九話、惚れた女を守るため
それは東の森の中で行われた会話であった。片方は武装しているフィリア、もう片方は貴族令嬢であるにも関わらず武装をしているアメリアである。
「フィリアちゃん、私も戦闘に参加する?」
アメリアが戦闘を終了させたフィリアに発した一言が始まりだった。当たり前だがアメリアは上流階級の貴族令嬢である。本来ならば魔物がいる東の森にいること自体が異常なのだ。
「大丈夫だよ。怪我でもしたら大変だろうし参加する必要はない」
だからフィリアの返答がこの場合正しいと言えるだろう。寧ろ、当たり前の返答である。
しかしアメリアはその点に関しては譲れなかった。
「怪我はフィリアちゃんの魔法で痕も残らないと思うけど……それに」
もちろん、アメリアはフィリアの意図を察していないわけではない。自分が貴族令嬢であることも理解しているし、怪我でもしたらフィリアが大変なのだと理解も出来る。
だが、それでも譲れない点があったのだ。
「――実際に戦ってるフィリアちゃんは理解してると思うけど。戦力不足だよね?」
「うっ」
フィリアは現在に至るまで数回の戦闘を行っている。確かにどの戦闘も勝利している。しかし完全な勝利とは程遠かった。
「一人じゃ複数相手する時に高確率で一撃貰ってるし……」
複数の魔物を相手にする時に、かなりの確率で軽傷を負うのだ。圧倒的な出力差があるならまだしも、フィリアはまだそこに至れていなかった。
現状可能である最適な動きは出来ているものの、どうしても複数相手だと掠り傷は受けてしまう。
「そこは……治癒魔法で治るし」
「魔力も温存しておかないと緊急時で対応できなくなるよ? それに――――ランス・アンチブラッド」
アメリアはドス黒い魔力を固め槍を造る。そして頭上に投合、いきなりの理解できない行動にフィリアは戸惑うが、数秒後に何をしていたか理解する。
「グガァァァァァァ!?!?」
フィリアの目の前に心臓を貫かれた鷹の魔物――――ウェザー・ファルコンが絶命した状態で落ちてくる。
間違いなくアメリアが殺したのだろう、魔力を固め正確に心臓を貫いた精密性を秘めた投合。
そしてフィリアはアメリアに視線を戻し、その瞳を見てしまった。
「さっきから、殺したくて堪らないの……ダメ、かな……?」
瞳に浮かぶものは喜びと快楽を求めた獣のそれであり、純粋に狂気であった、何故ならばアメリアはファルコンの絶命した瞬間に快楽を手に入れていたからだ。
その時フィリアは思い出した、彼女は紛れもなくラスボスなのだということを。
◇ ◇
目的地の花畑に到着すると二人で手頃な木の下に座る。
「ねえねえフィリアちゃん、私、役立てた!?」
「うん、凄かったよ」
戦闘開始と同時に戦闘狂のオーラを放つアメリアはとても凄まじかったのは言うまでもない。フィリアは無意識にアメリアの頭を撫でる。
「(まあ、アメリアは自分の幸せより想い人の幸せを優先してしまう性質は昔からだったし、あの時は俺に危害を加える存在があることが許容できなくて戦闘狂風の口調になってたのかもしれないな)」
アメリアは一種のヤンデレである。フィリアはそれを理解しているし、許容しているつもりだ。だがアメリアのヤンデレは少し壊れた拗れ方をしている。
想い人が幸せになってほしい。そのために相手のことを考え、幸せになるよう行動する。それがアメリアの好意の示し方である。
だが、その幸せには『アメリア自身が微塵も含まれていないのだ』。想い人を幸せにする手段として『自分と一緒に幸せになる』という選択肢が存在していない。最早、アメリアの性質と言ってもいいほどであり、その影響か『自らが幸せになる』という道を避ける癖がある。
有り体に言えば『相手の幸せしか考えられないヤンデレ』なのだ。
「――――あ、れ?」
そこまで考えたところでフィリアは違和感を覚える。いいや否、違和感の域を越えており、確実に『何かがおかしい』と気付き始めていた。
「フィリアちゃん?」
「(俺は何故アメリアの性質を知っている……? 俺が現状持っているアメリアの情報ではその答えには辿り着けないはずなのに、何故……?)」
何か、何か大切なことを忘れているとフィリアは頭に手を添える。だが。
「――――ま、そんなのどうでもいいか」
すぐさま、目の前で心配そうに顔を覗いているアメリアに視線を移す。フィリアはその話の興味を失っていた。まるで今は知る必要性は無い、と誰かに諭されているようであった。
「(過程はどうであれ、アメリアを〝守る〟ということだけ、俺は覚えてればいいか)」
フィリアに違和感はもう残っていなかった。
「そう言えば朝早くから寮に来てくれるなんて、大変だったんじゃないか?」
花畑でアメリアの作ったサンドイッチを食べながら、会話をする。作ってきてくれた直後にアイテムボックスにいれたため、まだほんのり温かい。
「ううん全然、言ってなかったけど私も寮に住んでるから部屋を出てすぐに会えるし」
