……皆どうする?」


「私はこのまま」


「うちも。本当の姿じゃないし」


 膨らんだ姿のまま移動して、どこかで元の姿に戻った方がいいと発言するガレットとアマレッティ。


「私は……こっちの方が恥ずかしいですかね」


「私も」


 この場で元の姿に戻りたいと伝えるビスコッティとクロッカ。これで2対2……後はドルチェとココリス次第だが……。


「私はそのままで」


「私は戻りたいかな……」


 ドルチェとココリスの意見が分かれる。これで3対3になってしまった。


「いや……この姿恥ずかしくないの?」


「濡れた衣服で元の姿を晒す方が恥ずかしくない?」


「それもそうだけど……」


 ここで、どちらが恥ずかしい姿なのか討論をし始める。女性同士の討論に口を出すのは危険と判断した俺は、とりあえず俺はステータス画面を開いてヴェントゥス・グリフォンの情報を確認する。


「(引き上げる前にフリーズスキャールヴを発動させておいて良かった……と。で、今の動きは……)」


 ヴェントゥス・グリフォンは先ほどから動いていない。どうやら追ってくることはなさそうで安心する。


「(食事を優先か……まあ、それはいいとして……)」


 ヴェントゥス・グリフォン……風の称号を名前に持っている事もあって風魔法を有している。それ以外に空間生成というアビリティを持っており、ボス部屋に入った瞬間に過水の状態異常になった原因はこれを使用したからだろう。


「(空間生成……自身の持つアビリティを使って、特殊な領域を作れるアビリティ……なるほどな。風魔法を使用すれば、自身に風を纏わせて水中内……しかも、深海でも行動が出来るようになるのか……)」


 ヴェントゥス・グリフォンが、このダンジョンに侵入した際に海に突っ込んで外から侵入したと聞いていたが……それが出来たのはこのアビリティのお陰という事だろう。そして、過水のアビリティを習得した後は、常に周囲の奴らを膨らませる空間を生成しているって訳か。


「(俺だったら、周囲に毒の空間を作り出せるのか……ポイズン・パフュームに似ている所があるが……各属性魔法も空間生成に使えるのはいいな)」


 俺だったら火魔法と水魔法が持っているので、それらを自分の周囲に張り巡らせることが出来るという事になる。ロマンと実用性のあるこのアビリティ……是非とも習得したいものだ。


(……ヴェントゥス・グリフォンを討伐し、いつものようにレベルアップすれば使用可能になります)


 ありがとうフリーズスキャールヴ……あの神様より、よっぽど神様っぽいです……。これは是が非でも討伐しなければ……。


「おーーい! 聞こえてるの!?」


「お!? おう……すまん。聞こえている」


 ドルチェの大声で我に返る俺。慌てて返事をする。


「それでどうなった?」


「このまま帰る……不本意だけど」


「そうか……ちなみにだが、どうやって決めたんだ?」


「ジャンケン……何も考えずにパーを出した私の勝ち」


 ガレットがニコッと笑う。その姿をドルチェと同じ意見だったクロッカとビスコッティが恨めしそう睨んでいる。


「じゃあ……帰るか。それなりに情報を得られたしな」


「うう……嫌だな」


 そう言いながら、その膨らんだ両手で自分の大きなお腹をさするドルチェ。そこから自分の小さくなった胸を触って、さらに不機嫌な表情になる。


 ちなみに……もし、俺にも発言権があったなら、ここで元の姿に戻るを選んだグループの勝ちだったのだが……。この話に俺を巻き込まなかったのがドルチェ達の敗因かもしれない。


 その後、支給されていた魔道具を使って、3階層に戻った俺達はその膨らんだ体を揺らしながら拠点へと戻るのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―夕方「リゾート地ガルシア・高級リゾート地・コテージ」―


「……というアビリティ構成だった」


 拠点に戻り、元の姿に戻った皆にフリーズスキャールヴから得られた情報を伝える。


「自分の周囲に自分の持つアビリティを使用した空間を生成する……か。厄介なアビリティね」


「でも……これがウィードの旦那のような奴じゃなくて良かったぜ。ウィードの旦那なら即死級の毒空間を作れるって訳だろう?」


「それはどうだろうな……この手のアビリティって、ゲームだったら威力が弱まった状態になることが多いからな……常に毒によるダメージを与えるっていうのが関の山だろうな」


 恐らくだが……この仮説はあっているはず。ヴェントゥス・グリフォンは相手を一瞬にして球体状に膨らませる程の過水状態を引き起こせるのだ。アマレッティの言う通りなら、俺達があのボス部屋に入った瞬間に、身動きが取れない程に膨らんでしまうはずだ。


「しかし……厄介だね。ボス部屋では戦えないし、いつ出てくるのか分からないグリフォンを待って、ダンジョン内にいるというのも……いや、後者はいいのか」


「普通は良くないですけど……今回、たくさんの冒険者達がいますからね。待機しててもそんな苦にはならないですもんね」


「ビスコッティの言う通りよね……私達もそうします?」


「そうね……ウィードはどうかしら?」


 俺にどうしたいか尋ねるココリス。過水状態への唯一の対抗策である減水薬。それを作れる俺の意見を訊きたいという事だろう。


「それはいいと思う。が、それで倒せるかが問題だな」


「と言いますと?」


「この空間生成は思った以上に強力なアビリティだ。恐らくだが、グリフォンがここにやってきた時には自身に風を纏って、海の中へと潜り3階へと到着。そのまま最深部までやって来た……つまり、あいつは周囲の海水を弾くことが出来る程の高密度の風の空間を作れるという事……さて、そんな状態で体当たりをされたらどうなると思う? 攻撃したら中のグリフォンに届くと思うか?」


 それを聞いて皆が黙り込んでしまう。あのボス部屋ではなく、通路で待ち伏せするのは一見理にかなっているように思える。しかし、狭い通路一杯に風魔法で作られた空間を展開されてしまえば、その攻防一体の攻撃のせいで、何もかも弾かれてしまうだろう。


「……ってことで、情報収集とあいつへの攻撃手段を考えるべきだと思うぞ」


「そう……だね。そう考えると、倒せるかのか難しいかも。とりあえず、明日もダンジョンに潜って対策を練ろうか」


 ドルチェの提案に皆が提案する。その後、少しだけ対策の話をしたところで、夕食の準備や各々自由時間に入る。


「ところで……ウィード。あなたなら倒せるんじゃないの? 高火力の魔法を持ってるでしょ?」


「白炎とドレットノートボイスだよな……対策案に入れてもらっていいが、通路でやったら味方を巻き込む可能性あるからな? ゲームみたいに仲間には当たらない機能なんて無いし……」


「ゲームは分からないけど……確かに消し炭にされるのは勘弁してほしいわ」


 そう言って、ココリスはアマレッティと一緒に夕食の準備へと取り掛かる。俺も待ってるのは暇なので減水薬の増産と、グリフォンに効果的な攻撃が無いかを考えるのであった。

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