ちょいと外伝
『えー、この度、大変イレギュラーなことが起こりました。この後の試合は本来なら各ブロックから4人ずつ選手を選出する筈だったのですが…』
『あー!シンプルに行こうぜ後輩!?第一ブロックの選手達が白夜様以外全員棄権してしまったからな!第二三四から5人ずつ選手を選出する事になったぜ!!』
『私はシンプルに説明すことが苦手なので助かります先輩。』
『おう!まかせろ!しかしもっと雑でいいんだぜ後輩?』
『雑説明ごくろう先輩』
『極端ッ!?』
『皆様!選手の選出に暫しの時を!』
『あくしろよ先輩』
『ほんと極端だなお前!?』
そんな司会のスピーチを元凶は嫁さんといちゃついて聞いていなかったそうな…
◆▼◆▼◆
筋肉が盛上りいかにも強そうと印象を初見で抱くような巨漢を後ろに控えさせた、金髪美形の少年が軽薄な笑みを浮かべ白夜達を眺める。
少年は巨漢に目をやると薄く笑みを浮かべ口を開く
「どうだい?キミはアレに勝てそうかな?」
無表情の巨漢は考える素振りもなく主の問いに答える。
「不可能です。」
「鬼の力を暴走させてもかい?」
「はい、私なんかが力を暴走させても、赤子を捻る様にされて仕舞いでしょう。」
それを聞き少し驚いた様に目を薄く開ける少年
「そこまでかい。」
「はい。そして、なによりアレは──我々の王を下しております。」
その返答で今度こそ目を見開く少年。
巨漢が言う王に見当がつくからだ。
「うそだろ…?《深淵の怪物》の一柱、《破壊》の理が下されたと言うのかい…?」
巨漢は主の問いに答える前にチラリと白夜…いや奈月を少し見ると主に視線を戻す。
「はい、──我ら鬼は大体の者達が自分勝手で快楽主義がほとんどです。」
「そうだね。」
少々失礼だが今更と…感想を抱いた少年
「その中でも我ら鬼は2つの派閥に割れておりました。 人などどうでもいい派と、人など玩具だろ派、その2つが存在していました」
「まさか…」
「はい。人など玩具だろ派には、──巫女食らいと呼ばれる鬼が存在しておりました。
その鬼は特に巫女の素質が高い巫女を好んで食べてる事によりそう呼ばれており巫女をくらい続け続け…その頃には鬼が巫女を食べ過ぎた事で飽きた頃でした…そんなある時、ある噂が鬼達の間で広がりました。 神を何百と体に宿せる巫女がいると。
それをあの巫女食らいが興味を抱かず食べに行かない筈も無かったです。
そしてその巫女食らいはその巫女を食らいに行き数刻と、たった後に首だけと変わり果てた物に成り下がり帰って来ました。」
少年は目を見開く、首だけになどと言う事に驚いた訳ではない、あの鬼がそこまで一方的にやられた事実にだ。
鬼と言えば、裏では"神の化身"、"力の権化"、そう呼ばれる程強すぎるのが鬼だ、人間の間で最強と噂される程度なら鬼の一振で消し飛ぶそんな強さを持ったのが"鬼"
腕の一振で地形を変え、足を踏みしめれば地震を起こし、その巨体から放たれる咆哮は大気を狂わせ、首だけになろうとも生きていられる生命力、そして身体が消し飛ぼうとも刹那の時で再生される理不尽の化身。
「じゃあ…その鬼は今でも生きているのかい?」
「いえ、我らは首だけになろうとも生きることが可能なはずでした…筈だった…ですがその鬼は死んでました。なぜか?………存在を喰われたのです、その鬼にも名があった筈です。残ったのはその鬼がやった事とその首だけでした。」
存在を喰われた。
聞いただけではピンと来ない
だが異常性は分かる
その異常性に少年は体から冷や汗が湧き出るのを感じる
「…っ」
「そして我ら以外の"人など玩具だろ派"は人間の癖に生意気だなどとぬかし…
──だれも帰っては来なかった。それを我らが王はたいそう爽快そうにお笑いになりました。…今でも覚えてます。」
少年はそこで少し巨漢の体が震えてる事に気が付く。怒り…?いやこれは恐怖…!
その事実に驚愕する少年をよそに巨漢は続きを話し出すのだった。
「我ら王が言いました『その強き者を客人として招いて参れ』と、我らは反対しました…なぜか?それは王は戦い闘争が好きすぎるからです。招き絶対に戦いになると我らは確信してました。ですが反対した理由は王が負けるなどと決して考えた訳ではありません。ですが心の何処かで積る不安があったのは事実です。そしてやはり戦いになりました。そして我らが予期にもせぬ光景が我らの目を支配しました。王は戦闘に乗り気では無かったアレを挑発するため、アレの逆鱗に手を付けてしまったのです。」
ごくり…少年の唾を飲む音が響き、巨漢の歯がカチカチと当たる音がなる
「勝負は一方的でした、王が天を穿つ豪拳を振るえばアレはそれを上から拳を合わせる事で王の体の半分を削り穿ち、王が体勢を立直すために放った次元を歪める妖気の咆哮は、アレが気を乗せた絶叫で次元ごと砕き覆しました。」
「その後も戦闘なんて光景ではありませんでした、王の体が灰の様に吹き飛び、手足は砕かれ、残ったのは辛うじて再生出来た身体と首、そして首を掴まれ持ち上げられる王の姿…それを見つめる黒い黒い瞳は…とても言葉では表せないナニかを放っていました。」
「では、今鬼の王は…」
「生きてますよ…?ただあの時の挑発が挑発では無かったら生きてはいなかったでしょうね。」
少年は目を閉じると席に体をだらんとあすげると
「はぁー、それはヤバイね……いやー、神凪家の提案に乗んなくてよかった。。。ほんとに…。」
そうため息を吐き、心の底から安堵するのであった。
『それでは!16人の選手を発表します!!!』
話の一段落と共に司会の声が会場に響き渡った。




