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99草

前回のあらすじ「ダンジョン探索1日目」

―「イポメニの古代神殿・10層」―


「中ボス戦……か」


 階段を下りた先には大きな扉があり、いかにもこの先にはボスが待ち構えていますよ感がある。


「で、どんなボスだった?」


「魚よ。名前はアーミーフィッシュ」


「軍隊魚……ってことは1匹じゃないんだな」


「ええ。正確には数えていないけど……2、300はいたかしら」


「ほう……捕まえれば、当分は食料に困らないな」


「硬いから食用には不向きよ。まあ……食べられなくは無いみたいだけど」


「それは気になるな……せめて犬とか猫なんかの動物型だったら味わえたのにな……」


 アーミーフィッシュが食べれると聞いて、その途端にその味に興味が沸く。硬いとはどういう意味なのだろう。もし、皮が硬いとかならその皮を剝げばいいし、身が硬いとかなら身がホロホロになるまで煮込むとか……。


「やり方次第でいくらでもあると思うんだが……な」


「ウィード?」


「すまん……気にするな。ここ最近、元の体が恋しくなってきてな。魔法を使えないし、冴えないおじさんの体なのにな……」


 前よりも増して肉体への渇望が強くなっている感覚……時折、口にしていたが、元のおじさんでもいいなんて思ってしまえるほどに、俺は肉体を欲している。


「……大丈夫?」


「大丈夫……ではないな。このクエストが終わったら、ニトリル商会で変身が出来るアビリティが載っているスクロールが無いか訊いてみるか」


「……どうやら大分、重症かしら」


「ああ。重症だな……神様は俺の性格上、この体でも大丈夫だと思っていたようだが……やはり精神的に無理があるな」


「ウィードさん。そんな事を言っていいんですか?」


「構わないと思うぞ。話をした感じだが……ふざけてはいても、手探りでこの世界を良くしようとしている事は何となくだが分かった。だから、俺が不満を言う事で、次の奴がこんな目に遭わずに済むだろう? それともビスコッティ……お前がなるか?」


「……遠慮しときます。その場に佇んで、全く動けないなんて精神がおかしくなりそうです」

 

「だろう? そろそろ俺もこうやって誰かに感情をぶつけないといけないところまで来てるようだ……」


 まだ、感情は抑えられている。けれど、思っていたことを口にしないようにし続けるのはそろそろ限界のようだ。


「人の精神に植物の体……相容れないのは前から分かりきっていたがな。とまあこの話はここまでにして、さっさと中ボスを倒して今日の仕事を終えようぜ」


「分かったわ……でも、一方的に話を切るのはどうなのかしら?」


「答えが出るわけないからな。そもそも、この話を切り出したのは俺だしな。締めるのも当然だろう? ほら、さっさと行くぞ」


「分かったわ。ほら、皆も行くわよ」


 静かになっていた皆に声を掛けるココリス。それを聞いた皆がゆっくりとココリスの後を歩き出す。


「ほら! そんなしみったれた顔するな! ちゃっちゃっと終わらせるぞ!」


「ウィードの旦那のせいだろうって!」


 アマレッティがツッコミを入れる。おかげで先ほどまでの暗い感じが少しだけ和らいだところで中ボスの部屋に入る事が出来た。


 中に入ると、大きな四角い部屋の天井から流れるいくつもの滝。そして、それが作り出す底の深い水だまりが目の前に広がる。唯一、俺達が移動できそうなのはその水だまりの上を通る酷く蛇行した石畳の道ぐらいだった。


「なあ、通路の先に扉があるんだけど……すり抜けとか出来ないのか?」


「出来ないよ。それに……アーミーフィッシュとの戦闘はこの通路の中頃に行かないと戦闘が起きないから、ここで待ち伏せとか出来ないんだよね」


 ドルチェの説明を聞いて、まるでゲームの設定のようだと思う俺。ここもそうだが、この世界のダンジョンってアフロディーテ様が設定しているのだろうか? そうだとしたら、かなりのゲーマーなのでは……。


 俺がそう思っている間にも、皆は蛇行した道を歩いていく。そして道の中頃に来たところで、水だまりの水面がバシャバシャと音を立て始める。


「来るわよ!」


 ココリスが声をあげると同時に、数十匹のアーミーフィッシュが水だまりから飛び出して襲い掛かって来る。


「サウンド・ショット!」


 俺は自分の魔法の中で速度と連発性のある魔法でアーミーフィッシュを吹き飛ばす。他の皆も威力より命中率が高かったり、数撃ちゃ当たるで連発出来る攻撃で襲い掛かるアーミーフィッシュを蹴散らしていく。


