開始ぃ!
『第一ブロック出場者様!前へ!!』
……はぁぁ、どうせこれも向こうの策略だろ……。ガン無視決めてもいいけどなぁ
「…?」
どうせなら奈月に良いところ見せたい。
白夜は奈月の唇に自分の唇を合わせると、片目を瞑りながら、茶目っ気たっぷりに宣言する。
格好付け過ぎたな、と赤み掛かる頬で。
「少し踊ってくるぜ?」
そう道化のように演出する。
「…万が一も無いと思いますけど一応
──行ってらしゃいませ。」
赤く染まった顔で笑顔を向けてくれる。
「いってきます。」
それを見ながら顔を赤黒く染め上げ、嫌悪を溢れ散らかしてる者が一人居たことに、
──気がついていたが無視した。
「まぁ見てください田之助さん? ういういしいですわねぇ……いいわぁ」
「えぇ、祖父としては嬉しい限りです。百合にしか見えないのを除けば……。」
少しは髪を切らせてあげては?と言う視線を加菜恵に向ける。
「──ダメよ。」
「え、いやしかし…」
「ダ・メ・よ。」
ニッコリと、その笑みに屈するように田之助は折れた。
「はい。」
そんな話をしてる間に白夜は観戦席から飛び降りていた。
次の瞬間白夜の姿がぶれるのと同時に、会場中央に白夜の姿が現れた、音も無く、ごく自然に、まるで最初から在ったかのように。
そのまま数歩、歩くと自分の持ってる紙を審判の目の前に突き付ける。
そこで周囲がようやく白夜の存在に気が付く者がで出す
「──っ!!?」
「──な!?」
「──ッッ!!?」
それを気に水に波紋を立てるように、中央に驚愕が広がる。
一人が一人現れた位で? 当たり前だ。
百人なんて雑に数えられてはいるがそれでも一人一人が歴戦の猛者
家の名前を背負いこの場に立つ者。
魅力的な報酬に隠居をやめ出てきた強者達。
修行の成果を試しに来たもの。
今年こそはとリベンジを掲げるもの。
傭兵紛いを卒業し優勝報酬で新しい人生を始めようとするもの。
そんな様々な理由を掲げた強者達が自分の間合いに入り込まれて数秒、
───気が付く事すら、出来なかった。
そんな驚愕を無視して、白夜は不機嫌な顔で審判に紙を突き出す。
「はい、はやくしろよ。」
「は、はい! ただいま!!」
「チッ」
白夜はそう舌打ちをすると空中で胡座をかきだす。
別の者へ当たっても仕方ないと理解しながらも、あ、でも向こうの用意した職員だから無関係でもなかったわ、と思い直し、なお不機嫌になる白夜、その内に渦巻くのは形容し難いドス黒い、万物を灰燼へ還さんばかりの憤怒の感情だ、
白夜は幾らでも自分が害されよう共、心の中では特に怒っていない、それは自分への関心の薄さから来るもの、しかし、嫁、愛する者達は理屈では語れない別の話だ、
昔は唯の幼なじみなだけであった5人に自己を大切にして欲しいと”願われた”だけで己を曲げに曲げた白夜の愛情は、歪み歪なモノ。
───ソレを害そうとした、害そうと思考した、なら道理も常識も関係ない、殺してやる。無価値に無意味にぐちゃぐちゃに。
そんな怒りをフツフツと抱える白夜の周囲を囲む者達はもちろん、話かけようとは出来ない。
怖いからだ、自分の心の底から覚えのある心酔が涌き出てくるからだ。
自分達を意にも返さず押し折った存在だとわかってしまう、心が負けを認めてしまっている。
そんな中、話でも掛けてしまったら自分達はもう立ち上がれないだろう。
膝ま付きたい。この方を主と崇めたい。
そんな心を押し殺すように距離をとるのだ。
『それでは!皆様!第一ブロック皆揃いました!!』
『それはいいが優勝賞品の説明しろよ先輩。』
『敬語が消えたぞ後輩!!?』
『耳元で叫ぶなようるせぇ、俺がやるぞ……
──それでは皆様遅れながら優勝賞品の説明をさせていただきます! ではまず! 百人戦争の参加賞から! 参加賞が一人、一万円となります! 次に! 本戦に出場した選手は勝ち負け問わず百万円となります!』
──おおおお!!
『では、ここから準優勝の褒賞を発表致します!
───”一億円”!! そして神凪家最新の術式触媒!!』
───おおおおおおお!!
"術式触媒"大規模術式を少数で発動する時に使われる補助道具、性能差は様々だが個人で所有出来るものでは、まずない。
『そして! 本日の目玉!! これを目当てに来たものもいるのでは!? まず──”十億円”!! そして
──”冠元の霊薬”!!!』
─────ぉおおおおおおおおおおおおお!!!
はいはい、ちくわ大明神。と
冠元の霊薬、ね確か昔作った中の出来損ないを、おじいちゃんがどっかに売ってたな…。
確かあれって不老長寿と膨大の気を得られるとかそんな効果だったなー
──どうでもいいけども。
『それでは!皆様!疑似異界にお入りください!
………ほら先輩いじけてないではやく実況に戻れ。』
『うぅぅ、後輩が冷たいぃ』
はー無駄にデカイ門展開してんな……人材不足か?
「ほい、と」
そんな軽い掛け声とともに疑似異界に足を踏み入れる白夜。
きっとこの乱戦は一方的な虐殺で終わるだろう……理不尽様の八つ当たりによって。




