4.シャインの存在によって。
ここまで第1章。
今回は、他の登場人物の様子です。
「ほほ。まさか、そのように才覚溢れる学生がのぉ」
「えぇ、学長。彼の少年――シャインくんは、凄まじい力を秘めております。わたしの見立てでは、千年に一度……いや、いまだかつてない才能の持ち主かと!」
「辛口のマキナに、そこまで言わせるとは。相当なのじゃな」
学長室にて。
マキナは学長であるリデリッドに報告していた。
というのも、昼に行われたAランクの学生による魔法実践の結果について。シャインの放った【ショット】の威力たるや、並のそれを凌駕していたこと。
さらには上級生であるジャックの防御魔法を無効化する、特殊能力まで備えていたこと。それらの状況を興奮気味にすべて語ったマキナ。
学長は心底嬉しそうに頷きながら、こう訊ねた。
「はて……。ところで、どこの家の子じゃったかな?」
それにマキナは、頭を垂れながら答える。
「公爵家――リーシャス家の養子、とのことです」
「ほほう、リーシャスの。これはまた、面白いことになりそうじゃの」
よぼよぼと、立ち上がったリデリッド。
そんな彼を支えるように、隣に立ったマキナ。
二人は窓際へと向かい、外の景色を眺めた。そして――。
「マキナよ、注視するのじゃぞ。場合によっては――」
学長は、真剣な声でこう告げるのだ。
「シャイン・リーシャスの存在は、動乱を招きかねない」――と。
◆
「ちくしょう、ちくしょうちくしょう! あのガキ、どこの家の奴かは知らねぇが、この俺様に恥をかかせやがって!!」
ジャックは悪態をつきながら家路についていた。
六つも下のシャインから受けた屈辱に、その表情はひどく歪んでいる。こんなはずではなかった、と。格の違いを見せつけるはずだったのに、と。
ジャックのプライドはズタズタだった。
しかし、すぐに報復をしないのは勝てないと理解しているからか。
彼は苛立ちを隠そうともせず、ある場所へと向かうことにした。
「けっ……。憂さ晴らしには、やっぱりここだぜ」
――そこは、貧困街。
浮浪者がうろつき、ある者は地に這いつくばっている。
建物はどれもこれも朽ちており、おおよそ人間的生活をするような場所ではなかった。ではなぜ、ジャックはここに足を運んだのか。
その理由というのは、明白だった。
「け、人間のゴミ共め――【ショット】」
「かはっ!?」
路肩にうずくまる男性目がけて、ジャックは【ショット】を放った。
突然の攻撃に、男性は目を見開いてのたうち回る。内臓へのダメージがあったのか、少量ではあるが口から血を吐き出していた。
それを見て、ジャックは笑う。
「蹂躙は心地いいなァ! おら、立てよ……!」
狙いを定めたのか、彼は男性に蹴りを加えた。
口角を歪め、悦楽に浸りながら。
「ん――誰だ?」
その時だった。
なにか、後方から足音が聞こえたのは。
振り返るがそこには、誰もいない。ジャックは気のせいかと思い、貧民への暴力を再開するのだった。
◆
「はっ、はっ……!」
カトレアは息を切らして逃げる。
貧困街に足を運んだところ、まさかジャックを見かけるとは思ってもみなかった。さらには、あのように歪んだ行為、見ていられなかったのだ。
涙が出てくる。
身分の違いはあれど、人であることに変わりはない。
「ごめん、なさい……」
だけど、自分にあの人を助ける力はなかった。
逃げることしかできない。少女は、悔しさに唇を噛みながら懺悔した。もし自分に、あの少年のような勇気と力があれば、と。
そうは思うが、ないものはねだっても仕方なかった。
「でも――」
しかし、カトレアは諦められない。
いや、諦めなかった。
「私にも、なにかできることが……!」
抱えた荷物に視線を落とし、小さく頷いた。
少女は決意する。
「私も、シャインくんみたいに強くなるんだ!」
いつかきっと、弱い人も守れるようになるのだ――と。
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