脳容量
博士は後の世にも語り継がれる偉大な発明をした。それは生き物の脳をUSBメモリとして利用すると言ったものだ。例えば猿の脳を使ったとすれば、その猿が限界まで記憶できる情報量をそのUSBメモリに書き入れる事が出来る。これにより様々な活用法が提案され、AIシステムやロボットなどの発明に大きな貢献をすることが予想された。しかし、一つ問題があった。それは生き物の脳を使うという点である。一部の人々は生物実験だと囃し立て、一時期大きな問題ともなった。それに博士は死んだ生物の脳を使うとして、事を進め、とうとう人間の脳を使う実験を開始した。やはりこれにも騒ぎ立てる事態となったが、二回目ともなったためか抗議する人々は少なかった。また博士はこれについて世界中のTV会社から取材をうけ、多忙の身となった。
博士は今日も多くの取材をうけた。そしてまだ一社あることに気が付き、急いで準備をした。
「すいませーん。テレビの取材に来たのですがー。」
ドアの向こうから記者の声がした。博士はなんとか準備し終わりこう言った。
「どうぞ、お入り下さい。どうも今手を放せなくてですね、勝手に入っていただいて結構ですよ。」
「ああはい。分かりました。」
記者達は一本道の廊下を歩き博士の部屋へと入った。部屋はお世辞にも綺麗とは言えず、床中にゴミや何かの機械に繋がっている配線が無茶苦茶に広がっている。記者達は足下に充分注意し、用意された席に座った。
「では、早速取材を始めていきますが宜しいでしょうか。」
「はい、どうぞ。」
「まず、どのような経緯でこの発明をしようと思ったのですか。」
「私は自分の脳味噌で考える事が嫌いだった。他人の脳を使って難しい問題や困難を解決したかったのです。そこが最初でした。」
「…なるほど、では次に一体どのような仕組みでそれは出来ているのか教えてくれませんか。」
記者は相手が早口に話しているのを見て、この質問は失敗だと思った。講義は数分続いてしまい、とうとう次が最後の質問になろうとしていた。記者は最後に一番の撮れ高である質問をした。
「では時間も押してきているため、これで最後とさせていただきます。…では、そのロボットを見せて頂けないでしょうか。」
「はい、分かりました。」
しかし、そう言った後は何もせず、ただそのまま座っているのだった。記者達は不審がったが、その瞬間ドアが開き、『それ』が姿を現した。
「凄いですね、これが例のロボットですか…動くことも出来るんですね。」
「実はずっと後ろで待機していたんです。そしてあなたの『姿を見せて頂けないでしょうか』という問いに対し、私の『はい』という返事を認識し、自ら動いたのです。これが人の脳で出来ることなのです。」
記者達は感激し、何も喋ること無くしばらく眺めていた。
その後幾つかのパフォーマンスを見せ、記者は帰った。ドアの閉まった音を確認すると、席に座っているそれは首を項垂れ、力が抜けた様になってしまった。すると今の今までロボットだとしてきたものは、大きく溜め息をした後こう言った。
「やれやれ、あそこまでまじまじと見ても、どちらが本物のロボットか想像も付かないとは。私は本当に偉大な発明をしてしまったのかもしれない。」