1.拾われた先は、公爵家!?
「ん、うぅ……?」
目を覚ますと、そこには見慣れない天井があった。
いつも見てきた煤けたそれではなく、清潔感あふれるまっさらなもの。俺は身を起こして、周囲を確認して昨日の出来事を思い出す。
そう、たしか――。
「俺は、養子になったのか。リーシャス家の……」
俺はあの男性に拾われて、リーシャスの名をもらった。
だとすれば、ここは彼――養父、ダンケハイムの屋敷ということになる。王都にあると言っていたが、そこに住む人々はみな、このように豪華絢爛な暮らしをしているのだろうか。
「目が覚めたか? ――シャイン」
「ダンケハイム、さん……?」
俺がベッドに腰掛けたタイミングで、ダンケハイムが部屋に入ってきた。
物腰柔らかな雰囲気を漂わせる、初老の男性。瞳には優しい光が宿っており、俺を見る眼差しは暖かかった。
彼はベッドの横にある椅子に腰かけて、こちらを向く。
そして、ポンと頭を撫でてきた。
「そのように他人行儀に振舞うな。私はお前の父だぞ?」
「あ、はい……」
「敬語も必要ない。普通に、だ」
「……うん」
ダンケハイム――父は、俺の返事に相好を崩す。
そして、ふっと息をついた。
「そうだ、な。お前には、話しておかなければならない」
「え、なにを……?」
俺が首を傾げると、彼は少し難しい表情でこう言う。
「シャイン――お前のいた、村のことだ」
その瞬間に、俺は息を呑んだ。
脳裏に苦汁を舐め続けた日々が、フラッシュバックする。
思わず吐き気がして、拳を強く握った。
「深呼吸だ、シャイン」
「…………」
その手に触れて、父は落ち着いた口調で言う。
指示に従って俺は深呼吸を数度、その後に彼の顔を見た。するとこちらの準備が整ったと察したらしい、ダンケハイムはこう語り始める。
そして、その内容は――。
「シャインの話から、私は国王陛下に村へ騎士団を派遣するよう求めた。おそらく今ごろは、多くの者が検挙されているはずだ」
「え、それって……」
思いもよらないものだった。
国王陛下、騎士団――聞きなれない言葉が、次々と出てきた。
ただそれでも分かったのは、あの村の住人たちに裁定が下ったということ。すなわち、俺の行いが正しいのだと認められた証拠だった。
「………………」
認められた、はず。
そのはずなのに、俺は――。
「くぅ、えぐっ……!」
なぜだろう、涙が止まらなかった。
あれほど嫌いだった村の人々のことなのに、どうして涙が止まらないのだろう。どうして、こんなにも胸が苦しいのだろうか。
俺は自分の気持ちが分からなかった。
だけど、そんなこちらに父はこう語りかける。
「シャイン……。お前は、優しいのだな」――と。
ゆっくりと、頭を撫でながら。
「その名の通り、眩しい光のような純粋さだ。しかし、少々気に病みすぎだ。これはお前が悪いのではない。――シャインは、正しかったのだ」
励ますようにそう言ったのだ。
俺はその言葉に、救われるような気持ちになる。
涙を拭って、ダンケハイムの顔を見た。すると彼は、また柔らかく笑んだ。
「私の見込んだ通りだ。シャインよ、お前は本当に真っすぐなのだな」
「そんなことない、です。ただ――」
――ただ、そうじゃないといけない、そう思ったから。
そう口にしようとして、呑み込んだ。
それではまるで、彼の厚意を否定しているような気がしたから。だから、振り払うように気持ちを切り替えてから俺は訊ねた。
「ところで、貴方――父さんは何者なんだ?」
すると、ダンケハイムは一つ頷いてからこう答える。
「そうだな、改めて自己紹介しよう。私はダンケハイム・リーシャス――公爵家の現当主であり、お前を引き取り父となると、決意した者だ」
「こ、公爵家……!?」
それに俺は思わず声を詰まらせた。
そしてふと、窓の外へと目を向ける。するとそこには――。
「そ、そんな……!」
大きな街を一望する、そんな景色。
俺はまだ半信半疑だったが、それでも納得するしかなかった。
現実味はなかったが、事実。
こうして、俺は公爵家の息子となったのである。