「ウィンド・ブレード」


 ガレットが風で切り裂き。


「サンダー!」


 クロッカはアーミーフィッシュを雷魔法で消し炭にしつつ、また水面で待機していたアーミーフィッシュ達を感電死させる。


「はあーー!!」


「えい!」


 アマレッティは2本の短刀で切り裂き、パラディンのビスコッティは盾で弾き飛ばす。ココリスも槍を使って次々に倒していく。


「……私、何もしていない」


「魔法が使えないんだから、大人しくしておけ……白炎!」


 皆が守ってくれるので、俺は水だまりに超高温の白炎を人魂状にして高速で打ち出す。冷たい水と超高温の白炎がぶつかることで熱膨張による大爆発を起こし、水中のアーミーフィッシュ達にダメージを与えていく。


「やり過ぎてこっちに波を起こさないでよ!?」


「分かってる……ドルチェ。敵の数はどうだ?」


「まだ、いるよ。でも、残り少ない」


「もうひと踏ん張りだな」

 

 俺達がそのまましばらく攻撃を続けていると、突如として水面が静かになる。


カチッ!


「何の音だ?」


「出口の扉が開いたの。つまり撃破ってこと」


「ああ……なるほどな」


「ありがたいですね……あの数だから倒しきったのか分からなかったですから」


「新設設計だよな……」


 そんな話をしながら、そのままこの部屋の出口である扉を開けて、この中ボスの部屋を後にする。部屋を出ると、そのまま下に続く階段と、エポメノの崩壊した塔でも見た転移魔法陣とそれを発動させる台座が置かれた小さな部屋に出る。


「今日はここまでだな」


 時間はまだ昼過ぎぐらい……予定していた時間より大分早く今日のダンジョン探索が終わってしまった。


「(早過ぎないか?)」


「(うんうん)」


 アマレッティとクロッカが今日のダンジョン探索が早く終わった事に戸惑っているらしく、小声で互いの認識が間違っていないかを確かめている。


「間違ってねえぞ。俺の方でも時間としたらお昼少し過ぎたぐらいだ。どうする? ここで昼食を取らずに外で食った方がいいんじゃないか?」


「賛成! どうせ食べるなら出来立ての料理の方がいいしね」


 ドルチェの意見に皆が賛成して、この下の探索は明日にし、この後は休息を取ることになった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―転移直後「リゾート地ガルシア・冒険者ギルド」―


「おう! お疲れ!」


 俺達がダンジョンからその転移先である冒険者ギルドまで戻ってくると、ギルドマスターのフェインが顔を出してくれた。


「どうやら無事のようだな……しかし、随分早かったな?」


「10層まで行って戻って来たわ。無理して大ケガするなんて上級冒険者がやるような事ではないでしょ?」


「はははは! 全くだ。その調子だとグリフォンに挑戦するのは明後日か」


「もちろん。無茶ぶりする気は無いわよ?」


「それでいい。俺もそれは望んでいないんでな……それとだが、明日からは気を付けろよ? 過水の状態異常もあるし、出てくるモンスターも強くなっていく。危ないと思う前に戻って来いよ」


「はい」


 ココリスが返事をする。基本的な事だが、危ないと思う前……要は自分達が厳しいかなと思ったところで引き返すのがダンジョン探索では必須の考えである。危険と思った時にはどうしようもないという事があるらしく、冷静な判断を出来なくなることがあるから……と、ドルチェとココリスから教えてもらっている。


「明日もよろしくな!」


 フェインはそれだけを言って、俺達から去っていった。俺達も冒険者ギルドを後にして、一度ペンションまで戻り、身軽になったところで適当な飲食店で昼食を取る。


 魚介類とパスタを使った料理が人気らしく、まともな食事が出来ない俺を除いた皆がそれらを使った料理を注文し、海側に向かってテラス席があるのでそこで料理を待つことにした。


「明日は因縁の相手と再戦ね……ここから先は私達も初めてだから気を引き締めないと」


「油断すると、あれか……」


 俺は砂浜でゆっくり寝転がっている膨らんでいる男性達を蔦を使って、そちらを指す。


「そうよ。あんな風になりたくなかったら、尚更ね」


「そうだよな……で、ガレット。睡眠のためにアレを試すとか思っていないよな?」


「え? 何で分かったの?」


「冗談のつもりだったんだが……」


 まさか、より良い睡眠のためにあんな状態異常も試したいとは……。どこまで睡眠に対して貪欲なのだろう。


「と、そういえばあいつら薬を使って戻る気ないのか?」


「多分……ガレットと同じだと思うよ?」


 ドルチェが俺の疑問にそう答える。どうやら、今回の状態異常はガレットの要望を満たすことが出来る物らしい。


 その後、夕方まで街中でゆったりと過ごした俺達は明日のために早めに眠りに就くのであった。


「……まあ、俺は薬の増産だがな」

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