寮に住んでいる、その発言にフィリアは違和感を覚えた。
「え……? ハーヴェル家って王都に屋敷構えてるんじゃなかったっけ?」
そう、学生寮は本来『王都の外から来た貴族用』なのだ。王都に屋敷がある貴族は基本的に屋敷から送り迎えで登校している。
男爵位や騎士ならばともかく、ハーヴェル家は公爵位である。だからこそフィリアの違和感は収まらない。
「うん、だから二週間に一度は屋敷に戻ってるんだ」
「……へえ、そうなんだ」
アメリアの表情に一瞬だが陰りが見えた。それをフィリアが見逃すわけがない。だが、事情を調べずに問いただすのはフィリア自身が良しとしていない。
ゆえにフィリアの返答は相槌。これ以上先は強引に踏み込むべきではないと察したがゆえの返答である。
「寮に住んでるなら、気軽に会えるな」
「……うんっ。今度、夕飯とか作りに行ってもいい?」
「構わないよ、アメリアの料理は俺も楽しみだから」
その後、雑談を交わしながら楽しい時間を過ごした。夕方になる前には王都に帰宅し、魔物の素材を売って山分けにする。
お金を受け取ることを渋ったが、夕飯を作ってもらう時の材料費にという落しどころで納得してもらう等のひと悶着があったが無事に寮へ送り届け解散となった。
「(公爵家の令嬢が寮に住む、か)」
フィリアはアメリアの現状に大きな興味を持っていた。王都に屋敷を持つ生徒は〝基本的には〟寮に住むことはない。
明らかにおかしな状況であり、アメリアが〝基本以上と認識されているほどの事情〟を抱えているのは明白であった。
「(――そういえば、どっかの令嬢が噂してたな)」
――――ハーヴェル公爵家の忌み子よね……汚らわしい。
それはアメリアが試験で一位を取っていた時に聞こえた陰口である。嫉妬からくる言葉であることは理解できたが、それとは別に聞きなれない単語が入っていた。
「(ハーヴェル公爵家の、忌み子……?)」
その発言からアメリアは何かしら不遇な扱いを受けていると推測するには十分であった。そんな推測を立てたフィリアが次に起こす行動は決まっていた。
「(ハーヴェル家について調べてみるか)」
仲良くなった少女のことである、調べたくなるのは当然の結果だろう。更に不遇な扱いを受けているかもしれないならば、尚のことである。
「(しかし下手に探りを入れれば何かしらの報復を受けるかもしれないな……相手は権力者だ)」
ハーヴェル家は公爵家である。国には必要な家なのだ、ゆえに国の黒い部分に関わっていても不思議なことではない。そこに中途半端な探りを入れるならば、警告行動や脅迫、場合によっては始末される可能性も視野に入れる必要がある。
「――――だからどうした」
だが、フィリアのその行動は決して興味本位のものではない。もちろん興味が無いわけではない。だが、それ以上にフィリアの中にはある感情が目的となって渦巻いていた。
「(――――アメリアのあんな顔を見ちまったら、止まるわけにはいかねえよなァ)」
花畑で一瞬見せた陰り、それを思い出してフィリアは自らの感情を認識する。
――――そうだ、何故俺が死の恐怖などというくだらないことのために止まらなければならない? 見誤るなよ、フィリア・リザリッドの想いは死んだ程度で終わるものと思うな。
「そうだよ、俺はノンケだ」
ゆえに――――。
「惚れた女の笑顔を守る。それだけで理由は十分だ」
今ここに雄の魂を宿した少女が立ち上がる。何よりも己が求める未来を目指して。
安心してくださいこんなこと言ってますが、彼女は神(作者)が必ず雌〇ちさせると誓います。
発言が男のそれ? TS娘はそこがいいんじゃないかと作者は思う。
そもそもTS娘の魅力と何だろう?と作者は常日頃から考えてきた。
その結果、至った答えが【初期とのギャップ】であるというものだ。
作者の持論だがTS娘のメス○ちには三つのフェーズが存在する。
第一段階:強気な口調で『は? 俺男だし』という状態
第二段階:迫られて不安を感じ、怯えながら『おれ、男だもん…』とよわよわな口調での状態
第三段階:『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■』
この第一段階と第三段階でギャップが至高なのではないか?と作者は考えてます。
ここで重要なのは第二段階でどれだけ読者が『この娘、いじめたいなグヘヘ』と思うかだと思います。
とりあえず詳細は省きますが結果からの考察として作者は『TS娘は第一段階で漢らしければ漢らしいほど良い!』のではないか…? と考えたわけです。作者の考えた漢らしいTS娘の極地がフィリアなのでよろしく。
評価を入れて頂けると幸いです。
1点や2点でも入れていただけると嬉しいです。作者の心が軋む程度ですので正直な評価をしてください。
感想で『つまらない』などのコメントをする場合は『具体的な理由』を述べていただければまだ考えていない部分(二章以降)に影響するかもしれません。