獄炎の中から出るのは絶望か死か
人の、声……ッ!? と唖然とする皇帝グラセフの後ろに着く騎士や魔法使い達、そんな配下達の様子など目に入らない、気が付こうともしない皇帝グラセフは、燃え盛る炎の中に居る者へ怒鳴り声を上げる。
「テメェ!! この薔薇の園が至帝グラセフの所有物だと知っての狼藉か? ァ"ア"!?」
「陛下…ッ危険です! お下がりくだ──ぁ、ぃ·····? 」
幼少からダンジョンに潜り、高存在の冒険者達にモンスターを抑え込ませ、名剣で首を断つという寄生虫の如き方法で存在を上げた皇帝グラセフは、”火への耐性をLv2”まで持っている、その事は城に立ち入りを許可されてる戦える者なら知っている者は知っている事だ
そして”火への耐性Lv2”と言えば、石を溶かすレベルの火ならばずっと、とは言えずとも四十秒位ならば体に影響を与えることがないレベルの火への耐性が獲られる。
では、だ。 そんな皇帝グラセフが思わず後退る炎の中で平然と声を出し、存在するアレはなんだ?
どうであれ、まともなモノでは無い事が分かる、なれば、と
皇帝グラセフに自分の身を弁えず、されど皇帝グラセフへの忠誠から意見をする、という”綺麗な騎士”を魅せようとした騎士は、皇帝グラセフの前へ出、手を伸ばした格好のまま────首を皇帝グラセフに折られた。
「控えろゴミがッ……!!」
ゴミを見る様な目で崩れ落ちた騎士を蔑み、邪魔な障害物を退かすように皇帝グラセフはその騎士を蹴った。
そんな壮絶な現場を目にしながら、皇帝グラセフの後ろに居るだけの配下達は、悲鳴一つ、上げられなかった。
その事をやはり気にも留めなかった皇帝グラセフは、いつの間にか
本当に、いつの間にか、消え去った炎の中から出て来た──2人を見て、そして思考が停止した。
その2人が醸し出す、──言い様の知れない不気味さに、そして目を惹き付ける程の美しさに。
「”至皇”? そんな称号、ステータス見たけど無かったが? 自称か…? 変なゴミ屑だな。」
「ふふっ、あぁだな、至高を被せるネームを持つには些か器が不足と見える。」
1人は従者のように硝子と化した瓦礫の上に足を揃え、皇帝グラセフ達を見下すように、無価値の蛆を見るかのように見下ろす少女。
黒緑色の髪と龍を彷彿とされる割れた瞳孔の瞳、衣服はシンプルな白のワンピースにも見えるが、明らかに素材が違う。
そして、その少女が従者のような立ち位置だとすれば主は──この硝子状の瓦礫に胡座をかき、頬杖を付きながら黒い、奈落のような瞳で見下ろす2人目のバケモノだろう。
白い、いっそ純白と言い換えていい程の無垢の髪、それとは対比を成すような黒い、底無しの大穴、奈落を彷彿とさせる無感情の瞳。
纏う衣服は、黒い、しかし何処の出のモノか分からない、なんと言う種類の衣服なのか、だけど、何処か気品を感じずにはいられない。
そんな2人の視線に晒された”帝国の力”とも言える騎士や魔法使い、そして皇帝グラセフは身体の動きを止めた。
「ぁ……っぉ、、」
罵声に対し、何かを言い返そうと、怒鳴り声を荒らげようとした皇帝グラセフの声は潰れたように、微量な音しか発し無かった。
「·····?」
「ふ、ふふっはっハハッ!」
その皇帝グラセフの無様な姿を見下ろしながら白髪のバケモノは首を傾げる、またくだらない茶番を見せてくる、どころか、その劇に自分を巻き込むモノだと思ったからだ。
それに対し理由の分かる黒緑髪の少女は鈴のような綺麗な笑い声で吹き出し、薄く笑みを浮かべ理由を白髪のバケモノに教える。
「汝様、少しキレてるだろう? 確かに己としてもアレは不愉快だが、汝様ほど怒りは抱いていない、さて、聡明な汝様ならあのこう、こ····なんちゃら、の喋れない理由も分かるだろう。」
そう言われ、あぁ、と頷く白髪のバケモノ
「そうか、こんな傲慢不遜野蛮を具現化したようなゴミ屑でもバケモノを目に映せば恐怖なんてもんも湧くのか、───つまらない結末だ。 どうせ最後だ、後世にも残らないだろうけど道化としてなら見てやろうと気まぐれを起こしたんだが、
無駄か────ならいいや、どうせ喋られても迷惑でしかないしな
───”貪り、喰い荒らせ”《 餓鬼 》」
グチャリ、そんな音に気が付いた時には、皇帝グラセフの体幹は保てず、地面に身を打ち付けた。
「……ぁ、へ…」
「「「「────え、は?」」」」
皇帝グラセフも、騎士や魔法使い達も、遅れて追いついた”貴族”と言う立場に名を連ねる者達も、誰1人、現状を理解出来なかった────なぜ、皇帝グラセフの足先が、まるで幼い子供に食われたソーセージのような歯跡が残され、血にまみれてるのか。
その光景を、無表情で眺める白髪のバケモノが告げる。
「──精々、あの世に無様な姿を晒して出来るだけ惨たらしく死ねよ、 それが供養になるのかは知らねぇけどな。」
「ぁ、あっ、────」
帝国の城に、本来なら悲鳴を上げることなど無いはずの人物の悲鳴が無様に、そして恐怖を引き立てるように鳴り響いた。




